契約締結後もモニタリングすべき条項とは?
実務上の留意点を解説!

この記事のまとめ

契約は締結して終わりではなく、締結後のモニタリングも重要になります。契約の順守状況を確認する必要があるほか、契約締結時からの事情変更が発生するケースもあるからです。

契約締結後もモニタリングすべき条項は、契約類型によって異なります。今回は、どの契約類型にも共通してモニタリングすべき条項を中心に解説します。

※この記事は、2022年10月5日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

契約締結後のモニタリングが重要な理由

契約は締結して終わりではなく、締結後のモニタリングも重要になります。

これは主に、以下の理由があるためです。

✅契約の順守状況を確認する必要があるため
✅契約締結時からの事情変更が発生することがあるため

契約の順守状況を確認する必要があるため

契約とはいわば、取引をするに当たり守らなければならないルールを明文化したものです。契約締結後に、そのルールが守られているかをモニタリングしなければ、契約を締結した意味がなくなってしまいます。

特に、相手方の契約違反を見逃すと、自社が不利益を被る恐れがあります。契約締結後も、注意深く相手方の行動を監視し、契約違反が生じていないかをチェックする必要があります。

また、自社が契約違反を犯さないようにすることも大切です。契約に違反すると、相手方から債務不履行責任を追及される恐れがあるためです。

契約締結に関わった担当者が異動などでいなくなってしまった場合、引き継ぎなどが行われず、後任の担当者が知らずに契約違反をしてしまうリスクもあります。こうした事態を起こさないためには、自社の契約順守状況をモニタリングしていく必要があります。

契約締結時からの事情変更が発生することがあるため

契約書について、締結当時は取引の実態を反映していたとしても、時間の経過や環境の変化に伴い、実態とは異なる内容になってしまうケースがあります。

例えば、売買契約において、急激なインフレや為替レートの変動などにより、契約当時の金額での売買が不可能になった場合、取引の実態に合わせて変更しないと、不利益が発生してしまいます。

そのため、契約内容と取引の実態の整合性・ズレを把握するには、継続的に契約条項をモニタリングすることが必要不可欠です。

契約締結後もモニタリングすべき主な条項

契約締結後もモニタリングすべき条項は、契約類型によって異なります。しかし、どの契約類型でも共通してモニタリングすべきといえる条項は、以下のとおりです。

・契約期間に関する条項
・秘密保持条項
・契約不適合責任に関する条項
・契約解除条項
・損害賠償条項
・不可抗力免責に関する条項
・再委託条項
・地位の譲渡禁止条項
・契約内容の変更に関する条項
・期限の利益喪失条項

契約期間に関する条項

契約期間に関する条項とは、文字どおり、契約に関する期間を定めた条項です。

契約期間に関する条項は、主に以下の3つの要素で構成されます。

✅ 契約期間
✅ 自動更新の有無・条件
✅ 契約終了後も存続する条項(存続条項)

いつの間にか契約が期間満了により終了していた、あるいは更新しない予定だった契約が自動更新されていたということがないように、契約締結後も、各契約の期間をきちんと把握しておきましょう。

自動更新条項が定められているケースでは、契約を更新しない場合、更新拒絶の通知を行うべき期間をチェックする必要があります。期間内に通知を行わないと、契約が自動更新されてしまうので要注意です。

なお、存続条項とは、契約終了後も有効にしておきたい条項について、その効力を存続させるために定める条項です。契約終了後も自社の権利・義務が残ることを認識し、適切に対応することが大切です。

秘密保持条項

秘密保持条項とは、契約の締結・遂行の過程で得た相手方の秘密情報について、秘密保持義務を課す条項です。

秘密保持に関する条項は、主に以下の要素で構成されます。

✅ 秘密情報の定義
✅ 第三者に対する秘密情報の開示・漏えい等を原則禁止する旨
✅ 第三者に対する開示を例外的に認める場合の要件
✅ 秘密情報の目的外利用の禁止
✅ 契約終了時の秘密情報の破棄・返還
✅ 秘密情報の漏えい等が発生した際の対応

まずは、自社が日々の業務を取り扱う中で、秘密保持条項に違反していないかどうかをモニタリングしなければなりません。

一方、相手方による秘密保持条項違反は、漏えいなどの不祥事が発生して初めて発覚するケースが多いです。そのため、日常的なモニタリングは困難ですが、有事の際にはきちんと対応できるように、対応マニュアルなどを整備しておくのがよいでしょう。

なお契約終了時には、相手方に開示した秘密情報につき、破棄・返還を求めることができる規定を設けるのが一般的です。情報セキュリティの観点から、終了した契約については秘密情報の破棄・返還を求めることが望ましいでしょう。

契約不適合責任に関する条項

契約不適合責任に関する条項とは、契約不適合があった場合(納品された物やサービスが契約内容と違っていた場合)に、相手方に対して追求できる責任を定めた条項です。

契約不適合責任の追及方法としては、以下が挙げられます。

✅ 履行の追完請求(民法562条)
納品したときには不完全な状態であったため、後から完全な物やサービスを改めて納品するよう請求する(または修補を請求する)

✅ 代金減額請求(民法563条)
履行の追完請求をしたにもかかわらず、相手方が対応してくれない場合に、代金の減額を請求する

✅ 損害賠償請求(民法564条、415条1項)
相手方に対して損害賠償を請求する

✅ 契約の解除(民法564条、541条、542条)
相手方との契約を解除する

契約不適合責任に関する条項は、特に、継続的な売買契約において重要になります。納品された物の検収を行うに当たっては、契約内容をきちんと把握し、契約不適合が発生していないかをモニタリングすることが大切です。

契約解除条項

契約解除条項とは、契約解除事由が発生した場合に、契約を解除できる条項です。

契約解除条項を定める目的は、取引に支障をきたすような事態が発生したときに契約を速やかに終了させることで、自社への損失を最小限に抑えることにあります。そのため、契約締結後は、相手方が契約解除事由に該当する事態を発生させていないかをモニタリングする必要があります。

同時に、自社が契約解除事由を発生させた場合、相手方から契約を解除されるリスクがあります。契約解除事由を発生させないように、自社のオペレーションを継続的にモニタリングすることが大切です。

契約解除事由の例

✅ 契約違反が催告から一定期間を経ても是正されない場合
✅ 重大な契約違反が発生した場合
✅ 監督官庁から営業停止処分などを受けた場合
✅ 当事者について倒産手続きが開始した場合
✅ 当事者について民事保全処分または強制執行が行われた場合
✅ 当事者が解散した場合
✅ 当事者の信用状況が著しく悪化した場合

なお、契約違反が発生した場合については、契約解除を認める前に、一定の是正期間を設けるのが一般的です。軽微な契約違反が生じた場合に、直ちに契約解除事由に該当してしまう不都合を回避する目的があります。

契約違反を犯したのが相手方なのか、自社なのかを問わず、是正期間中はいっそう慎重なモニタリングが求められます。

損害賠償条項

損害賠償条項とは、当事者に何らかの契約違反があった場合に適用される、損害賠償のルールを定めた条項です。

相手方が契約違反を犯した場合は、損害賠償請求を検討する必要があります。そのため、契約上の損害賠償条項に照らして、どの程度の金額を請求できるのか、いつまでに請求しなければならないのかを把握しておきましょう。

反対に、自社が契約違反を犯してしまった場合には、相手方から損害賠償請求を受ける可能性があります。自社がどの程度の金額を支払わなければならないのか、どのように反論すべきなのかなどを検討して、相手方の請求に備えておきましょう。

損害賠償条項の主な内容

✅ 損害賠償の範囲(故意・過失、通常損害・特別損害など)
✅ 損害賠償額の算定方法
✅ 損害賠償の限度額
✅ 損害賠償請求の期限

不可抗力条項

不可抗力条項とは、契約当事者にはどうしようもない(不可抗力といえる)事象により、契約上の義務を履行できなかった場合は、免責されることを定めた条項です。

昨今、新型コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻など、突発的な「事象」が相次いで発生しており、不可抗力条項の重要性が増しています。

そのため、リスクマネジメントの観点から、締結済の契約書について、

①そもそも不可抗力条項が定められているか
②(記載がある場合)不可抗力事由として定められているものが、現環境においても問題ないか(追加すべきものはないか)

などを確認することが望ましいです。

再委託条項

再委託条項とは、自社が委託した業務を、相手方が第三者に再委託する際のルールを定めた条項です。

業務委託契約では、再委託条項が定められることが多いです。委託者側の場合は相手方が、受託者側の場合は自社が、再委託条項に違反していないかどうかを継続的にモニタリングする必要があります。

再委託条項の主な内容

✅ 再委託できる業務の範囲
✅ 再委託先の指定(もしあれば)
✅ 再委託先の故意・過失により発生した損害の負担について

相手方による再委託は、納品物やサービスの質の変化などをきっかけに判明することがあります。

・再委託そのものが契約違反に当たる場合
・指定された再委託先以外へ再委託されている場合
には、直ちに相手方に対してクレームを入れましょう。

これに対して、自社が再委託を行う場合は、契約内容に沿っているかどうかを確認した上で相手方に事前通知を行うことが、トラブル予防の観点から大切になります。

地位の譲渡禁止条項

地位の譲渡禁止条項とは、相手方の承諾を得ずに、契約上の地位を第三者に譲渡することを禁止する条項です。

ヒー

契約上の地位とは、何でしょうか。

ムートン

簡潔にいうと、「当事者として有する一切の権利義務」ですね。契約が締結されると、権利義務が発生しますよね。これらを全て譲渡してしまうことが「契約上の地位の譲渡」に該当します。

地位の譲渡禁止条項は、一般条項としてさまざまな契約に定められています。

地位の譲渡禁止条項は、相手方または自社が事業譲渡を行う場合などに問題となることがあります。地位の譲渡が発生しそうな場合には、自社が本条項違反とならないか(相手方が本条項違反をしていないか)を必ず確認しましょう。

契約内容の変更に関する条項

契約内容の変更に関する条項とは、契約締結後に、内容を変更する場合のルールを定めた条項です。

契約内容の変更に関する条項にそぐわない形で変更を行うと、契約違反となってしまいます。そのため、契約内容を変更する際は、必ずこの条項をチェックしましょう。

一般的な契約では、単に「契約は当事者の合意によって変更できる」という内容だけを定めているケースが多いです。ただし、定型約款の場合は、以下のいずれかに該当する場合であれば、事業者側が一方的に変更できます。

✅内容の変更が、相手方にとって利益となるとき

✅内容の変更が契約の目的に反せず、かつ以下の事情に照らして合理的なものであるとき
・変更の必要性
・変更後の内容の相当性
・定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無、内容
・その他の変更に係る事情

定型約款の変更については、契約の中で手続きが定められていますので、その内容を十分に確認した上で変更対応を行ってください。

期限の利益喪失条項

期限の利益喪失条項とは、債務者の契約違反などがあった場合に、「期限の利益」を喪失させ、前倒しで全ての債務を履行させる旨を定めた条項です。

期限の利益とは

期限の利益」とは、一定の期日が到来するまでの間、債務を履行しなくてよい利益を意味します。

例えば、売買契約では、物を購入した側は代金を支払う義務を負い、通常は、物の納品と同時に代金を渡さないといけません。しかし、契約書で、月末にまとめて払うと定めることで、一定の期限の間、代金の支払いを待ってもらえるという利益(=期限の利益)が発生します

金銭消費貸借契約や取引基本契約などでは、期限の利益喪失条項が定められます。「期限の利益喪失となる条件」(=期限の利益喪失事由)が明記されています。

契約締結後は、期限の利益喪失事由の内容を把握し、相手方にこうした事由が発生していないかを継続的にモニタリングする必要があります。
特に、「取引の継続が不可能なことが明らかである重大な事由」が発生していないかは、要チェックです。もし発生していれば、速やかな債権回収を図る必要があるためです。

契約類型ごとにモニタリングすべき条項もあるので要注意

なお、上記に挙げた条項以外にも、契約類型ごとにモニタリングすべき条項があります。契約の目的・内容に応じて、モニタリングすべき条項を漏れなく把握することが大切です。

業務委託契約

・報酬に関する条項
→業務委託報酬の金額については、市況に合わせて見直しを交渉することも考えられます。また、報酬の支払い時期や支払い方法については、実態に合っていない場合や、実務上の不都合がある場合は変更を検討しましょう。

・納品、検収の方法に関する条項
→納品後の検収に要する期間、修正の上限回数、検収結果の通知方法などについて、実態に合っていない場合や、実務上の不都合がある場合は変更を検討しましょう。

知的財産権のライセンス契約(特許権・著作権・商標権など)

・ライセンス料に関する条項
→製造原価・純利益・売上高などの実績値に応じてライセンス料が決まる場合は、ライセンサーからの報告や帳簿の閲覧等を通じて、継続的なモニタリングを行う必要があります。

・ライセンスの条件に関する条項
→許諾される行為の内容、対象地域、分野・数量・販売先顧客などの範囲、製品表示などに関する条件が、きちんと順守されているかどうか確認することが必要です。

人材紹介契約

・手数料に関する条項
→手数料が適切に計算され、支払われているかどうかを常にチェックする必要があります。

・職業安定法上明示すべき事項に関する条項
→人材紹介会社は、求人者および求職者に対して、職業紹介事業の業務に関する一定の事項を明示する義務を負っています(職業安定法32条の13、同法施行規則24条の5第1項)。人材紹介契約において明示された当該事項に変更があった場合は、変更内容を契約に反映しなければなりません。

この記事のまとめ

契約締結後もモニタリングすべき条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!