ハラスメント事例を紹介!
セクハラ・パワハラ・マタハラ・カスハラの
事例・裁判例と企業の対策を分かりやすく解説!
※この記事は、2024年8月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 男女雇用機会均等法…雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律
目次
主なハラスメントの種類
ハラスメントには、さまざまな種類があります。企業は、社内におけるハラスメントの発生を防止するとともに、万が一ハラスメントが発生したら迅速かつ適切に対処しなければなりません。
主なハラスメントの種類としては、以下の例が挙げられます。
- 主なハラスメントの種類
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① セクハラ
「セクシュアル・ハラスメント」の略称です。職場における性的な言動により、労働者に対して不利益を与えることを意味します。② パワハラ
「パワー・ハラスメント」の略称です。職場における優越的な関係を背景とした言動により、労働者の労働環境を害することを意味します。③ マタハラ(パタハラ)
「マタニティ・ハラスメント」または「パタニティ・ハラスメント」の略称です。
マタハラは、妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害することを意味します。
パタハラは、育児に関する言動により、男性労働者の就業環境を害することを意味します。④ カスハラ
「カスタマー・ハラスメント」の略称です。顧客が企業に対して理不尽なクレームや言動をすることを意味します。
次の項目から、セクハラ・パワハラ・マタハラ・カスハラに関する裁判例や、その内容から見えてくる企業のハラスメント対策を紹介します。
セクハラに関する裁判例と企業の対策
セクハラに関する2つの裁判例と、各裁判例の判示を踏まえた企業のセクハラ対策を紹介します。
公務員がコンビニ店員にわいせつな行為をした事例
✅ コンビニエンスストアに客として訪れた男性公務員が、セクハラ行為を理由として、市から停職6カ月の懲戒処分を受けた事例 |
本件では、男性公務員が、顔見知りであった女性店員の腕に自分の腕を絡ませたり、女性店員の手首を自分の股間に軽く触れさせたりしたことが認定されました。
女性店員は終始笑顔で行動し、ふりほどくなどの動作をしなかったことが認定されています。
最高裁は、女性店員が笑顔で行動し、身体的接触に抵抗を示さなかったとしても、それはセクハラに同意していたわけではなく、客とのトラブルを避けるためのものだったと見る余地があると指摘しました。
その上で、女性店員が拒絶しにくい状況に乗じて行われた厳しく非難されるべき行為であると断罪し、停職6カ月の懲戒処分を適法としました。
本件では、表向きは同意しているように見えた被害者の言動を、どのように評価すべきかが問題となりました。
セクハラは、優位な立場にある側がその立場を利用して行うケースも多いです。不利な立場の被害者の言動を額面通りに受け取らず、その真意を慮った上で、加害者への懲戒処分等を検討すべきでしょう。
従業員が派遣社員に対して性的な言葉を発した事例
✅ 派遣社員に対してセクハラをしたことを理由に、営業部の従業員2名が出勤停止(30日と10日)の懲戒処分を受けた事例 |
本件では、営業部の従業員のうち1名について、派遣社員に対して自分の不貞行為や性器の話をしたことなどが認定されました。
もう1名は、派遣社員の年齢を揶揄した上で、「結婚もしないでこんなところで何をしているのか」「夜の仕事をしないのか」などという趣旨の発言をしたことが認定されました。
派遣社員はセクハラに対して明確に抗議をしなかったことが認定されましたが、最高裁は、人間関係の悪化等を懸念して抵抗や被害申告を差し控えることが少なくないことを指摘し、出勤停止の懲戒処分を有効と判示しました。
本事案のように、被害者が明確に拒絶をしていなくても、加害者の行為がセクハラに当たるケースはよくあります。企業としては、職場における性的な言動は、被害者が拒否していなくてもセクハラに当たり得ることを周知徹底すべきでしょう。
パワハラに関する裁判例と企業の対策
パワハラに関する5つの裁判例と、各裁判例の判示を踏まえた企業のパワハラ対策を紹介します。
上司が部下に就業規則の書き写しなどを命じた事例
✅ 鉄道会社の現場労働者に対して、上司が就業規則の書き写しなどの教育訓練を命じたことにつき、現場労働者が上司と鉄道会社に損害賠償を請求した事例 |
本件で現場労働者は、労働組合のマークが入ったベルトを勤務中に着用しており、上司が外すように指示しても応じませんでした。
上記のベルト着用行為を理由に、上司は現場労働者に対して就業規則の書き写しなどを命じました。その際に上司は、現場労働者が水を飲むことを所望しても認めない、読み上げる際に「もっと大きな声で読め」と怒鳴るなどの言動をしたことが認定されました。
最高裁は、現場労働者の行為は軽微な就業規則違反に当たるとしましたが、就業規則の書き写しは教育訓練としての合理性が疑わしいと指摘しました。
また、上司の言動は現場労働者に対して必要以上の心理的圧迫感や拘束感を与え、人格を少なからず傷つけるほか、健康状態に対する配慮に欠ける部分が多分にあったとしました。
結論として最高裁は、上司と鉄道会社に対し、連帯して慰謝料20万円と弁護士費用5万円の支払いを命じました。
参照:最高裁平成8年2月23日判決(全国労働基準関係団体連合会ウェブサイト) |
企業が従業員に対する教育や指導を行う際には、目的や内容の合理性をよく検討した上で、従業員の人格を傷つけないように最大限配慮しなければなりません。
高等学校が女性教諭に対して不当な隔離や自宅研修などを命じた事例
✅ 高等学校が女性教諭に対して不当な隔離や自宅研修などを命じた事例 |
高等学校は、女性教諭に教師としての適格性を欠く言動や業務命令違反があったことなどを理由として、仕事を与えずに4年6カ月にわたって別室に隔離し、さらに5年以上にわたって自宅研修等を命じました。
さらに、支給すべき一時金を支給せず、昇給も認めずに賃金を据え置きました。
東京高裁は、事案の経緯に鑑みて、女性教諭よりも校長らの言動や対処の仕方に問題があったとして、一連の業務命令は女性教諭に対する嫌がらせであったことを認定しました。
そして、各業務命令をいずれも違法であると判断し、高等学校を経営する学校法人に対して慰謝料600万円の支払いを命じました。
参照:東京高裁平成5年11月12日判決(全国労働基準関係団体連合会ウェブサイト) |
上記の事案のように、「追い出し部屋」や自宅などに隔離して業務を与えないことは、パワハラに該当する可能性が高いです。従業員に対しては、質・量ともに能力に見合った仕事を与えなければなりません。
不適切な態様による退職勧奨がパワハラと認められた事例
✅ 航空会社の契約社員である客室乗務員が、上司から退職勧奨を受けたことについて、上司と航空会社に慰謝料を請求した事例 |
客室乗務員は、上司から退職勧奨を受けた後、文書で明確に自主退職を拒否しました。しかし、その後も退職を求める長時間の面接が設けられたり、強く直接的な表現を用いて退職を求められたりしたことが認定されました。
東京高裁は、客室乗務員が退職勧奨を明確に拒否した後も、上司が退職勧奨を続けたことなどを問題視し、上司と航空会社に対して慰謝料20万円の支払いを命じました。
参照:東京高裁平成24年11月29日判決(あかるい職場応援団ウェブサイト) |
退職勧奨は、あくまでも従業員に対して任意の退職を求めるものに過ぎません。従業員が明確に退職を拒否したら、それ以上退職勧奨を続けることはパワハラに当たるおそれがあります。
企業としては、退職勧奨に関するマニュアルを整備するなどして、不適切な態様で退職勧奨が行われないような対策を講じましょう。
暴行や謝罪強制について、行為者のほか店舗や代表者の責任も認められた事例
✅ 携帯電話の販売業務に従事していた従業員が、同じ会社の教育担当の従業員と、家電量販店の従業員から暴行や謝罪の強制を受けたことを理由に損害賠償を請求した事例 |
教育担当の従業員と、家電量販店の従業員は、被害者に対して多数回にわたり暴行を加え、さらに遅刻や入店時間についての虚偽連絡をしたことについての謝罪を強制しました。
東京地裁は、上記の各行為について加害者本人の不法行為責任を認めたほか、暴行の一部について家電量販店の使用者責任を認めました。
さらに、被害者の雇用先の代表者についても、目撃していた範囲内に限り、暴行について共同不法行為責任を認定しました。
参照:東京地裁平成17年10月4日判決(あかるい職場応援団ウェブサイト) |
企業が適切にパワハラ対策を行わないと、実際にパワハラが発生した際に、企業や代表者も損害賠償責任を負うことがあります。社内の実情に即した実効的なパワハラ対策を行いましょう。
暴言・暴行・退職勧奨などのパワハラを受けた従業員が自死した事例
✅ 従業員が、役員から日常的にパワハラや退職勧奨などを受けたことが原因で自殺したとして、遺族が会社と役員に対して損害賠償を請求した事例 |
裁判では、役員が被害従業員に対し、複数回にわたって暴行や汚い言葉での罵倒をしたこと、被害従業員のミスによって会社に与えたとする損害を弁償するように求め、弁償しなければ家族に払ってもらうと述べたこと、退職届を書くように強要したことなどが認定されました。
名古屋地裁は、上記の各行為がいずれも不法行為に当たるとした上で、パワハラと自殺の因果関係を認め、会社と役員に対して計5400万円余りの損害賠償を命じました。
参照:名古屋地裁平成26年1月15日判決(全国労働基準関係団体連合会ウェブサイト) |
パワハラによって従業員が自殺してしまうと、会社の社会的評価が大幅に低下することに加えて、高額の損害賠償責任を負うことになります。他の従業員に対する言動には細心の注意を払うべき旨を、具体例を挙げて、管理職などの従業員に対して十分に周知しましょう。
マタハラに関する裁判例と企業の対策
マタハラに関する裁判例と、その判示を踏まえた企業のマタハラ対策を紹介します。
軽易な業務への転換権を行使した女性労働者を降格させた事例
✅ 労働基準法に基づいて軽易な業務への転換を求めた女性従業員が降格させられ、産休・育休後に復帰しても元の地位(副主任)に戻されなかった事例 |
裁判では、理学療法士である女性従業員が、妊娠中に軽易な業務への転換を求めたところ、管理職である副主任から非管理職の職員に降格され、育児休業を終えて職場復帰した後も、副主任への復帰の機会を得られなかったことなどが認定されました。
最高裁は、意に反する降格等によって、女性従業員が管理職の地位と手当等の喪失という重大な不利益を被ったことを問題視しました。
その上で、男女雇用機会均等法違反を理由に会社側の不法行為を認定し、女性従業員の請求を棄却した原審判決を破棄差戻しとしました。
妊娠や出産などを理由として、女性従業員に対して不利益な取り扱いをすることは認められません(男女雇用機会均等法9条3項)。
女性従業員が、軽易な業務への転換請求や産休・育休の取得をした場合でも、地位を降格させることはせず、復職後は元の地位に戻すことを原則とする運用をすべきでしょう。
カスハラに関する裁判例と企業の対策
カスハラに関する2つの裁判例と、各裁判例の判示を踏まえた企業のカスハラ対策を紹介します。
顧客が長時間かつ多数回にわたって、勤務時間外の電話連絡を強要した事例
✅ 保険会社の従業員が、保険契約者から多数回かつ長時間にわたって電話をかけられ、さらに勤務時間外の電話連絡を強要されたことにつき、会社が保険契約者に対する妨害行為の差止仮処分を求めた事例 |
東京高裁は、顧客の権利行使としての相当性を超えること、従業員に受忍限度を超える困惑や不快を与えること、業務に及ぼす支障の程度が著しく、事後的な損害賠償では回復困難な重大な損害が発生することなどを理由として、妨害行為に関する差止仮処分命令を発しました。
参照:東京高裁平成20年7月1日決定(判例タイムズ1280号329頁) |
顧客への対応によって従業員が大きく疲弊している場合や、会社の業務が著しく妨げられている場合などには、対応できる範囲を顧客に示すとともに、悪質な場合は妨害行為の差止仮処分申立てや損害賠償請求などの法的措置をもって対抗することも検討すべきでしょう。
住民が市に対して情報公開請求を乱発し、職員に対して暴言を吐いた事例
✅ 住民が市に対して情報公開請求を乱発し、さらに職員に対して暴言を吐いた事例 |
大阪地裁は、被告である住民が行った情報公開請求がその頻度・態様から権利行使の限度を超え、特定職員への侮蔑行為・面談強要・謝罪要求等により業務を妨害したと認定して、請求を行った住民に対し、電話対応や面談の要求、質問に対する回答の強要、大声や罵倒を浴びせる行為を禁止し、さらに80万円の損害賠償の支払いを命じました。
参照:大阪地裁平成28年6月15日判決(判例時報2324号84頁) |
上記の事案は地方公共団体におけるものですが、企業に対しても同じようなカスハラが行われることは十分想定されます。裁判例などを参考に判断基準を策定し、悪質な顧客に対しては、損害賠償請求などの法的措置をもって毅然と対応しましょう。