署名とは?
法的効力・記名との違い・正しい署名の方法・
電子署名などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

署名」とは、契約書などの文書に氏名を自書することをいいます。作成者によって署名がなされた文書は、その成立の真正が推定されます。
これに対して「記名」は、氏名や名称などを印字することをいいます。署名とは異なり、記名には文書の成立の真正を推定される効力がないため、押印が併用されるケースが多いです。

契約書の署名は、署名欄に行うのが一般的です。氏または名いずれかのみの署名も有効と認められる余地がありますが、できる限り疑義をなくすために、フルネームで署名することが望ましいでしょう。

電子契約については、手書きの署名に代えて電子署名を行うことで、文書の成立の真正が推定されます。電子署名法の要件に従い、正しい方法によって電子署名を行いましょう。

この記事では、署名の法的効力・記名との違い・正しい署名の方法・電子署名などを分かりやすく解説します。

ヒー

この書類には署名、こっちの書類には記名押印、あっちの契約は電子署名、…署名と記名って何が違うのでしょうか? 混乱してきました。

ムートン

署名と記名は似ていますが、法的な効力は大きく違います。押印や電子署名との関係なども解説していきましょう。

※この記事は、2023年8月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 電子署名法…電子署名及び認証業務に関する法律

署名とは

署名」とは、契約書などの文書に氏名を自書することをいいます。

ムートン

自署サインという場合も同様の意味です。法律文書では主に「署名」を使います。

後述のとおり、作成者によって署名がなされた文書は、その成立の真正が推定されます。そのため、契約書などの重要な法律文書を作成する際には、作成者によって署名が行われるケースが多いです。

署名と記名の違い

署名と同じく、文書に作成者の氏名(名称)を記す行為として「記名」が挙げられます。

署名は作成者の自書であるのに対して、記名作成者の氏名(名称)を自書以外の方法で表示します。

記名の方法の例

✅ PCソフト(Microsoft Wordなど)とプリンターを用いて、氏名(名称)を記載・印字
✅ 氏名(名称)が記載されたゴム印を押す
✅ 他人が作成者の氏名(名称)を代筆する

これらは全て「記名」となります。

記名は印字であるため、自書である署名とは異なり、文書の成立の真正を推定させる効果が生じません。したがって、契約書などの重要な文書を作成する際には、記名ではなく署名を行うことが望ましいです。

なお、法人が作成者となる文書については、法人の名称を自書することはできません(法人は「人間」ではないため)。
そのため、法人の名称を記名した上で、実印を押印するのが一般的です(=記名押印)。また、法人の代表者の署名を併用する場合もあります。

(法人の記名押印の例)

署名すべき文書の例

署名を行うべき文書としては、以下の例が挙げられます。文書としての有効性を確実なものとしたい場合は、作成者が署名を行うことが望ましいです。

① 契約書・覚書・合意書
→2人以上の者が共同で作成する合意文書です。作成者全員が署名し、さらに押印するのが一般的です(=署名押印(捺印))。

② 同意書・承諾書
→特定の事項について、作成者が提出先に対して同意(承諾)を与える文書です。作成者が署名を行うケースが多いですが、押印が併用される場合もあります。

③ 発注書・発注請書
→業務や製品の製造を発注する旨を伝える文書(=発注書)、および発注書の内容で受注する旨を伝える文書(=発注請書)です。
個人事業主が紙(書面)で作成する場合には、作成者として署名するのが一般的です。押印が併用される場合もあります。

署名の法的効力

本人またはその代理人の署名が付された私文書は、真正に成立したもの(=偽造でない)と推定されます(民事訴訟法228条4項)。

契約書には、契約トラブルが発生した際のルールや手続きなどが規定されます。しかし、それらの規定を適用するためには、契約書が有効であることが大前提です。

訴訟において文書の有効性が争われた場合、その有効性を主張する側が、文書が真正に成立したことを証明しなければなりません(同条1項)。
例えば契約書であれば、契約締結前後のやり取りなどから成立の真正を証明することが考えられます。しかし、裁判所に対して多くの資料を提出しなければならず、立証は非常に大変です。

これに対して、契約書に当事者全員の署名が付されていれば、その契約書は真正に成立したものと推定されます。
すなわち、契約書の無効を主張する側が合理的な反証(白紙に署名したものを悪用された、など)をしない限り、訴訟においてその契約書は真正に成立したものとして取り扱われます。

契約書に当事者が署名しておけば、推定効によってその有効性が担保されるため、契約トラブルの複雑化の防止および早期解決につながります

署名とは別に、印鑑を押す必要はあるか?

署名と同じく、本人またはその代理人が自らの意思で行った押印にも、文書の成立の真正を推定させる効力が認められています(民事訴訟法228条4項)。
なお、本人またはその代理人の印章(印鑑)によって押印がなされた場合は、その人が自らの意思で押印したものと推定されます(最高裁昭和39年5月12日判決)。

すなわち、本人またはその代理人の印章(印鑑)によって押印がなされた文書は、以下の二段階の推定効(=二段の推定)により、その成立の真正が推定されます。

二段の推定

一段目の推定:
本人またはその代理人の印章(印鑑)による押印
→その人が自らの意思で押印したものと推定する

二段目の推定:
本人またはその代理人が自らの意思で押印した文書
→その成立の真正が推定される

したがって二段の推定により、
本人またはその代理人の印章(印鑑)による押印がなされた文書
→その成立の真正が推定される

文書の成立の真正に関する推定効を生じさせるためには、

✅ 本人またはその代理人の署名
✅ 本人またはその代理人の印章(印鑑)による押印

のいずれかがなされていれば足ります。

ヒー

それなら、契約書などに署名と押印の両方を行うことは必須ではないんですか?

ムートン

法律上はそうです。しかし実務上は、契約書などの重要な文書については署名と押印の両方を行うケースが多いです(=署名押印)。

署名押印を行うのは、文書の成立の真正に関する推定効を二重に生じさせることにより、契約書などの有効性をより確実なものとする意図があります。

例えば訴訟において、契約書に付された署名が偽造であるという主張がなされても、押印が本人の印章(印鑑)によるものであれば、文書の成立の真正に関する推定効は揺るぎません。このようなケースを想定すると、署名または押印のいずれかのみとするよりも、署名押印を行った方が安心です。

なお、法人が当事者となる契約書に付す署名は、法人の代表者が自らの氏名を記載します。法人の代表者は、その法人について包括的な代理権を有しているため、代表者の署名は法人の「代理人」の署名として有効です。

しかし実務上は、法人の代表者が多忙であることなどを理由に、法人名を記名した上で、代表者が署名を行わず押印のみとするケースもよくあります。
この場合も、会社の実印による押印がなされていれば、文書の成立の真正を推定させる効力は発生するので、大きな問題が生じるケースはほとんどありません。

契約書に署名をするときの方法・ルール

契約書に署名をする場合には、分かりやすく明瞭に記載することが大切です。

署名の方法について、法律上のルールは特にありませんが、合理的な実務慣行があればそれに従うのがよいでしょう。以下では、契約書に署名をする箇所と、署名に用いる氏名の表記について解説します。

署名をする箇所

契約書への署名は、調印頁(署名欄)に行うのが一般的です。

契約書の調印頁(署名欄)の記載例

契約書には、以下のような調印頁(署名欄)が設けられるケースが多いです。

調印頁(署名欄)の記載例

以上、本契約の成立を証するため、本書2通を作成し、甲乙が署名押印を行った上で、各自1通ずつを保管する。

●年●月●日

(甲)

東京都○○区……

______________(署名)  印

(乙)

東京都○○区……

______________(署名)  印

なお、署名を行わずに押印のみとする場合は、「署名押印」を「記名押印」に変更した上で、氏名(名称)の部分をあらかじめ印字します。

署名に用いる氏名の表記・フルネームにすべき?

署名に用いる氏名は、氏または名いずれかのみであっても、作成者と他人の混同を生じない場合は有効と解されています(大審院大正4年7月3日判決)。

ただし、疑義の余地をできる限りなくすために、フルネームで署名することが望ましいでしょう。

電子契約には電子署名を行う

電子契約を締結する場合は、「電子署名」が自書による署名の代わりとなります。適切な形で電子署名を付すことは、電子契約の有効性を確保する観点から非常に重要です。

電子署名とは|署名との違い

電子署名とは、電子文書が本人によって作成されたことを示す電子的な措置をいいます。

通常の署名は、文書の作成者が自書により行います。
これに対して電子署名は、電子契約サービスなどを通じて行うのが一般的です。電子契約の原本には通常の署名を行うことができないので、代わりに電子署名が広く用いられています。

有効な電子署名の要件

電子署名の要件は、電子署名法によって定められています。

電子署名法上の「電子署名」として認められるためには、「本人性」と「非改ざん性」の要件をいずれも満たさなければなりません。

① 本人性(電子署名法2条1項1号)
電子署名が付される電子情報(例:電子契約)が、電子署名を行った者によって作成されたことを示すものであること

② 非改ざん性(電子署名法2条1項2号)
電子署名が付される電子情報(例:電子契約)について、改変が行われていないかどうか確認できること

すでにリリースされている電子契約サービスは、原則として、この本人性と非改ざん性の要件を満たす電子署名の機能を提供しています。

電子署名の法的効力

電子署名法上の電子署名が付された電子情報(電子契約など)は、真正に成立したものと推定されます(電子署名法3条)。これは、紙の書面に行われた署名や押印と同様の推定効です。

電子契約の原本には、本人もしくはその代理人による署名または押印を行うことができません。そのため、電子契約を締結する際には、署名や押印の代用として電子署名が行われるのが一般的です。

ムートン

なお、電子契約の成立には、電子署名が必須というわけではありません。法律上は原則として、契約の締結方式は自由とされているため、電子署名のない電子契約も有効に成立し得ます。

しかし電子署名のない電子契約では、調印の場面がお互いに見えない分、その有効性に疑義が生じるリスクが高いといえます。訴訟において電子契約の有効性が争われた場合、前後のやり取りなどから電子契約の有効性を立証するのはかなり大変です。

この点、電子契約に電子署名を行っておけば、推定効によってその有効性を確保でき、契約トラブルの複雑化の防止や早期解決につながります
紙の契約書への署名や押印と同様に、電子契約に適切な方式による電子署名を付すことは、その有効性を確実なものとする観点から非常に重要です。

電子署名を行う方法

電子署名を行う方法は、「当事者型」と「立会人型」の2つに大別されます。

① 当事者型
電子文書の作成者が、自ら電子署名を行う方式です。事前に認証サービス事業者から電子証明書の交付を受ける必要があります。
マイナンバーカード(個人番号カード)を用いて行う電子署名は、当事者型の典型例です。

② 立会人型
電子文書の作成者以外の第三者が、作成者に代わって電子署名を行う方式です。作成者本人が電子証明書を取得していなくても、立会人となる事業者のシステムを通じて電子署名を行うことができるため、利便性に優れています。

電子署名に関して、クラウド型の電子契約サービスは、その多くが②立会人型の電子署名を採用しています。メール認証などによって契約当事者の意思を確認した上で、システムを通じて自動的に電子署名が付される方式が一般的です。

電子契約に電子署名を行う際には、電子契約サービスを利用すると、契約当事者のいずれにおいても、煩雑な事前準備を要することなく、スムーズに電子署名を付すことができます。

この記事のまとめ

契約書などの文書に作成者が署名をすると、その文書は真正に成立したことが推定されます。

特に契約書のように重要な法律文書については、その有効性を確実なものとするため、当事者が署名を行うことが非常に重要です。当事者自身が署名をしたことについて疑義が生じないように、基本的にはフルネームで署名をしましょう。

電子契約については、手書きの署名に代えて電子署名を利用できます。電子署名法上の要件を満たす電子署名には、手書きの署名と同様に、電子文書が真正に成立したことを推定させる効力が認められています。

文書の形式(紙・電子)に応じて手書きの署名と電子署名を活用し、安定した契約の締結および取引を行うよう努めましょう。

ムートン

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