労使協定の確認方法とは?
会社の周知義務・確認請求への対処法なども
分かりやすく解説!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
整備しておきたい 主要な社内規程まとめ
この記事のまとめ

会社は、労働組合(または労働者の過半数を代表する者)との間で締結した労使協定を、労働者に対して周知させる義務を負います。

労使協定の周知方法は、3つのいずれかから選択する必要があります。在職中の労働者は、会社に対して労使協定の開示を求めることが可能です。

会社は、在職中の労働者から労使協定の開示を求められた場合、速やかに開示しなければなりません。労使協定の開示(周知)を怠った場合には、労働基準法違反として行政指導や刑事罰の対象になり得るので要注意です。

一方、退職済みの労働者から労使協定の開示を求められた場合には、会社に応じる義務はありません。

ただし、会社が労使協定の開示を拒否したとしても、労働者には、労働者側の締結者に対して閲覧を求める方法や、労働基準監督署に対して開示を請求する方法が残されています。

この記事では、労使協定の確認方法(周知方法)や、労働者から労使協定の開示を求められた場合の対処法などを解説します。

ヒー

確か、あの労使協定の更新時期がもうすぐですが…えっと、内容はどこで見られるんでしたっけ?

ムートン

会社は労働者に労使協定を周知させる義務がありますので、イントラネットなどで見られますよ。もし開示されていない場合は、以下の方法で速やかに周知を行うよう会社に促しましょう。

※この記事は、2023年5月18日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

労使協定に関する主な義務

会社は労使協定を締結した場合、労働基準法に従って、主に以下の義務を負います。

① 労働者へ周知する義務
② 労基署へ届け出る義務(法が要請する場合)

労働者へ周知する義務

会社が締結した労使協定は、それが適用される事業場の労働者に対して周知しなければなりません(労働基準法106条1項)。

周知の方法は、以下の3つのいずれかとする必要があります(労働基準法施行規則52条の2)。

労使協定を周知する方法

① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付ける
② 書面を労働者に交付する
③ 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずる物に記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置する

労基署へ届け出る義務(法が要請する場合)

以下の労使協定については、労働基準監督署への届け出が義務付けられています。

届け出が義務付けられている労使協定

・使用者が委託を受けて労働者の貯蓄金を管理する旨を定めた労使協定(労働基準法18条2項)
・1年単位(1カ月を超え1年以内)の変形労働時間制について定めた労使協定(就業規則に定めた場合は届け出不要。同法32条の4第1項)
・常時使用する労働者が30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店の事業において、労働者を1日10時間まで労働させることができる旨を定めた労使協定(同法32条の5第1項)
・時間外労働・休日労働について定めた労使協定(同法36条1項)
・事業場外みなし労働時間制について、所定労働時間以外のみなし労働時間を定めた労使協定(みなし労働時間が法定労働時間以内の場合は届け出不要。同法38条の2第2項)
・専門業務型裁量労働制について定めた労使協定(同法38条の3第1項)
など

上記のうち、時間外労働・休日労働について定めた36協定については、労働基準監督署へ届け出なければ効力を生じません

労使協定を労働者に周知しなければならないタイミング

労使協定は、締結後速やかに労働者に対して周知する必要があります。遅くとも労使協定が発効するまでには、前述の3つの方法のいずれかにより、労働者に対して労使協定の周知を行いましょう

労使協定は全ての労働者への周知が必須

労使協定は、雇用形態などを問わず、適用される事業場に所属する全ての労働者に対して周知する必要があります。

正社員だけでなく、契約社員パート、さらにアルバイトに対しても、労使協定を周知する必要がある点にご注意ください。

周知義務を果たしたと認められない例

労使協定は、労働基準法施行規則52条の2で定められた3つの方法のいずれかによって周知しなければ、労働基準法上の周知義務を果たしたことになりません。

例えば、以下のような形をとっただけでは、労使協定の周知義務を果たしていないと判断されてしまいます。

× 労働者に対して、口頭で労使協定の内容を伝えたが、それ以外の方法による周知は行わなかった。
× 労使協定の内容について労働者から質問された際に、「労働組合に聞けば分かるだろう」などと言って適切に回答しなかった。
× 社内の共有ドライブ上に労使協定のファイルを保存し、労働者がアクセスできる状態にしたが、作業場には共有ドライブを確認できる機器を設置しなかった。

労使協定の確認方法

労働者が労使協定を確認する方法は、労働基準法施行規則52条の2で定められた3つの周知方法を踏まえると、以下の3パターンがあります。会社が労使協定の周知義務を適切に果たしていれば、以下のいずれか(または複数)の方法によって労使協定の内容を確認できるでしょう。

① 作業場に掲示され、または備え付けられている
② 労働者に書面が交付されている
③ 作業場の機器(PC端末等)を通じて確認できる

パターン①|作業場に掲示され、または備え付けられている

会社のオフィスや工場などには、労働者に適用される労使協定が印刷掲示され、または紙ファイルなどとして備え付けられていることがあります。

掲示場所が分からない場合や、紙ファイルの閲覧を求めたい場合には、人事担当者などに相談してみましょう。

パターン②|労働者に書面が交付されている

労使協定の締結・更新時または雇入れ時などに、会社から労働者に対して、その内容を周知する書面が交付されることもあります。

会社から書面が交付されたかどうか覚えていない場合や、書面を紛失してしまった場合などには、人事担当者などに書面の有無を確認した上で、存在するようであれば再交付を求めましょう。

パターン③|作業場の機器を通じて確認できる

最近では、会社のイントラネットや共有ドライブなど、オンライン上に労使協定のファイルを掲載する会社が多数となっています。

この場合、会社は労働者が労使協定のファイルを常時確認できる機器を、各作業場に設置しなければなりません。例えば、労働者が業務用に使用できるPC端末などが上記の機器に該当します。

自分専用のPC端末などを使用できない労働者は、労使協定のファイルを確認できる端末がどこに設置されているかについて、人事担当者などに確認しましょう。

会社が労働者から労使協定の確認を求められた場合の対処法

労働者から労使協定の確認(閲覧)を求められた場合、会社としてとるべき対応は、労働者が在職中か否かによって異なります。
在職中であれば労使協定を閲覧させる必要がありますが、退職済みであれば閲覧させる必要はありません。

在職中の場合|閲覧させる必要がある

在職中の労働者に対して、会社は労使協定を周知する義務を負います。

したがって会社は、在職中の労働者が希望する場合には、いつでも労使協定を閲覧できる状態を確保しなければなりません。また、労使協定の確認方法が分からない在職中の労働者に対しては、その方法を分かりやすく示す必要があります。

ムートン

在職中の労働者に対して労使協定の閲覧を拒否すると、労働基準法違反に該当するのでご注意ください。

退職済みの場合|閲覧させる必要はない

すでに退職している元労働者に対しては、在職中の労働者と異なり、会社は労使協定を周知する義務を負いません。したがって、退職済みの労働者が労使協定の閲覧を求めてきても、会社は応じる必要はありません

ただし、次に解説するように、会社が閲覧を拒否した場合でも、労働者が労使協定の内容を確認する方法は残されています。

会社に拒否された場合に、労働者が労使協定を確認する方法

会社に労使協定の閲覧を拒否されたとしても、労働者は以下のいずれかの方法により、労使協定の内容を確認できる場合があります。退職済みの元労働者も、同様の方法により労使協定を確認できる可能性があります。

労働者側の締結者に対して閲覧を求める
都道府県労働局に開示を請求する

労働者側の締結者に対して閲覧を求める

労使協定は、使用者が労働者側と締結するものです。そのため、会社とともに労働者側の締結者も、労使協定の原本(または写し)を保有しています

労働者側として労使協定を締結するのは、以下の主体です。

① 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がある場合
→その労働組合(過半数労働組合)

② 事業場の労働者の過半数で組織する労働組合がない場合
→労働者の過半数を代表する者(過半数代表者)

労働組合があれば労働組合に、なければ労働者の過半数代表者が誰であったかを確認して、労使協定の開示を求めましょう。

都道府県労働局に開示を請求する

労働基準監督署に届け出が行われた労使協定については、「行政機関の保有する情報の公開に関する法律」に基づき、都道府県労働局長に開示請求できます(同法3条)。

労使協定は、労働基準監督署の職員が職務上取得した文書(=行政文書)に当たるためです(同法2条2項)。

ただし、全く無関係の者による労使協定の開示請求は、会社の正当な利益を害するおそれがあるものとして却下される可能性が高いでしょう(同法5条2号イ)。また、退職済みの労働者に対する労使協定の開示は、当該退職労働者と会社の間の権利義務関係に関する規定に限って認められるケースが多いです。

都道府県労働局に対する労使協定の開示請求書には、以下の事項を記載する必要があります。

① 開示請求をする者の氏名(名称)・住所(居所)
② 代表者の氏名(法人その他の団体に限る)
③ 行政文書の名称、その他の開示請求に係る行政文書を特定するに足りる事項

開示請求書の記載例については、厚生労働省の資料をご参照ください。

参考:厚生労働省「行政文書開示請求書」

会社が労使協定の周知義務に違反した場合のペナルティ

在職中の労働者による労使協定の閲覧請求を拒否するなど、会社が労働者に対して労使協定を適切に周知しなかった場合には、労働基準監督官による行政指導刑事罰の対象となります。

労働基準監督官による行政指導

会社が労使協定の周知義務を怠ったことは、労働者による申告(労働基準法104条1項)などをきっかけとして、労働基準監督署に発覚する可能性があります。

労働基準監督署が労働基準法違反の疑いを持った場合、会社の事業場に労働基準監督官が派遣され、臨検(=立ち入り調査)を行います。臨検において、労働基準監督官は会社に帳簿・書類の提出を求め、さらに役員・従業員に対する尋問を実施します。

臨検の結果、労使協定の周知義務違反などの労働基準法違反が判明した場合、労働基準監督官は会社に対して「是正勧告」を行います。
会社は是正勧告に従い、労使協定を労働者に対して適切に周知するとともに、不適切な取り扱いの再発を防ぐ対策を講じなければなりません。さらに、是正の取り組み内容を報告書にまとめた上で、労働基準監督署に提出する必要があります。

労働基準監督官の是正勧告を受けたにもかかわらず、労働基準法違反の状態を是正しないと、刑事処分の対象となる可能性があるのでご注意ください。

刑事罰

労働者に対する労使協定の周知義務を怠った場合、行為者には30万円以下の罰金が科されます(労働基準法120条1号)。
さらに、会社にも両罰規定によって30万円以下の罰金が科されます(同法121条1項)。

労使協定の周知義務違反だけを理由に、直ちに刑事処分が行われる可能性は低いです。一般的には、まず労働基準監督官による臨検が行われ、違反に対する是正勧告がなされた後、従わない場合に限って刑事処分が行われます。

ただし、残業代の未払いや違法な長時間労働などを含めて、多数の労働基準法違反が発見された場合には、悪質な行為として直ちに刑事処分へ発展する可能性が否定できません。
刑事処分を受ければ、会社の評判が大きく傷ついてしまいます。

会社としては、労使協定の周知義務を含む労働基準法のルールを正しく理解し、各ルールの遵守を徹底すべきです。そのためには、定期的な社内研修による知識のインプット・啓発や、違反の事実を早期に把握するための内部通報制度などが効果を発揮します。

自社の状況に合った適切なコンプライアンス強化策を検討して、労働基準法違反を理由とする行政指導や刑事処分を回避しましょう。

ムートン

最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!

おすすめ資料を無料でダウンロードできます
整備しておきたい 主要な社内規程まとめ