副業禁止は認められる? 違法?
裁判例やモデル就業規則を踏まえて
分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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企業が定めている就業規則では、労働者の副業(自社以外で仕事をして収入を得ること)を禁止している例が散見されます。
しかし、勤務時間外の活動は原則として自由であるため、副業を一律に禁止する規定は無効と判断されるおそれがあります。特に最近では、副業禁止が批判される傾向が強まっている点に注意が必要です。企業が労働者の副業を禁止できるのは、会社の業務に支障が出る場合、会社の信用が害される場合、同業他社で働く場合、営業秘密の流出が懸念される場合などです。
労働者から副業の内容を細かく聞き取ったうえで、総合的な観点から副業を許可するかどうかを判断しましょう。その際は近年の潮流にも照らして、過度に副業を制限すべきではないことに留意すべきです。この記事では、就業規則で副業を禁止することの問題点につき、裁判例やモデル就業規則を踏まえつつ解説します。
※この記事は、2025年3月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
就業規則で副業を禁止できる?
企業が定めている就業規則では、労働者の副業(自社以外で仕事をして収入を得ること)を禁止している例が散見されます。
しかし、勤務時間外の活動は原則として自由であるため、副業を一律に禁止する規定は無効と判断されるおそれがあります。特に最近では、副業禁止が批判される傾向が強まっている点に注意が必要です。
勤務時間外の活動は原則自由|副業を一律禁止することは難しい
使用者が労働者に対して指揮命令権を行使できるのは、労働契約に基づく勤務時間中のみです。勤務時間外の労働者の活動は原則として自由であり、使用者がコントロールすることはできません。
副業についても、勤務時間外で行う場合は、原則として労働者の判断に委ねられるべきです。したがって、就業規則によって副業を一律禁止することは難しく、そのような規定は無効と判断されるリスクが高いと考えられます。
最近では、副業禁止が批判される傾向が強まっている
伝統的には、多くの会社の就業規則において、副業が一律禁止とされていました。
しかし最近では、労働者の賃金が上がりにくいことや、多様な働き方を推奨する潮流などが影響して、使用者が一方的に副業を禁止することは批判される傾向が強まっています。
厚生労働省は、2018年1月に「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しました(その後、2020年9月と2022年7月に改定されました)。同ガイドラインは、副業・兼業を希望する労働者が、適切な職業選択を通じて多様なキャリア形成を図ることの促進を目的としています。
各企業においては、厚生労働省のガイドラインを参考にしつつ、労働者の副業を過度に制限しない寛容な態度をとることが求められています。
労働者の副業を禁止できるケース
勤務時間外で行う副業を一律に禁止することは困難ですが、以下のようなケースにおいては、労働者の副業を禁止することができると考えられます。
- 会社の業務に支障が出る場合
- 会社の信用が害される場合
- 同業他社で働く場合
- 営業秘密の流出が懸念される場合
会社の業務に支障が出る場合
勤務時間外に行う副業であっても、そのせいで会社の業務に大きな支障が生じる場合は、就業規則上の専念義務違反などに当たる可能性があります。
この場合は労働者に対して、会社の業務に支障が出ない範囲に抑えて副業をするよう求めることができます。
例えば、副業に従事している時間があまりにも長く、心身ともに疲れ果てた状態で会社に出勤してきているような状態であれば、副業の時間の短縮などを求めましょう。
会社の信用が害される場合
労働者が従事している副業の内容が、会社の信用の毀損に繋がるようなものであれば、その副業を禁止することができると考えられます。
典型的には、反社会的な内容の副業を行っている場合や、性風俗店で働いている場合などが挙げられます。これらの副業をしている従業員がいると分かれば、会社の信用が害されるおそれがあるため、勤務時間外であっても副業を制限できる可能性が高いです。
同業他社で働く場合
労働者は、労働契約に基づく信義則上の付随義務として、使用者の利益を不当に侵害しない義務を負います。その一環として、使用者と同種の営業を行わない「競業避止義務」を負うと解されています。
労働者が副業として、本業の会社の同業他社に雇用される場合や、同業他社から業務委託を受けることは競業避止義務違反に当たります。したがって、同業他社における副業については、勤務時間外に行うものであっても制限することが可能です。
また、労働者が個人事業主として、本業の会社と同種の営業を行うことも競業避止義務に当たります。例えば、会社の営業先リストを労働者個人の副業に流用していることが疑われる場合などには、速やかにその副業や営業先リストの流用をやめるよう求めましょう。
営業秘密の流出が懸念される場合
競業避止義務違反が問題となる場合のほかにも、副業との関係で営業秘密の流出が懸念される場合は、その副業を制限できる可能性が高いと考えられます。
例えば、同業他社ではなくても、自社の競合商品の製造に少なからず関わっている企業で副業をされると、その企業を通じて同業他社に営業秘密が流出してしまうリスクがあります。このような場合には、副業を制限することを検討すべきでしょう。
ただし、営業秘密の流出リスクを拡大解釈し過ぎて、労働者の副業を過度に制限することは避けなければなりません。
就業規則による副業禁止が問題となった裁判例
タクシー運転手が船積みのアルバイトをしていた事例
広島地裁昭和59年12月18日決定では、タクシー運転手が輸出車を船積みするアルバイトをしていた事案が問題となりました。
タクシー運転手は、タクシー会社に隔日で勤務する一方、非番の日は船積みのアルバイトを月に7,8回程度行っていました。タクシー会社は、就業規則上の兼業禁止条項を根拠として、タクシー運転手を懲戒解雇しました。
広島地裁は、兼業禁止条項そのものは有効であるとしつつ、以下の事情などを指摘して懲戒解雇を無効と判断しました。
- タクシー運転手としての労務の提供に支障が生じたことを窺わせる資料はないこと
- タクシー会社の従業員の間では、アルバイトが半ば公然と行われていたこと
- アルバイトに関する具体的な指導や注意がなされていなかったこと
私立大学の教授が語学学校を兼職していた事例
東京地裁平成20年12月5日判決では、私立大学の教授が語学学校講師や通訳の副業をしていた事案が問題になりました。
同大学においては兼職が許可制とされていましたが、教授は語学学校講師や通訳などの兼職について大学側の許可を得ていませんでした。
また、同時通訳の業務に従事するため講義を不在にすることから、多数回にわたって講義に代わるVTRの上映を学生に依頼し、また代講を非常勤講師に依頼しました。
これらの事情を理由に、大学側は教授を懲戒解雇しました。
東京地裁は、兼職(副業)が使用者の権限の及ばない私生活上の行為であると指摘し、兼職を許可制とする就業規則の規定を限定的に解釈しました。
具体的には、職場秩序に影響せず、かつ労務提供に格別の支障を生じさせない場合は違反に当たらないとした点が注目されます。
本件については、兼職が主に夜間や休日に行われていたことや、本業への支障が認められなかったことなどを理由に、懲戒解雇は無効であると判断されました。
建設会社の従業員がキャバレーを兼職していた事例
東京地裁昭和57年11月19日決定では、建設会社の従業員がキャバレーでも働いていた事案が問題となりました。
建設会社の就業規則では、別の会社に雇用される場合は会社の承認(許可)を得るものとされていました。しかし、従業員はキャバレーで働くことについて会社の承認を得ておらず、その勤務時間も毎日6時間と非常に長いものでした。
これらの事情に鑑み、建設会社は従業員を懲戒解雇しました。
東京地裁は、就業時間外の活動は本来労働者の自由であることを指摘し、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除いて合理性を欠くとしました。
その一方で、労務提供上の支障や企業秩序への影響などを考慮したうえで、兼業を承認制(許可制)とする就業規則の定めは不当とはいいがたく、合理性があると判示しました。
本件について東京地裁は、毎日6時間もキャバレーで無断就労することは、余暇を利用したアルバイトの域を超えており、会社に対する労務の誠実な提供に支障を来す可能性が高いことを指摘し、懲戒解雇を有効としました。
モデル就業規則における副業に関する規定例
厚生労働省が公表している「モデル就業規則」では、副業・兼業に関して以下の規定が置かれています。
(副業・兼業)
第70条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 会社は、労働者からの前項の業務に従事する旨の届出に基づき、当該労働者が当該業務に従事することにより次の各号のいずれかに該当する場合には、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合引用元|厚生労働省「モデル就業規則」
1項で副業・兼業を原則認めることとしつつ、2項で副業・兼業を禁止または制限する場合が定められています。
2項の内容は、過去の裁判例を踏まえたうえで定められたものです。
各号に該当するかどうかは各企業の判断となりますが、必要以上に労働者の副業・兼業を制限することのないよう、適切な運用を心がけることが肝要であると指摘されています。
労働者から副業の許可を求められた企業の対応ポイント
副業の許可制を定めている企業において、労働者から副業の許可を求められた場合は、以下のポイントに留意しつつ対応しましょう。
- 副業の内容を細かく聞き取る
- 会社の業務や信用への影響を考慮する
- 副業は原則OK|厳しい制限をかけすぎないように
副業の内容を細かく聞き取る
副業を認めるかどうかを適切に判断するため、労働者から副業の内容を細かく聞き取りましょう。
具体的には、以下の事項などを聞き取ることが考えられます。副業の許可申請書の様式やフォームを定める場合は、これらの事項を記載または入力できるようにしておきましょう。
- 副業の内容についての聞き取りポイント
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・副業先の事業内容
・労働者が実際に従事する業務の内容
・副業先における勤務時間(作業時間)
など
会社の業務や信用への影響を考慮する
副業を認めるかどうか判断する際には、会社の業務への支障や、会社の信用への悪影響が生じないかを検討する必要があります。
副業の時間が長すぎる場合や、副業の内容が反社会的または公序良俗に反する場合などには、その副業を許可すべきではありません。
副業は原則OK|厳しい制限をかけすぎないように
過去の裁判例では、勤務時間外の副業は原則として許されるべきという考え方が共通しています。また、近年では厚生労働省によって「副業・兼業の促進に関するガイドライン」が公表されるなど、副業を認める方向性が社会的に主流となっています。
副業を過度に制限することは、このような潮流に逆行するものであり、企業としての魅力を損なってしまいかねません。多様な働き方を尊重する社会においては、労働者の副業を原則として認める寛容な態度をとることが求められます。
就業規則で副業を一律禁止している企業や、ほとんど副業を許可していない企業は、厚生労働省のガイドラインなどを参考にして見直しを行うことをお勧めします。