ハラスメントでの退職は会社都合退職になる?
雇用保険に関する注意点などを
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この記事のまとめ

ハラスメントが原因で退職した場合、事情によって、雇用保険との関係では会社都合退職(特定受給資格者)として取り扱われ、自己都合退職よりも受給条件が有利になることがあります。

もし会社に自己都合退職だと主張されたら、ハローワークに相談して状況を説明するとともに、会社に対する損害賠償請求を検討しましょう。
退職に当たっては、ハラスメントの証拠を確保しておくことが大切です。退職金の受給条件も確認しておきましょう。

会社が従業員からハラスメントによる退職の申し出を受けたときは、事実関係を正確に把握したうえで対応する必要があります。従業員の状況や精神面に配慮し、会社都合退職扱いとすることも柔軟に検討しましょう。
そのほか、加害者に対する処分を検討するとともに、再発防止策を検討・実施することが求められます。

この記事では、ハラスメントによる退職は会社都合退職になるのかどうかを、雇用保険との関係を中心に解説します。

ヒー

退職者から「パワハラを受けていたから、会社都合退職にしてほしい」と連絡がありました。どう対応すべきでしょうか。

ムートン

まずは事実確認からです。会社が自己都合退職を主張しても、ハローワークが会社都合退職を認める場合もあるため、柔軟な対応が必要となります。

※この記事は、2026年6月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

ハラスメントによる退職は会社都合退職になる?

ハラスメントが原因で退職した場合、事情によって、雇用保険との関係では会社都合退職(特定受給資格者)として取り扱われ、自己都合退職よりも受給条件が有利になることがあります

会社都合退職と自己都合退職の違い|雇用保険は会社都合退職の方が有利

会社都合退職」とは、労働者が必ずしも退職を希望していたわけではないのに、会社側の都合によって退職せざるを得なかったことを意味します。これに対して「自己都合退職」は、専ら労働者の希望によって退職したことを意味します。

会社都合退職の場合、労働者は退職に向けて準備を整えるための期間を十分に確保できないケースが多いです。スムーズに転職先が見つからなければ、収入が途絶えて生活が成り立たなくなるおそれがあります。

そのため、失業時に受給できる雇用保険に関しては、会社都合退職をした人は「特定受給資格者」として取り扱われ、支給開始の時期や支給期間について優遇されます。

ハラスメントによる退職は会社都合退職となりうる|「特定受給資格者」に当たる

次に挙げるハラスメントが原因で退職した場合、雇用保険の基本手当との関係では会社都合退職(特定受給資格者)となり、支給開始の時期や支給期間について優遇措置を受けられるケースがあります。

会社都合退職となりうるハラスメント

マタニティハラスメント(マタハラ)
妊娠・出産・育児に関する言動により、女性労働者の就業環境を害すること

パタニティハラスメント(パタハラ)
子の養育に関する制度や措置の利用に関する言動により、男性労働者の就業環境を害すること

ケアハラスメント(ケアハラ)
家族の介護に関する制度・措置の利用に関する言動により、労働者の就業環境を害すること

セクシュアルハラスメント(セクハラ)
職場における性的な言動により、労働者に対して不利益を与え、または労働者の就業環境を害すること

パワーハラスメント(パワハラ)
職場における優越的な関係を背景とした言動で、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就業環境を害すること

特定受給資格者とは

特定受給資格者に当たるのは、雇用主の倒産や事業の縮小・廃止、解雇などの理由によって離職した者です(雇用保険法23条2項、雇用保険法施行規則34条~36条)。上記の各種ハラスメントが原因で退職したと認められる場合は、特定受給資格者に当たります。

なお、顧客が企業やその従業員に対して理不尽な言動をすることは「カスタマーハラスメント(カスハラ)」と呼ばれており、近年注目されています。

セクハラやパワハラなどとは異なり、カスハラは顧客の行為です。そのため、カスハラを受けて退職したことのみをもって、直ちに特定受給資格者に当たるわけではないと解されています。
ただし、事業主がカスハラの事実を認識しながら、相談に対して適切な措置を講じなかった場合などには、特定受給資格者に該当する余地があると考えられます。

参考:ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」

特定受給資格者として認められることのメリット

ハローワークに特定受給資格者として認められると、多くの場合、雇用保険の基本手当の受給期間が長くなります
なお、有期労働契約の不更新(=雇い止め)その他のやむを得ない理由によって離職した者は「特定理由離職者」に当たり、特定受給資格者と同等の取り扱いを受けられます。

<特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合>
被保険者期間1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
30歳未満90日90日120日180日
30歳以上35歳未満90日120日180日210日240日
35歳以上45歳未満90日150日180日240日270日
45歳以上60歳未満90日180日240日270日330日
60歳以上65歳未満90日150日180日210日240日

<特定受給資格者または特定理由離職者に当たらない場合>
被保険者期間1年未満1年以上5年未満5年以上10年未満10年以上20年未満20年以上
全年齢90日90日90日120日150日

また、特定受給資格者または特定理由離職者に該当する場合は、そうでない場合よりも早く雇用保険の基本手当を受給できます
通常の自己都合退職の場合は給付制限が適用されるため、受給手続日から7日経過した後、さらに1カ月が経過しなければ雇用保険の基本手当を受給できません(教育訓練等を受けることで給付制限が解除可能)。
特定受給資格者または特定理由離職者に当たる場合は、給付制限が適用されないため、受給手続日から7日経過すると雇用保険の基本手当が支給されます。

参考:ハローワークインターネットサービス「基本手当について」

パワハラに当たらない退職勧奨とは

企業が労働者に対して退職を促すことは「退職勧奨」と呼ばれています。

退職勧奨は、適切な方法で行われる限り違法でなく、パワハラにも当たりません。パワハラに当たるのは、労働者に対する暴力脅迫などが行われた場合や、全く仕事を与えないなどの不当な取り扱いがなされた場合などが想定されます。

ただし、雇用保険の基本手当との関係では、退職勧奨を受けて退職した場合は特定受給資格者に該当します。

ハラスメントが原因で退職したのに、会社が自己都合退職を主張する場合の対処法

雇用保険の基本手当の受給を申請する際には、ハローワークに離職票を提出します。離職票には、事業主(使用者)と離職者(労働者)がそれぞれ離職理由を記載する欄があります。

ハラスメントが原因である退職は会社都合退職に当たりますが、会社側が離職票に「自己都合退職」と記載するケースもしばしば見られます。
その場合は、ハローワークに対して退職の経緯を説明しましょう。ハラスメントが原因となって退職したことを理解してもらえれば、会社側が「自己都合退職」と書いていても、特定受給資格者として基本手当を受給できる可能性があります。

また、会社がハラスメントの事実を否定している場合は、退職前の段階で適切なハラスメント防止措置が講じられていなかった可能性が高いです。

会社は、職場におけるハラスメントを防止する措置を講じる義務、および労働者をハラスメントから保護する義務(安全配慮義務)を負っています。特に、会社側の安全配慮義務違反によってハラスメントが発生したときは、労働者は会社に対して損害賠償を請求できます。
会社が頑なにハラスメントの事実や責任を否定する場合は、損害賠償請求を検討してください。

ハラスメントを理由に退職する場合に注意すべきポイント

ハラスメントが原因で退職を余儀なくされる場合は、特に次の2点に留意してください。

① ハラスメントの証拠を確保する
② 退職金の支給条件などを確認する

ハラスメントの証拠を確保する

退職前の段階で、できる限りハラスメントの証拠を確保しておきましょう。十分な証拠があれば、雇用保険の基本手当や損害賠償を請求する際に役立ちます。

例えば、ハラスメントに当たる言動の録音データや、当該言動が含まれるメールやチャットの記録、業務日報、ハラスメントを受けた日時や内容を記録したメモなどが証拠となります。会社に対してハラスメントの相談をした場合は、その内容も録音などによって記録に残しておきましょう。

退職後は社内システムへのアクセスができなくなるなど、ハラスメントの証拠を確保することが困難になりがちです。精神的に辛くどうしても職場に行けない場合などを除き、ハラスメントの証拠を確保してから退職してください。

退職金の支給条件などを確認する

退職して職場を去る前に、就業規則退職金規程を確認してコピーをとっておきましょう。後に会社から退職金が支給された際(あるいは不支給を通知された際)に、その内容が妥当かどうかを判断するために役立ちます。

特に、自己都合退職と会社都合退職で支給額に差が設けられている場合は、会社がどちらの基準を適用したのかを確認する必要があります。
ハラスメントが原因で退職したのに、自己都合退職扱いで退職金が減額されている場合は、増額を求めて争うことを検討してください。

退職金だけでなく、有給休暇の残日数や未払い残業代、賞与の支給条件なども併せて確認・検討しておくとよいでしょう。

企業が従業員からハラスメントによる退職の申し出を受けた場合の対処法

従業員からハラスメントを受けたため退職したいとの申し出を受けたときは、企業は次の流れで適切な対応に努めましょう。

① 事実関係の正確な把握に努める
② 被害者への配慮とケアを行う|会社都合退職についても柔軟に検討する
③ 加害者に対する処分を検討する
④ 再発防止策を検討・実施する

事実関係の正確な把握に努める

まずは、ハラスメントについての事実関係を正確に把握することが重要です。被害者本人から事情を聴き取ったうえで、メールやチャット、録音データなどの客観的資料の確認や、加害者とされる従業員および関係者へのヒアリングなどを行います。

調査に当たっては、先入観を持たずに客観的な事実を把握するよう努めることが大切です。

被害者への配慮とケアを行う|会社都合退職についても柔軟に検討する

ハラスメントの被害を受けた従業員は、大きな精神的ショックを受けていると思われます。そのため企業としては、被害者に対して十分な配慮とケアを行うことが求められます。

被害者にさらなる負担がかからないように、加害者との接触を避けるための対応や、在宅勤務への切り替えなどを行いましょう。状況によっては、産業医と連携して精神面のケアを行うべき場合もあります。

退職を希望する被害者に対しては、慰留を試みつつも、無理強いしないように配慮すべきです。退職の意思が固い場合は、会社都合退職またはそれに準じた取り扱いができるかどうかを柔軟に検討しましょう。

加害者に対する処分を検討する

調査の結果、ハラスメント行為が認められた場合には、加害者に対する処分を検討しましょう。適切な処分を行うことにより、被害感情を緩和するとともに、職場全体にハラスメント防止の意識を浸透させることにも繋がります。

ただし、加害者に対して懲戒処分を行う際には、ハラスメントの性質や態様などに見合った重さにしなければなりません。重すぎる懲戒処分は無効となるおそれがあるので要注意です。例えば、まず戒告や譴責などの軽い懲戒処分を行い、再発した場合にはより重い懲戒処分に引き上げるなどの対応を検討しましょう。

再発防止策を検討・実施する

同様のハラスメントが繰り返し発生しないように、再発防止策を講じることも大切です。ハラスメントの原因となった組織風土や管理体制の不備などを是正するため、十分な対策を検討しましょう。

ハラスメントの再発防止策としては、次の例などが挙げられます。これらの対策を通じて、ハラスメントのない職場づくりを目指しましょう。

再発防止策の例

・ハラスメント防止方針の強化、従業員に対する周知
・ハラスメントに関する相談窓口の再周知
・ハラスメントに関する従業員研修の強化
・従業員に対する定期的なアンケート調査の実施
・ハラスメント発生時の対応フローの見直し
など

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ムートン

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参考文献

ハローワークインターネットサービスウェブサイト「基本手当について」

ハローワークインターネットサービスウェブサイト「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」