誠実協議条項とは?
定める目的・例文などを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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「誠実協議条項」とは、契約に定めがない事項や、契約の解釈に関する疑義が生じた場合に、当事者が誠実に協議して解決を図るべき旨を定めた条項です。
日本では、契約書の中に誠実協議条項を定めるケースがよく見られます。日本特有の契約実務における慣習を反映したものといえますが、当事者間の信頼・協力関係を確認する意味合いがあります。
誠実協議条項そのものに法的効力はないため、関連する他の具体的な契約条項を充実させることが重要です。
今回は誠実協議条項について、定める目的・例文などを分かりやすく解説します。
(※この記事は、2022年10月25日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)
目次
誠実協議条項とは
「誠実協議条項」とは、契約に定めがない事項や、契約の解釈に関する疑義が生じた場合に、当事者が誠実に協議して解決を図るべき旨を定めた条項です。
日本では、幅広い契約において誠実協議条項が定められています。
誠実協議条項の条文例(例文)
誠実協議条項の例文を紹介します。
- 例文
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本契約に定めのない事項、または本契約の解釈について疑義が生じた場合は、当事者は本契約の趣旨に従い、誠意をもって協議し、解決するものとする。
誠実協議条項は、本文の最後に置くのが一般的です。
誠実協議条項に法的効力はない
誠実協議条項は、当事者間の権利義務を定めるものではなく、法的効力を有しないと解されています。
例文では「誠意をもって協議し、解決するものとする」とありますが、契約トラブルについて相手方との協議に応じなかったとしても、それを理由に法的なペナルティを受けることはありません。絶対に協議で解決する必要があるわけでもなく、調停・訴訟などの法的手続きを利用する権利は、当然に両当事者に認められます。
誠実協議条項を定める主な理由・目的
法的効力がないにもかかわらず、誠実協議条項は非常に多くの契約において定められています。その理由・目的は、主に以下の2点であると考えられます。
日本における契約実務の慣習のため
誠実協議条項を定めることは、実は日本の契約実務に限って見られる特徴です。例えば米国企業同士が締結する契約では、誠実協議条項に相当する規定はほとんど見られません。
日本における企業間取引では伝統的に、契約書に細かいルールを書き込まず、トラブルが起こったら「暗黙の了解」「信頼関係」などをベースに解決しようとする慣習のようなものが存在しました。
このような慣習の下では、契約上想定されていないトラブルが頻繁に発生します。その際には、当事者が誠実に協議して問題解決を図ることを注意的に確認するため、誠実協議条項が設けられるケースが多かったものと思われます。
最近20~30年程度の傾向では、日本の契約実務にも米国などの考え方が導入され、契約書の中に細かいルールを書き込むケースが増えました。しかし、「トラブルが起こったら誠実協議」という慣習的な考え方の名残なのか、日本の契約のうち大部分では、依然として誠実協議条項が定められている状況です。
当事者間の信頼・協力関係を確認するため
誠実協議条項に法的効力はありませんが、ルールから離れて契約当事者間の信頼・協力関係を確認する点では、一定の意義があると思われます。
一般に契約書を締結する目的は、当事者間で取引に関するルールを定め、相手側とのトラブルに備える点にあります。これは、契約当事者の対立関係に注目した考え方です。この考え方からすれば、法的効力のない誠実協議条項は、全く意味のない条項ということになります。
その一方で、契約当事者は最初からトラブルを起こそうと思っているわけではありません。相手方と協力してwin-winの取引を実現したいというのが、契約当事者の望むところでしょう。
契約書には当事者の対立関係、いわば「性悪説」を前提としたさまざまなルールが書き込まれます。その中で、契約書の最後に「性善説」を前提とした誠実協議条項を定めれば、当事者間の対立関係が強調され過ぎることを防げると見ることもできるでしょう。
誠実協議条項をレビューする際の注意点
誠実協議条項には法的効力がないため、契約書をレビューする際にも、特に神経質になってチェックする必要はありません。強いていえば、誠実協議条項が定められた位置などをチェックしておけばよいでしょう。
むしろ、誠実協議条項以外の具体的な条項をきちんとチェックすることが、契約書のレビューに当たっては重要となります。
誠実協議条項は本文の最後に定める
一般に契約条項は、契約書のどの位置に定められたとしても、法的効力が変わることはありません。規定された位置にかかわらず、当事者の合意内容を構成することには変わりがないからです。
ただし、契約書を読みやすくするため、条文の順序はある程度論理的に決めることが望ましいです。例えば、用語の定義や目的などに始まり、契約のメインとなる取引の内容・条件などを定めた後、損害賠償や解除などトラブル発生時のルールを定める……といった順序が考えられます。
条文の位置(順序)という観点からは、誠実協議条項は、本文の最後の条文として定めるのが適切です。
誠実協議条項では前掲例文のとおり、契約に定めのない事項や、契約解釈に関する疑義について、誠実協議のうえで解決すべき旨が定められます。
もし本文の途中の不自然な位置に誠実協議条項が定められていたら、本文の末尾に移動しておくのがよいでしょう。
他の具体的な条項を充実させることが重要
誠実協議条項には法的効力がないため、契約書の中で重要な位置付けを占めることはありません。
当事者間で契約トラブルが発生した際に、紛争の泥沼化や自社にとっての不測の損害を避けるためには、それ以外の具体的な条項を充実させることの方が重要です。
したがって契約書をレビューする際には、誠実協議条項よりも、紛争発生時に適用され得る他の条項に着目して、公正な内容になっているか、自社に不当な不利益をもたらし得る内容ではないかなどをチェックしてください。
誠実協議条項に関連してチェックすべきその他の条項
契約トラブル発生時のリスクをコントロールするには、契約書をレビューする際、以下の条項をきちんと精査する必要があります。
損害賠償条項
「損害賠償条項」とは、当事者に何らかの契約違反があった場合に適用される、損害賠償のルールを定めた条項です。
相手方または自社が契約違反を犯し損害が発生した際、当事者間における金銭精算のルールを明確化するために設けられます。
民法にも債務不履行(=契約違反)に基づく損害賠償責任が定められていますが、契約中の損害賠償条項により、民法とは異なるルールを定めることもできます。
契約解除条項
「契約解除条項」とは、当事者のいずれかが一方的に契約を解除できる場合(=契約解除事由)や、解除の手続きなどを定めた条項です。
契約の解除を検討すべきなのは、相手方との取引を継続することが不適切となる重大事象が発生した場合です。
中途解約条項
「中途解約条項」とは、契約期間の途中であっても、当事者のいずれかが一方的に契約を終了させられる旨を定める条項です。
- 中途解約条項と契約解除解除の違い
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✅ 中途解約条項
→理由のいかんにかかわらず、契約によって定められた手続きを踏めば、契約を終了させることができる✅ 契約解除条項
→契約解除事由や、相手方の債務不履行が存在する場合に限り、契約を終了させることができる
契約解除事由に該当しなくても、中途解約条項を定めておけば、所定の手続きを踏むことで契約を解消できる場合があります。
期限の利益喪失条項
「期限の利益喪失条項」とは、債務者の契約違反などがあった場合に、本来の履行期限よりも前倒しで全ての債務を履行させる旨を定めた条項です。
期限の利益喪失条項は、金銭消費貸借契約(ローン契約)などで定められます。
準拠法条項
「準拠法条項」とはその契約書がどのような法律に従って解釈されるのかを定める条項です。主に、海外企業との契約において重要になる条項です。
- 準拠法条項の例文
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この契約は、日本法に準拠し、日本法に従って解釈される。
当事者は通常、自国の法律を準拠法とすることを望みます。
例えば日本企業と米国カリフォルニア州企業との間の取引では、日本企業は日本法を準拠法とすることを望み、米国カリフォルニア州企業はカリフォルニア州法を準拠法とすることを望むのが通常です。
合意管轄条項
「合意管轄条項」とは、その契約に関する紛争について、どの裁判所で取り扱うことにするかを定める条項です。
- 合意管轄条項の例文
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この契約に関する一切の紛争については、東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。
合意管轄の定め方には以下の2種類あります。
①専属的合意|ある地の裁判所を、対象となる紛争の専属的な管轄裁判所とする合意
※当該合意により、対象となる紛争については、当該裁判所でしか訴訟を提起できなくなる
②付加的合意|法律上管轄が認められる裁判所に加えて、その他の地の裁判所にも対象となる紛争について管轄を認める合意
合意管轄条項は、当事者の予測可能性を担保するために設置する条項なので、実務においては①専属的合意を行うのが一般的です。
この記事のまとめ
誠実協議条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!