ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約とは?
基本を分かりやすく解説!

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株式会社LegalOn Technologies弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。社内で法務開発等の業務を担当する。LegalOn Technologiesのウェブメディア「契約ウォッチ」の企画・執筆にも携わる。
この記事のまとめ

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約の基本を解説!!

この記事では、ソフトウェアを使用する際に締結することが多い、ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約の基本を分かりやすく解説します。

※この記事は、2020年10月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約とは?

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約とは、ソフトウェアの著作権者が相手方に対して、当該ソフトウェアの使用を許諾する契約です。使用を許諾する著作権者を「ライセンサー」、許諾を受ける相手方を「ライセンシー」といいます。

ソフトウェアには著作権が認められており、複製などを行う際には、原則として著作権者の許諾が必要です。ソフトウェアライセンス契約では、著作権者がライセンサーとして、ライセンシーに対して著作権で保護されている行為(複製など)を許諾し、その代わりに使用許諾料を受け取ります。

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約と関連する法律

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約は、ライセンシーがライセンサーに対して、対価を支払ってソフトウェアを使用させてもらう、有償契約であるため、民法の売買に関する規定が準用されます(民法559条)。
また、ソフトウェアに含まれるプログラムは、著作物である(著作権法10条1項9号)ため、著作権法が適用されます。

ヒー

ソフトウェアを購入して使用する場合、ソフトウェアライセンス契約を締結していることになるのですか?

ムートン

ソフトウェアの譲渡を受けていない限り、基本的にライセンス契約を締結して使用することになります。
最近は、ウェブサイト上でソフトウェアを購入してダウンロードすることが多いですね。

使用許諾契約と利用規約の違い

ソフトウェアに関しては、著作権者(ライセンサー)の側で「利用規約」を準備しているケースが多いです。この場合、ライセンサーとの間でソフトウェアライセンス契約を締結する際、利用規約の表示を受けることになります。

利用規約は、ソフトウェアに関する契約そのものではありません。しかし、ライセンサーがライセンシーに対して、利用規約を契約内容とする旨をあらかじめ表示し、その後にソフトウェアライセンス契約が締結された場合、原則として利用規約全体が契約内容となります(民法548条の2第1項第2号)。

つまり、ソフトウェアの著作権者(ライセンサー)が準備した利用規約は、ソフトウェアライセンス契約の内容の一部を構成するということです。

実務上は、ソフトウェアの利用に関する細かいルールは利用規約にまとめられており、ソフトウェアライセンス契約の本文自体は簡単な内容に留まるというケースがよくあります。ライセンシーとしては、ソフトウェアライセンス契約を締結する場合は、ライセンサーから提示される利用規約の内容をよく読まなければなりません。

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約の成立

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約では、個別に契約書が締結されないことも多いです。
具体的には以下のような場合が想定されます。

  1. ライセンサーが量販店などでパッケージソフトウェアを販売する場合
  2. ライセンサーがウェブサイト上でソフトウェアをダウンロード販売する場合

①の場合、パッケージソフトウェアが入っている箱の中などに、契約書、規約などが同封されており、「パッケージを開封することによって、当該契約書などに同意したものとする」 旨の文言が当該契約書などに記載されていることがあります。これを「シュリンクラップ契約」といいます。

シュリンクラップ契約が成立したと認められるためには、ソフトウェアの購入者であるライセンシーが、契約の内容を認識できる状態があったことが必要といわれています。

経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」216~217頁にシュリンクラップ契約が成立する場合、成立しない場合の具体例が記載されています。

②の場合、ライセンサーのウェブサイトなどに、ソフトウェアのライセンスに関する規約などが記載されており、これに対して「同意する」ボタンをクリックし、 更に「購入する」ボタンをクリックすることによって、ソフトウェアライセンス契約が成立して、ソフトウェアをダウンロードできることが多いです。 これを「クリックオン契約」といいます。

経済産業省の「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」217頁にクリックオン契約が成立する場合、成立しない場合の具体例が記載されています。

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約の条項

ヒー

実際にソフトウェアライセンス契約を作成したり、レビューする際には、どのような点に気を付ければいいのでしょうか?

ムートン

ここからは、ソフトウェアライセンス契約の各条項について、文例を見ながら解説していきます。

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約を締結する場合に、契約書に定めるべきポイントを解説します。

使用許諾

ソフトウェア使用許諾契約では、「ライセンサーがライセンシーにソフトウェアの使用を許諾すること」を定める必要があります。

ライセンシーがソフトウェアを使用できる期間を明確にするために、ライセンス期間を定めます。文例では、本契約の期間とライセンス期間を同様としています。

ライセンサーとしては、ライセンシーが制限なくソフトウェアを使用することを防ぐため、 ライセンシーがソフトウェアを使用する機器が設置される場所を「指定場所」と定義して、ソフトウェアの使用場所を限定するのが安全です。

その他、ソフトウェアの使用範囲については、端末の数に応じてインストール(複製)を許諾する、ユーザー数、同時接続ユーザー数、サーバ数、CPU数、などを限定する、といった対応をすることがあります。

記載例

(使用許諾)
ライセンサーは、本契約の期間中、ライセンシーに対して、日本国内に限り、指定場所における非独占的な本ソフトウェアの使用を許諾する。

再許諾

再使用許諾におけるライセンサーの同意

ライセンシーがライセンサーから許諾された権利を、第三者に再許諾することを防ぐために、確認的に、再使用許諾の禁止、を定める必要があります。
ライセンサーとしては、無断で第三者に再使用を許諾されると、再使用許諾先から使用料を回収することができず、また、再使用許諾先がどのような会社であるかを検討する機会を失い、使用されることを望まない者にソフトウェアを使用されるリスクが生じます。
そのため、無断で第三者に再使用権を許諾されることがないように、「ライセンサーの同意なく、ライセンシーが再許諾できない」と定めると有利です。

再使用許諾先の義務

ライセンサーとしては、ライセンシーが、第三者に再使用を許諾した場合には、再使用許諾先が契約の定めに違反し、不利益をうけるリスクがあります。 これを防ぐために、「ライセンシーは、再許諾先に、本契約に基づくライセンシーと同様の義務を負わせる」と定めるのが安全です。

再許諾に伴うライセンシーの責任

ライセンサーとしては、再使用許諾先の行為について、ライセンシーに責任を負わせて、損害賠償を請求するために、 「ライセンシーはライセンサーに対して、再許諾先の一切の行為について責任を負う」と定めるのが安全です。

記載例

(再許諾)
1 ライセンシーは、ライセンサーの書面による事前の同意なしに、本契約に基づき許諾された権利を、第三者に再許諾することができない。
2 ライセンシーが、ライセンサーの事前の書面による同意を得て、本契約に基づき許諾された権利を、第三者に対して再許諾した場合には、 当該第三者に、本契約において定められた条件と同等の義務を課し、ライセンシーはライセンサーに対し、当該第三者の一切の行為について責任を負う。

目的外使用の禁止

ライセンシーは、ライセンサーの同意なく、複製や翻案などの著作権法21条~28条に定められた行為(利用行為)を行うことはできませんが、それ以外の行為 (使用行為)を行うことができます。

ここで、著作物の「利用」とは著作権法21条から28条に定められた複製、上映、公衆送信などの行為を指します。著作権者以外の者が「利用」をするためには、 著作権者の許諾が必要です。
他方、著作物の「使用」とは、21条から28条に定められた行為以外の、著作物を読むなどの行為を指します。「使用」は、著作権者の許諾なしに自由に行うことができます。

具体的には、「ソフトウェアを実行すること」は著作権者の許諾なしに自由に行うことができます(なお、「端末にソフトウェアをインストールすること」は、 複製にあたるため、著作権者の許諾が必要です)。

そのため、ライセンサーとしては、ライセンシーに無制限にソフトウェアを使用されることを防ぐために、 契約で定められた、使用目的外の行為を禁止することを定めるのが有利です。

記載例

(目的外使用の禁止)
ライセンシーは、●●の目的(以下「本目的」という。)でのみ本ソフトウェアを使用することができ、 本目的以外に本ソフトウェアを使用してはならない。

対価

対価の支払い

ソフトウェア使用許諾契約では、ソフトウェア使用の対価としてライセンシーが支払うソフトウェア使用料(ロイヤリティ)の支払いについて定める必要があります。

使用許諾契約の使用料(ロイヤリティ)については、契約締結時等に固定額(アップフロント、イニシャルペイメント)を支払い、 その後、検査合格後に固定額(マイルストーン料)を支払う方法や実施状況に応じて使用料(ランニングロイヤリティ)を一定期間ごとに支払う方法等が考えられます。

記載例

(対価)
ライセンシーは、本契約に基づく本ソフトウェアの使用許諾の対価として、ライセンサーに対して以下のとおり本ソフトウェア使用料を支払い、 振込手数料はライセンシーの負担とする。
①アップフロント料(契約一時金) ●円
本ソフトウェア使用料の契約時一時金として、本契約締結の日から[30日]以内に、ライセンサーが指定する銀行口座に振り込む
②マイルストーン料(残金) ●円
本ソフトウェア使用料の残金として、本プログラムが第●条第●項に定める検査に合格したときは、合格した日から[30日]以内に、 ライセンサーが指定する銀行口座に振り込む

対価の返還

ライセンサーの帰責性によってソフトウェアを導入することができなくなったときや販売代理店によるソフトウェアの説明に誤りがあったとき等には、ライセンシーからソフトウェア使用料(ロイヤリティ)の返還を請求される可能性があります。

そこで、ライセンサーとしては、このような場合にも使用料の返還を請求されないように、 「使用料は、いかなる事由による場合でも返還しない」と定めると有利です。

記載例

(対価)
ライセンシーは、本契約に基づく本ソフトウェアの使用許諾の対価として、ライセンサーに対して以下のとおり本ソフトウェア使用料を支払い、支払に要する費用はライセンシーの負担とする。ライセンサーは、ライセンシーが支払った本ソフトウェア使用料については、いかなる事由による場合でもライセンシーに返還しない。
(略)

権利帰属

ソフトウェアに関する著作権がどちらに帰属するかをめぐって争いになることを防ぐため、帰属先を明確に定める必要があります。

ライセンサーとしては、ライセンシーから、「ソフトウェアの引渡しをもって、ソフトウェアに関する著作権などの権利が ライセンシーに移転することが合意された」等と主張されるリスクがあります。このようなリスクを防ぐため、 「本契約は、ソフトウェアの使用を許諾するにすぎないものであって、本ソフトウェアに関連する著作権などの権利をライセンシーに移転したものではない」と確認的に定めるのが安全です。
更に、「ライセンサーがライセンシーのためにカスタマイズした部分の著作権等についても、ライセンサーに帰属する」と定めると有利です。

記載例

(権利帰属)
1 ライセンサー及びライセンシーは、本ソフトウェアに関連する著作権その他の知的財産権(以下「著作権等」という。)が、ライセンサーに帰属することを確認する。 本契約の締結によって、本ソフトウェアの著作権等が、ライセンサーからライセンシーに移転するものではない。
2 ライセンサーがライセンシーのためにカスタマイズした部分の著作権等(著作権法第27条及び28条に定める権利を含む。)についても、ライセンサーに帰属する。

他方で、ライセンシーとしては、ライセンサーがライセンシーのためにカスタマイズした部分については、 自由に著作権を利用できるよう、「ライセンサーがライセンシーのためにカスタマイズした部分の著作権等については、ライセンシーに帰属する。」と定めると有利です。

記載例

(権利帰属)
1 ライセンサー及びライセンシーは、本ソフトウェアに関連する著作権その他の知的財産権(以下「著作権等」という。)が、ライセンサーに帰属することを確認する。 本契約の締結によって、本ソフトウェアの著作権等が、ライセンサーからライセンシーに移転するものではない。
2  前項の規定にかかわらず、ライセンサーがライセンシーのためにカスタマイズした部分の著作権等(著作権法第27条及び28条に定める権利を含む。)については、 ライセンシーに帰属する。

禁止事項

ライセンシーへの禁止事項

ライセンサーとしては、ライセンシーに無制限にソフトウェアを使用されることを防ぐために、 契約で、次のような事項を禁止する必要があります

  • ソフトウェアに関連する著作権の使用
  • 著作権法20条2項3号に定める行為(使用機種の変更に伴う改変、バグの修正など)
  • 同法47条の3第1項に定める行為(バックアップのための複製、ハードディスクへのインストール、デバッグの際のダンプ、使用機種の変化などに伴う移植など)

これらの行為は、契約に定めがなければライセンシーが自由になしうるため、契約で禁止する必要があります。

「ソフトウェアに関する著作権の使用」の禁止

著作物の「使用」とは、著作権法21条から28条に定められた行為以外の行為を指します。たとえば、著作物を読む行為などです。

著作物の「使用」は、著作権者の許諾なしに自由に行うことができますが、「利用」は著作権者の許諾が必要となります。たとえば、 「ソフトウェアを実行すること」は著作権者の許諾なしに自由に行うことができますが、「端末にソフトウェアをインストールすること」は、 複製にあたるため、著作権者の許諾が必要です。

他の機器からネットワークを経由してアクセスしソフトウェアを使用する行為は、著作権の使用行為にあたります。
そこで、ライセンサーとしては、「ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、他の機器からネットワークを経由してアクセスしソフトウェアを使用してはいけない」と定めるのが安全です。

「著作権法20条2項3号に定める行為」の禁止

著作権法20条2項3号に定める行為とは、使用機種の変更に伴う改変、バグの修正など、プログラムの効果的な利用のために必要な改変を指します。

同法20条2項3号は、「特定の電子計算機においては実行し得ないプログラムの著作物を当該電子計算機において実行し得るようにするため、 又はプログラムの著作物を電子計算機においてより効果的に実行し得るようにするために必要な改変」については、著作権者の同一性保持権は及ばないと定めています。

つまり、プログラムの使用者は、著作権者の承諾なく、使用機種の変更に伴う改変、バグの修正など、プログラムの効果的な利用のために必要な改変を行うことができます。 ライセンシーは、同法20条2項3号で認められる範囲で、ソフトウェアを自由に改変、翻案できます。

そこで、ライセンサーとしては、これを禁止するために「ライセンサーによる事前の書面の同意がない限り、 ソフトウェアを改変、翻案できない」と定めるのが安全です。

ただし、同法20条2項3号で許容される行為を禁止する条項は、独占禁止法上、違法と判断される可能性があるので、注意が必要です( 「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4-5-⑺)。

「著作権法47条の3第1項に定める行為」の禁止

著作権法47条の3第1項に定める行為とは、バックアップのための複製、ハードディスクへのインストール、デバッグの際のダンプ、使用機種の変化などに伴う移植等プログラムの著作物の複製を指します。

同法47条の3第1項は、「プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において実行するために必要と認められる限度において、当該著作物を複製することができる。」と定めています。

つまり、プログラムの複製物の所有者は、PCなどでプログラムを使用するときは、著作権者の承諾を得ずに、必要な限度で複製・翻案すること(バックアップのための複製、ハードディスクへのインストール、デバッグの際のダンプ、使用機種の変化などに伴う移植など)が認められます。機能の変更・追加まで認められるか否かは争いがあります。

そこで、ライセンサーとしては、これを禁止するために、 「ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、ソフトウェアを複製できない」と定めるのが安全です。

また、ライセンサーとしては、同じくこれを禁止するために、「ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、ソフトウェアを改変、翻案できない」と定めるのが安全です。

ただし、同法47条の3第1項が強行法規であるかは争いがあり、同法47条の3を禁止する条項は無効とされる可能性があります。
また、同法47条の3を禁止する条項は、独占禁止法上、違法と判断される可能性があるので、注意が必要です( 「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」第4-5-⑺)。

「他のソフトウェアとの組み合わせ」の禁止

ライセンサーとしては、ライセンスしたソフトウェアが、他のソフトウェアと組み合わされたときには、想定していなかった不具合が生じるリスクがあります。
そこで、これを防ぐために、「ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、他のソフトウェアと組み合わせる行為はしない」と定めるのが安全です。

記載例

(禁止事項)
ライセンサーは、ライセンシーに対し、本ソフトウェアの使用に関して、以下の行為を禁止する。
(1) ライセンシーは、ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、本プログラムをネットワークサーバーにインストールし、ライセンシーの組織内のユーザーに、コンピューター、デバイス又はその他の機器から当該ネットワークサーバーにアクセスして使用させてはならない。
(2) ライセンシーは、ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、本ソフトウェアを複製することができない。 ただし、ライセンシーが、バックアップ用として1部複製し保管する場合はこの限りでない。
(3) 前項において、ライセンシーは、バックアップを作製した場合には、その媒体物にライセンサー所定の著作権表示 (©表示、第一次発行年、ライセンサーの氏名)をし、かつ、「バックアップ」の表示をしなければならない。
(4) ライセンシーは、ライセンサーの書面による事前の同意がない限り、本ソフトウェアの改変・翻案又は他のソフトウェアと組み合わせる行為をしてはならない。
(5) ライセンシーは、本ソフトウェアの変更又は本プログラムのリバースエンジニアリングをすることができない。 ただし、ライセンサーの書面による事前の同意がある場合又はライセンシー若しくはライセンシーから委託を受けた第三者が本プログラムの誤り等を修正する場合は、この限りでない。
(6) その他本契約で許諾された範囲を超えた本ソフトウェアの使用をしてはならない。

保守

ライセンサーとしては、本契約はソフトウェアの使用を許諾するものであり、保守サービスについては、別途保守契約を締結する必要があることを明確にするため、 「ライセンサーは、ライセンシーに対して各種保守サービスを行う義務を負わない」とに定めるのが安全です。

記載例

(保守)
ライセンサーは、ライセンシーに対して本ソフトウェアに関する不具合の修補、問い合わせ対応、バージョンアップ、情報提供その他の保守サービスを行う義務を負わない。

監査

ライセンサーによる監査権

ライセンサーとしては、ライセンシーがソフトウェアを不正に使用していることが疑われるときに、ソフトウェアに技術的な制限がかけられていなければ、不正使用を検知することができず、不利益を被るリスクがあります。

そこで、不正使用されたことを直ちに検知できるよう、「ライセンシーからの報告義務や、ライセンサーによる監査権」を定めるのが安全です。

監査費用

ライセンシーが、ソフトウェアの使用状況の監査を、第三者に委託して行うことがあります。そのときに必要な費用について、いずれの当事者が負担するかが争いとなるリスクがあります。

これを防ぐため、ライセンサーとしては、「監査の実施にあたり必要となる費用はライセンシーが負担する」と定めるのが有利です。
これを定められない場合は、「ライセンシーに不正使用があった場合は、ライセンシーが負担し、不正使用がなかった場合は、ライセンサーが負担する」と定めると公平です。

記載例

(監査)
1 ライセンシーは、ライセンサーより本ソフトウェアの使用状況について報告を求められたときは、直ちにその状況を報告しなければならない。
2 ライセンサーは、監査を実施する必要があると判断した場合、ライセンシーの事前承諾を得ることなく、本ソフトウェアの使用状況についてライセンサー又は ライセンサーから委託を受けた第三者による監査を実施することができる。なお、監査の実施に当たり必要となる費用はライセンシーが負担する。

表明保証

契約不適合責任

ソフトウェアが仕様に適合しない場合、または不具合があった場合は、ライセンシーがライセンサーに対して、契約不適合責任 (民法562~564条、559条)などを追及できる可能性があります。

ライセンサーとしては、このような責任を負えない場合は、 「ライセンサーは、ソフトウェアを現状有姿のままで提供し、ソフトウェアについての一切の契約不適合責任及び保証責任を負わない」と定めると有利です。

ただし、 重大な欠陥について、一定期間内にライセンシーから通知があった場合等については、 「ライセンサーは、有償にて、プログラムの修理又は取替えを行う」と定めることが考えられます

記載例

(非保証)
1 ライセンサーはライセンシーに対し、本ソフトウェアを現状有姿のままで提供し、ライセンサーは、本ソフトウェアについての一切の契約不適合責任及び保証責任を負わない。
2 前項の規定にかかわらず、ライセンシーが、検査期間終了の日から●日以内に本ソフトウェアの重大な欠陥を発見し、ライセンサーに対して、当該欠陥につき通知をした場合、ライセンサーは、合理的な期間内に、有償にて、本プログラムの修理又は取替えを行う。
3 ライセンサーは、ライセンシーに対して、本ソフトウェアについて、誤り、動作不良、エラー若しくは他の不具合が生じないこと、第三者の権利を侵害しないこと、商品性、ライセンシー若しくは第三者の特定の目的への適合性、又は本契約に明示的定めのない他の事項について、何らの保証もしない。 ライセンサーは、ライセンシーが本ソフトウェアを使用した結果又は使用できなかったことによる結果について一切責任を負わない。

他方で、ライセンシーとしては、ソフトウェアのプログラムが、仕様に従って稼働しなければ、 ライセンス契約を締結した意味が失われます。これを防ぐため、「ライセンサーが仕様に適合することを保証する」と定めると安全です。

また、ソフトウェアのプログラムが、仕様に従って稼働しなかった場合に備えて、「ライセンサーはプログラムの修理又は取替えを行わなければならない」と定め、 修理や取替えとあわせて、「損害の賠償を請求できる」「解除できる」と定めると安全です。

記載例

(保証)
1 ライセンサーは、本プログラムが本契約に従い使用された場合に、別途ライセンサーが定める本ソフトウェアの仕様に従って稼働することを保証する。
2 本プログラムが前項の規定に従って稼働しなかったときは、ライセンサーは、検査期間終了の日から1年以内に本契約の内容との不適合等が判明した場合には無償で、 それより後に判明した場合には有償にて、本プログラムの修理又は取替えを行わなければならない。
3 前項の規定は、本契約の他の規定に基づく損害賠償の請求及び解除権の行使を妨げない。

第三者の権利の非侵害

ソフトウェアの使用が第三者の権利を侵害した場合に、どちらが責任を負うかをめぐって争いになることを防ぐため、これを定める必要があります。

ライセンサーとしては、本ソフトウェアの使用が第三者の権利を侵害しない、と保証した場合、「本ソフトウェアが第三者の権利を侵害している」として第三者から侵害訴訟などを提起されたときに、ライセンシーに対し契約不適合責任(民法562~564条、559条)などを負い、多額の損害賠償責任を負うリスクがあります。

そこで、ライセンサーとしては、「第三者の権利を侵害しないことを保証しない」と定めると有利です。

記載例

(非保証)
1~3 略
4 ライセンシーが、本ソフトウェアの使用について、第三者から著作権侵害、商標権侵害、不正競争防止法違反行為その他の理由によって差し止め、 損害賠償又はその他の請求を受けた場合であっても、ライセンサーは一切の責任を負わない。

他方で、ライセンシーとしては、ソフトウェアが第三者の権利を侵害しているとして、第三者から侵害訴訟などを提起された場合に備えて、 ライセンサーに責任を負わせることができるように、 「ライセンシーが、ソフトウェアの使用について、第三者から権利侵害を理由とした損害賠償又はその他の請求を受けた場合、ライセンサーは一切の責任を負う」と定めると有利です。

記載例

(保証)
1~3 略
4 ライセンシーが、本ソフトウェアの使用について、第三者から著作権侵害、商標権侵害、不正競争防止法違反行為その他の理由によって差し止め、 損害賠償又はその他の請求を受けた場合、ライセンサーは一切の責任を負う。

第三者による権利侵害

第三者がソフトウェアに関連する著作権などを侵害するおそれが生じた場合、どちらが対応すべきかをめぐって争いになることを防ぐため、これを定める必要があります。

ライセンサーとしては、ソフトウェアに関連する著作権などの侵害やそのおそれがあったとき、 ライセンシーの協力を得て、対応策を講じることができるよう、 「ライセンシーは、ライセンサーから一定の要望があった場合には、ライセンサーに協力する」と定めると有利です。

記載例

(第三者による権利侵害)
本ソフトウェアの使用に関し、ライセンシーにおいて、第三者が本ソフトウェアに関連する著作権等の全部若しくは一部を侵害し 又は侵害しようとしていることを発見した場合、ライセンシーはライセンサーに対し、速やかに侵害の事実及び内容を通知しなければならない。 ライセンシーは、ライセンサーから当該侵害に関する事案を解決するために一定の要望があった場合には、ライセンサーに協力する。

他方で、ライセンシーとしては、ライセンシーの競合他社が、同じソフトウェアを無断で使用しているときは、 ソフトウェアに関連する著作権などが侵害されている可能性があります。 そのため、このような事態を発見したときは、すぐにライセンサーに、競合他社によるソフトウェアの使用を排除してもらえるように、 「ライセンサーは、第三者の侵害行為を排除するため、自身の費用において、必要な措置を講じる」と定めるのが有利です。

記載例

(第三者による権利侵害)
本ソフトウェアの使用に関し、ライセンシーにおいて、第三者が本ソフトウェアに関連する著作権等の全部若しくは一部を侵害していること又は侵害しよう としていることを発見し、ライセンサーに対して侵害の事実及び内容を通知した場合、ライセンサーは、当該第三者の侵害行為を排除するため、当該第三者 に対する差止請求等の必要な措置を講じなければならない。なお、侵害行為の排除のために必要な費用はライセンサーの負担とする。

契約終了の際の措置

契約終了時の、ソフトウェアの返還・破棄

ライセンサーとしては、ライセンシーが契約終了後もソフトウェアを使用することを防ぐため、 契約終了後のソフトウェアおよびその複製物の返還・破棄義務を定める必要があります。

そこで、「ライセンシーは、契約終了後一定期間内に、ライセンサーの指示に従い、自らの費用でソフトウェア及びその複製物を返還、破棄する」 と定めると有利です。

記載例

(契約終了の際の措置)
1 本契約が終了した場合には、ライセンシーは、本契約終了後●日以内に、ライセンサーの指示に従い、自らの費用で本ソフトウェア及びその複製物を 直ちにライセンサーに返還し、又はこれら一切を破棄若しくは削除しなければならない。
2 前項において、ライセンシーが本ソフトウェア及びその複製物を破棄又は削除した場合には、破棄証明書をライセンサーに提出しなければならない。
3 ライセンシーは、本契約終了後にライセンシーが本件ソフトウェアの使用を継続しないことを担保するため、ライセンサーが本件ソフトウェアに ついて予め必要な技術的措置を講じることを了承する。

他方で、 ライセンシーとしては、必要な範囲で返還・破棄すれば済むように、 「ライセンシーが必要と認める範囲で、ソフトウェア及びその複製物を返還、破棄する」と定めることが考えられます

記載例

(契約終了の際の措置)
本契約が終了した場合には、ライセンシーは、ライセンシーが必要と認める範囲で本ソフトウェア及びその複製物を直ちにライセンサーに返還し、 又はこれら一切を破棄若しくは削除しなければならない。

破棄証明書の発行

ライセンサーとしては、ライセンシーがソフトウェアおよびその複製物を破棄したか否かを確認するために、 「ライセンシーはライセンサーにソフトウェア及びその複製物を破棄又は削除した場合には、破棄証明書をライセンサーに提出する」と定めるのが安全です。

記載例

(契約終了の際の措置)
1 本契約が終了した場合には、ライセンシーは、本契約終了後●日以内に、ライセンサーの指示に従い、自らの費用で本ソフトウェア 及びその複製物を直ちにライセンサーに返還し、又はこれら一切を破棄若しくは削除しなければならない。
2 前項において、ライセンシーが本ソフトウェア及びその複製物を破棄又は削除した場合には、破棄証明書をライセンサーに提出しなければならない。

ソフトウェアの使用を継続しないための技術的措置

ライセンサーとしては、ライセンシーが契約終了後もソフトウェアを使用することを防ぐため、 「ライセンシーは、ライセンサーがソフトウェアについて予め必要な技術的措置を講じることを了承する」と定めるのが安全です。

記載例

(契約終了の際の措置)
1~2 略
3 ライセンシーは、本契約終了後にライセンシーが本件ソフトウェアの使用を継続しないことを担保するため、 ライセンサーが本件ソフトウェアについて予め必要な技術的措置を講じることを了承する。

技術的な使用制限は、裁判所によらない強制履行手段(自力救済)となり、不法行為に該当するおそれがあります(民法414条の反対解釈)。

ただし、①ライセンサーとライセンシーの間にそのような技術的制限手段が行われることについて事前に合意があること、 ②情報財(ソフトウェアのこと)の使用の継続を停止する範囲にとどまる技術的制限であること、③技術的制限手段が事前に施されたものであること、 の3つを満たせば自力救済に当たらず合法、とされる可能性が高いです(経済産業省「 電子商取引及び情報財取引等に関する準則」Ⅲ-3-2)。

まとめ

ソフトウェアライセンス(使用許諾)契約の記事は以上です。 最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

参考文献

伊藤雅浩ほか「ITビジネスの契約実務」(商事法務)

鮫島正洋「技術法務のススメ」(日本加除出版)

吉田正夫「ソフトウェア取引の契約ハンドブック」(共立出版)

小坂準記ほか「ライセンス契約書作成のポイント」(中央経済社)

長谷川俊明ほか「ライセンス契約の基本と書式」(中央経済社)

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