バーチャル株主総会とは?
事例・種類(参加型・出席型・
バーチャルオンリー)・メリット・
実施の流れなどを解説!

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この記事のまとめ

バーチャル株主総会」とは、オンライン上で参加できる株主総会です。

実際の会場とオンラインを選択できるハイブリッド型と、オンラインのみで開催されるバーチャルオンリー型の2つに分類されます。さらにハイブリッド型は、オンライン参加の株主に議決権等を認めない「参加型」と、議決権等を認める「出席型」の2つに分かれます。

バーチャル株主総会を開催する場合、開催方法を検討した上で、それに合ったオンライン参加のシステムを導入しましょう。

その後は通常の株主総会と同じ要領で、招集手続き・当日の議事進行・議事録の作成などを行いますが、バーチャル株主総会特有のトラブルに注意が必要です。

特に当日のシステム障害対策、インターネットの利用が困難な株主への配慮、サイバー攻撃対策などについては、あらかじめ慎重な検討を行うことが求められます。

今回はバーチャル株主総会について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

コロナも相まって、バーチャル株主総会への関心が高まっていますよね。

ムートン

そうですね。バーチャル株主総会の開催方法にもいくつか種類がありますので、この記事で勉強していきましょう。

※この記事は、2023年1月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・産業競争力強化法省令…産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会に関する省令

バーチャル株主総会とは

バーチャル株主総会」とは、オンライン上で参加できる株主総会です。

従来の株主総会は実際の会場を設けて開催し、参加する株主はそこへ一堂に会するのが一般的でした。しかし近年では、株主の利便性や感染症予防対策などの観点から、オンライン参加が可能なバーチャル株主総会への注目度が高まっています。

バーチャル株主総会の種類と違い

バーチャル株主総会は、以下の2つに分類されます。

①実際の会場とオンラインを選択できる「ハイブリッド型
②オンラインのみで開催される「バーチャルオンリー型

さらにハイブリッド型は、オンライン参加の株主に議決権等を認めない「参加型と、議決権等を認める「出席型の2つに分かれます。

ヒー

議決権って何ですか?

ムートン

株主総会決議に参加し、票を入れることができる権利のことです。

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会とは|事例も含め解説

ハイブリッド参加型バーチャル株主総会は、実際の会場での参加とオンライン参加の両方を認めつつ、オンライン参加の株主には議決権等の行使を認めない(=会社法上の「出席」が認められない)開催形態です。

ヒー

つまり、オンラインで参加する者は、単なるオブザーバーであり、株主総会を傍聴するのみということですか?

ムートン

そのとおりです。

経済産業省「バーチャル株主総会について」18ページによると、2021年の時点では、3種類のバーチャル株主総会のうち、ハイブリッド参加型が最も割合が高い開催形態となっています。

ハイブリッド参加型株主総会を実施している企業(事例)として、例えば、「日本郵政(2022年)」などがあります。

「第17回定時株主総会につきましては、ご出席を見合わせていただいた株主さまがご自宅でも株主総会の模様をご視聴いただけるよう、インターネットでライブ中継いたします。」
「以下の点について、あらかじめご了承ください。
・ライブ中継を通じての議決権行使及び質疑はできません。」

日本郵政「第17回定時株主総会招集ご通知」6ページ

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会とは|事例も含め解説

ハイブリッド出席型バーチャル株主総会は、実際の会場での参加(リアル参加)とオンライン参加の両方を認めた上で、オンライン参加の株主にも議決権等の行使を認める(=会社法上の「出席」を認める)開催形態です。

実際の会場とオンラインでほぼ同等に株主権を行使できるのが大きな特徴となっています。

ハイブリッド出席型株主総会を実施している企業(事例)として、例えば、「ソフトバンクグループ(2022年)」などがあります。

「オンラインでの出席や議決権行使、質問などができる株主専用ウェブサイトを活用し、希望する株主は会場で参加するハイブリッド型で開催。」

ソフトバンクニュース「私に迷いはない。情報革命は進化し続ける - ソフトバンクグループ株式会社 第42回定時株主総会レポート」

バーチャルオンリー株主総会(場所の定めのない株主総会)とは|事例も含め解説

バーチャルオンリー株主総会は、実際の会場を設けず、オンラインでのみ参加できる株主総会です。従来は認められていませんでしたが、2021年6月16日に施行された改正産業競争力強化法により、以下の要件を満たした会社に限って認められました。

① 上場会社であること
② 経済産業省令・法務省令で定める要件に該当することについて、経済産業大臣と法務大臣の確認を受けること
③ 定款で、株主総会を場所の定めのない株主総会とすることができる旨を定めること
④ 株主総会の招集決定時に省令要件を充足すること

バーチャルオンリー株主総会を実施している企業(事例)として、例えば、「ユーグレナ(2021年)」などがあります。

「株式会社ユーグレナ(本社:東京都港区、代表取締役社長:出雲充)は、2021年8月26日に日本で初めて「場所の定めのない株主総会」(バーチャルオンリー株主総会※1、以下「バーチャルオンリー株主総会」)の方式による臨時株主総会を開催しました。」

ユーグレナ「ユーグレナ社が日本初のバーチャルオンリー株主総会を実施 99.5%が「評価する」と回答」

【バーチャル株主総会の種類・違いまとめ】

バーチャル株主総会のメリット

バーチャル株主総会には、企業側・株主側のそれぞれに以下のメリットがあります。

企業側のメリット

・参加方法の多様化により株主重視の姿勢をアピールできる
・株主総会運営に係る透明性が向上する
・感染症予防対策になる

株主側のメリット

・遠方の株主も参加しやすい
・同日の株主総会に複数参加できる

それぞれ詳しくみていきましょう。

企業側|参加方法の多様化により株主重視の姿勢をアピールできる

バーチャル株主総会を開催すると、実際の会場での参加しか認めない場合に比べて、株主にとっての利便性が向上します。

さまざまな状況にある株主に配慮し、参加方法を多様化させて多くの株主が参加しやすくすることにより、株主重視の姿勢をアピールできます。

企業側|株主総会運営に係る透明性が向上する

オンラインでの参加が可能となることで、株主総会に参加する株主が増えることが予想されます。

参加する株主が増えれば、経営陣に対する株主の監視もより実効的なものとなります。その結果、会社経営・株主総会運営の透明化が促され、コンプライアンスの強化につながる点もメリットの一つです。

企業側|感染症予防対策になる

コロナ禍の状況が長引く中、企業にとっても感染症対策が引き続き重要な課題となっています。

多くの株主が一堂に会する株主総会は、企業が特に感染症対策を意識しなければならないイベントです。バーチャル株主総会を開催して非対面での参加を認めることは、企業としての有効な感染症予防対策となります。

株主側|遠方の株主も参加しやすい

株主にとっては、バーチャル株主総会が開催されれば、開催地が遠方であってもオンラインで参加することができます。

特に、上場会社の場合は東京都に本店を置くケースが非常に多く、株主総会も東京都内で開催する上場会社が大半です。そのため、首都圏以外に住んでいる株主は参加が難しい面がありますが、バーチャル株主総会であれば、遠方からでも参加しやすいメリットがあります。

株主側|同日の株主総会に複数参加できる

上場会社の株主総会は、毎年6月後半に集中的に開催される傾向にあります。多数の上場会社の株主総会が同日に開催されるため、複数の上場会社の株式を保有する株主は、その全てに参加するのが難しいケースも多いです。

しかしバーチャル株主総会であれば、自宅に居ながら株主総会に参加できます。会場間を移動する必要がなく、複数の株主総会を同時視聴することもできるため、同日開催の株主総会にも複数参加がしやすくなります。

バーチャル株主総会の流れ

バーチャル株主総会を開催する際の流れは、以下のとおりです。

1|バーチャル株主総会の開催を決定し、配信システムを導入する
2|招集事項を決定する
3|招集通知などを発送する
4|バーチャル株主総会当日の準備をする
5|バーチャル株主総会を実施する
6|株主総会議事録の作成・保存をする

1|バーチャル株主総会の開催を決定し、配信システムを導入する

まずは経営陣と担当部署の間で、バーチャル株主総会の開催を内々に決定し、開催準備を進めます。

バーチャル株主総会を開催するに当たって特有の対応事項となるのが、オンライン参加者向けの配信システムの導入です。

バーチャル株主総会の開催を支援するシステムは、各社からリリースされています。回線速度や接続の安定性に加えて、株主視点での操作性の良しあしや、開催形態に応じた必要な機能を利用できるか否かなどに注目してシステムを選定しましょう。

2|招集事項を決定する

バーチャル株主総会の開催が近づいたら、取締役会が、以下の招集事項を決定します(会社法298条1項、4項)。

①株主総会の日時および場所
②株主総会の目的事項(議題)があるときは、当該事項
③株主総会に出席しない株主に書面による議決権行使を認めるときは、その旨
④株主総会に出席しない株主に電磁的方法による議決権行使を認めるときは、その旨
⑤その他、会社法施行規則63条各号に定める事項

さらにバーチャルオンリー株主総会の場合、以下の招集事項も決定しなければなりません。(産業競争力強化法省令3条)

⑥書面による事前の議決権行使を認めること(ただし、全株主に金融商品取引法に基づき委任状勧誘をしている場合を除く)
⑦通信の方法
⑦オンライン参加した株主による、事前の議決権行使の効力の取り扱い

3|招集通知などを発送する

招集事項の決定後、会社は株主に対して、バーチャル株主総会の招集通知を発送します。

招集通知の発送は、原則として書面で行う必要があります。ただし、株主の承諾を得た場合には、招集通知を電磁的方法(メールなど)により発送することが可能です(会社法299条3項)。

招集通知の発送期限は、

・公開会社では開催日の2週間前
・非公開会社では原則として開催日の1週間前

です(同条1項)。

ただし非公開会社であっても、株主総会に出席しない株主に対して、書面または電磁的方法による議決権行使を認める場合は、開催日の2週間前に招集通知を発しなければなりません。

また、書面または電磁的方法による議決権行使を可能とする場合、招集通知と併せて株主総会参考書類を添付することも必要です(会社法301条、302条)。

ムートン

株主総会参考書類の交付については、2022年9月1日に電子提供制度が施行されました。電子提供制度の詳細については、以下の記事を併せて参照ください。

4|バーチャル株主総会当日の準備をする

バーチャル株主総会の当日に向けては、以下のような準備を整えます。

・議事進行の確認
・株主からの質問に関する想定問答集の作成
・配信システムのチェック
・当日用問い合わせ窓口の設置
など

トラブルなくバーチャル株主総会を終えられるように、さまざまなリスクを想定して入念に準備を行いましょう。

5|バーチャル株主総会を実施する

バーチャル株主総会の当日は、経営陣から株主への報告を行った上で、招集通知記載の目的事項についての審議を行います。

もしトラブルが発生した場合には、議長の判断によって適切に議事をコントロールすることが求められます(会社法315条)。

配信システムへのログインや操作方法についても、株主から多数の質問が予想されます。

ムートン

問い合わせ窓口の電話回線や担当者を充実させて、株主質問を適切にさばけるような体制を整えることが重要です。

6|株主総会議事録の作成・保存をする

バーチャル株主総会の議事については、以下の事項を記載した議事録を作成する必要があります(会社法318条1項、会社法施行規則72条3項)。

①株主総会の開催日時・場所(役員・株主が会場以外で出席した場合には、その出席の方法)
②株主総会における議事経過の要領・結果
③一定の事項について、株主総会において述べられた意見・発言内容の概要
④株主総会に出席した取締役・執行役・会計参与・監査役・会計監査人の氏名または名称
⑤株主総会の議長が存するときは、議長の氏名
⑥議事録の作成に関する職務を行った取締役の氏名

作成した株主総会議事録は、その原本を本店に10年間備え置かなければなりません(会社法318条2項)。

バーチャル株主総会を開催する際の注意点・問題点

バーチャル株主総会を開催するに当たっては、以下の論点について問題が生じないように、会社として対応を検討する必要があります。

・本人確認
・株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係
・株主からの質問・動議の取り扱い
・議決権行使の在り方
・株主の肖像権への配慮
・通信障害・サイバー攻撃などに備えたセキュリティ対策

本人確認

ハイブリッド出席型などを採用し、オンラインでの議決権行使などを認める場合、株主本人による権利行使が行われるように、本人確認(なりすまし対策を含む)の措置を講ずる必要があります。

ID・パスワード等を用いたログイン方法を採用するのが一般的ですが、より慎重を期すためには、二段階認証やブロックチェーンの活用なども検討すべきでしょう。

株主総会の出席と事前の議決権行使の効力の関係

オンラインでの議決権行使を認める場合には、事前に書面または電磁的方法により議決権を行使した株主が、当日にオンライン参加して議決権を行使するケースも想定されます。

この場合の取り扱いは、招集事項を決定する段階で明確化しておかなければなりません。

実際の会場における株主総会の運用に倣えば、ログインが確認された時点で、事前の議決権行使の効力を破棄することになります。しかし、株主意思をできる限り尊重して無効票を減らす観点からは、ログイン時点ではなく、実際にオンラインで議決権行使がなされたタイミングで破棄する運用も考えられるでしょう。

株主からの質問・動議の取り扱い

バーチャル株主総会では、オンライン参加の株主から乱発的に質問・動議が提出されることも想定されます。

建設的な議事進行を確保するためには、株主からの質問・動議の取り扱いに関して、以下のような対応も検討すべきでしょう。

・質問回数や文字数を制限する
・事前に質問を受け付け、当日は関心の高い事柄に限って回答する
・システム上の挙手機能を利用する
・オンライン参加の株主についても、発言には議長の指名を必要とする
・オンライン参加の株主による動議提出は不可とする

議決権行使の在り方

オンライン参加の株主に議決権行使を認めるか否かについては、バーチャル株主総会の開催に当たって根幹的な要素です。

株主利益の観点からは、オンラインでの議決権行使を認めることが望ましいですが、会社にとって負担が大きいことは否めません。自社の状況に合わせて、適切な開催形態を検討・模索することが大切です。

株主の肖像権への配慮

株主の容貌が配信画面に映されることがある場合には、肖像権に配慮する必要があります。

具体的には、以下のような事項につき、招集通知によってアナウンスすることなどが考えられるでしょう。

・配信画面の録音・録画・公開等は禁止する旨
・映り込みの可能性がある旨
・株主が発言する際には、リアルタイムで配信される旨
など

通信障害・サイバー攻撃などに備えたセキュリティ対策

バーチャル株主総会では、開催中に通信障害が発生する可能性があります。決議取り消しなどのトラブルに発展しないように、以下の対応を講じておきましょう。

(例)
・株主に対する通信障害のリスク説明
・当日用サポートデスクの充実
・さまざまな事態を想定した対応シミュレーション
など

また、開催中に外部からサイバー攻撃を受けるような事態も想定して、セキュリティ対策を実施することも重要です。

(例)
・セキュリティ機能に注目した配信システムの選定
・ウイルス対策ソフトの導入
・当日にリカバリーを担当するエンジニアの待機
など

この記事のまとめ

バーチャル株主総会の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

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参考文献

経済産業省「ハイブリッド型バーチャル株主総会の実施ガイド」

経済産業省「産業競争力強化法に基づく場所の定めのない株主総会 制度説明資料」

経済産業省ウェブサイト「場所の定めのない株主総会(バーチャルオンリー株主総会)に関する制度」