知財(知的財産権)に関係する契約類型とは?
種類や各契約の概要を分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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知的財産権に関係する契約には様々な類型(パターン)がありますが、大まかに以下のように分類できます。
✅ ライセンス契約系
・特許ライセンス契約(特許実施許諾契約)
・商標ライセンス契約(商標使用許諾契約)
・意匠ライセンス契約(意匠権実施許諾契約)
・著作物ライセンス契約(著作物利用許諾契約)
・ソフトウェアライセンス契約(ソフトウェア使用許諾契約)✅ 譲渡契約系
・特許権譲渡契約
・意匠権譲渡契約
・商標権譲渡契約
・著作権譲渡契約✅ その他
・秘密保持契約
・開発委託契約(ソフトウェア開発委託契約など)
・製造委託契約(OEM契約)今回は知財(知的財産権)に関係する契約類型について、各契約の主な内容などを解説します。
※この記事は、2022年8月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
知財(知的財産権)に関係する主な契約一覧
特許権・商標権・意匠権・著作権などの知的財産権に関しては、事業者間で様々な契約が締結されています。知的財産権に関係する契約は、その内容に応じて、大まかに以下のように分類できます。
次の項目から、各契約が目的としている取引の内容や、主な契約条項について見ていきましょう。
ライセンス契約
「ライセンス契約」とは、知的財産権をもつ者が他者に対して知的財産の使用・利用を許諾する契約です。許諾を与える権利者を「ライセンサー」、許諾を受ける側を「ライセンシー」と言います。
知的財産権の種類に応じて、主に以下のライセンス契約が締結されています。
特許ライセンス契約(特許実施許諾契約)
特許ライセンス契約(特許実施許諾契約)は、特許発明の実施(使用・譲渡など)を許諾する契約です。
特許権を取得するには、特許庁の審査にパスすることが必要です。審査にパスした発明を、「特許発明」と呼びます。
特許ライセンス契約を締結することで、ライセンシー・ライセンサーはそれぞれ以下の権利を得ます。
特許ライセンス契約を締結する場合、実施許諾の内容・範囲を明確に定めておくことが大切です。具体的には、以下の事項を契約中に明記しておきましょう。
- 特許ライセンス契約における実施許諾の内容・範囲
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✅ 実施権の種類(専用実施権・通常実施権・仮専用実施権・仮通常実施権)
✅ 契約期間
✅ 実施許諾の対象地域
✅ 許諾範囲の制限(分野・数量・顧客など。もしあれば)
など
実施許諾料の定め方には、以下に挙げるように様々なパターンがあります。計算・支払に関して疑義が生じないように、実施許諾料についてのルールを明確に定めておきましょう。
- 特許ライセンス契約における実施許諾料の定め方
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✅ フィックスド・サム・ロイヤリティ(定額実施料)
→契約期間に応じた固定額の実施許諾料を支払う方式です。✅ ランニング・ロイヤリティ(経常実施料)
→特許発明の実施の実績に比例した実施許諾料を支払う方式です。主に販売価格に応じた「料率法」と、販売数量又は生産数量に応じた「従量法」の2つがあります。✅ 利益に応じた実施料
→特許発明を実施して製造された製品の販売による純利益のうち、一定割合の実施許諾料を支払う方式です。
「純利益3分方式」(資金力・営業力・特許発明。純利益の3分の1を実施許諾料とする)や、「純利益4分方式」(資金力・営業力・特許発明・組織力。純利益の4分の1を実施許諾料とする)などがあります。✅ ミニマム・ロイヤリティ(最低実施料)
→上記の各方式と組み合わせて、実施許諾料の最低保証額を設定することがあります。
商標ライセンス契約(商標使用許諾契約)
商標ライセンス契約(商標使用許諾契約)は、登録商標の使用を許諾する契約です。
「商標」とは、事業者が、自己の取り扱う商品・サービスを他人のものと区別するために使用するマーク(識別標識)のことです。例えば以下のマークのうち、商品やサービス(役務)に付けられるものが「商標」に該当します。
- 商標に該当するもの
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✅ 商品やサービスの名称
✅ ロゴ
✅ マーク
✅ 商品やサービスを象徴する音声
など
なお、商標権は、上記に該当すれば発生するわけではなく、特許庁の審査をパスすることによってはじめて発生します。審査にパスした商標を、「登録商標」と呼びます。
商標ライセンス契約を締結することで、ライセンシー・ライセンサーはそれぞれ以下の権利を得ます。
商標ライセンス契約の場合も、使用許諾の内容・範囲を明確に定めることが重要になります。具体的には、以下の事項を契約中に定めましょう。
- 商標ライセンス契約における使用許諾の内容・範囲
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✅ 商標の使用を許諾する地域・店舗などの場所的範囲
✅ 商標を付すことを認める商品・サービスの種類・内容
✅ 使用権の種類(専用使用権・通常使用権)
など
また、商標使用料の計算方法については、以下のように様々なパターンが考えられますので、契約において明確にルールを定めることが大切です。
- 商標ライセンス契約における商標使用料の定め方
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✅ ランニング・ロイヤリティ(出来高払方式)
売上や販売数量などに、一定のライセンス料率を乗じて商標使用料を決定する方式です。ライセンス料率は4~10%程度が標準的です。✅ ランプサム・ペイメント(固定額払方式)
売上や販売数量などにかかわらず、契約期間ごとに固定額の商標使用料を支払う方式です。✅ ランプサム・ペイメント+ランニング・ロイヤリティ
上記の2つを組み合わせた方式です。最初に固定額の商標使用料を支払い、後に売上や販売数量などに応じた金額の精算を行います。
純粋なランニング・ロイヤリティの場合よりも、実績値に応じた商標使用料率は低く抑えられる傾向にあります。
意匠ライセンス契約(意匠権実施許諾契約)
意匠ライセンス契約(意匠権実施許諾契約)は、登録意匠の実施(使用・譲渡など)を許諾する契約です。
「意匠」とは、視覚を通じて美感を起こさせるデザインのことであり、以下のものが「意匠」に該当します。
- 意匠に該当するもの
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✅ 物品の形状・模様・色彩やこれらの結合(例:テレビ)
✅ 建築物の形状・模様・色彩やこれらの結合(例:博物館)
✅ 画像(例:スマートフォンのUI)
なお、意匠権は、上記に該当すれば発生するわけではなく、特許庁の審査をパスすることによってはじめて発生します。審査にパスした意匠を、「登録意匠」と呼びます。
意匠ライセンス契約を締結することで、ライセンシー・ライセンサーはそれぞれ以下の権利を得ます。
意匠ライセンス契約においても、実施許諾の内容・範囲と実施許諾料に関して、以下の内容を明確に定めておきましょう。
- 意匠ライセンス契約における実施許諾の内容・範囲
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✅ 意匠の使用を許諾する地域・店舗などの場所的範囲
✅ 意匠を用いることを認める商品・サービスの種類・内容
✅ 実施権の種類(専用実施権・通常実施権)
など
- 意匠ライセンス契約における実施許諾料の定め方
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✅ ランニング・ロイヤリティ(出来高払方式)
✅ ランプサム・ペイメント(固定額払方式)
✅ イニシャル・ペイメント+ランニング・ロイヤリティ
→いずれも商標使用料と同様です。
著作物ライセンス契約(著作物利用許諾契約)
著作物ライセンス契約(著作物利用許諾契約)は、著作物の利用を許諾する契約です。
著作権は、例えば以下の創作物について発生します。(特許権・意匠権・商標権のように、特許庁の審査にパスする必要はなく、創作物が作成された時点で自動的に発生します。これを「無方式主義」と言います。)
- 著作権によって保護される創作物の例
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✅ 音楽
✅ 文章(書籍、論文、オンライン上の小説や論稿など)
✅ 映画、動画
✅ 演劇
✅ 振付
✅ 美術品
✅ プログラム
など
著作物ライセンス契約を締結することで、ライセンシー・ライセンサーはそれぞれ以下の権利を得ます。
著作権ライセンス契約でも、利用許諾の内容・範囲と利用許諾料に関して、以下の内容を明記しておきましょう。
- 著作権ライセンス契約における利用許諾の内容・範囲
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✅ 著作物の利用を許諾する地域・店舗などの場所的範囲
✅ 著作物の利用を認める商品・サービスの種類・内容
✅ 許諾する利用行為の具体的内容
など
- 著作権ライセンス契約における利用許諾料の定め方
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✅ ランニング・ロイヤリティ(出来高払方式)
✅ ランプサム・ペイメント(固定額払方式)
✅ イニシャル・ペイメント+ランニング・ロイヤリティ
→いずれも商標使用料・意匠の実施許諾料と同様です。
ソフトウェアライセンス契約
ソフトウェアライセンス契約は、著作権によって保護されたソフトウェアの利用を許諾する契約です。著作権ライセンス契約の一種に当たります。
その他の著作権ライセンス契約と同様に、ソフトウェアライセンス契約でも、利用許諾の内容・範囲と利用許諾料について明記しておくことが大切です。
譲渡契約
「譲渡契約」とは、知的財産権を相手方に譲渡する契約です。
知的財産権を譲渡する側を「譲渡人」、譲渡を受ける側を「譲受人」と言います。
知的財産権の種類に応じて、主に以下の譲渡契約が締結されています。
特許権譲渡契約
特許権譲渡契約は、特許権を相手方に譲渡する契約です。
特許権の譲渡を円滑・確実に行うため、以下の事項を明確に定めておきましょう。
- 特許権譲渡契約で定めるべき主な事項
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✅ 譲渡する特許権の内容
✅ 譲渡対価
✅ 譲渡の実行前提条件
✅ 譲渡実行日
✅ 譲渡人の表明保証
✅ 譲渡人の遵守事項
✅ 譲渡人に通常実施権を設定するかどうか
など
商標権譲渡契約
商標権譲渡契約は、商標権を相手方に譲渡する契約です。
特許権譲渡契約と同様に、商標権譲渡契約でも以下の事項を明記することが大切です。
- 商標権譲渡契約で定めるべき主な事項
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✅ 譲渡する商標権の内容
✅ 譲渡対価
✅ 譲渡の実行前提条件
✅ 譲渡実行日
✅ 譲渡人の表明保証
✅ 譲渡人の遵守事項
✅ 譲渡人に通常使用権を設定するかどうか
など
意匠権譲渡契約
意匠権譲渡契約は、意匠権を相手方に譲渡する契約です。
特許権譲渡契約・商標権譲渡契約と同じく、意匠権譲渡契約でも以下の事項を疑義のないように定めましょう。
- 意匠権譲渡契約で定めるべき主な事項
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✅ 譲渡する意匠権の内容
✅ 譲渡対価
✅ 譲渡の実行前提条件
✅ 譲渡実行日
✅ 譲渡人の表明保証
✅ 譲渡人の遵守事項
✅ 譲渡人に通常使用権を設定するかどうか
など
著作権譲渡契約
著作権譲渡契約は、著作権を相手方に譲渡する契約です。
特許権譲渡契約・商標権譲渡契約・意匠権譲渡契約と同様に、著作権権譲渡契約でも以下の事項を定めておきます。
- 著作権譲渡契約で定めるべき主な事項①
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✅ 譲渡する著作権の内容
✅ 譲渡対価
✅ 譲渡の実行前提条件
✅ 譲渡実行日
✅ 譲渡人の表明保証
✅ 譲渡人の遵守事項
など
また、著作権に特有のルールを念頭に、以下の事項を定めておくことも大切です。
- 著作権譲渡契約で定めるべき主な事項②
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✅ 著作権法27条・28条に定める権利を譲渡する旨
翻訳権(別の言語に翻訳する権利)・翻案権(元の著作物の特徴は活かしつつ、一部を変更して別の作品を創作する権利)や、二次的著作物の利用に関する原著作者の権利については、譲渡することが明記されていない限り、譲渡人に留保されたものと推定されます(著作権法61条2項)。
したがって、これらの権利も譲渡の対象とする場合には、その旨を著作権譲渡契約において明記しなければなりません。✅ 譲渡人が著作者人格権を行使しない旨
著作者人格権は譲渡できないため、著作権譲渡契約において、譲渡人が著作者人格権を行使しない旨を定めておく必要があります(著作権法59条)。
共同出願・研究に関する契約
ビジネスを行う際は、他の企業と共同して、研究開発を行うことがあります。そうした際に締結されるのが、以下の契約です。
共同研究開発契約
共同研究開発契約は、当事者が共同で行う研究開発に関するルールを定める契約です。
当事者が一定のルールに依拠しつつ、信頼関係を保ちながら研究開発を進めるため、以下の事項を明記しておきましょう。
- 共同研究開発契約で定めるべき主な事項
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✅ 研究開発における役割の分担
✅ 当事者間における資料・情報の交換
✅ 研究開発費用の分担
✅ 進捗状況の報告・共有
✅ 知的財産権の帰属
✅ 研究開発結果の利用・公表に関するルール
など
共同出願契約
共同出願契約は、当事者が共同開発した発明などについて、共同で出願を行う際のルールを定める契約です。
出願後・特許権登録後のトラブルを防止するため、以下の事項を定めておきましょう。
- 共同出願契約で定めるべき主な事項
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✅ 特許出願費用の分担
✅ 特許権の持分割合
✅ 特許権登録後の実施許諾に関するルール(実施許諾料の分配など)
など
その他、知財に関係の深い契約
これまで紹介したもの以外にも、知的財産権との関係性をもつ契約には様々な種類があります。その一例として、以下の契約を紹介します。
秘密保持契約
秘密保持契約は、当事者間でやり取りされる秘密情報について、第三者への開示・漏えい等を禁止する内容の契約です。
知的財産権が関係する取引を行う際には、当事者の経営の根幹に関わる情報をやり取りする場合があるため、事前に秘密保持契約を締結するのが一般的です。
また、特に特許権などの登録を受けていない「ノウハウ」については営業秘密に当たり得るため、やり取りの際には秘密保持契約を締結する必要があります。
秘密保持契約において定めるべき主な条項は、以下のとおりです。
- 秘密保持契約で定めるべき主な事項
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✅ 秘密情報の定義・除外事由
✅ 秘密保持義務の内容
✅ 秘密情報の目的外使用の禁止
✅ 秘密情報の返還・破棄
✅ 秘密保持義務違反時の損害賠償・差止め
✅ 秘密情報の複製の制限
✅ 知的財産権の帰属
✅ 有効期間、存続条項
など
開発委託契約(ソフトウェア開発委託契約など)
開発委託契約は、製品・サービスなどの開発を委託する契約です。典型例としては、ソフトウェア開発委託契約などが挙げられます。
委託する側を「委託者」、委託を受ける側を「受託者」と言います。
共同研究開発契約では、お互いが対等な立場で研究開発を行います。しかし、開発委託契約では、より役割分担が明確となり、委託者が指示を出して受託者が実際の開発を行います。また、開発された成果物に関する権利は、委託者に帰属させるのが一般的となっています。
開発委託契約では、主に以下の事項を定めておくとよいでしょう。
- 開発委託契約で定めるべき主な事項
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✅ 開発すべき製品・サービスなどの仕様
✅ 仕様変更に関するルール
✅ 検収の手続
✅ 契約不適合責任の取扱い
✅ 知的財産権の帰属
✅ 知的財産権侵害のクレームを受けた場合の対応
✅ 受託者による再委託の可否
など
製造委託契約(OEM契約)
製造委託契約は、自社ブランド製品の製造を他社に委託する内容の契約です。「OEM契約(Original Equipment Manufacturing Agreement)」とも呼ばれています。
製造委託を行う側を「委託者」、委託を受ける側を「受託者」と言います。
委託者は製造ラインを外注することで、コスト削減・省力化・生産能力の確保などのメリットを享受できます。一方、受託者側のメリットは、長期・大口の受注による収益の安定化や、委託者からのノウハウ提供による技術力の向上などです。
製造委託契約では、主に以下の事項を定めておきましょう。
- 製造委託契約で定めるべき主な事項
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✅ 製造すべき製品の仕様
✅ 最低発注量(定めなくても可)
✅ 製品の納期
✅ 契約不適合責任の取扱い
✅ 検査の手続
✅ 委託料の額・支払方法など
✅ 製造物責任に関するクレーム対応・責任分担
✅ 再委託の可否
✅ 秘密保持
など
この記事のまとめ
知財(知的財産権)に関係する契約類型の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!