損害賠償条項とは?
民法上のルール・例文・
レビューポイントなどを解説!

この記事のまとめ

「損害賠償条項」とは、当事者に何らかの契約違反があった場合に適用される、損害賠償のルールを定める条項です。

損害賠償条項では、損害賠償に関する民法の原則を踏襲する場合もあれば、独自のルールを定める場合もあります。

民法とは異なるルールを定める場合は、
✅  損害賠償責任の発生要件(何をしたら損害賠償をしなければならないか)
✅  範囲(賠償しなければならない範囲はどこまでか)
✅  上限(損害賠償をする金額の上限をつけるか、つけるならいくらまでか)
などにつき、契約交渉を通じて当事者間で調整を行います。

損害賠償条項をレビューする際には、自社にとっての重大なリスクが顕在化した場合に、相手方に対してきちんと損害賠償を請求できるかどうかを最優先で確認しなければなりません。また、損害賠償条項の内容を適切なものとするためには、民法の原則と比較したり、当事者間の公平性を確認したりすることも重要です。

今回は損害賠償条項について、規定すべき事項・例文・レビューのポイントなどを解説します。

損害賠償が発生する機会なんてそうそうないと思うのですが、損害賠償条項って重要でしょうか。

万が一に備えておくのが契約書を作成する意義の一つです。リスクマネジメントの観点から損害賠償条項は非常に重要なので、レビューポイントなどをきちんと把握しておきましょう!

※この記事は、2022年8月18日時点の法令等に基づいて作成されています。

損害賠償条項とは

「損害賠償条項」とは、当事者に何らかの契約違反があった場合に適用される、損害賠償のルールを定める条項です。

<損害賠償条項の例>

損害賠償については、民法に条文があるため、契約書に損害賠償についての条文がなくても請求することが可能です。(具体例な民法のルールについては、「損害賠償条項に関する民法上のルール」で詳しく解説します。)

しかし、契約ごとに適用されるルールを明確化するため、又は民法のルールから変更するため、多くの契約において損害賠償条項が定められています。

「法律は絶対」と思っていましたが、法律(民法)のルールから変更することができるんですか?

できますよ。法律には大きく、強行規定任意規定の2種類があるんです。それぞれの意味は、以下のとおりです。

強行規定・任意規定の違い

✅  強行規定
契約で法令と別の内容を定めたとしても、法令が優先して適用される規定

✅  任意規定
契約で法令と異なる内容を任意で定めた場合、法令よりも契約の内容が優先して適用される規定
(ただし契約で別の内容を定めない場合は、自動的に法律のルールが適用される)

民法の損害賠償の条文は任意規定なので、契約で別のルールに変更することができるのです。ただし、損害賠償の金額に合理性がない、損害賠償責任の内容があまりにも偏っているなど、公序良俗や信義則に反する場合は無効になることもあるので、注意しましょう。

損害賠償と違約金の違い・関係性

損害賠償と似た意味で用いられる用語として「違約金」があります。法律・契約の観点からは、損害賠償と違約金は以下のとおり区別されます。

損害賠償と違約金の違い

✅  損害賠償
→契約違反(債務不履行)又は不法行為により損害を被った場合、相手に対して損害を賠償してもらうために請求できる金銭を意味します。民法に損害賠償の規定があるため、契約で規定していなくても、損害賠償の請求は可能です。

✅  違約金
→契約違反があった場合に支払うことを、当事者間であらかじめ合意した金銭を意味します。契約に規定がなければ、違約金の請求はできません。

なお、契約では、

の両方があり得ます。どちらの取扱いになるかは、契約の定めによって決まります。

損害賠償条項に関する民法上のルール

民法では、契約の相手方が何らかの債務不履行(契約違反)を犯した場合、相手方に対して損害賠償を請求できる旨が明記されています(民法415条、416条)。

契約で損害賠償条項が定められていなければ、契約違反時の損害賠償については民法のルールが適用されます。

民法に基づく損害賠償が認められるのは、以下の要件を全て満たす場合です。

民法に基づく損害賠償請求の要件

✅  債務者(義務を負う側)が債務の履行をしない(=義務を果たさない)こと、又は債務の履行が不可能であること
✅  契約その他の債務の発生原因・取引上の社会通念に照らして、債務者の責めに帰すべき事由(=故意や過失)があること
✅  債権者に生じた損害が、以下のいずれかに該当すること
・債務不履行によって通常生ずべき損害
・債務者がその事情を予見すべきであった特別の事情によって生じた損害

損害賠償条項をレビューする際には、上記の民法上の要件と比較検討する視点が重要になります。

契約書に損害賠償条項を定める目的

契約に損害賠償条項を定める目的としては、大きく以下の2点が挙げられます。

民法とは異なる損害賠償のルールを定める

契約において民法とは異なる損害賠償のルールを定めた場合、契約上のルールが優先的に適用されます(契約自由の原則)。

民法のルールよりも、損害賠償責任の範囲を広げたり、逆に狭めたりする場合には、契約に損害賠償条項を定めることが必要です。

契約違反時の損害賠償責任を明確化する

損害賠償条項には、契約違反時の損害賠償責任の内容を明確化する意義もあります。

仮に民法と全く同じ内容を定めるとしても、「民法の規定に従う」と明記することは、損害賠償に関して適用されるルールを明確化する点で有意義です。そのため、多くの契約において損害賠償条項が規定されています。

損害賠償条項に規定すべき事項

損害賠償条項には、主に以下の事項を定めておきましょう。

損害賠償責任の発生要件

民法では損害賠償責任が発生するための要件として、「債務者の責めに帰すべき事由があること」、つまり債務不履行が、違反者の「故意(わざとすること)」又は「過失(不注意により起こったこと)」によって発生したことが要件とされています。

しかし繰り返し述べてきたとおり、これらの要件は変更することが可能であり、実務上は、以下のいずれかの要件に変更するケースが多いです。

損害賠償条項の発生要件

✅  故意・過失の有無を問わず、損害賠償責任を負う
✅  故意又は過失がある場合に限り、損害賠償責任を負う(民法と同じ)
✅  故意又は重過失がある場合に限り、損害賠償責任を負う
✅  故意がある場合に限り、損害賠償責任を負う

軽過失と重過失の違い

意図的であることを意味する「故意」に対して、「過失」とは不注意であること(注意義務違反)を意味します。注意義務違反の程度によって、過失は「軽過失」と「重過失」の2つに分類されます。

軽過失と重過失の違い

✅  軽過失
→通常の注意を払えば債務不履行(契約違反)を回避できたにもかかわらず、通常の注意を払わなかった結果、債務不履行を発生させたこと

✅  重過失
→わずかな注意を払えば債務不履行を回避できたにもかかわらず、わずかな注意を払わなかった結果、債務不履行を発生させたこと

損害賠償条項において、損害賠償責任の発生要件を「故意又は重過失」に限定する場合、損害賠償が認められる範囲はかなり狭くなる点に注意する必要があります。

<民法の損害賠償責任の発生要件まとめ>

損害賠償責任の範囲

契約上の損害賠償条項では、損害賠償責任の範囲を、以下のいずれかの中から選択して定めるのが一般的です。

損害賠償条項における損害賠償責任の範囲

✅  一切の損害について賠償責任を負う
✅  通常損害と、予見可能な特別損害についてのみ賠償責任を負う(民法と同じ)
✅  通常損害についてのみ賠償責任を負う

また、直接損害と間接損害(詳しくは「直接損害と間接損害の違い」で解説します)を区別した上で、損害賠償責任を直接損害に限定するケースもあります。さらに、弁護士費用を損害賠償の対象とする旨を特に明記することもあります。

通常損害と特別損害の違い

通常損害と特別損害は、以下のように区別されます。

通常損害と特別損害の違い

✅  通常損害
→債務不履行によって、社会通念上通常生ずべき損害です。債務不履行との間に「相当因果関係」がある損害と表現される場合もあります。

✅  特別損害
→特別の事情によって生じた損害です。通常損害に当たらない損害は、特別損害に当たります。

民法では、通常損害は全て損害賠償の対象である一方で、特別損害は債務者が予見できたものに限り損害賠償の対象です。

そのため、損害賠償条項では、特別損害を損害賠償請求ができる範囲に含めるかどうかが主に問題となります。

直接損害と間接損害の違い

直接損害と間接損害は、以下のように区別されます。

直接損害と間接損害の違い

✅  直接損害
→実際に金銭の支出を伴う損害です。修理費などの実費や、第三者に対して支払う損害賠償や違約金の実額などが挙げられます。

✅  間接損害
→実際に金銭の支出を伴わない損害です。取引機会を逃したことによる逸失利益や、ブランドイメージの低下に伴う無形の損害などが挙げられます。

間接損害は範囲が広がりすぎる傾向にあるため、損害賠償条項において、間接損害を賠償の範囲から除外することがあります。

弁護士費用は損害賠償の対象になるか

債務不履行の場合、損害賠償請求の際に発生する弁護士費用は、原則として損害賠償の対象になりません。

しかし、損害賠償条項で定めておけば、弁護士費用も損害賠償の対象に含めることができます。ただし、弁護士費用の損害賠償請求を認めるとしても、合理的な範囲に限定する旨を明記しておくべきでしょう。

損害賠償の上限(任意)

損害賠償の金額が想定外に大きくなってしまうリスクを回避するには、損害賠償の上限を定めることが考えられます。

例えば取引代金を上限としたり、「1,000万円」などのキリがよい金額を上限としたりするケースが多いです。損害賠償の上限を定める場合は、取引の実態に合った金額を設定しましょう。

パターン別|損害賠償条項の条文例(例文)

これまで解説した各要素を踏まえて、損害賠償条項の条文例のパターンを紹介します。

民法の原則に従う場合

民法の原則に従う場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、民法の規定に従い、当該違反によって相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。

責任の発生を重過失時に限定する場合

責任の発生を重過失時に限定する場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、故意又は重過失がある場合に限り、当該違反によって相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。

賠償の範囲を通常損害・直接損害に限定する場合

賠償の範囲を通常損害・直接損害に限定する場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、故意又は過失がある場合に限り、当該違反によって相手方に直接生じた損害(通常損害に限る)を賠償する責任を負う。

賠償の範囲を幅広く設定する場合

賠償の範囲を幅広く設定する場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、故意又は過失の有無にかかわらず、当該違反によって相手方に生じた一切の損害を賠償する責任を負う。

弁護士費用を損害賠償の対象とする場合

弁護士費用を損害賠償の対象とする場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、故意又は過失がある場合に限り、当該違反によって相手方に生じた損害(損害賠償請求に要する合理的な弁護士費用を含む)を賠償する責任を負う。

損害賠償の上限を設ける場合

損害賠償の上限を設ける場合の損害賠償条項例

本契約に違反した当事者は、故意又は重過失がある場合に限り、当該違反によって相手方に生じた損害を賠償する責任を負う。ただし、本条に基づく損害賠償の上限は○万円とする。

損害賠償条項をレビューする際のポイント

損害賠償条項をレビューする際には、契約上の立場を踏まえつつ、自社にとって不利益な内容ではないかを確認することが重要になります。具体的には、以下の観点から損害賠償条項のレビューを行うのがよいでしょう。

重大なリスクがカバーされていることを確認する

相手方の契約違反により、自社に重大な損害が発生するリスクが想定される場合には、万が一に備え、確実に損害賠償を請求できるようにしておくことが大切です。

契約締結前の段階で、取引から想定されるリスクを十分に分析した上で、損害賠償条項を含めた契約内容の細部を詰めていきましょう。

民法の原則と比較する

損害賠償条項では、責任の発生要件や損害賠償の範囲について、民法と異なるルールが定められるケースがあります。その場合は、民法と比較する意識で損害賠償条項を確認すべきです。

なお、民法よりも損害賠償責任を重くする方が有利なのか、それとも軽くする方が有利なのかは、契約上の立場によって異なります。売買契約における売主・買主を例に検討してみましょう。

【売主側】賠償責任を軽くする方向で検討する

売買契約では、売主は

など、さまざまな義務を負います。そのため、売買契約における債務不履行は、売主側に発生する可能性が高い傾向にあります。

売主としては、自社が債務不履行を起こすリスクを負っていることを踏まえて、損害賠償条項に基づく責任の発生要件を厳格化し、損害賠償の範囲についても狭く定めた方が有利です。

【買主側】賠償責任を重くする方向で検討する

これに対して、売買契約の買主は、代金さえ支払えば契約上の義務の大半を履行できます。そのため、買主が債務不履行を起こす可能性は、一般に低いと言えるでしょう。

買主の立場では、売主が債務不履行を起こすことで、自社が損害を被るリスクの方が強く懸念されます。したがって、損害賠償条項に基づく責任の発生要件を緩やかにしつつ、損害賠償の範囲については広く定めた方が買主にとって有利です。

公平な内容であることを確認する

損害賠償条項の内容は、全ての当事者にとって公平な内容とするのが原則です。

しかし中には、一部の当事者の損害賠償責任が完全に免責されている例が見られます。また、一部の当事者については軽過失を免責する一方で、残りの当事者については軽過失でも責任を負わせるなど、偏った損害賠償条項が定められているケースも多いです。

少なくとも、自社の損害賠償責任が他の当事者よりも重くなっている場合、損害賠償条項の修正を求めるべきでしょう。

この記事のまとめ

損害賠償条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!