退職届とは?
退職願との違いや
受理の手続き・注意点まで解説!

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この記事のまとめ

退職届は、従業員が企業に対して退職する意思を正式に届け出る書面を指します。

・退職届の受理後は原則として撤回できません。
・受け取った退職届の記載内容を確認し、不備があれば速やかに修正・再提出を依頼する必要があります。
・退職届の受理後は社内共有し、円滑な引継ぎ・手続きの準備を進める必要があります。

本記事では、退職届について、基本から詳しく解説します。

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従業員から退職届が提出された場合、どのように対応すればよいのでしょうか?

ムートン

退職届は、労働者が一方的に退職の意思を通告する正式な書類で、受理すれば原則として撤回はできません。退職届の基本情報や受理後の対応、注意点について詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2025年7月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

退職届とは

退職届とは、従業員が「〇月〇日をもって退職する」と企業に対して一方的に通告する正式な書面です。

民法627条の規定により、期間の定めのない労働契約は退職届の提出から2週間経過すれば契約が終了するため、企業の承諾がなくても効力が生じます。

受理した時点で、企業側は速やかに退職手続きを進める義務が発生し、原則として従業員の一方的な撤回は認められません。

退職届と退職願の違い

退職願と退職届は性質が異なります。退職願は「退職したい」という意思を企業に伝える相談的な文書で、承諾前であれば撤回が可能です

一方、退職届は確定的な通告で、原則として撤回できません。提出時期も異なり、一般的には退職願は希望時期の1〜3カ月前、退職届は退職日が決まった後に提出することが多いです。人事担当者は段階的に対応し、円滑な退職の手続きを行います。

退職届と辞表の違い

退職届と辞表では、対象者と使用目的が異なります。

退職届は、正社員や契約社員、パート・アルバイトなど一般従業員が雇用契約の終了を届け出る書類です。一方、辞表は取締役や監査役などの役員(企業と雇用関係がない立場)、または公務員が役職や地位の辞任を申し出る際に使用します。実務では、一般社員が「辞表を出す」と表現することがありますが、その場合は退職届として取り扱うことが一般的です。

退職届の一般的な書式と運用ルール

企業は提出された退職届を適切に取り扱うために、基本的な書式や運用ルールをあらかじめ整備する必要があります。以下では、実務上押さえておきたい退職届の書式の基本と、受理・管理に関する留意点について解説します。

退職届の一般的な書式と記載内容

退職届には法定の様式はありませんが、一般的な様式があります。受理する際には基本的な記載項目の有無と内容を把握することが重要です。

表題には「退職届」と明記され、冒頭が「私儀」や「私事」などの慣例的な表現が用いられることが多いです。本文では、「一身上の都合により、令和◯年◯月◯日をもって退職いたします」のように退職理由と日付が記載されます。

次に、提出日・所属部署・氏名・押印が記載されます。

用紙の形式は白無地の便箋やA4サイズが一般的で、手書き・パソコンのいずれで書かれたものもみられます。なお、手書き・パソコンいずれの作成方法でも、受理の対象です。

企業が退職届の書式を指定するケース

企業が退職届の書式をあらかじめ用意しておくことは、スムーズな手続きや情報の確認に役立ちます。例えば、退職理由や引き継ぎ内容、有給休暇の取得状況、返却物の確認欄などを書式に含めれば、必要な項目の抜け漏れを防げます。

退職届の書式は、就業規則に明記したり、人事部で配布したり、イントラネットで共有したりと、労働者が使いやすい仕組みの整備が必要です。社内での処理を円滑に進めるため、標準的な書式やテンプレートを用意しておくとトラブルを予防できます。

退職届を受理する前に確認すべきポイント

退職届を受け取る場面では、単に書面を受理するだけでなく、内容や状況を慎重に確認します。退職届を受理する前のポイントは、以下のとおりです。

  • 退職の意思
  • 退職理由・経緯
  • 希望退職日
  • 有給休暇の取得希望の有無
  • 業務引き継ぎの計画
  • 貸与物や未払い金の有無

以下では、実務において押さえておきたいポイントについて詳しく説明します。

退職の意思

退職届を受理する前には、労働者の退職意思が固まっているかを確認します。

もしも感情的な判断や一時的な不満による申し出だった場合、受理後の混乱や無用な人材流出などにつながる恐れがあるためです。面談では、意思が固まっているか、転職先が決まっているかなどを確認します。

また、退職の意思が一時的な感情によるものではないかを確認するために、意思表示の直後に改めて本人と面談を行い、本人の意思を尊重した対応を行うこともあります。

退職理由・経緯

退職届を受理する前に、退職理由とあわせて、退職の意思に至った背景や状況も丁寧に確認します。退職理由の把握は、離職票の交付や退職金の支給、今後の人材定着策にも関わるため注意が必要です。届出に「一身上の都合」とあっても、業務上の手続きに支障がない範囲で、本人の同意を得てから事情を確認することも求められます。

退職理由を確認する中で、転職や家庭の事情などの自己都合だけでなく、労働条件の変更や希望退職など、企業側の体制等に起因する理由が判明することもあります。特に、パワハラや未払い残業などの問題が背景にある場合は、事態の改善に努めるとともに、紛争等の法的リスクにも備えることが必要です。

退職理由と経緯の聞き取りは、プライバシーに配慮しながら行い、必要に応じて労基署や社労士への相談も検討します。

希望退職日

退職届を受理した後は、希望退職日が業務に支障をきたさないかを確認する必要があります。就業規則に予告期間が定められている場合は、その期間を満たしているかを確認し、業務への影響を最小限に抑えるための調整が必要です。定めがない場合でも、企業として業務の引き継ぎや人員配置を配慮した対応が求められます。

また、退職日が業務に与える影響にも配慮が必要です。特に退職日が年度末や決算期、大型プロジェクトの直前など、重要な時期にかかる場合は、後任者の確保や引き継ぎ期間を踏まえた現実的なスケジュールとなるよう、従業員と協議・調整する必要があります。

民法上は、退職の申し出から2週間が経過すれば退職可能とされています。ただし、業務への影響や引き継ぎ体制の確保を考慮すると、就業規則に定められた予告期間に基づき、従業員と協議して円滑に退職できるよう努めることが重要です。有給休暇の消化希望がある場合は、最終出勤日と退職日の調整もあわせて行います。

有給休暇の取得希望の有無

有給休暇の取得は労働者の権利であり、企業が正当な理由なく一方的に拒否することはできません。そのため、退職時に有給休暇の取得を希望する場合は、原則として本人の意向を尊重する必要があります。

残日数を勤怠システムなどで把握し、有給が残っている場合は日数を伝えた上で消化の希望を確認し、退職日までのスケジュールを調整します。ただし、退職予定者が年5日の年次有給休暇の取得義務を満たしていない場合は、残日数の範囲で取得を促さなければいけません

なお、退職時の有給の買い取りは義務ではありませんが、社内方針に応じて検討することも可能です。

業務引き継ぎの計画

引き継ぎが不十分なまま退職すると、顧客対応の混乱や社内業務の停滞につながる恐れがあります。人事担当者は、退職者・後任者・上司を交えて計画を立て、担当業務や進行中の案件、業務に関する知識・ルール、社内外の関係者情報、使用するツールやマニュアル、ログイン情報などを整理し、文書と口頭での確認による確実な共有を促すことが必要です。

引き継ぎ期間の目安は業務内容や後任の習熟度によって異なりますが、1〜2週間程度を確保するケースが一般的です。退職者の負担に配慮しながら、後任体制の準備も含めてスケジュール設計する必要があります。

貸与物や未払い金の確認

PCや携帯電話、社員証、名刺、制服、社用車、各種書類など、返却対象を明確にし、退職者と一緒にチェックリストを用いて確認を進めます。また、未払いの給与、賞与、残業代、立替経費などの精算も、労働基準法に基づき正確な対応が必要です。

社宅費や貸付金、研修費用など控除対象の項目がある場合は、就業規則に沿って適切に処理します。加えて、健康保険証の回収や年金手帳の返還などの事務手続きも忘れず行います。

退職日までにすべての確認と手続きを完了できるよう、余裕を持ったスケジュールを組むことが重要です。

退職届を受け取った後に行うべき手続き

退職届を受け取った後は、社内外の手続きを滞りなく進めることが重要です。退職届を受け取った後に行うべき手続きは、以下のとおりです。

  • 退職日の確定・社内調整
  • 社会保険の資格喪失手続き
  • 雇用保険の資格喪失手続き
  • 所得税や住民税の精算
  • 必要書類の発行・送付

以下では、退職手続きにおいて、企業側が対応すべき主な業務について解説します。

退職日の確定・社内調整

退職届を受理した後は、退職日を正式に確定し、社内の関係部署と連携して必要な調整を進めます

最終出勤日を念頭に、給与計算や社会保険の手続き、引き継ぎや後任選定などの準備を行います。退職前に有給休暇を消化する場合は、就業規則や有給の残日数を確認し、最終出勤日と退職日を区別してスケジュールを整理します。

社内には、退職日・氏名・所属部署などの基本情報を共有し、業務の移管やアクセス権限の変更など、必要な調整を各部門と協力して進めることが重要です。

社会保険の資格喪失手続き

社会保険(健康保険・厚生年金)の資格喪失手続きは、退職日の翌日から5日以内に年金事務所へ届出を行う必要があります。手続きが遅れると、退職者の国民健康保険加入や年金手続きに支障をきたすため、速やかな対応が重要です。

提出書類は「資格喪失届」と、本人および扶養家族分の健康保険証です。被扶養者がいる場合は、家族ごとの確認と個別対応も必要です。

任意継続被保険者制度については、退職予定者に対して事前に案内し、希望があれば対応します。退職日が確定した段階で早めに準備を進め、健康保険証の返却漏れにも注意が必要です。企業としては、退職者の社会保障に空白が生じないよう、法定期限内での確実な手続きが重要です。

社会保険については、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。

雇用保険の資格喪失と離職票交付の手続き

退職後に必要な雇用保険関連の手続きには、資格喪失届の提出と離職票の交付があります。それぞれ内容が異なるため、正確に理解し、適切に対応することが重要です。

全退職者に必要な資格喪失手続き

雇用保険の被保険者資格喪失手続きは、すべての退職者に対して必要です。手続きは、退職日の翌々日から10日以内に行う必要があります

事業主は、雇用保険被保険者資格喪失届を管轄のハローワークに提出しなければいけません。手続きが遅れると、離職票の発行や失業給付の支給に影響が出る恐れがあります。

希望者に対して行う離職票交付手続き

離職票は、退職者が希望した場合に発行する書類で、失業給付の申請に必要です。事業主は離職証明書を作成し、資格喪失届とあわせて提出します。

離職票には、離職理由と退職前6カ月間の賃金支払状況を記載しなければなりません。

離職理由の誤認や記載ミスは、退職者の給付条件や時期に影響する恐れがあるため、不明点があればハローワークに確認し、慎重に手続きを進めます。

所得税や住民税の精算

退職に伴い、所得税および住民税の精算が必要です。

所得税については、最終給与での源泉徴収や年末調整の要否確認、源泉徴収票の作成・交付が必要となります。住民税は、退職後の徴収方法を普通徴収へ切り替えるか、一括徴収とするかを確認し、異動届出書の提出を行います。退職金がある場合は、退職所得控除を適用した上で、税額を正確に計算しなければいけません。

税務関連の各種手続きに当たっては、退職者に選択肢を丁寧に説明し、納得の上で進める必要があります。税務処理に不明点がある場合は、税理士など専門家と連携し、誤りのない対応が必要です。

必要書類の発行・送付

企業は、退職者が次の職場や各種手続きで必要とする書類の発行・送付を行います。

源泉徴収票は必須の書類であり、退職証明書は請求があった場合に交付します。また、離職票の交付については、59歳未満の従業員に関しては本人が希望しない限り、事業主に交付義務はありません。一方で、雇用保険法施行規則7条第3項により、59歳以上の従業員は、本人の希望にかかわらず離職票の交付が義務付けられています。

書類の内容に誤りがないよう確認を徹底し、送付はレターパックなど追跡可能な方法を選ぶことが必要です。

原則として、退職日から2週間以内の対応を目安にし、退職者の円滑な転職や申請を支援できる体制を整えます。

退職届を受け取る際の注意点

退職届を受け取る際は、法的な要件や就業規則を確認し、適切に処理する必要があります。退職届を受け取る際の主な注意点は、以下のとおりです。

  • 書面で退職届を受け取り・管理する
  • 退職日が民法や就業規則に沿っているか確認する
  • 企業側が一方的に退職を拒否してはいけない

以下では、退職届を受け取る場面で押さえておきたい具体的な確認事項について解説します。

書面で退職届を受け取り・管理する

退職届は、必ず書面で受け取り、適切に管理・保管することが重要です。

口頭のみの申し出では、後に「言った・言わない」の認識違いが生じる恐れがあるためです。退職届というかたちで文書として残すことで、退職意思の証拠を明確にできます。受領時には、提出日・氏名・退職理由・退職日の記載内容を確認し、記録として控えを取ります

原本は人事ファイルとして、アクセス制限のある場所への保管が必要です。保存期間は、労働基準法109条により原則5年とされていますが、経過措置として当面の間は3年間の保存でも問題ありません。内容に不備がある場合は、その場で修正または再提出を依頼し、正確な記録として残します。

退職日が民法や就業規則に沿っているか確認する

退職届を受け取る際は、記載された退職日が民法の規定と自社の就業規則の両方に適合しているかを必ず確認してください。

例えば、就業規則で「退職は1カ月前までに申し出ること」と定められている場合でも、従業員にはより短期間で退職できる権利があるため、実務上の調整が必要です。

つまり、就業規則の1カ月前の定めは、あくまで社内ルールであり、法的には2週間前の申し出で退職は成立します。

そのため、従業員が就業規則よりも短い期間で退職を申し出たとしても、企業側は原則として退職の申し出自体を拒否できません。ただし、引き継ぎへの影響を考慮し、企業としては就業規則に基づいたスケジュールでの退職を促すことが一般的です。
このように、就業規則と法的効力のズレがあるため、退職日を確定する際には双方の立場や状況を踏まえた柔軟な調整が必要です。

企業側が一方的に退職を拒否してはいけない

退職届が提出された場合、企業は一方的に退職を拒否できません。日本国憲法22条や民法627条により、労働者には退職の自由が保障されており、退職を認めない対応は労働基準法5条に違反する可能性があります

したがって、「人手不足だから辞められない」「後任が決まるまで認めない」などの対応は、労働者の退職の自由を不当に制限するものであり、法的に認められません。

まずは退職の意思を尊重し、退職日や引き継ぎの相談を通じて円滑な対応を行うことが重要です。機密情報の管理や競業避止義務の確認も、必要に応じて適切に行います。

「退職の自由」の原則とは

労働者には「退職の自由」が法的に保障されており、企業側は一方的に制限することはできません。日本国憲法22条では、職業選択の自由が定められており、民法627条第1項でも期間の定めのない雇用契約においては、労働者が退職の意思を示してから2週間で契約が終了することが認められています。

法的根拠に基づき、退職の申し出が適切に行われた場合、企業は原則として拒否できません。たとえ人手不足や繁忙期であっても、退職の意思を尊重した上で、業務の引き継ぎなど現実的な対応を検討することが重要です。

退職届に関するよくある質問

退職届に関する対応は、法的な観点や社内規程の運用を踏まえた慎重な判断が重要です。そこで、退職届に関するよくある質問をまとめました。

  • 退職の撤回を申し入れられた場合、どのように対応すべき?
  • 退職届をメールやチャットで提出された場合、効力はある?
  • 企業が退職届の受理を拒否した場合、どのようなリスクがありますか?

以下では、よくある疑問に対する回答を紹介します。

退職の撤回を申し入れられた場合、どのように対応すべき?

退職の撤回を申し入れられた場合は、書面の種類と企業の対応状況を踏まえ、慎重に判断する必要があります。

退職願は承諾前であれば撤回が可能ですが、退職届は受理後の撤回が認められないのが原則です

退職願の撤回の場合、撤回を受け入れるかどうかは、業務への影響や後任の手配状況も加味し、総合的に検討します。内容が曖昧な場合は、書面の意図や本人の意思を丁寧に確認し、冷静な話し合いを通じて適切な対応を図ることが重要です。

退職届をメールやチャットで提出された場合、効力はある?

退職届がメールやチャットで提出された場合でも、法的には有効となります。民法上、退職の意思表示は「相手方(企業)に到達した時点で効力を生ずる通知」とされており、書面・口頭を問わず、電子的な手段であっても企業に届けば有効です。

ただし、なりすましや改ざんのリスクがあるため、実務上は書面での再提出を依頼し、本人確認を行うことが望ましい対応です。

証拠性の確保やトラブル防止のためにも、記録の保存と対応フローの整備が求められます。

企業が退職届の受理を拒否した場合、どのようなリスクがありますか?

企業が正当な理由なく退職届の受理を拒否すると、重大な法的リスクが生じます。日本国憲法22条が保障する職業選択の自由や、民法627条・労働基準法5条に基づく退職の自由を侵害する行為となり、強制労働と見なされる恐れがあります。

違法と認められた結果、労働基準監督署からの是正勧告や助成金の停止、損害賠償請求、企業のイメージ悪化といった行政・民事・社会的リスクに発展することもあるため注意が必要です。

退職届は原則受理し、業務上の都合がある場合は退職日の調整などを協議する姿勢が必要です。トラブルを防ぐためにも、専門家と連携しながら適切に対応することが求められます。

ムートン

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参考文献

e-Gov検索「日本国憲法」

e-Gov検索「民法」

e-Gov検索「労働基準法」

監修者

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涌井好文 社会保険労務士(神奈川県会横浜北支部)
就業規則作成、社会保険手続き、給与計算、記事執筆及び監修