代表取締役とは?
代表取締役の役割と権限・
社長との違いなどの基本を分かりやすく解説!
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※この記事は、2023年7月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
代表取締役とは
「代表取締役」の会社法上の定義
代表取締役とは、会社を代表する取締役をいいます(会社法47条1項)。
この記事では、代表取締役の役割や権限等について詳しく見ていきます。
会社の代表とは
代表取締役は、対外的には、会社を代表する存在であり(会社法47条1項・349条1項ただし書)、代表取締役が行った行為は会社の行為として、会社に効果帰属するということを意味します。
社長・CEO・取締役との違い
代表取締役とは、「「代表取締役」の会社法上の定義」記載のとおり、会社法上定められている、株式会社を代表する者の役職のことをいいます。
一方、社長やCEOは、会社法上はその定義について特に言及はないものの、一般的・商慣習的に会社を代表する者を指す呼称として使用されています。
代表取締役も社長やCEOもいずれも会社を代表する者を指す呼称ですので、「代表取締役社長」や「代表取締役CEO」といった肩書を使用している会社代表者が多いです。もっとも、必ずしも、代表取締役は社長やCEOでなければならないということはありませんので、例えば、「代表取締役会長」や「代表取締役専務」といった肩書も見られるところです。
また、「代表取締役」も「取締役」の1人ですが、「代表取締役」と「取締役」とでは、会社を代表する権限を有するか否かという点が異なります。
なお、取締役会設置会社では、代表取締役を選定することが必要ですが(会社法362条2項3号)、非取締役会設置会社では、代表取締役の選定は必須ではなく(会社法349条1項ただし書参照)、代表取締役の選定をしない場合、各取締役がそれぞれ代表取締役として扱われることとなります(会社法349条1項・2項)。
代表取締役の選定・解職
選定・解職方法
取締役会設置会社では、代表取締役の選定・解職は、取締役会の決議により行われます(会社法362条2項3号)。
一方、非取締役会設置会社では、代表取締役の選定は、定款、定款の定めに基づく取締役の互選、株主総会の決議によって行われます(会社法349条3項)。また、代表取締役の解職についても、選定と同様と考えられます。
なお、代表取締役は自らの意思で代表取締役を辞任することも可能です。
代表取締役はその地位を失っても、引き続き取締役としての地位を維持することができます。一方、代表取締役としての地位は取締役としての地位を前提とするため、取締役としての地位を失った場合は、同時に代表取締役としての地位も失うことになります。
前述のとおり、取締役会設置会社において代表取締役を解職しようとする場合は取締役会の決議によれば足りますが、一方取締役を解任しようとすれば株主総会の決議によることが必要ですので(会社法339条1項・341条)、代表取締役について、
✅ (取締役としては残ってもらいつつ)その代表権のみを失わせたい
✅ 取締役としての地位も失わせたい
のどちらなのかによって行うべき手続きが異なることになります。
任期
会社法上は、代表取締役の任期について特段の規定はありません。
もっとも、「選定・解職方法」に記載のとおり、代表取締役の地位は、取締役の地位を前提とするので、代表取締役の任期も、原則として、取締役の任期と同じです。
そして、定款等において、代表取締役の任期を定めることは可能ですので、定款等において、取締役としての任期の範囲内で代表取締役としての任期を定めた場合、代表取締役としての任期が満了すれば(取締役としての地位は残りますが、)代表取締役からは退任することになるといえます。
欠員が生じた場合
代表取締役が欠員となった場合や定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合は、任期の満了や辞任により退任した代表取締役は、新たに選任された代表取締役が就任するまで、なお代表取締役としての権利義務を有することとされており、このような代表取締役を一時代表取締役といいます(会社法351条1項)。
なお、「選定・解職方法」に記載のとおり、代表取締役としての地位は取締役としての地位を前提としています。とすると、一時代表取締役として権利義務を有することができる者は、その前提として取締役としての地位を維持している必要があるといえます。
このため、取締役としての任期満了・辞任により代表取締役としての地位も失う場合、(別途、会社法346条1項により取締役としての権利義務を引き続き有する場合を除き、)一時代表取締役としての権利義務を有することはできないと考えられます。
また、同様に代表取締役が欠員となった場合や定款で定めた代表取締役の員数が欠けた場合、利害関係人(株主・取締役等)の申立てにより、裁判所は、一時代表取締役の職務を行うべき者を選任することができます(会社法351条2項)。この場合、裁判所は、一次代表取締役の職務を行うべき者の報酬を定めることができます(同条3項)。
代表取締役の役割と権限
業務執行
取締役会設置会社では、代表取締役は、会社の業務執行を担当します(会社法363条1項1号)。原則として、取締役会設置会社における業務執行の決定は、取締役会が行いますが(会社法362条2項1号)、代表取締役は、一定の重要事項を除けば、取締役会からの委託を受けて業務執行の決定を行うことも可能です(同条4項柱書参照)。
非取締役会設置会社では、原則として、代表取締役を含む各取締役が、業務執行(①業務の決定と②業務の執行)を担当しますが(会社法348条1項)、①業務の決定については、取締役が2人以上いる場合は、原則として、取締役の過半数で行います(同条2項)。
なお、特に大規模な会社等においては、代表取締役だけで会社の全ての業務を執行することは不可能ですので、代表取締役は、業務執行の権限等を他の取締役や使用人に委任することができると考えられています。
代表権
「会社の代表とは」で述べたとおり、代表取締役は対外的に会社を代表して、会社の業務に関する一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有します(会社法349条4項)。代表取締役が行った行為は会社の行為として、会社に効果帰属します。
代表権の制限
内部規則で、代表取締役の代表権を制限することも可能ですが、代表取締役がこのような制限に反して、対外的な行為を行った場合、会社は善意の第三者には対抗することができません(会社法349条5項)。
また、重要な財産の処分(会社法362条4項1号)や多額の借財(同項2号)など、取締役会による決議が必要な事項について、取締役会の決議を欠くにもかかわらず、代表取締役が対外的に行為を行った場合について、判例は、以下のとおり、そのような行為は原則として有効であるが、相手方が取締役会決議を経ていないことを知っていたり、知ることができたときは無効と考えています。
「……代表取締役は、株式会社の業務に関し一切の裁判上または裁判外の行為をする権限を有する点にかんがみれば、代表取締役が、取締役会の決議を経てすることを要する対外的な個々的取引行為を、右決議を経ないでした場合でも、右取引行為は、内部的意思決定を欠くに止まるから、原則として有効であって、ただ、相手方が右決議を経ていないことを知りまたは知り得べかりしときに限って、無効である……。」
最高裁昭和40年9月22日判決(民集19巻6号1656頁)
なお、取締役会決議を欠くにもかかわらず、代表取締役が対外的に行為を行ってしまった場合に当該行為を無効とするのは、会社の利益の保護のためですので、以下のとおり、当該取引の無効を主張することができるのは会社だけとされており、取引の相手方が無効を主張することはできないとされています。
「……重要な業務執行についての決定を取締役会の決議事項と定めたのは、代表取締役への権限の集中を抑制し、取締役相互の協議による結論に沿った業務の執行を確保することによって会社の利益を保護しようとする趣旨に出たものと解される。この趣旨からすれば、株式会社の代表取締役が取締役会の決議を経ないで重要な業務執行に該当する取引をした場合、取締役会の決議を経ていないことを理由とする同取引の無効は、原則として会社のみが主張することができ、会社以外の者は、当該会社の取締役会が上記無効を主張する旨の決議をしているなどの特段の事情がない限り、これを主張することはできない……。」
最高裁平成21年4月17日判決(民集63巻4号535頁)
代表権の濫用
例えば、代表取締役が売却代金を着服する目的で、権限の範囲内にある会社資産の売却をする場合など、代表取締役がその権限を自己または第三者の利益のために利用する行為を代表権の濫用といいます。
このような代表権の濫用行為について、判例は、以下のとおり、そのような行為は原則として有効なものの、相手方が代表取締役の真意(目的)を知っていたり、知ることができたときは無効と考えています。
「株式会社の代表取締役が、自己の利益のため表面上会社の代表者として法律行為をなした場合において、相手方が右代表取締役の真意を知りまたは知り得べきものであったときは、民法93条但書の規定を類推し、右の法律行為はその効力を生じないものと解するのが相当である。」
最高裁昭和38年9月5日判決(民集17巻8号909頁)
代表取締役の不法行為
代表取締役その他の代表者がその職務を行うについて第三者に損害を加えた場合、会社はその損害を賠償する責任を負います(会社法350条)。
会社に会社法350条の責任が生じるためには、代表者に民法709条に基づく責任が生じることが必要となります。
また、「その他の代表者」には、「欠員が生じた場合」記載の裁判所により選任された一時代表取締役の職務を行うべき者(会社法351条2項)等が含まれますし、業務執行取締役(会社法363条1項2号)もその業務執行権限の範囲において「その他の代表者」に当たると考えられています。
なお、損害を受けた者としては、
① 代表取締役の不法行為責任(民法709条)の成立を立証したうえ、会社法350条を適用することで、会社に対して損害賠償責任等を追及する
② 会社自体が直接不法行為責任(民法709条)を負うことを主張して、会社に対して損害賠償請求等を追及する
ことが考えられます。
また、これらの選択肢のほか、役員等の第三者に対する損害賠償責任(会社法429条)を主張して、代表取締役等の役員に対して直接損害賠償請求をすることも考えられます。
表見代表取締役
会社が代表取締役以外の取締役に社長、副社長などの会社を代表する権限を有すると認められる名称を付した場合、当該名称を付された取締役を表見代表取締役といいます。
そして、会社は、表見代表取締役がした行為について、善意の第三者に対して責任を負います(会社法354条)。
「株式会社を代表する権限を有するものと認められる名称」(会社法354条)としては、同条に列挙されている、
- 社長
- 副社長
のほか、裁判例では、
- 取締役会長
- 代表取締役職務代行者
- 頭取
- 最高経営責任者(CEO)
などが挙げられます。
なお、代表取締役を選定する取締役会決議が無効な場合に、当該取締役が代表取締役の職務として行った行為にも,会社法354条が類推適用され,会社は善意の第三者に対して責任を負うことになります。
参考|最高裁昭和56年4月24日判決(判時1001号101頁)
「取締役」(会社法354条)ではない使用人に対し会社を代表する権限を有するものと認められる名称を付した場合も、会社法354条の類推適用により、善意の第三者は保護されると考えられています。
参考|最高裁昭和35年10月14日判決(民集14巻12号2499頁)
「第三者」(会社法354条)は、善意であれば過失があっても保護されますが、過失にとどまらず重過失まである場合は悪意と同視され、保護されません。
参考|最高裁昭和52年10月14日判決(民集31巻6号825頁)
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参考文献
落合誠一編『会社法コンメンタール8 機関⑵』(電子版)商事法務、2022年