株主総会開催に必要な事前準備とは?
スケジュール・招集通知など
について分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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株主総会を開催するにあたり必要となる事前の準備や手続きについては、会社法に詳しく定められています。
具体的には、株主総会の招集事項の決定、報告事項および決議事項の整理、招集通知の発送、計算書類および事業報告の作成、株主からの質問に対する想定問答集の作成などが必要となります。
株主総会開催に必要な事前準備は、誰が、いつまでにやるかが会社法で決まっているものが多いです。スケジュールもあわせて確認しておきましょう。また、会社法に定めのない事項についても会社ごとに事前に準備すべき場合があります。こちらも合わせて確認すべきでしょう。この記事では、「株主総会開催に必要な事前準備」について、必要な準備・手続きを基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月1日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
株主総会を開催する手続きの流れ・スケジュール
株主総会を開催する手続きの流れ・スケジュールとしては、大きく3つに分けて、「事前準備」、「当日の流れ」、「株主総会終了後にやること」があります。まずは大まかな流れを理解しておきましょう。
事前準備
株主総会の事前準備には、招集事項の決定、招集通知の発送、計算書類および事業報告の作成・提出などがあります。その他に、会社ごとに事前に準備すべき事項もあります。詳しくは以下で説明します。
株主総会当日の流れ
株主総会当日は、議長が議事進行を行い(会社法315条)、報告事項の報告と決議事項の採決を行います。
株主から質問や動議の提出が行われることもあるため、臨機応変な対応が求められます。
株主総会終了後にやること
株主総会終了後は、議事録を作成し、株主総会の日から10年間、本店に備え置かなければなりません(会社法318条)。
招集事項の決定
事前の準備の中でまず行うのが招集事項の決定です。
招集事項とは
招集事項とは、株主総会を招集するにあたり決定しておく事項です。
具体的には次の5つが会社法で定められています(会社法298条1項)。
① 株主総会の日時および場所
② 株主総会の目的事項
③ 株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使を認めるときは、その旨
④ 株主総会に出席しない株主に電磁的方法による議決権行使を認めるときは、その旨
⑤ ①~④のほか法務省令で定める事項
日時・場所
株主総会を実施する日時・場所を決定します。
会社法の株主総会に関する規定は、物理的な会場を設けて、株主が会場に赴いて出席することを想定しています。
特例として、物理的な会場を設けないバーチャル株主総会が認められる場合もあります。
目的事項
株主総会の招集事項の中で、もっとも重要なのが「株主総会の目的事項」です。
株主総会の目的事項には、報告事項と決議事項があります。
報告事項は、株主に対して報告すれば足りる事項です。
これに対して、決議事項は株主総会決議で採決をする必要があります。
また、報告事項といっても、会社法で報告が義務付けられている事項もあるので、注意が必要です。
開催予定の株主総会において、何を報告事項とし、何を決議事項として提案するのか、慎重に吟味しなければなりません。
議決権の行使方法等
株主は、株主総会当日に、株主総会の場所に赴いて議決権を行使するのが原則です。
この他に、株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使を認めたり、電磁的方法による議決権行使を認める場合には、その旨を招集事項として決定します。
誰が招集事項を決定するか
招集事項の決定は、取締役が行いますが(会社法298条1項)、取締役会設置会社においては取締役会の決議で決定します(同条4項)。
代表取締役以外の取締役によって、取締役会の決議を経ずに招集された株主総会は、法律上の意義における株主総会ということはできず、そこで決議がなされたとしても、株主総会の決議があったと解することはできないと判断した判例があります(最判昭和45年8月20日判時607号79頁)。
法務担当者としては、招集事項の決定が決定権限のある者によってなされていることを念のため確認しましょう。
招集通知の発送
招集事項が決定したら招集通知を発送します。
招集通知とは
招集通知とは株主総会の開催を株主に知らせるための通知です。
招集通知には、決定した招集事項を記載します(会社法299条4項)。
取締役会設置会社である場合や、株主総会に出席しない株主に書面や電磁的方法による議決権行使を認める場合には、招集通知は書面でしなければならないと定められています(会社法299条2項)。
電磁的方法による通知
株主の承諾を得た場合には、書面に代えて、電磁的方法により通知を発することもできます。この場合、書面による招集通知を発送したものとみなされます(会社法299条3項)。
誰が発送するか
招集通知は、取締役が発送することとされています(会社法299条1項)。
いつまでに発送するか
招集通知は、株主総会の日の2週間前までに株主に対して発送しなければなりません(会社法299条1項)。
「2週間前まで」の数え方ですが、発送日と株主総会当日の間に14日間あることが必要です。
一方、非公開会社で、かつ、株主総会に出席しない株主に書面や電磁的方法による議決権行使を認めない場合は、1週間前までに発送すれば足ります。
また、取締役会非設置会社の場合は、定款で定めることにより、1週間よりも短い期間に設定することもできます。
株主総会参考書類等
株主総会に出席しない株主に書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合には、事前準備として株主に交付等しなければならないものがあります。
書面による議決権行使を認める場合
書面による議決権行使を認める場合は、招集通知に際して、株主に対して、株主総会参考書類と議決権行使書面を交付しなければなりません(会社法301条1項)。
✅ 株主総会参考書類:議決権の行使について参考となるべき事項を記載した書類
✅ 議決権行使書面:株主が議決権を行使するための書面
株主の承諾を得て、電磁的方法により招集通知を発するときは、株主総会参考書類および議決権行使書面の交付に代えて、これらの書類に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができます。ただし、株主の請求があったときは、これらの書類を株主に交付しなければなりません(会社法301条2項)。
電磁的方法による議決権行使を認める場合
電磁的方法による議決権行使を認める場合も、招集通知に際して、株主に対して、株主総会参考書類を交付しなければなりません(会社法302条1項)。
株主の承諾を得て、電磁的方法により招集通知を発するときは、株主総会参考書類の交付に代えて、株主総会参考書類に記載すべき事項を電磁的方法により提供することができます。ただし、株主の請求があったときは、株主総会参考書類を株主に交付しなければなりません(会社法302条2項)。
また、電磁的方法による議決権行使を認める場合であって、株主の承諾を得て、電磁的方法により招集通知を発するときは、株主に対し、議決権行使書面に記載すべき事項を当該電磁的方法により提供しなければなりません(会社法302条3項)。
さらに、電磁的方法による議決権行使を認める場合において、電磁的方法による招集通知を承諾していない株主から、株主総会の日の1週間前までに議決権行使書面に記載すべき事項の電磁的方法による提供の請求があったときは、直ちに、当該株主に対し、当該事項を電磁的方法により提供しなければなりません(会社法302条4項)。
招集手続きを省略できる場合
株主の全員の同意があるときは、招集手続きを省略することができます。ただし、株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使や電磁的方法による議決権行使を認める場合には、招集手続きを省略することはできません(会社法300条)。
定時株主総会における計算書類および事業報告の提出
定時株主総会においては、取締役は計算書類および事業報告を株主総会に提出しなければなりません(会社法438条1項)。
計算書類とは、貸借対照表、損益計算書その他株式会社の財産および損益の状況を示すために必要かつ適当なものとして法務省令で定めるものをいいます(会社法435条2項)。
定時株主総会に提出された計算書類は、定時株主総会の承認を受けなければなりません(会社法438条2項)。
また、定時株主総会に提出された事業報告の内容について、取締役は定時株主総会に報告しなければなりません(同条3項)。
計算書類および事業報告の作成・監査
定時株主総会に提出する前提として、株式会社は、法務省令で定めるところにより、各事業年度に係る計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書を作成しなければなりません(会社法435条2項)。
計算書類および事業報告ならびにこれらの附属明細書は、取締役会設置会社においては取締役会の承認を受けなければなりません(会社法436条3項)。
また、監査役設置会社や会計監査人設置会社においては、監査役や会計監査人の監査を受けた上で、取締役会の承認も受けなければなりません(会社法436条1項・2項)。
計算書類および事業報告の株主への提供
取締役会設置会社においては、取締役は、定時株主総会の招集通知に際して、株主に対し、取締役会の承認を受けた計算書類および事業報告(監査役や会計監査人の監査を受ける場合は、監査報告または会計監査報告を含む)を提供しなければなりません(会社法437条)。
会社ごとに事前に準備すべき事項
株式会社が事前準備として行うべき一般的な事項はこれまで説明した通りですが、そのほかに、会社ごとに事前に準備すべき事項もあります。
書面投票・電子投票の取り扱いと集計
書面による議決権行使や、電磁的方法による議決権行使を認める会社の場合、これらの方法による議決権行使をいつまで認めるか、議決権行使の期限を定めることができます。
書面または電磁的方法による議決権行使の期限を定める場合は、株主総会の日時以前の時であって、招集通知を発送した日から2週間を経過した日以後の時点とする必要があります(会社法施行規則63条3号ロ・ハ)。
これらの定めがないときは、書面または電磁的方法による議決権行使の期限は、株主総会の日時の直前の営業時間の終了時となります(会社法施行規則69条・70条)。
株主からの質問に対する想定問答集の作成
株主総会において株主からの質問が予想される場合は、想定問答集を作成しておくとよいでしょう。
取締役等の説明義務
会社法上、取締役、会計参与、監査役および執行役は、株主総会において、株主から特定の事項について説明を求められた場合には、当該事項について必要な説明をしなければならないとされています(会社法314条本文)。
ですから、株主からの質問に対して取締役等は原則として説明義務があります。
ただし、次の場合には、取締役等は説明義務を負いません(会社法314条但書き、会社法施行規則71条)
✅ 株主総会の目的である事項に関しないものである場合
✅ 株主が説明を求めた事項について説明をするために調査をすることが必要である場合
✅ 株主が説明を求めた事項について説明をすることにより株式会社その他の者(当該株主を除く)の権利を侵害することとなる場合
✅ 株主が当該株主総会において実質的に同一の事項について繰り返して説明を求める場合
✅ その他、株主が説明を求めた事項について説明をしないことにつき正当な理由がある場合
どのような質問を想定しておけばよいか
総会の目的事項については、取締役等は説明義務がありますから、目的事項である報告事項や決議事項については株主からの質問を想定しておきましょう。
特に、配当、役員の選任・解任、業績の大幅な変動がある場合など、株主の関心が高いと考えられる事項が目的事項となっている場合には想定問答集を作成しておくのがよいでしょう。また、近時は、DX、SDGs、ESG投資、ダイバーシティ、新型コロナウイルスへの対応など、時流に乗った質問も予想されるところです。
どのような回答を想定しておけばよいか
取締役等が説明義務を負っているといっても、無限定に説明をしなければならないわけではなく、株主からの求めに対して必要な説明をすれば足ります。
どの程度まで詳しく説明しなければならないかについて、会社法に定めはありません。この点、裁判例では、平均的な株主が議決権行使の前提として合理的な理解および判断を行い得る程度の説明をする義務があるとされています(東京高判平成23年9月27日判例秘書登載)。
株主総会当日に株主からの質問に回答するのは取締役等ですが、法務担当者としては、株主総会の事前準備として、取締役等と連携して質問を想定し、回答すべき内容や言い回し、取締役等のうち誰が回答するかなどを考慮した想定問答集を用意しておくとよいでしょう。
リハーサルの実施
株主総会を円滑に行うために、事前にリハーサルを実施することもおすすめです。
リハーサルでは、証券代行機関や従業員が株主役となって質問をして取締役等が質疑応答の練習をするのが一般的です。想定問答集を使って質疑応答をしてみた結果、回答が分かりづらい場合などには回答を修正しておきます。また、顧問弁護士が出席して、議事進行に法令違反がないかをチェックすることもあります。
リハーサルは、質疑応答の分かりやすさや法令違反の有無をチェックする目的もありますが、取締役等や法務担当者が議事運営に慣れておき、リラックスして当日を迎えられるようにする意味合いもあります。
総会屋、特殊株主への対応
最近はあまり見かけなくなりましたが、株主総会において、株主としての権利を濫用して、不当に財産上の利益を得ようとする者、いわゆる総会屋への対応についても押さえておきましょう。
総会屋には、2つの種類があります。
会社や経営陣にとって不利益な言動をして株主総会の正常な運営に支障を来すことにより、これを回避したい会社・経営陣側から不当に財産上の利益を得ようとする者と、逆に、会社や経営陣の意向に沿って株主総会を運営させるために他の株主を威迫して質問などを妨げ、その見返りに会社・経営陣側から不当に財産上の利益を得ようとする者があります。
総会屋の介入を防ぎ、株主総会の公正は運営を確保するため、会社法では、株式会社は、どんな相手に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益を供与してはならないと定められています(会社法120条)。
また、不当に財産上の利益を得ようとする総会屋とまではいわなくとも、不規則発言をしたり、議事進行の妨害をする特殊株主も存在します。
法務担当者としては、総会屋を利用しない・させないことはもちろんですが、株主名簿に総会屋や特殊株主と疑われる人物がいないかどうかチェックしておくことも必要でしょう。
株主総会の事前準備に瑕疵があったときの効果
株主総会の事前準備、特に招集手続きに瑕疵があったときはどうなってしまうのでしょうか。
株主総会決議の取消事由
株主総会の招集手続きが法令もしくは定款に違反し、または著しく不公正であったときは、株主総会決議の取消事由となります。株主等は、株主総会決議の日から3か月以内に、株主総会決議取消しの訴えを提起することができます(会社法831条1項1号)。
ただし、招集手続きが法令または定款に違反するときであっても、違反が重大でなく、かつ、決議に影響を及ぼさないと認めるときは、裁判所は株主総会決議取消しの訴えを棄却することができます(同条2項)。
株主総会決議の不存在
一方、
× 代表取締役以外の取締役によって、取締役会の決議を経ずに招集された場合(前掲最判昭和45年8月20日)
× 大多数への招集通知を欠いていた場合
などのように、瑕疵の程度が重大な場合には、株主総会決議が不存在であると判断されてしまうこともあります。
大多数への招集通知を欠いていた事例としては、株主9名、株式総数5,000株の株式会社において、株主である代表取締役が、自己の実子である2名の株主に口頭で招集の通知をしただけで、他の6名の株主(持株2,100株)には招集の通知をしなかった事例につき、株主総会決議は不存在であるとされた判例があります(最判昭和33年10月3日民集12巻14号3053頁)。
法務担当者としては、株主総会決議が後から取消しや不存在といわれてしまうことがないよう、法令や定款を遵守し、招集手続きが公正に行われるよう、しっかりと事前準備を行いましょう。