不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは?
具体例やリスク、対応手順、予防策を
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、不機嫌な態度や言動で周囲に圧を与えて周囲に精神的な苦痛を与える行為です。

・不機嫌ハラスメントは、状況によって「故意・過失により他人の権利や法律上の利益を侵害する行為」とされ、民法上の不法行為として扱われる場合があります。
・フキハラの具体例は、上司による無言の圧力や、特定の人物に対する威圧的な対応、コミュニケーションの拒絶などです。
・企業がフキハラを認識しながら放置し、従業員に精神的損害が生じた場合は、労働契約法に基づく安全配慮義務違反に問われる可能性があります。

本記事では、不機嫌ハラスメントについて、基本から詳しく解説します。

ヒー

最近フキハラという言葉をよく聞きますが、一体なんでしょうか?

ムートン

フキハラは、不機嫌ハラスメントのことで、不機嫌な態度や言動を繰り返し、周囲に心理的な圧力や不快感を与える行為です。フキハラは、モラハラやパワハラと似た概念ですが違いもあります。詳しく解説しましょう。

※この記事は、2025年10月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※パワハラ防止法…労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律

不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは

不機嫌ハラスメント(フキハラ)とは、不機嫌な様子を態度や口調で圧をかけ、周囲に不快感や精神的な苦痛を与える行為のことです。

ハラスメントには、法令で明確に定義されているものと、社会的に問題視されているが法令上の定義がないものがあります。不機嫌ハラスメントは後者にあたりますが、状況によっては「故意・過失により他人の権利や法律上の利益を侵害する行為」とされ、民法上の不法行為に該当する場合があります。

特に、態度にとどまらず、威圧的な言動を繰り返すといったパワーハラスメントに近い行為が繰り返される場合は、損害賠償の対象となる可能性が高いです。さらに、企業は従業員が快適に働ける環境を整える義務があるため、不機嫌ハラスメントにより職場環境が悪化した場合、企業も責任に問われる可能性があります。

不機嫌ハラスメントとパワーハラスメントの違い

厚生労働省は、パワハラを「①優越的な関係を背景とした言動」「②業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「③労働者の就業環境を害されるもの」の3つの要素を満たすものと定義しています。

一方で、不機嫌ハラスメントは法令上の定義がなく、個人の態度や雰囲気を通じて誰に対しても起こり得る点が特徴です。不機嫌な態度や口調で相手を威圧し、心理的な圧力をかける行為が該当します。

パワーハラスメントについては、以下の記事でも解説しているため、併せてご覧ください。

不機嫌ハラスメントとモラルハラスメントの違い

モラルハラスメント(モラハラ)は、道徳や倫理に反する嫌がらせ行為のことです。法令上の定義はありませんが、フランスの精神科医マリー=フランス・イルゴイエンヌ氏は、モラハラを「言葉や態度によって巧妙に人を傷つける精神的な暴力」と表現しています。具体的には例えば、相手の人格や考え方を否定したり、少しのミスでも過剰に責めたりする行為は、モラハラに該当します。

一方、不機嫌ハラスメントは、ため息や舌打ち、無視など、主に非言語的な態度によって周囲に精神的苦痛や圧力を与える行為です。

不機嫌な態度が繰り返され、相手の尊厳を傷つけるほどにエスカレートした場合は、モラハラとして扱われることもあります。

モラハラについては、以下の記事でも詳しく解説しているため、参考にしてみてください。

不機嫌ハラスメント(フキハラ)の具体例

不機嫌ハラスメントの代表的な例として、以下のような行動が挙げられます。

  • 無言の圧力
  • 特定の人物に対する冷たい対応
  • コミュニケーションの拒絶

それぞれの行動について詳しく解説します。

無言の圧力

職場でよく見られる不機嫌ハラスメントは、上司による無言の圧力です。

例えば、部下が提出した資料を見て大きくため息をついたり、何も言わずに突き返したりするなどの行動です。上司の不機嫌ハラスメントが繰り返される環境では、部下が常に上司の機嫌をうかがうようになり、萎縮して報告や提案をためらうようになります。

その結果、ミスの発見や遅れ、チーム全体の生産性の低下につながります。

特定の人物に対する冷たい対応

特定の人物に不機嫌な態度を取り続ける行為も、不機嫌ハラスメントの一例です。

例えば、他の従業員には笑顔で対応しているにもかかわらず、特定の部下からの挨拶だけを無視する、特定の人の質問にだけ無表情の冷たい口調で応じるなどの行為が該当します。

被害者は「自分だけが嫌われている」と感じ、強い疎外感や精神的苦痛から職場での居心地が悪くなり、最悪の場合は離職につながる恐れがあります。

コミュニケーションの拒絶

業務上必要なコミュニケーションを意図的に拒む行為も、不機嫌ハラスメントの一つです。

例えば、部下からの業務報告に返事をしない、業務上の質問をしても意図的に反応しないなどの行為が該当します。無視による不機嫌ハラスメントは、目に見える証拠が残りにくく、周囲が気づきにくいのが特徴です。

しかし、被害者に心理的負担を与えるだけでなく、業務遂行にも悪影響を及ぼす恐れがあります。

不機嫌ハラスメント(フキハラ)が企業にもたらすリスク

不機嫌ハラスメントは、個人間のトラブルにとどまらず、企業全体に悪影響を及ぼすリスクがあります。具体的なリスクは、以下のとおりです。

  • 職場全体の雰囲気が悪くなる
  • 業務の生産性が低下する
  • 従業員エンゲージメントが低下する
  • 離職につながる可能性がある
  • 法的責任を問われるリスクがある

職場全体の雰囲気が悪くなる

不機嫌な態度や言動は周囲へ広がり、職場全体の雰囲気を悪化させる要因の一つです

特定の人物の機嫌を常にうかがわなければならない緊張感は、他の従業員の自由な発言や創造的な発想を奪いかねません。また、不機嫌ハラスメントによる閉塞的な環境では、活発な議論や前向きな協力体制が生まれず、チーム全体のパフォーマンスが低下してしまいます。

結果として、職場の信頼関係が崩れ、業務にも影響を及ぼす恐れがあります。

業務の生産性が低下する

不機嫌ハラスメントは、組織全体の生産性を低下させる原因の一つです。

不機嫌ハラスメントが常態化した環境では、上司や同僚の威圧的な態度や無視を恐れ、従業員は業務上必要な「報告・連絡・相談」をためらうケースも少なくありません。

コミュニケーションが行われなければ、情報共有の遅れや業務の手戻りを招き、重大なミスにつながります。

従業員エンゲージメントが低下する

上司の機嫌に振り回される環境では、仕事への熱意や組織への貢献意欲を指す従業員エンゲージメントが低下します

自分の意見が尊重されず、他人の感情的な言動に怯える環境では、従業員は会社から大切にされていると感じられません。その結果、仕事への誇りややりがい、組織への信頼感を失ってしまいます。

離職につながる可能性がある

不機嫌ハラスメントは、被害者本人が心身の健康を損ない、結果的に離職につながる恐れがあります

直接的な被害者は、継続的なストレスから精神状態が悪化し、休職の末に退職を余儀なくされることもあります。

また、被害者本人だけでなく、周囲の従業員にも悪影響が及ぶため注意が必要です。ハラスメントを見て見ぬふりをする企業文化に失望した社員がより良い環境を求めて転職を決意するケースも珍しくありません。

このような退職の連鎖は、組織全体の士気を低下させるだけでなく、大きな人材損失につながります。

法的責任を問われるリスクがある

企業が不機嫌ハラスメントを認識しながら放置し、従業員に精神的損害が生じた場合、労働契約法に基づく安全配慮義務」違反を問われる可能性がある点に注意が必要です

さらに、不機嫌な態度がパワーハラスメントに該当すると判断された場合、パワハラ防止法第33条に基づき、厚生労働大臣による助言、指導または勧告の対象になる可能性があります。勧告に従わなかった場合は、企業名が公表されることがあります。

結果として、企業のブランドイメージが損なわれ、採用活動や社員の定着にも深刻な影響を及ぼしかねません。

不機嫌ハラスメント(フキハラ)に対して企業に求められる措置

不機嫌ハラスメントは、問題が発生する前に日頃から職場全体で予防に取り組むことが重要です。企業が実施すべき主な予防策は、以下のとおりです。

  • ハラスメント研修を実施する
  • 定期的にアンケートを実施する
  • 従業員の健康状態を管理する
  • 相談窓口を設置する

ハラスメント研修を実施する

不機嫌ハラスメントを予防するためには、全従業員を対象とした定期的なハラスメント研修の実施が有効です。

ハラスメント研修は、不機嫌な態度や言動がどのようなハラスメントに当たるかを把握でき、職場環境に与える悪影響を認識できる機会です。具体的な事例を用いてフキハラの境界線を明確すれば、ハラスメント防止の意識を高められます。

研修は一度きりで終わらせず、階層別に内容を最適化して継続的に実施することが、ハラスメントを許さない企業文化の定着につながります。

定期的にアンケートを実施する

表面化しにくい不機嫌ハラスメントの有無を調べるには、任意の取り組みとして匿名のアンケート調査を定期的に実施することが有効です。被害者は、加害者からの報復や人事評価への影響を恐れ、直接相談をためらう傾向があります。

匿名性が保証されたアンケートなら、従業員も安心して職場の実情を回答できます。アンケートを実施すれば、人事部門は部署ごとの雰囲気や人間関係の問題、潜在的なハラスメントの兆候を早期に把握可能です。

従業員の健康状態を管理する

従業員の心身の健康状態を管理することは、不機嫌ハラスメントの予防策としても対策としても有効です

フキハラの加害者は、過度なストレスや慢性的な疲労、精神的な不調が、意図せずイライラや不機嫌な態度として表れることがあります。一方、被害者は、継続的なハラスメントによりメンタル不調に陥るリスクが高い状態にあります。従業員の心身の健康状態を管理することでそれら問題の早期発見と適切なケアが可能になり、被害の深刻化を防ぎます。

従業員の心身の健康を守るには、法令で義務付けられている定期健康診断やストレスチェックを実施するだけでなく、結果を活用して労働時間や職場環境を改善する仕組みを整えることが求められます。

相談窓口を設置する

相談窓口を設置し、存在を全社に周知することは、不機嫌ハラスメントの強力な抑止力となります。相談窓口の設置は任意の取り組みですが、従業員が問題を抱え込んで深刻化させることを防ぐセーフティネットといえます。

利用を促すには、掲示板やメールなどで窓口の連絡先や相談方法を明示し、いつでもアクセスできる状態にしておくことが重要です。相談窓口は、対面だけでなく電話・メール・ウェブフォームなど、複数の手段を用意しておけば、気軽に利用できる体制を整えられます。

社内で不機嫌ハラスメント(フキハラ)が発生したときの対応手順

社内で不機嫌ハラスメントが発生した場合、企業は再発防止と被害者のケアを両立するために、以下の手順で対応することが重要です。

  1. 従業員のプライバシー保護の徹底
  2. 事実関係の確認と整理
  3. 加害者本人への聴取と確認
  4. 業務指示系統の再検討
  5. 加害者・被害者の配置転換の検討
  6. 継続的なメンタルヘルス支援の実施

従業員のプライバシー保護の徹底

不機嫌ハラスメントに対応する際は、被害者が安心して話せる環境を整え、プライバシーの保護を徹底することが重要です

面談においては、外部の音が聞こえにくい個室で実施し、相談者と相手のどちらかが悪者であるといった予断を持たずに、中立的な立場で双方の意見や状況を聞くことが重要です。

さらに、相談の前に従業員のプライバシーを確保していることをあらかじめ社内で周知しておくことが、迅速かつ信頼性の高い対応につながります。

事実関係の確認と整理

相談者のプライバシーを確保した上で、次は不機嫌ハラスメントの原因となっている対象者や原因、影響などの客観的な事実を整理する段階に移ります。公平な判断を行うためには、「いつ、どこで、誰が、何を、どのようにしたか」という5W1Hを明確にする必要があります。

相談者が記録した日記や録音・録画データ、メールの文面などは重要な証拠となるため、本人の許可を得て確認することが重要です。また、第三者にも慎重に話を聞き、複数の情報源から客観的に事実を整理します。

加害者本人への聴取と確認

相談者や第三者からのヒアリングで客観的な事実が確認できたら、次は加害者とされる従業員への聴取を行います。加害者本人へのヒアリングでは、決めつけるような態度は避け、まずは本人の主張を冷静に受け止める姿勢が重要です。

その上で、確認された行為がハラスメントに該当すると判断した場合は、なぜ問題なのかを具体的に説明し、改善を促します。不機嫌ハラスメントの加害者は自覚がないケースもあるため、周囲への影響を客観的に伝え、再発防止に向けた指導を行うことが求められます。

業務指示系統の再検討

加害者への指導を行っても関係改善が難しい場合や、態度が改善されない場合は、当事者同士が関わる機会を減らす等、物理的な接触機会を減らす対策を検討します。その対策の一つが、業務上の指示系統や報告ルートの見直しです

例えば、直属の上司と部下の間で問題が起きている場合は、間に別の管理職を一時的に挟み、その人物を通じて指示や報告を行うようにします。

また、口頭でのやり取りを減らし、記録が残るチャットやメールでのコミュニケーションを原則とするルールも、感情的な衝突を防ぐ手段の一つです。

加害者・被害者の配置転換の検討

指導や業務フローの見直しを行っても状況が改善されず、人間関係の修復が難しいと判断される場合は、当事者のいずれかを配置転換し、物理的に引き離すことを検討します

厚生労働省の「職場におけるハラスメント関係指針」でもパワハラが生じた時の対処法として、「被害者と行為者を引き離すための配置転換」が措置の例として挙げられています。

ただし、配置転換は従業員のキャリアに大きな影響を及ぼすため、慎重な判断が必要です。配置転換前に異動対象となる当事者と十分に対話し、本人の意思を尊重した上で判断します。

継続的なメンタルヘルス支援の実施

不機嫌ハラスメントへの対応は、加害者への指導や配置転換といった措置を終えた時点で完了するものではありません。被害者だけでなく、加害者も含めてメンタルヘルスケアを行うことが重要です。不機嫌ハラスメントの背景には、本人の過度なストレスや心理的負担が関係しているケースも少なくありません。

再発や新たなトラブルを防ぐためにも、企業は定期的にストレスチェックやアンケートを実施し、結果を分析した上でケアを行い、必要であれば産業医面談の実施を検討します。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「職場におけるハラスメント対策パンフレット」

監修者

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涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修