退職願とは?
退職届や辞表との違い・受理・
保管の注意点について分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

退職願とは、労働者が会社に対して自らの退職の意思を正式に申し出るための書面であり、会社に退職を許可してもらうことを願うものを指します。

・退職願を提出された時点では法的な退職の効力はなく、あくまで会社の承認が必要です。
・会社は退職願を受理し、希望退職日や業務引き継ぎなどの対応を適切に行う必要があります。
・必要に応じて退職理由の確認や条件交渉を行うこともあります。

本記事では、退職願について、基本から詳しく解説します。

ヒー

従業員から退職願が提出されたとき、どのように対応すればよいでしょうか?

ムートン

退職願は従業員からの意思表示であり、会社としても適切に対応することが求められます。退職願の基本からチェックポイント、注意点について詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025年8月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

退職願とは

退職願とは、労働者が会社に対して自らの退職を「願い出る」ための書面です。

法的には「合意解約の申し入れ」に該当し、提出時点では退職が確定しているわけではありません。会社の承諾を得るまでは、労働者側で撤回条件交渉が可能です。

退職の意思が固まりつつも、会社との話し合いを経て円満に退職したい場合に使用される書類です。

退職願と退職届、辞表の違い

退職に関する書類には、退職願・退職届・辞表の3種類があります。それぞれの用途と効力は異なるため、内容を正しく理解し、労働者からの提出時に適切に対応する必要があります。

退職願:合意での退職を会社にお願いする書類で、承諾前であれば撤回が可能
退職届:退職を一方的に届け出る書類で、原則として撤回できない
辞表:役員や公務員が職を辞する際に提出する書類

一般社員の自己都合退職では、まず退職願を提出してもらい、合意形成後に必要に応じて退職届へ進むのが一般的です。提出時期は退職希望日の1〜3カ月前が目安ですが、就業規則に定められた期間を確認し、漏れのないよう対応します。          

労働者との認識のズレや手続き上のトラブルを防ぐためにも、書類の使い分けと管理体制の明確化が重要です。

退職願の一般的な記載事項とチェックポイント

退職願を受け取る際は、形式や記載内容に誤りや抜け・漏れがないか確認することが重要です。退職願の一般的な記載事項とチェックポイントは、以下のとおりです。

  • 基本的な記載項目が揃っているか
  • 退職理由、退職日が記載されているか
  • 内容・文面が適切か
  • 形式面に不備がないか

以下では、退職願に記載すべき一般的な事項と、確認しておきたいチェックポイントについて解説します。

基本的な記載項目・形式面が揃っているか

退職願を受理する際は、記載内容に不備がないかを必ず確認する必要があります。基本的な記載項目としては、以下の7点が揃っているかをチェックします。

  • タイトル:「退職願」と明記されているか
  • 提出日:実際の提出日が記載されているか
  • 宛名:代表者名と役職が正式に書かれているか
  • 退職理由:「一身上の都合により」など簡潔な表現か
  • 退職希望日:具体的な日付が明記されているか
  • 所属部署・氏名:正式な表記か
  • 押印:本人による認印があるか(法的義務ではありませんが、多くの会社で慣例として求められています)

退職願は労働者の意思を確認する重要な書類です。形式面に不備がある場合、会社側は修正・再提出を依頼することが一般的ですが、法的には意思表示が明確であれば有効です。

ムートン

トラブル防止のためにも、適切な書式で提出をしてもらうようにしましょう。

退職理由、退職日が記載されているか

退職願を受理する際は、退職理由と退職日が適切に記載されているかどうかも確認します。

退職日は、就業規則や労働契約に沿った日付で、会社側と従業員の間で合意されていることが重要です。

また、退職願は記録に残るため、「待遇が不満」「上司との関係が悪い」などの感情的・批判的な表現は、不要なトラブルや誤解を招く可能性があります。本人が伝えたい事情がある場合には、書面ではなく口頭でのヒアリングを別途行うことが適切です。

内容・文面が適切か

退職願の内容が適切かどうかを確認することも、退職願の受理において重要なポイントです。

一般的には「私儀」または「私事」から始まります。縦書きでは「私儀」は行末、横書きでは右端に配置します。続いて「一身上の都合により、○○○○年○月○日をもって退職いたしたく、ここにお願い申し上げます」などの丁寧な文言で表記されます。

退職願の一般的な形式

適切に退職願を受理するには、あらかじめ手段について規定しておくことが重要です。退職願を提出する一般的な方式は、以下のとおりです。

  • 書面による形式
  • 紙以外の形式(メール・口頭など)

書面による形式

退職願の提出形式として一般的なものは書面による方法です。手書き・印刷のどちらも有効であり、認印が押されることが一般的ですが、法的な義務ではありません。

形式に不備がある場合は、受理前に修正を促す必要があります。

紙以外の形式(メール・口頭など)

退職願・退職届はメールでの提出も法的に有効です。ただし、多くの会社では書面での手渡しを基本としています。リモート勤務や遠隔地勤務の場合にメール提出を認めるかどうかあらかじめ決めておきます。          

メール提出を認める場合は、PDF形式・パスワード付きファイルでの提出を推奨し、本文に退職の意思が明記されているかを確認することが重要です。

口頭での意思表示も有効ですが、意思表示を記録として残すため、書面での提出を原則とすべきです。

同様に、チャットやSNSでの連絡であっても退職は有効となりますが、トラブルを防ぐため、正式な意思表示としては書面の提出を求めることを、事前に社内ルールとして共有しておくべきといえます。

退職フローに関して就業規則で定めるべき事項

労働者の退職については、事前の申し出から手続き完了までのルールを設けることで、対応のばらつきを防ぎ、トラブルのリスクを最小限に抑えられます。退職フローに関して就業規則などで定めるべき具体的な事項は、以下のとおりです。

  • 退職の申し出に関する規定
  • 提出方法
  • フォーマットと記載事項
  • 業務の引き継ぎに関する規定
  • 貸与品の返還義務に関する規定

以下では、就業規則に記載すべき項目について解説します。

退職の申し出に関する規定

退職の申し出に関する規定では、退職希望日の何日前までに申告するかを明確にします。

民法627条は労働者の退職の自由を保障する強行規定のため、2週間を超える予告期間を就業規則で定めても、法的には2週間前に申し出ることにより退職が可能です。

一方で、実務上は円満退職のために30日前程度の期間を就業規則で定める例が多く見られます。

民法上は申し出から2週間が経過することで退職が可能です。そのため、退職を希望する労働者を引き留めることはできません。ただし、社内での引き継ぎや人員調整を考慮すると、一定の余裕を持たせた日数を就業規則に定めておくことが望ましいです。

提出方法

退職願の提出方法は、原則として書面による手渡しを基本とし、状況に応じて代替手段も認める形で就業規則に記載します。

口頭での申し出や、チャット・SNSでの意思表示があった場合にも、書面での提出を求める旨を記載しておくことが必要です。

フォーマットと記載事項

自社に退職時のフォーマットがある場合は記載を依頼します。一般的な退職願のフォーマットや記載内容の例は、以下のとおりです。

退職願

○○○○年〇月〇日

株式会社□□
代表取締役〇〇〇〇殿

□□事業部
契約太郎 印

私儀

このたび一身上の都合により、
××××年×月×日をもって退職いたしたく、
ここにお願い申し上げます。

以上

記載に不備があった場合の対応もあらかじめ決めておくと、手続きがスムーズに進みます。

業務の引き継ぎに関する規定

引き継ぎについての法律上の定めはありませんが、労働契約に基づく業務命令として、在職期間中は引き継ぎを行う義務があります。ただし、有給休暇の取得を拒んだり、退職後まで引き継ぎを強制することはできません。

引き継ぎ計画は管理職が退職者と共同で作成し、進捗を確認しながら柔軟に対応できる体制を整えておく必要があります。

貸与品の返還義務に関する規定

貸与品の返還義務に関する規定では、返還対象、期限、確認方法、未返還時の対応を明確に定めておきます

対象物は、入社時に貸与した全物品をリスト化し、返還期限は最終出勤日として人事部での回収が基本です。返却はチェックリストに基づいて確認し、完了後に返還証明書を発行します。

未返還物品がある場合、労働基準法24条の賃金全額支払いの原則により給与からの一方的な控除はできません。本人の同意がない限り、別途損害賠償請求を行う必要があります。

労働者から退職願を受け取った際の手続きと流れ

従業員から退職の申し出があった際は、感情的な対応ではなく、就業規則に基づいた冷静かつ適切な対応が重要です。労働者から退職願を受け取った際の具体的な手続きと流れは、以下のとおりです。

  1. 退職の意思の最終確認をする
  2. 労働者から退職願を受け取る
  3. 退職願を受理・記録する
  4. 有給休暇の消化に関する確認をする
  5. 退職日と引き継ぎスケジュールを調整する
  6. 最終出社日:貸与品の回収と各種案内を行う
  7. 社内関係者や取引際に今後の体制を通知する
  8. 社内手続きを進める
  9. 退職日以降:法定の各種事務手続きを行う

以下では、退職願を受け取った際の具体的な対応フローについて、順を追って解説します。

1|退職の意思の最終確認をする

退職願の受理前に、退職の意思が固まっているかを面談で確認します。

退職理由や背景を確認し、社内で解決できる問題がないかを見極める必要があります。転職や家庭の事情、健康上の理由など、やむを得ない場合は受理の対象です。本人が迷っている場合には、状況に応じて継続勤務の可能性についても話し合います。

2|労働者から退職願を受け取る

退職願を受け取る際は、書面の形式と記載内容を確認し、面談を通じて退職条件を整理します

書面は、日付、氏名、押印の有無、提出先などが適切に記載されているかの確認が重要です。面談では、退職日や有給休暇の消化、引き継ぎの進め方などを確認し、就業規則に沿った手続きかどうかを判断します。

対応にばらつきが出ないよう、確認項目や面談内容は、チェックリストなどを活用して、対応の統一を図ることが必要です。

3|退職願を受理・記録する

退職願を受理したら、受理日・受理者・退職予定日を記録し、労働者に書面またはメールで通知します。あわせて、退職手続きのスケジュールを伝えることも重要です。

面談内容や退職理由を含めた記録は、人事ファイルや退職者台帳に保管します。退職願の受理は法的効力を持つため、記録管理を徹底し、認識のズレを防ぐ対応が必要です。

4|有給休暇の消化に関する確認をする

退職時の有給休暇については、残日数や希望時期を確認し、引き継ぎとのバランスを考慮しながら対応します。引き継ぎ完了後の一括取得や分割取得、制度があれば買い取りの選択肢も検討します。

管理職は退職者とスケジュールを共有し、業務の継続性を確保する体制を整えることが重要です。

5|退職日と引き継ぎスケジュールを調整する

退職日と引き継ぎのスケジュールは、業務の重要度や後任者の確保状況、本人の希望を踏まえて現実的かつ実行可能な計画を立てます

引き継ぎ書の作成、後任者の研修や同行指導、有給休暇の消化期間などを具体的に整理し、業務の専門性や繁忙期への影響も考慮する必要があります。

急な退職や後任者未定などの例外にも柔軟に対応できるよう、職種別に標準的な引き継ぎ期間を定めておくとスムーズです。漏れなく引き継ぎできる体制を整えれば、業務の継続性を守り、社内外の信頼を維持できます。

6|最終出社日:貸与品の回収と各種案内を行う

最終出社日には、PCや社員証などの貸与品をチェックリストに沿って回収し、各種手続きの案内を行います。

離職票や保険・年金手続き、源泉徴収票(退職日から1カ月以内に交付する)、退職証明書(労働者から請求があった場合、遅滞なく交付する)の発行予定なども伝えます。

また、引き継ぎの完了確認や緊急連絡先の確認を行い、社内挨拶の機会も設けると円満な退職が可能です。

7|社内関係者や取引際に今後の体制を通知する

退職に伴う体制変更は、社内外に適切なタイミングで通知し、混乱や業務の停滞を防
ぐ必要があります

社内には、部署内連絡や関連部署への共有、社内ポータル等での通知を行います。取引先には、担当変更を伝え、後任者の連絡先や対応を明記した案内すればスムーズな対応が可能です。

8|社内手続きを進める

退職願を受け取った後は、関係部署と連携しながら社内手続きを速やかに進める必要があります。人事システムでは、退職予定者の登録やアクセス権限の段階的な削除、組織図の更新を行います。

あわせて、業務分担の見直しや後任者の配置、新規採用の要否についての検討も必要です。

9|退職日以降:法定の各種事務手続きを行う

退職後は、雇用保険や社会保険、税務関連の手続きを期限内に完了させ、必要書類の交付が必要です。               

雇用保険では、離職証明書を退職の翌々日から10日以内に提出することで、離職票が交付されます。社会保険では、健康保険と厚生年金の資格喪失届を5日以内に提出します。源泉徴収票の交付は、所得税法226条により退職日から1カ月以内に行わなければなりません。          

あわせて、退職証明書の発行、住民税や企業年金の手続きも行います。各手続きの対応が遅れると、退職者の生活に支障をきたす恐れがあるため、スケジュール管理が重要です。

人事部はチェックリストを活用し、確実で迅速な処理を徹底します。

退職願の受け取り・管理に関する注意点

退職願の受け取り・管理の対応を誤ると、トラブルにつながる恐れがあります。退職願の受け取り・管理に関する主な注意点は、以下のとおりです。

  • 退職願が本人の意思によるものか確認する
  • 必要事項が正しく記載されているか確認する
  • 受領した退職願は適切に保管する
  • 退職願の撤回の申し出を受けた場合の対応

以下では、退職願を受け取る際に注意すべきポイントを解説します。

退職願が本人の意思によるものか確認する

退職願を受け取る際は、本人の真意による提出であることの確認が必要です。    

外部からの強制や上司の圧力があった場合、退職願は無効と判断される可能性があり、トラブルにつながる恐れがあります。とくに、突然の提出や普段と様子が異なる場合や、特別な事情を抱えている労働者には慎重な対応が求められます。

面談では、退職意思が本人の自由な判断によるものかを丁寧に確認し、内容を記録として残すことが重要です。会社側の責任として、確認の場を設けた上で、意思確認の手順を明確にし、適正な対応が必要です。

必要事項が正しく記載されているか確認する

退職願を受理する際は、必要事項の記載に不備がないかを確認し、誤りがあれば再提出を依頼します

よくある記載ミスとして、日付の記載漏れや宛名間違いなどがあります。ミスがあると、後から書き直しを依頼する必要があり、手間がかかるため、丁寧な確認が必要です。

受理の際は、チェックリストなどを活用しながら、必要な情報がきちんと揃っているかを確認してください。

受領した退職願は適切に保管する

受領した退職願は、個人情報を含む重要な人事書類として、適切に保管・管理する必要があります

紙面での保管だけでなく、スキャンしてデジタル管理を行えば、紛失や劣化のリスクを抑えることが可能です。労働基準法109条では退職関係書類の5年間保管(経過措置により、当分の間は3年間)が定められています。

退職願の撤回の申出を受けた場合の対応

退職願の撤回申出があった場合、法的には受理前であれば撤回可能とされています

退職願の受理後は、合意解約が成立しているため、原則として撤回の余地はありませんが、会社の同意があれば撤回が認められます。ただし、既に後任の採用手続きが進んでいる場合など、事情によっては撤回に応じることが困難な場合もあるため注意が必要です。

対応においては、面談での事情確認、記録の作成、関係部署への共有を徹底します。業務への影響や社内の公平性も踏まえて判断することが重要です。

ムートン

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参考文献

厚生労働省「Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~」

日本年金機構「従業員が退職・死亡したとき(健康保険・厚生年金保険の資格喪失)の手続き」

e-Gov法令検索「所得税法(昭和四十年法律第三十三号)」

e-Gov法令検索「労働基準法」

e-Gov法令検索「民法」

監修者

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涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修