抑うつ状態の従業員が
休職する場合の対応方法とは?
復職までの流れを解説!
| 無料で資料をダウンロード ✅ 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 > ✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント > |
- この記事のまとめ
-
抑うつ状態とは、気分の落ち込みや意欲の低下、集中力の減退などが長期間続き、日常生活や業務に支障をきたす精神的な不調のことです。就業規則に休職規定があり、抑うつ状態が記載されている休職事由に当てはまれば休職が可能です。
・企業には従業員の生命や健康を守るために必要な配慮を行う安全配慮義務があります。
・適切な対応を行わなかった場合、安全配慮義務違反となる場合があります。
・従業員から休職の申し出があった場合は、医師の診断書や就業規則に基づき手続きを進めることが求められます。本記事では、抑うつ状態による休職について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025 年7月31日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
抑うつ状態とは
抑うつ状態とは、気分の落ち込みや意欲の低下、集中力の減退などが長期間続き、日常生活や業務に支障をきたす精神的な不調のことです。脳の機能低下が原因とされ、本人の意思や努力だけでは回復が難しいとされています。
抑うつ状態と診断された場合、就業規則に休職規定があり、記載されている休職事由に当てはまれば休職が可能です。
職場では、遅刻や欠勤が増える、業務ミスが目立つ、会議での発言が減るといった変化が見られることがあります。頭痛や不眠などの身体症状を伴うことも多く、早期の対応が重要です。
企業に課せられる安全配慮義務
企業は従業員がメンタル不調にならないよう日頃から適切な労務管理を行う「安全配慮義務」を負います。また、抑うつ状態による休職の申出など、従業員のメンタル不調が顕在化した場合には適切な支援を講じることも求められます。
従業員のメンタル不調に関する企業の法的責任について解説します。
安全配慮義務とは
安全配慮義務とは、企業が従業員の生命や身体等の安全と健康を守るために必要な配慮を行う法的な義務のことです。労働契約法5条により定められており、身体面の健康だけでなく、メンタルヘルスの管理も対象に含まれます。
例えば、長時間労働や強いストレスなど職場環境の不備が原因で従業員が心身の不調をきたした場合、企業側の責任が問われることがあります。
心身の健康を守るには、労働時間や業務量の調整、産業医やカウンセラーによる支援体制の整備などが必要です。また、従業員が安心して働ける職場環境をつくることが、企業にとっても安定した組織運営につながります。
従業員のメンタルヘルス不調による休職と安全配慮義務の関係
従業員がメンタルヘルス不調により休職を希望する場合、企業には安全配慮義務に基づいた適切な対応が求められます。特に業務や職場環境が不調の原因となっている場合、対応を怠ると法的責任を問われる可能性があります。
まずは、医師の診断結果をふまえて必要な休職期間を設け、定期的な連絡を通じて従業員をサポートすることが大切です。さらに復職時には業務量の調整や環境整備を行い、再発を防ぐ取り組みも欠かせません。
休職や復職の支援体制が整っていることで、従業員は安心して回復に専念でき、企業側も長期的な人材確保につながります。
従業員のメンタルヘルス不調に対し安全配慮を怠った場合のリスク
メンタルヘルス不調に対して企業の対応が不十分だった場合、安全配慮義務違反として損害賠償などの法的リスクが生じることがあります。過去には、過重労働やパワーハラスメントが原因で抑うつ状態となり、企業側の責任が認められた判例もあります。
さらに、従業員の不調の兆しを把握していながら対応しなかった場合には、社会的な批判や信頼の低下にもつながりかねません。企業には、早期発見・早期対応の体制整備とともに、継続的な職場改善が求められます。
従業員から抑うつ状態による休職の申し出があった場合
従業員から抑うつ状態による休職の申し出があった際の企業の適切な対応手順は以下のとおりです。
- 医師の診断書を確認する
- 就業規則に基づき休業手続きを進める
- 傷病手当金申請の手続きを行う
それぞれの手順について詳しく解説します。
医師の診断書を確認する
従業員から休職の申し出があった際は、まず医師の診断書を確認し、記載内容をもとに休職の必要性を判断します。
診断書には、病名や症状、想定される休職期間、業務上の配慮事項などが記載されています。企業側はこれらの情報をもとに、必要に応じて産業医の意見も取り入れつつ就業継続の可否を見極めます。
就業規則に基づき休業手続きを進める
診断書の内容を確認したら、就業規則に沿って正式な休職手続きを行います。
まず、休職期間の設定や手続き方法、給与や保険料の扱いなどを明確にし、書面で従業員に通知します。就業規則に定められた範囲で対応することで、後のトラブルを防ぎやすくなります。
例えば、休職辞令の発行、社会保険料の支払い方法の確認、復職時の条件整理などを丁寧に行うことが重要です。また、休職期間中も企業と従業員との連絡体制を維持し、必要に応じて面談を行うなど、安心して療養に専念できる環境づくりを心がけます。
傷病手当金申請の手続きを行う
抑うつ状態による休職期間中は無給となるケースが多いため、従業員の生活を支えるために健康保険の傷病手当金を申請することが一般的です。
企業としては、事業主記入欄への必要事項の記載や、従業員が申請する際に必要な書類の準備・記入サポートを行い、スムーズな申請を支援することが求められます。申請書では、医師の意見書や企業側の証明欄の記入が必要です。
また、申請期限や給付開始日、支給期間(最長1年6カ月)などの基本情報を従業員に分かりやすく伝えることも大切です。経済的な不安が軽減されることで、従業員は治療に専念でき、結果的に早期回復にもつながります。
抑うつ状態を理由とする休職の平均的な期間や給与の支払義務
抑うつ状態を理由とする休職について、平均的な休職期間や給与の支払い義務について解説します。
うつ病等での休職期間は平均6〜10カ月
厚生労働省が2017年に実施した調査によると、抑うつ状態やうつ病による休職期間は、平均で6〜10カ月程度でした。ただし、症状の程度や回復スピードには個人差があり、軽度であれば1〜3カ月、重度では1年以上かかるケースもあります。
従業員の復職までには治療や生活リズムの安定、職場環境への適応が必要で、段階的なリワークや時短勤務などの支援も重要です。リワークとは、うつ病や適応障害などで休職している労働者を対象に、医療機関等が実施するプログラムで、復職に向けた段階的な訓練や支援、うつ病が再発しないためのサポートを行います。
再発のリスクも高いため、企業は長期的な視点で対応する必要があります。例えば、代替要員の確保や業務の分担体制を整え、従業員が安心して治療に専念できるような職場づくりが求められます。
休職期間中は給与を支払う義務はない
労働契約は「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する(労働契約法第6条)」と定義されています。そのため、私傷病(業務以外で発生した病気やけが)による休職期間中で勤務実態がない場合は、企業に給与を支払う義務はありません。
ただし、就業規則や労使協定で独自に支給規定を設けている場合は、その規定が優先されます。給与を支給しない場合には、傷病手当金の制度を活用し、従業員の経済的な不安を軽減できるよう案内や申請支援を行うことが推奨されます。
抑うつ状態で休職中の従業員への企業の対応
抑うつ状態で休職中の従業員に対する企業の適切な対応方法は以下のとおりです。
- 休職中も定期的に連絡を取る
- リワークに関する情報を提供する
それぞれの具体的な対応方法について解説します
休職中も定期的に連絡を取る
抑うつ状態で休職中の従業員に対しては、適切な頻度で連絡を取り合うことが大切です。休職中の孤立感や復職への不安を和らげ、安心して療養に専念できるよう支援します。
例えば、月1回程度の電話やメールでの安否確認や、2~3カ月に1回の面談などを実施します。必要に応じて、産業医や保健師と連携しながら、職場の近況や手続きに関する情報も伝えることも大切です。
ただし、連絡の内容や頻度は、従業員の体調や希望に応じて調整し、プレッシャーにならないよう配慮することが大切です。例えば、休職開始時は月1回程度、復職の可能性が出てきたタイミングで2〜3週間に1回するなど、柔軟な調整を行います。
リワークに関する情報を提供する
復職の目処が立っている場合は、サポートの一環としてリワークプログラムの情報を従業員に提供します。リワークプログラムは、地域の医療機関や公的支援機関が実施するもののほか、企業が独自に用意する場合もあります。
リワークプログラムの内容は、就労時間の調整や業務訓練、面談支援などです。企業が積極的に情報を共有し、必要に応じて紹介・連携することで、従業員のスムーズな職場復帰につながります。
抑うつ状態による休職からの復職判断と職場復帰の手順
抑うつ状態による休職からの復職判断と、職場復帰を円滑に進めるための具体的な手順は以下のとおりです。
- 復職の可否を判断する
- 職場復帰支援プランを作る
- 最終的な職場復帰の決定
- 従業員の職場復帰
- 復帰後のフォロー
なお、従業員の職場復帰に関しては、厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」が参考になります。
復職の可否を判断する
復職の判断では、症状の改善だけでなく、職場環境への適応可否や業務に耐えられる状態かを総合的に確認することが必要です。
主治医の診断書に加え、産業医との面談を通じて、生活リズムや職務遂行能力の回復状況、通勤が可能かどうかなどを確認します。さらに、本人の意欲や家族の支援状況も含めて評価します。
企業側はあらかじめ、産業医や人事、上司が連携して復職の可否を検討する体制を構築し、復職判定の基準を明確にしておくとスムーズです。
職場復帰支援プランを作る
復職が可能と判断された場合は、本人の体調にあわせて復帰を段階的に進めるための支援プランを作成します。
例えば、時短勤務からはじめて徐々に通常勤務に戻すスケジュールを設定したり、業務内容を一時的に軽減したりする対応が考えられます。
職場環境の調整や定期的な面談計画も含めて計画することで、不安を和らげながら復職後の定着を支援できます。また、産業医やカウンセラーとも連携し、無理のない形で復職を進めることも重要です。
最終的な職場復帰の決定
復職支援プランの実施状況や体調の安定をふまえたうえで、職場復帰の最終決定を行います。主治医・産業医による最終評価や、本人の意向、職場の受け入れ体制が整っているかを確認し、人事や上司を含めた関係者で慎重に判断します。
復職に向けた試し出勤(リハビリ出勤)を行い、本人と職場の双方にとって無理のない形で復帰が可能かを見極める方法も検討できます。ただし、リハビリ出勤においても労務提供をしていると認められる場合には賃金の支払い義務等が発生する点には注意が必要です。
リハビリ出勤の運用は、産業医等専門家の意見を踏まえつつ、本人の状況を踏まえながら実施するなど、柔軟に行うことが推奨されます。
従業員の職場復帰
職場復帰の初日は、従業員にとって大きな緊張や不安を感じやすいため、温かく迎え入れられるように配慮することが重要です。無理なく業務に慣れていけるよう、最初は軽めの業務からはじめ、こまめに体調を確認しながら少しずつ負荷を調整します。
休憩の取りやすさや声かけの仕方など、周囲の配慮も欠かせません。企業側は、復職者が「またここで頑張れそう」と感じられるような雰囲気づくりを意識し、自然に職場になじんでいけるよう支援します。
復帰後のフォロー
復帰後しばらくは、体調や業務への適応状況を見ながら、継続的にフォローすることが大切です。定期的な面談や産業医のチェックを通じて、従業員の小さな変化にも気づけるようにし、再発の予防につなげます。
また、業務量の調整や職場環境の見直しも適宜行い、本人が無理なく働ける状態を保てるようサポートします。フォローの期間は6カ月から1年を目安に、本人の状況に応じて柔軟に対応します。
抑うつ状態による休職でよくあるトラブル
抑うつ状態による休職において企業が直面しやすいトラブル事例と、その予防・対応策について解説します。
復職可否の判断があいまいで揉める
復職の可否について判断があいまいだと、従業員との間でトラブルに発展することがあります。「なぜ復職できないのか」「なぜ復職が認められたのか」といった説明が不十分だと、納得感を得られにくくなります。
こうした事態を防ぐには、主治医・産業医の意見に基づいて、復職判断の基準を事前に明確にしておくことが大切です。また、復職可否の検討には人事担当者だけでなく、上司や産業医を含めたチームで対応し、公平性と透明性を確保することが求められます。
休職期間終了後の退職・解雇が不当だと訴えられる
休職期間の終了を理由に従業員を退職・解雇させた際、「不当解雇ではないか」と訴えられるケースがあります。特に、復職に向けた支援や職場調整が不十分だった場合は、安全配慮義務違反として法的なリスクが生じる可能性もあります。
休職に関するトラブルを避けるためには、就業規則に「休職事由」「休職期間」「休職期間中の取扱い」「復職・退職」などの項目を明記し、本人としっかり話し合いながら、復職の可否や復職後の配置転換や時短勤務などの処遇を検討することが大切です。
なお、休職期間満了による退職は「自然退職(当然退職)」といわれ、解雇とは区別されます。休職期間満了後に復職できない場合に自然退職とするためには、就業規則等に明記し、従業員に周知する必要があります。条文例としては下記のようなものが考えられます。
休職期間満了したにもかかわらず、休職事由が消滅せず、または復職に至らなかった場合は、休職期間満了日をもって自然退職とする
メンタルヘルス不調者・休職者を増やさないための職場づくり
抑うつ状態などのメンタルヘルス不調者や休職者を増やさないための予防的な職場環境づくりについて紹介します。
ストレスチェックの活用
ストレスチェック制度は、従業員のメンタルヘルス不調を予防する目的で始まった制度です。労働安全衛生法の改正により、2015年12月1日より実施が事業者に義務付けられました。
ストレスチェックは、ストレスが高まっている従業員の早期発見や、職場環境の改善につながります。実施後は、個人面談や集団分析をもとに、業務量の調整や配置の見直しなどの職場環境改善を実施することが努力義務として求められます。
また、結果をもとに管理職への研修や制度改善を行うことで、働きやすい環境づくりにもつながります。チェックを年1回の形式的なものにせず、改善につなげる運用が求められます。
相談窓口の設置
メンタルヘルスに関する相談窓口を設けることで、従業員が不調を感じたときに早めに支援を受けやすくなります。誰に・どのように相談すればいいかが明確であれば、ひとりで悩みを抱えるリスクを減らせるでしょう。社内に相談担当者を配置したり、外部の専門機関と連携したりすることで、幅広いニーズに対応します。
相談窓口を設置する際には、従業員の匿名性を確保する工夫や、相談が人事評価に影響しないことなどを周知しつつ、管理職への対応研修もあわせて実施することで、安心して相談できる環境を整えることが重要です。
ハラスメントの防止
職場でのハラスメントは、メンタルヘルス不調の大きな要因となります。2020年6月からハラスメント防止対策が強化されました。具体的には、パワハラやセクハラを防ぐために、就業規則での禁止事項の明示や、相談窓口の設置などの措置を必ず講じる義務があります。
また、管理職による日頃の声かけや、職場内の人間関係への目配りも、ハラスメントの予防につながります。
| 無料で資料をダウンロード ✅ 人事・労務部門ですぐに使えるChatGPTプロンプト集 > ✅ 副業解禁のために企業が知っておくべき就業規則の見直しポイント > |
参考文献
監修者












