一人法務とは?特徴・担当業務の例・
求められる資質・仕事上の注意点などを解説!
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- この記事のまとめ
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「一人法務」とは、会社における法務担当者が実質的に1人しかいない状態、またはその状態における法務担当者を指します。
一人法務には、法務業務のみを専任で行う「専任法務」と、人事等の他の業務と法務業務を兼任で行う「兼任法務」がいます。
一人法務である場合、以下のような、幅広い法務業務を一人で担当しなければなりません。
・契約業務
・広告審査
・社内規程の作成・見直し
・コンプライアンス対応
・株主総会対応
・取締役会対応 など一人法務は、業務の進め方について大きな裁量がある反面、ミスをしたときの責任が重いという特徴があります。
また、一人法務には、幅広い法的知識と経験に加えて、各部署や外部弁護士などと適切に連携できるコミュニケーション能力や人脈が求められます。
この記事では、一人法務について、特徴・担当業務の例・求められる資質・仕事上の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年5月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 景品表示法…不当景品類及び不当表示防止法
目次
一人法務とは
「一人法務」とは、会社における法務担当者が実質的に1人しかいない状態、またはその状態における法務担当者を指します。
中小企業では、法務担当者を複数人揃えるだけの予算を確保できないケースも多いです。この場合、法務担当者を1人だけ雇用して、会社の法務全てを任せることがあります。また、規模の小さい零細企業では、「社長が自ら法務を担当するケース」などもあります。
なお、一人法務には、主に、法務業務のみを専任で行う「専任法務」と、人事等の他の業務と法務業務を兼任で行う「兼任法務」がいます。
一人法務の特徴
一人法務の特徴としては、以下が挙げられます。
①会社の法務を全て担当する
②業務の進め方について大きな裁量がある
③ミスをしたときの責任が重い
④幅広い部署と関わって仕事をする
会社の法務を全て担当する
一人法務は必然的に、以下に記載したような、会社の法務業務の全てを担当することになります。
- 法務業務の主な種類
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・ 契約業務
・ 株主総会対応業務
・ 取締役会対応業務
・ 広告審査業務
・ 法改正対応業務
・ コンプライアンス対応業務
・ 社内規程の作成・見直し業務
・ 法務研修業務
・ 内部通報制度の整備・運用業務
・ 債権回収業務
・ 債権管理業務
・ 訴訟対応業務
・ M&A取引の対応業務
ゆえに、一人法務には、幅広い法的知識と経験が求められます。また、膨大な業務を効率化して対応していく姿勢も必要です。
業務の進め方について大きな裁量がある
一人法務状態の会社では、法務に詳しい人が法務担当者以外にいないケースがほとんどです。
ゆえに、一人法務には、法務業務の進め方・フローについて大幅な裁量が与えられるため、働き方に関する融通が利きやすいです。
ミスをしたときの責任が重い
一方、会社の法務を一手に担っている分、一人法務の責任は重大です。
会社にとってどのような法的リスクがあるのか、リスクに対処するにはどうすればよいのかなどを、法務担当者が全て自分で考えて対応しなければなりません。
もし法的なリスクを見落とした結果、会社に重大な損害が生じた場合には、一人法務が責任を問われる可能性があります。
幅広い部署と関わって仕事をする
一般的に、会社には、総務・営業・企画・経理などさまざまな部署がありますが、ほとんどの部署において、法律に関係する問題・トラブルがしばしば発生します。一人法務はそのたびに相談を一人で全て受けるので、必然的に幅広い部署と関わって仕事をすることになるでしょう。
一人法務が担当する業務の例
一人法務は、以下に挙げるようなさまざまな業務を担当します。
①契約業務
②広告審査
③社内規程の作成・見直し
④コンプライアンス対応
契約業務
契約業務とは、「契約書の作成・審査→交渉→締結→管理に至るまでの一連の業務」を指します。
この中で一番業務に占める割合が大きいのは、「契約書の作成・審査」かと思いますが、一人法務では、一人で会社が締結する契約書全てのレビューを担当することになります。
忙しい中でも、スピードと品質を求められる業務であるため、
- 自社ひな形をあらかじめ整備しておく
- リーガルテックを活用する
など、効率化と品質向上のための策を講じることが大切です。
広告審査
広告審査とは、会社が掲出しようとする広告内容を、法令やガイドラインに照らして問題ないかどうかチェックする業務です。
広告審査の目的は、
- 法令等違反となる広告表現
- 法令等違反とはならないものの、消費者に誤解を与える広告表現
を排除することにあります。
広告審査に関係のある法令は、景品表示法・消費者契約法・健康増進法・薬機法などたくさんあります。一人法務は、これらの法令をしっかり理解・把握した上で、広告審査を行わなければなりません。
また、近年は、レピュテーションの観点から、法令やガイドライン違反にはならなくとも消費者に誤解を与えかねない広告表現を排除することも求められます。
社内規程の作成・見直し
社内規程の作成・見直しとは、会社の運営のためにつくられた社内規程を作成・管理し、必要に応じて更新する業務です。
社内規程は作成すれば終わりではなく、法改正や会社組織・事業内容の変動などに応じて、見直しを図らねばなりません。そのため、忙しい中でも、社内規程の更新に必要な情報を収集しておく必要があります(一人法務が忙しい中でも情報収集するためのコツについては、「一人法務の効率的な情報収集方法」で解説します)。
なお、法改正情報に関しては、実務上の影響が大きいものであれば新聞やニュースで報道されます。また、所管の省庁が改正の趣旨や新旧対照表を公表していることも多いです。
また、法務担当者向けのウェブメディアなどでは、その年に法改正が予定されている法令をまとめてくれているものもありますので参考にするとよいです。
コンプライアンス対応
コンプライアンス対応業務とは、社内におけるコンプライアンス違反を未然に防ぐことや、コンプライアンス意識を社内全体に浸透させることなどを目的とした業務です。
コンプライアンス対応業務は、事業の売り上げに直接つながるものではありませんが、会社の存続を左右する非常に重要な業務であり、契約業務等で忙しい中でも、研修や啓発活動等を行わなければなりません。
一人法務の場合、忙しい中で、研修資料等のコンテンツを作成するのは難しい場合もあるかと思います。そこで、
- コンプライアンス研修を外部弁護士に委託する
- 市販のeラーニング教材を用いてコンプライアンス研修を実施する
- 市販のコンプライアンス啓発ツールを使用する
など、外部リソースを活用していくことが考えられます。
一人法務に求められる資質
会社の法務全てを担当し、幅広い部署と関わって仕事をするという特性上、一人法務には以下の資質が求められます。
①幅広い法的知識・経験
②社内におけるコミュニケーション能力
③外部弁護士などとのつながり
幅広い法的知識・経験
一人法務は、自社が関与する全ての法律問題について、対応に当たらなければなりません。必ずしも定型的な業務だけでなく、イレギュラーな業務も多数発生します。
そのため一人法務は、幅広い法的知識と経験を有することが望ましいです。既存の法規制に関する理解に加えて、最新の法改正についても情報収集を行い、知識をアップデートしていくことが求められます。
社内におけるコミュニケーション能力
一人法務は幅広い部署と連携して仕事をするため、社内におけるコミュニケーション能力も非常に重要です。
各部署とコミュニケーションをとって信頼関係を築いていれば、一人法務の助言が聞き入れられるケースが多くなります。その結果、会社は法的なリスクに対して適切にブレーキを踏むことができ、重大な損失の危険を回避できる可能性が高まります。
外部弁護士などとのつながり
一人法務が自らの知識・経験・キャパシティだけでは対応できない事柄については、外部弁護士に依頼して協力を求めることも検討すべきでしょう。
相談・依頼先の外部弁護士については、一人法務が手配するケースが多いです。一人法務の知人に複数の弁護士がいれば、その中から信頼できる弁護士を比較して選ぶことができるので、つながりを積極的に築いていくことが望ましいです。
一人法務が仕事をする上での注意点
一人法務が仕事をするに当たっては、主に以下の各点に注意すべきです。
①他部署との間でこまめに情報共有をする
②対応が難しい事柄は、外部弁護士などに相談する
③ビジネス的な視点も意識する
他部署との間でこまめに情報共有をする
一人法務の仕事において重要となるのは、他部署との間で信頼関係を築くことと、法的なリスクを速やかに関係部署へ伝えることです。
そのためには、積極的に他部署とコミュニケーションをとりにいき、こまめな情報共有を心がける必要があります。
対応が難しい事柄は、外部弁護士などに相談する
一人法務が難解な事柄を検討せずに放置し、または多すぎる業務を抱えたまま潰れてしまうと、会社にとって重大な損害が生じるおそれがあります。
このような事態を避けるため、一人法務が自ら対応することが困難な事柄については、早めに外部弁護士などへ相談すべきです。
スムーズに外部弁護士などへ相談できる体制を整えるため、相談先の選定や依頼フローに関する社内規程の整備などを進めておきましょう。
ビジネス的な視点も意識する
一人法務の重要な役割として、法的な観点を踏まえつつ、会社の事業を円滑に進められるようにサポートすることが挙げられます。
法務的な視点を重視すると、どうしても「リスクを指摘する」「不適切な行為をやめさせる」などブレーキを踏む対応に偏りがちです。
これらの対応も重要ですが、一人法務には「どうすればスムーズに事業を行うことができるか」「他部署のストレスを軽減するにはどうすべきか」など、会社が安心してアクセルを踏めるようなポジティブな対応も求められています。
このような対応をするためには、会社として何がプラスになるのか、他部署は何を考えているのかなどビジネス的な視点を意識することが重要です。
法務も事業の成功と利益を追求する会社の一員であることを意識して、日々の仕事に取り組みましょう。
一人法務の効率的な情報収集方法
一人法務には、会社の法務を一手に担う存在として、法改正や実務の動向について日々情報収集を行うことが求められます。以下の方法などを適切に活用して、効率的な情報収集に努めましょう。
①弁護士など専門家のSNS(TwitterやYouTubeなど)
②法律系出版社・リーガルテック企業のセミナーやウェブサイト・メルマガ
③法律系雑誌
弁護士など専門家のSNS(TwitterやYouTubeなど)
法改正や実務に関する最新の動向については、弁護士をはじめとする専門家によって情報発信が行われています。
TwitterなどのSNSや、YouTubeなどの動画サイトを参照して、どのようなトピックが注目されているのかをチェックするとよいでしょう。
法律系出版社・リーガルテック企業のセミナーやウェブサイト・メルマガ
法律系出版社やリーガルテック企業などは、以下のような内容・情報を提供していることがあります。
- 法務担当者向けのセミナー
- 法務に関するメディアやウェブサイト
- 法務に関するメルマガ など
法務業務・各種法令の基礎知識を解説したものや、最新の法改正や実務動向について解説したものなど、さまざまなコンテンツが用意されているので、自社に必要なものを選び、活用していくと良いでしょう。
法律系雑誌
以下に挙げる法律系の雑誌には、最新の判例や実務動向などについて詳しい解説が載っています。可能であれば会社に予算を申請し、定期購読することが望ましいです。
・ビジネス法務
・会社法A2Z
・ジュリスト
・法学教室
・判例タイムズ
・判例時報
・法曹時報
など
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