贈賄罪とは?
収賄罪との違い・構成要件・
事例などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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贈賄罪とは、公務員に対して賄賂を供与した者、またはその申し込みもしくは約束をした者に成立する犯罪です。
賄賂の授受は、公務員の職務の公正とそれに対する社会一般の信頼を害するため、以下のとおり、処罰の対象とされています。
・賄賂をもらうなどする行為→収賄罪
・賄賂を贈るなどする行為→贈賄罪なお、外国公務員等に対する贈賄については、不正競争防止法によってさらに重く処罰されます。
この記事では贈賄罪について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年8月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
贈賄罪とは(刑法198条)|収賄との違いを含め分かりやすく解説!
贈賄罪とは、公務員に対して賄賂を供与した者、またはその申し込みもしくは約束をした者に成立する犯罪です(刑法198条)。
【贈賄のイメージ】
収賄罪との違い(刑法197条)
贈賄罪と同じく公務員の汚職を防止するために定められた犯罪として「収賄罪」があります。贈賄罪は賄賂を与える側に成立する犯罪であるのに対して、収賄罪は賄賂を受け取る側に成立する犯罪です。
【贈賄罪と収賄罪の関係】
①単純収賄罪(刑法197条1項前段)
公務員が、その職務に関して賄賂を収受したとき、またはその要求もしくは約束をしたときに成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
②受託収賄罪(刑法197条1項後段)
公務員が、その担当すべき職務に関して請託を受けて賄賂を収受したとき、またはその要求もしくは約束をしたときに成立します。法定刑は「7年以下の懲役」です。
③事前収賄罪(刑法197条2項)
公務員になろうとする者が、その担当すべき職務に関して請託を受けて賄賂を収受したとき、またはその要求もしくは約束をしたときに成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
④第三者収賄罪(刑法197条の2)
公務員が、その職務に関して請託を受けて第三者に賄賂を供与させ、またはその供与の要求もしくは約束をしたときに成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
⑤加重収賄罪(刑法197条の3第1項)
公務員が上記①~④の収賄を行い、実際に不正な行為をしたとき(例:賄賂の見返りに、入札で便宜を図る)、または相当の行為をしなかったとき(例:賄賂の見返りに、証拠品の押収を取りやめる)に成立します。法定刑は「1年以上の有期懲役」です。
⑥事後収賄罪(刑法197条の3第2項、第3項)
公務員が先に不正な行為をしたとき、または相当の行為をせず、そのことに関して事後的に賄賂の収受・要求・約束をしたときに成立します。法定刑は「1年以上の有期懲役」です。
なお、公務員でなくなった後、在職中の不正な行為や相当の行為をしなかったことに関して賄賂の収受・要求・約束をしたときにも、事後収賄罪が成立します。この場合の法定刑は「5年以下の懲役」です。
⑦あっせん収賄罪(刑法197条の4)
公務員が請託を受け、他の公務員に職務上不正な行為をさせるように、または相当の行為をさせないようにあっせんすることに関して、賄賂の収受・要求・約束をしたときに成立します。法定刑は「5年以下の懲役」です。
贈収賄行為が処罰される理由
贈賄罪および収賄罪の保護法益(法によって守られるべき利益)は、公務員の職務の公正とそれに対する社会一般の信頼と解されています。
賄賂によって司法・立法・行政の公平性・公正性が歪められているとすれば、国民は国や地方公共団体の機能を信頼できません。国民の信頼が失われれば、日本全体における治安や秩序を維持する観点から悪影響が生じます。
このような事態を防ぐため、刑法では贈賄罪および収賄罪を規定し、公務員が関与する賄賂のやり取りを厳しく規制しています。
贈賄罪の罰則(法定刑)
贈賄罪の法定刑は「3年以下の懲役または250万円以下の罰金」です。
贈賄罪の対象となる「賄賂」とは
賄賂とは、公務員の職務行為の対価として授受される不正な利益です。一定の職務に対する対価であれば足り、個別具体的な職務行為との間の対価関係までは不要とされています(最高裁昭和33年9月30日決定)。
賄賂の目的物は財物に限らず、無形のものであっても構いません。人の需要や欲望を満たすに足りる利益であれば、すべて賄賂に該当する余地があります(大審院明治43年12月19日判決)。
- 賄賂の例
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・金銭
・物品
・不動産
・金融の利益(お金を貸してあげるなど)
・ゴルフクラブ会員権
・値上がり確実な未公開株の公開価格による取得
・就職のあっせん
・異性間の情交(性行為)
など
贈賄罪に当たる行為(構成要件)
贈賄罪に当たるのは、以下の行為です。
①賄賂の供与
賄賂を公務員に収受させる行為です。
【供与のイメージ】
②賄賂の申し込み
公務員に賄賂の収受を促す行為です。公務員が賄賂の収受を拒絶しても、申し込みの時点で贈賄罪が成立します。
【申し込みのイメージ】
③賄賂の約束
公務員に対して賄賂を供与し、公務員がそれを収受することについて、贈賄者と収賄者の間で合意することをいいます。
【約束のイメージ】
なお、賄賂の申込み・約束・供与が一連の行為としてなされた場合は、包括一罪(申込み→約束→供与で、3回の贈賄罪が成立と考えるのではなく、全てをまとめて1回の贈賄罪が成立と考える)となります。
外国公務員等贈賄罪とは
外国公務員等贈賄罪とは、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得るために、外国公務員等に対して直接または第三者を通して、金銭等を渡したり約束をしたりした場合に成立する犯罪です。
外国公務員等に対する贈賄行為につき、日本では、通常の贈賄罪よりも重く処罰されます。また、外国法における賄賂罪の処罰規定に抵触し、外国において刑事罰を受ける可能性もあるので要注意です。
日本の規制|不正競争防止法
外国公務員等に対し、国際的な商取引に関して営業上の不正の利益を得る目的で
- 賄賂を供与した者
- その申し込みもしくは約束をした者
は、「外国公務員等贈賄罪」によって処罰されます(不正競争防止法18条1項、21条2項7号)。
- 外国公務員等に当たる者
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①外国の政府または地方公共団体の公務に従事する者
②公共の利益に関する特定の事務を行うために、外国の特別の法令によって設立されたものの事務に従事する者
③外国の政府または地方公共団体によって経営を支配されている事業者などの事務に従事する者
④国際機関の公務に従事する者
⑤外国の政府・地方公共団体または国際機関の権限に属する事務であって、これらの機関から委任されたものに従事する者
外国等公務員に対し贈賄を行い不正競争防止法に違反すると、贈賄を行った個人は、「5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金」が科されるか、併科されます。また、役員や従業員などが贈賄を行った法人に対しては、「3億円以下の罰金」が科されます。
アメリカの規制|FCPA
米国連邦法であるFCPA(Foreign Corrupt Practices Act、海外腐敗行為防止法)では、贈収賄行為の処罰規定が定められています。
FCPAは米国民だけでなく、米国内で贈収賄行為の一部を行った者や、共犯者・代理人などに対しても適用されます。
イギリスの規制|UKBA
英国法であるUKBA(UK Bribery Act、贈収賄禁止法)でも、贈収賄行為の処罰規定が設けられています。
UKBAは、英国に子会社を置く外国企業をはじめとして、英国内で事業を行う法人にも適用されます。
実際にあった贈賄の事例
1995年から2004年にかけて、ナイジェリア政府のボニー島における建設プロジェクトに関し、国際コンソーシアムがプロジェクトの受注を目的として、ナイジェリアの政府関係者に対して賄賂を供与していました。
同国際コンソーシアムに参加していた日系企業は、米国FCPA違反の責任を問われ、米国司法省との司法合意に基づいて罰金2億1,880万ドルを支払うこととなりました。
国際取引で、巨額の利益を得るために賄賂を供与すると、その反動で致命的なペナルティを課され得ることを示した例といえます。
贈賄を予防するためにとるべき6つの対策
自社が贈賄に関与することを防ぐためには、以下の6つの観点から対策を行いましょう。
対策1|基本方針の策定・公表
役員や従業員が贈賄に関与する事態を未然に防ぐため、まず、以下の要素を盛り込んだ基本方針を策定しましょう。
- 基本方針に盛り込むべき事項の例
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・目先の利益よりも法令遵守を重視するという基本的な姿勢
・贈賄罪(外国公務員等贈賄罪や、外国法の贈収賄規定に対する違反を含む)に該当するような贈賄行為をしないこと
・贈賄防止に向けた社内体制の構築や、当該社内体制に基づく取り組み
策定した贈賄防止の基本方針は、社内で共有して徹底を図るとともに、対外的にも公表するのがよいでしょう。外国籍の取引相手や投資家にも理解を求めるため、翻訳文を用意することが望ましいです。
贈賄防止に向けたメッセージを公に発信することは、企業イメージの向上につながります。
対策2|社内規程の策定
贈賄行為が発生するリスクの高い業務については、社内規程を制定してガイドラインを設けましょう。特に、贈賄が横行する高リスク国(アジア・中東・アフリカ・南米など)との取引については、贈賄リスクの高さを踏まえて厳しい規制を設けることが望ましいです。
- 社内規程によって贈賄行為を規制すべき業務の例
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・政府(外国政府を含む)からの許認可の取得、受注
・国有企業との取引
・高リスク国が関係するジョイントベンチャーの組成、SPCの利用、M&A
・一定規模以上の公共調達への参加
・公務員(外国公務員等を含む、以下同じ)に対する直接または間接の支払いを伴う社交行為(接待など)
対策3|組織体制の整備
贈賄行為の防止に向けて、社内での役割分担や、関係者の権限・責任が明確になるように、会社の規模などに応じて組織体制を整備しましょう。
贈賄防止の体制整備に当たっては、特に以下の事項に留意すべきです。
- 贈賄防止の体制整備に関する留意事項
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①コンプライアンス担当役員またはコンプライアンス統括責任者を指名する
コンプライアンス業務について十分な知識と経験を有する者を指名し、経営者および取締役会に対して定期的に報告を行わせましょう。大規模な企業では、拠点や地域統括部門ごとにコンプライアンス責任者を置くことも考えられます。②内部通報窓口を設置する
贈賄の前兆が現れた時点で早期の通報を促すため、内部通報窓口を設置しましょう。
内部通報窓口については、以下の記事も併せてご参照ください。公益通報者保護法とは? 公益通報の定義・事業者がとるべき措置・罰則などを分かりやすく解説!
③事後対応に関する体制を整備する
贈賄が発生してしまった場合に備え、現場における一時的な対応、本社などにおける危機対応、社内およびグループ内における情報共有の方法、再発防止策の検討やその後のモニタリングなど、事後対応に関する体制をあらかじめ整えておきましょう。④その他
贈賄行為について、上司やコンプライアンス担当者へ気軽に相談できるような「風通し」を確保しましょう。また、営業担当者に実現困難な受注実績を求めるなど、贈賄の動機を形成させるような指示は慎むべきです。
対策4|社内における教育活動の実施
社内における贈賄行為を防ぐには、役員・従業員に対して贈賄の違法性を周知することも大切です。
日本および外国の法令における贈収賄処罰規定につき、定期的に従業員研修を実施してインプットを徹底しましょう。
対策5|監査等
潜在的に贈賄行為が生じていないかについて、定期的または不定期に監査を行うことも効果的です。
贈賄防止体制がきちんと機能しているか否かを含めた監査を行い、その結果を経営者・コンプライアンス責任者・関連する従業員などへ広く共有しましょう。
対策6|経営者等による見直し
社内における贈賄防止体制は、陳腐化しないように見直しを行うべきです。
経営者が中心となって、監査結果を踏まえて贈賄防止体制の有効性を評価し、適切に見直しを行いましょう。
贈賄が疑われる事象が発生した場合の対応
公務員から賄賂を要求された場合や、実際に賄賂を支払ってしまった場合には、事態の段階に応じて法令遵守を徹底し対応を行いましょう。
ケース1|賄賂を要求された
その上で、賄賂を要求された旨を警察に通報しましょう。会社の役員・従業員全体に対して、賄賂の要求を受けた旨を発信し、絶対に応じないように周知を図ることも大切です。
ケース2|賄賂を支払ってしまった
まずは速やかに、対応のための社内体制を整えます。担当取締役やコンプライアンス責任者が中心となって、危機対応チームや調査チームを組織しましょう。
その上で、捜査機関に対する通報を行いましょう。状況に応じて、自首や司法取引(日本法では、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意。刑事訴訟法350条の2以下)も検討すべきです。
贈賄に関与した役員については解任、従業員については懲戒処分を検討しましょう。
さらに、贈賄の再発を防ぐため、再発防止策を講じることも大切です。第三者委員会や内部調査委員会を組織すれば、再発防止策の客観的有効性を確保しやすくなります。
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