背任とは?
背任罪の構成要件・横領との違い
・従業員による背任への対処法などを解説!

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この記事のまとめ

「背任(背任罪)」とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与える犯罪です。

背任罪と横領罪の区別については諸説ありますが、物の不法領得については横領罪その他の任務違背行為については背任罪が成立するとの見解が有力です。それ以外に、権限逸脱行為には横領罪、権限濫用行為には背任罪が成立するなどの見解があります。
なお、会社の役員等による背任行為については、会社法に基づく特別背任罪が成立します。

従業員による背任が発覚したら、事実関係を調査した上で、懲戒処分や刑事告訴を検討しましょう。ただし、背任の内容に照らして重すぎる懲戒処分は無効になり得るのでご注意ください。

この記事では背任(背任罪)について、構成要件・横領との違い・従業員による背任への対処法などを解説します。

ヒー

横領罪はニュースなどでよく聞くのですが、背任罪はあまり聞きません。

ムートン

金銭の不法領得は横領罪が成立することが多いので、ニュースでよく目にするかもしれません。この記事で横領罪と背任罪の違いを勉強しましょう。

※この記事は、2023年8月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

背任(背任罪)とは

「背任(背任罪)」とは、他人のためにその事務を処理する者が、自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的で任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を与える犯罪です(刑法247条)。
背任罪の法定刑は「5年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

依頼者である本人の利益を保護するために、本人を裏切って損害を与える背任行為が処罰の対象とされています。

背任罪と詐欺罪・横領罪・特別背任罪の関係・違い

背任罪に類似した犯罪として、被害者を騙して財物を詐取する「詐欺罪」、管理等を委託された他人の物を不法に領得する「横領罪」会社に対して背任行為により損害を与える「特別背任罪」があります。

背任罪と詐欺罪の関係・違い

「詐欺罪」(刑法246条1項)とは、人を欺いて財物を交付させた者に成立する犯罪です。また、人を欺いて財産上不法の利益を得た者、および他人にこれを得させた者にも、同様に詐欺罪が成立します。
詐欺罪の法定刑は「10年以下の懲役」です。

背任罪は任務違背行為が対象とされており、その手段は問われません。これに対して、詐欺罪は人を欺く行為に対象が限定されています。

なお、詐欺罪に当たる行為は、背任罪の構成要件も満たすことがあります。例えば、他人から事務を委託された者が、その人を欺いて財物を交付させた場合です。
判例上、詐欺罪と背任罪の両方の構成要件が満たされている場合は、詐欺罪のみが成立すると解されています(大審院昭和7年6月29日判決、最高裁昭和28年5月8日判決など)。

背任罪と横領罪の関係・違い

横領罪(委託物横領罪)」(刑法252条)とは、自己の占有する他人の物を横領した者に成立する犯罪です。また、自己の物であっても、公務所から保管を命ぜられた物を横領した場合には、同様に横領罪が成立します。
横領罪の法定刑は「5年以下の懲役」です。ただし、業務上自己の占有する他人の物を横領した者には「業務上横領罪(刑法253条)」が成立し、法定刑が「10年以下の懲役」に加重されます。

なお、横領罪に当たる行為は、背任罪の構成要件も満たすことがあります。例えば、他人から事務を委託された者が、保管を依頼されたその人の所有物を不法に処分した場合です。
横領罪と背任罪の両方の構成要件が満たされている場合は、横領罪のみが成立すると解されています(大審院昭和10年7月3日判決など)。

横領罪と背任罪の区別(=横領の限界)についてはさまざまな見解が提示されていますが、物の不法領得については横領罪、その他の任務違背行為については背任罪とする見解が有力です。
そのほか、権限の逸脱を横領罪、権限の濫用を背任罪とする見解などがあります。

背任罪と特別背任罪の関係・違い

「特別背任罪」(会社法960条、961条)とは、会社に対して任務違背行為をした役員など、または社債権者に対して任務違背行為をした代表社債権者・決議執行者に成立する犯罪です。
特別背任罪の法定刑は、役員などについては「10年以下の懲役または1000万円以下の罰金」、代表社債権者・決議執行者については「5年以下の懲役または500万円以下の罰金とされており、いずれも併科されることがあります。

特別背任罪は、行為者の身分による背任罪の加重類型です。すなわち、特別背任罪と背任罪は処罰の対象行為が共通している一方で、会社の役員や代表社債権者・決議執行者という身分を有する者については、背任罪ではなく特別背任罪が成立します。

特別背任罪の法定刑は、背任罪よりも重くなっています。会社は多数の利害関係者を有するため、会社等に対する背任行為については、通常の背任行為よりも責任が重いと考えられるためです。

背任罪の構成要件

背任罪は、以下の構成要件をすべて満たす行為につき成立します。

① 他人から事務処理を委託されたこと
② 任務に背く行為をしたこと(任務違背行為)
③ 図利加害目的があること
④ 本人に財産上の損害を与えたこと

他人から事務処理を委託されたこと

背任罪が成立するのは、他人から事務処理を委託された者に限られます。委託関係は契約によって生じるケースが多いですが、法令に基づいて生じるケースも考えられます。

なお、独立して委任事務を処理する者だけでなく、補助者・代行者として事務処理を行う者にも背任罪が成立し得ると解されています(最高裁昭和60年4月3日決定など)。

任務に背く行為をしたこと(任務違背行為)

背任罪に当たるのは、他人のために処理する事務につき、その任務に背く行為(=任務違背行為)です。

任務違背行為とは、誠実な事務処理者としてなすべきものと法的に期待されるところに反する行為をいいます。法律行為に限らず、事実行為も任務違背行為に該当します。

任務違背行為に当たるか否かは、以下の各規範を基準として判断されます。

・法令、通達
・定款
・内規
・契約
など

特に契約に基づく委託関係が存在する場合は、契約において定められた事務の内容や、事務処理者の責任の内容などを考慮して、背任罪の成否を判断します。

図利加害目的があること

背任罪の成立には、行為者において自己もしくは第三者の利益を図り、または本人に損害を加える目的(=図利加害目的)を有していたことが必要です。

図利加害目的とは、本人の利益を図る目的が存在しないことを裏側から規定したものであると解されています。
ただし、図利加害目的と本人の利益を図る目的が併存する場合は、どちらが主たる目的であるかによって背任罪の成否を決するのが判例の立場です(最高裁昭和63年11月21日決定、最高裁平成10年11月25日決定など)。

本人に財産上の損害を与えたこと

背任罪は、本人に財産上の損害を与えた時点で既遂になります。図利加害目的による任務違背行為が行われても、実際に本人の損害が生じていなければ、背任未遂罪が成立するにとどまります。

財産上の損害は、経済的見地から本人の財産状態を評価して行います(最高裁昭和58年5月24日決定)。

例えば、財務状態の悪い会社に対して、担保をとることなく金銭を貸し付けたことにより、その債権が事実上回収困難になったとします。
この場合、額面上は貸付額と同額の債権を取得しますが、回収困難な債権は額面よりも経済的価値が低いため、本人の財産上の損害が認められる可能性が高いです。

背任罪に当たる行為の具体例

例えば以下のような行為は、背任罪が成立する可能性が高いと考えられます。

・会社の従業員が、取引先からキックバックを受領する行為
・社外秘の営業秘密を流出させる行為
・金融機関の事務担当者が、回収困難であることを知りながら無担保で貸付をする行為
・自己所有の不動産に抵当権を設定した後、未登記のうちに、さらに他の者のために抵当権を設定する行為
など

背任罪の共犯の取り扱い

背任罪は、「他人のためにその事務を処理する者」に限って成立する犯罪(=身分犯)です。ただし非身分者であっても、身分者と共働することによって、背任罪の共同正犯・教唆犯・幇助犯が成立し得ると解されています(大審院昭和8年9月29日判決)。

過去の裁判例では、例えば以下のケースについて、非身分者について背任罪の共同正犯の成立を認定しています。

  • 不正融資を受ける側につき、融資担当者らの任務違背や、金融機関の財産上の損害について高度の認識を有していたこと、および融資担当者らが融資に応じざるを得ない状況を利用したことなどを理由に、背任罪の共同正犯の成立を認めた事例(最高裁平成15年2月18日決定)
  • 不正融資を受ける側につき、融資の焦げ付きが必至であること、担保価値が乏しいこと、銀行に生じる財産上の損害などを十分認識しながら、不正融資へ積極的に加担したことを理由に、背任罪の共同正犯の成立を認めた事例(最高裁平成20年5月19日判決)。

従業員による背任が発覚した場合の対処法

自社の従業員による背任行為が発覚した場合は、以下の対応を迅速かつ適切に行いましょう。

① 事実関係を調査する
懲戒処分の可否・種類を検討する
③ 刑事告訴を検討する

事実関係を調査する

まずは背任の疑いに関して、事実関係を正確に調査することが大切です。事実関係を正しく把握することは、懲戒処分や刑事告訴などの対応を適切に行うための大前提となります。
関係者に対するヒアリングをはじめとして、関連する書類やデータなどを徹底的に調査しましょう。

ただし、背任行為は一刻も早くやめさせなければ、会社に大きな損害が生じてしまいます。そのため、長い時間をかけて調査を行うことが適切とは限りません。調査は迅速に終えた上で、早期に具体的な対応をとるべき場合もあります。

綿密な調査をスピーディに行うためには、法務・コンプライアンス・監査などの各部門が連携した上で、必要に応じて外部専門家(弁護士など)と連携することが求められます。平時の段階から、背任発生時の対応を十分に検討しておきましょう。

懲戒処分の可否・種類を検討する

背任行為をした従業員に対しては、懲戒処分を行うことも検討すべきです。適切な内容の懲戒処分を行うことにより、他の従業員に対して背任防止の強いメッセージを伝えることができます。

懲戒処分には、主に以下の種類があります。

① 戒告・けん責
従業員に対して厳重注意を与える処分です。始末書等を提出させる場合もあります。

② 減給
従業員の賃金を減額する処分です。減給1回の額が平均賃金の1日分の半額以下、かつ総額が1賃金支払期における賃金の10分の1以下でなければなりません(労働基準法91条)。

③ 出勤停止
従業員に対して出勤を禁止し、その間の賃金を支給しない処分です。

④ 降格
従業員の役職を降格させ、役職手当などを不支給とする処分です。

⑤ 諭旨解雇(諭旨退職)
従業員に対して退職を勧告する処分です。勧告に応じなければ、懲戒解雇が行われることが多いです。

⑥ 懲戒解雇
会社が労働契約を解除し、強制的に労働者を退職させる処分です。

懲戒処分を検討する際には、懲戒権の濫用に注意が必要です。従業員の行為の性質・態様に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用に当たり無効となります(労働契約法15条)。

背任は会社に重大な損害をもたらす重罪であるため、重い懲戒処分であっても認められる可能性は十分あります。懲戒解雇についても、認められるケースが多いでしょう。
しかし、不当に重い懲戒処分を行ってしまうと、従業員との間でトラブルになる可能性が高いので要注意です。将来的なトラブルを避けるため、重い懲戒処分をする際には慎重な検討を行いましょう。

刑事告訴を検討する

背任の被害者となった会社は、行為者である従業員を刑事告訴することができます(刑事訴訟法230条)。刑事告訴をすると、捜査機関に捜査の義務が生じるため、行為者である従業員が訴追される可能性が高まります。

また刑事告訴には、社内外に対して背任防止のメッセージを強く伝える効果があります。コンプライアンスを徹底して背任の撲滅を目指す企業は、刑事告訴を行い、行為者に対して毅然と対応することも有力な選択肢でしょう。

ムートン

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