同一労働同一賃金に関する
最高裁判決を解説!

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株式会社LegalOn Technologies弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。社内で法務開発等の業務を担当する。LegalOn Technologiesのウェブメディア「契約ウォッチ」の企画・執筆にも携わる。
この記事のまとめ

同一労働同一賃金に関する最高裁判決を解説!

2020年10月に同一労働同一賃金に関する一連の事件について、最高裁の判決が出されました。
重要な判決なので、内容を理解しておきましょう。

この記事では、「同一労働同一賃金に関する最高裁判決」の論点、判決内容などを解説します。

先生、同一労働同一賃金に関する最高裁判決が注目されているようですが、具体的には何が問題となっていたのでしょうか?

退職金などの待遇に関して、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の間の待遇差が問題となっていた裁判ですね。裁判における論点や、最高裁の判決の内容を見てみましょう。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 旧労働契約法…平成30年法律第71号による改正前(2020年4月1日施行前)の労働契約法(平成19年法律第128号)
  • パートタイム・有期雇用労働法…平成30年法律第71号による改正後(2020年4月1日施行後)の短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年第76号)

(※この記事は、2021年1月22日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。)

同一労働同一賃金に関する最高裁判決の論点は?

2020年10月に相次いで最高裁判決が出た、同一労働同一賃金に関する裁判の主な論点は、以下となります。

  • 論点
    正規雇用労働者(正社員)と、非正規雇用労働者の待遇差」について、旧労働契約法20条(現在は、2020年4月施行 のパートタイム・有期雇用労働法8条に移行され削除された)が定める「同一労働同一賃金」(不合理な待遇の禁止)に違反しているか?

不合理な待遇の禁止とは?

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差が不合理な待遇の禁止といえるか否かは、 以下の要素を考慮して判断することとされています(パートタイム・有期雇用労働法8条)。

不合理な待遇の禁止といえるか、の判断要素

①業務内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下、「職務の内容」といいます。)
②職務の内容及び配置の変更の範囲
③その他の事情

正規雇用労働者と非正規雇用労働者の、不合理な待遇差の禁止については、旧労働契約法20条に規定されていましたが、 働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)によって削除され、パートタイム・有期雇用労働法8条に移行しました。

このとき、「待遇の性質及び当該待遇を行う目的」に照らして上記判断要素のうちどの要素を考慮するかを判断することが明記されました。

なお、旧労働契約法20条からパートタイム・有期雇用労働法8条に移行する以前にも、以下のような判決が出ています。

「労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮する 事情として、「その他の事情」を挙げているところ、その内容を職務内容及び変更範囲に関連する事情に限定すべき理由は見当たらない。
したがって、有期契約労働者と無期契約労働者との労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断する際に考慮されること となる事情は、労働者の職務内容及び変更範囲並びにこれらに関連する事情に限定されるものではないというべきである。」
「労働者の賃金が複数の賃金項目から構成されている場合、個々の賃金項目に係る賃金は、通常、賃金項目ごとに、その趣旨を異にする ものであるということができる。そして、有期契約労働者と無期契約労働者との賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか 否かを判断するに当たっては、当該賃金項目の趣旨により、その考慮すべき事情や考慮の仕方も異なり得るというべきである。
そうすると、有期契約労働者と無期契約労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が不合理と認められるものであるか否かを判断するに 当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」
(最判平成30年6月1日・民集72巻2号202頁・平成29年(受)422号)

旧労働契約法20条の趣旨は以下と解されています。

「労働契約法20条は、有期労働契約を締結している労働者(以下「有期契約労働者」という。)の労働条件が、 期間の定めがあることにより同一の使用者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件と相違する場合においては、 当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない旨を定めている。 同条は、有期契約労働者については、無期労働契約を締結している労働者(以下「無期契約労働者」という。)と比較して合理的な労働条件の 決定が行われにくく、両者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、 期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものである。」
(最判平成30年6月1日・民集72巻2号88頁・平成28年(受)2099号、2100号)。

旧労働契約法
第20条(←平成25年4月1日の改正で新設された)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない 労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、 当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び 当該業務に伴う責任の程度(以下この条において「職務の内容」という。)、 当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。

労働契約法の一部を改正する法律(平成24年8月10日法律第56号)

パートタイム・有期雇用労働法
第8条
事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、 当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の 業務の内容及び 当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、 当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)– e-Gov法令検索 –電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

旧労働契約法20条の解釈

旧労働契約法20条の解釈については、厚生労働省の「労働契約法のあらまし」において、以下のような見解が示されていました。

旧労働契約法20条の解釈

「労働条件」:賃金、労働時間のみならず、災害補償、服務規律、教育訓練、福利厚生などの一切の待遇を含む。
「同一の使用者」:事業場単位ではなく、労働契約締結の主体で判断される。同一法人の労働者であれば、20条の問題が生じる。
「①職務の内容」:労働者が従事している業務内容、業務に伴う責任の程度。
「②職務の内容及び配置の変更の範囲」:今後の見込みも含め、転勤、昇進といった人事異動や本人の役割の変化などの有無や範囲。
「③その他の事情」:合理的な労使の慣行などの諸事情。

*通勤手当、食堂の利用、安全管理などについての待遇差は、「特段の事情がない限り」不合理と解される。

また、旧労働契約法20条に基づいて、待遇差が不合理と判断されると、 当該労働条件は無効となります。 非正規雇用労働者は、会社に対して不法行為に基づき損害賠償請求をすることができます。 また、無効とされた労働条件については、正規雇用労働者と同じ労働条件が認められることになります。

同一労働同一賃金ガイドライン

厚生労働省は、同一労働同一賃金ガイドライン(厚生労働省告示第430号)を公表しています。
このガイドラインが、2020年4月1日から(中小事業主については、2021年4月1日から)適用されています。

このガイドラインは、「正社員と非正規雇用労働者との間で、いかなる待遇差が不合理なものであり、 いかなる待遇差は不合理なものでないのか、原則となる考え方と具体例を占めたもの」 (「同一労働同一賃金ガイドライン」の概要、より)です。

同一労働同一賃金に関する最高裁判決

2020年の10月13日、10月15日に相次いで注目を集めた裁判の最高裁判決が出されました。いずれも、 同一労働同一賃金に関する判決、つまり、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差に関する判決です。

論点判決
大阪医科薬科大学事件
(最判令和2年10月13日・令和元年(受)1055号、1056号)
有期アルバイトへの(i)賞与と(ii)私傷病時の休業補償の不支給は不合理か(いずれも)不合理ではない
メトロコマース事件
(最判令和2年10月13日・令和元年(受)1190号、1191号)
有期社員への退職金の不支給は不合理か不合理ではない
日本郵便事件
(3つの訴訟。最判令和2年10月15日・令和元年(受)777号、778号、794号、795号、平成30年(受)1519号)
(i)夏期冬期休暇、(ii)有給の病気休暇、(iii)年末年始の勤務手当、(iv)扶養手当などに関する正社員・有期社員間の待遇差は不合理か(いずれも)不合理である

以下、各裁判について原審及び最高裁の判断の内容を解説します(判断の内容については、記事執筆者の要約となります)。

大阪医科薬科大学事件

第1審原告有期アルバイト(契約を更新しながら3年2か月ほど勤務。ただし最後の1年ほどは適応障害のため、1か月は有給休暇、残りは欠勤扱い。)
第1審被告大阪医科大学(平成28年の合併で「大阪医科薬科大学」に名称変更。)
賞与私傷病時の休業補償
原審被告の正職員に対する賞与は基本給にのみ連動するもので、年齢・成績・被告の業績にも連動しておらず、 在籍し、就労していたことへの対価としての性質がある。
→同期間に在籍し就労していたアルバイトに全く支給しないことは不合理。
正職員への賞与は長期就労への誘因という趣旨があること、アルバイトの功労は正職員より相対的に低いことからすると、 正職員の支給基準の60%は認めるべき。
被告の私傷病による欠勤中の賃金は、継続した就労への評価、または将来にわたり継続した就労することへ の期待からその生活保障を図る趣旨である。フルタイムで契約更新したアルバイトは、貢献の度合いも相応にあり、生活保障の必要もある。
→欠勤中の賃金を一切支給しないことは不合理。
アルバイトの契約期間が原則1年であり、長期雇用が前提ではないことからすれば、欠勤中の給料1か月、 休職給2か月は認めるべき(正職員は給料6か月、その後は休職給となる)。
最高裁【規範】(賞与について)
「労働契約法20条は、有期労働契約を締結した労働者と無期労働契約を締結した労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、 有期労働契約を締結した労働者の公正な処遇を図るため、その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、 両者の間の労働条件の相違が賞与の支給に係るものであったとしても、それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。」
「もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、当該使用者における賞与の性質やこれを支給することとされた 目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」
(賞与の支給の差が、不合理になる場合があることは認めた上で)
本件賞与は、労務の対価の後払いや一律の功労報償、将来の労働意欲の向上などの趣旨を含む。
被告は、正職員としての職務を遂行しうる人材の確保やその定着を図る目的から正職員に対して賞与を支給するものとした。
・アルバイトの業務は、相当に軽易であるが、正職員は、学術誌の編集事務、病理解剖に関する遺族などへの対応などの業務があり、職務内容に相違があった(①)。
・正職員は、人事異動を命ぜられる可能性があったが、アルバイトは、原則として配置転換されることはなかった(②)。
・教室事務員である正職員が他の大多数の正職員と職務の内容などを異にすることについては、教室事務員の業務の内容や被告の人員配置の見直しなどに起因する事情がある(③)。
・アルバイトについては、契約職員・正職員への職種変更するための試験による登用制度があった(③)。
→不合理ではない。
私傷病の休業補償は、職員の雇用を維持し確保することを前提とした制度である。
賞与に関する判断で挙げた各事情に加えて、アルバイトは長期雇用を前提として勤務を予定していると言い難いことから、 休業補償制度の趣旨が直ちに妥当するものではない。
→不合理ではない。

メトロコマース事件

第1審原告駅構内の売店で販売業務を行っていた有期契約社員2名(「契約社員B」として10年ほど勤務して定年退職。なお、 以下で言及される「契約社員A」とは、もともと契約社員Bのキャリアアップの雇用形態として位置付けられたものであったが、 平成28年4月に契約社員Aの名称は職種限定社員に改められ,その契約は無期労働契約に変更されている雇用形態に就く社員である。)
第1審被告東京メトロの子会社(駅構内における物品販売などの事業を東京メトロから受託し行う)
退職金
原審長期雇用を前提とする正社員に対して、福利厚生を手厚くして有為な人材の確保・定着を図るという退職金制度自体は、一概に不合理と言えない。 しかし、本件契約社員について、原則として契約が更新され、定年が65歳と定められており、原告らは10年前後勤務しており、契約社員Aについて職種限定社員として 無期契約労働者となるとともに退職金制度が設けられたことなどを考慮すれば、正社員の同一の基準に基づいて算定した額の4分の1すら支給しないことは不合理である。
最高裁【規範】
「労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の労働条件の格差が問題となっていたこと等を踏まえ、有期契約労働者の公正な処遇を図るため、 その労働条件につき、期間の定めがあることにより不合理なものとすることを禁止したものであり、両者の間の労働条件の相違が退職金の支給に係るものであったとしても、 それが同条にいう不合理と認められるものに当たる場合はあり得るものと考えられる。」「もっとも、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、 当該使用者における退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と 評価することができるものであるか否かを検討すべきものである。」
(退職金の支給の差が、不合理になる場合があることは認めた上で)
本件退職金は、職務遂行能力や責任の程度などを踏まえた労務の対価の後払いや継続的な勤務などに対する後払いや継続的な勤務に対する功労報償などの複合的な性質を有する。
・業務の内容はおおむね一致するが、正社員は代務業務、エリアマネージャー業務などに従事することがあった(①)。
・正社員は業務の必要により配置転換などを命じられる可能性があり、正当な理由なくこれを拒否できなかった(②)。
・売店業務に従事する正社員が他の多数の正社員と職務の内容及び変更の範囲を異にしていたことは、被告の組織再編などに起因する事情が存在した(③)。
・契約社員A及び正社員へ段階的に職種を変更するための開かれた試験による登用制度を設け、相当数の契約社員Bや契約社員Aをそれぞれ契約社員Aや正社員に登用していた(③)。
→不合理ではない。
裁判官林景一の補足意見・有期契約労働者がある程度長期間雇用されることを想定して採用されており、無期契約労働者との職務の内容などが実質的に異ならないような場合には、退職金の支給において相違を設けることが不合理となることはある。
・退職金制度は、社会経済情勢や使用者の経営状況の動向などにも左右される。退職金制度の構築に関し、これら諸般の事情をふまえて行われる使用者の裁量は大きい。
・(旧)労働契約法20条の趣旨から、企業などは、労使交渉などにより均衡のとれた処遇を図っていくのが法律の理念に沿う。 実際に、企業型確定拠出年金を導入するなどしている企業も出始めている。他に、在職期間に応じた一定額の退職慰労金の支給なども考えられる。
裁判官宇賀克也の反対意見・判断枠組み自体には異論はない。また、退職金については、原資の積み立てが必要であり、使用者の裁量について裁判所が是正することには慎重さが求められる。
・しかし、契約社員Bの契約は原則更新され、定年は65歳と定められており、原則65歳までの勤務が保障されていた。継続的な勤務などに対する功労報償 という性質は、契約社員Bにも当てはまる(①)。
・契約社員Bも代務業務を行うことがあり、代務業務が専門性を必要とするとも考え難い(①)。
・エリアマネージャー業務が他の売店業務と質的に異なるかは評価が分かれる(①)。
・売店業務に従事する正社員は、登用制度によって正社員になった者などが多く、売店業務が人事ローテーションの一環として現場の勤務を行われるという位置付けのものではない(②)。
→売店業務に従事する正社員と契約社員Bの職務の内容や変更の範囲に大きな相違はないことからすれば、両者の間に退職金の支給の有無に 係る労働条件の相違があることは、不合理であると評価することができる。

メトロコマース事件の退職金についての判断では、反対意見も出ているのですね。

今後、終身雇用制度が減っていくとすると、退職金について待遇差をつけることは認められにくくなっていくかもしれません。

日本郵便事件

日本郵便事件(東京:令和元年(受)777号、778号)

第1審原告原告3名
時給制契約社員(配達などの事務、窓口業務・区分け作業などの事務)
第1審被告日本郵便株式会社
年末年始勤務手当病気休暇夏期冬期休暇
原審不合理と認められる。不合理と認められる。不合理と認められる。
※しかし、原告らが無給の休暇を取得したこと、夏期冬期休暇が与えられていればこれを取得し 賃金が支給されたであろうこととの事実の主張立証がないため、損害が生じたとはいえないとの判断。
最高裁【規範】(病気休暇について)
「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と 認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、 当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが 相当であるところ、賃金以外の労働条件の相違についても、 同様に、個々の労働条 件が定められた趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である」(最高裁平成30年(受)第1519号令和2年10月15日第一小法廷判決・公刊物未登載)。」
多くの労働者が休日として過ごしている年末年始に業務に従事したことに対して、その勤務の特殊性から基本給に加えて支給されるものであり、 支給額も勤務した時期と時間に応じて一律である。
すると、これを支給することとした趣旨は時給制契約社員にも妥当する。
→職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、不合理であると評価することができる。
労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるか否かを判断にするに当たっては、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべき(最二判平成30年6月1日・民集62巻2号202頁)。
正社員に有給の病気休暇が与えられているのは、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、その生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じて、その継続的な雇用を確保するという目的。時給制契約社員についても、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、この趣旨は妥当する。
→職務の内容や当該職 務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、不合理であると評価することができる。
不合理と認められる。
※なお、原告らは、夏期冬期休暇を与えられなかったことにより、所定の日数につき、本来する必要のなかった勤務をせざるを得なかったものといえるから、財産的損害を受けたといえるとの判断。
無給の休暇を取得したか否かは損害の有無の判断を左右しない。

日本郵便事件(大阪:令和1(受)794号、795号)

第1審原告原告4名
時給制契約社員、月給制契約社員(配達などの郵便外務事務)
第1審被告日本郵便株式会社
年末年始勤務手当祝日給(祝日に勤務することを命ぜられて勤務した時に支給されるもの)扶養手当夏期冬期休暇
原審直ちに労働契約法20条にいう不合理と認められるものではないが、契約社員であっても通算雇用期間が5年を超える場合には、労働条件の相違を設ける根拠は薄弱。年末年始勤務手当と同様の判断扶養手当は、長期雇用を前提として基本給を補完する生活手当としての性質及び趣旨を有する。
契約社員が原則として短期雇用を前提とすることなどからすれば、労働条件の相違は労働契約法20条にいう不合理と認められない。
労働契約法20条にいう不合理と認められる。※これにより、夏期冬期休暇の日数分の賃金に相当する額の損害が発生した。
最高裁日本郵便事件(東京)と同じ理由付けで、職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、 労働契約法20条にいう不合理と認められる。契約社員は、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれている。
年始期間における勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、契約社員にも妥当する。
→職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、労働契約法20条にいう不合理と認められる。
扶養手当は、正社員が長期にわたり継続して勤務することが期待されることから、生活保障や福利厚生を図り、扶養親族のある者の生活設計を容易にさせることを通じ、継続的な雇用を確保する点にある。
契約社員についても、扶養親族があり、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、この趣旨は妥当する。
→職務の内容や当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情につき相応の相違があること等を考慮しても、労働契約法20条にいう不合理と認められる。
原審の判断を是認。

日本郵便事件(佐賀:平成30年(受)1519号)

第1審原告時給制契約社員(配達などの郵便外務事務)
第1審被告日本郵便株式会社
夏期冬期休暇
原審正社員には夏期冬期休暇(有給)を与え、一方で時給制契約社員に対してはこれを与えない労働条件の相違について、労働契約法20条にいう不合理と認められる。
※これにより、夏期冬期休暇の日数分の賃金に相当する額の損害が発生した。
最高裁【規範】
「有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者との個々の賃金項目に係る労働条件の相違が労働契約法20条にい う不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を 個別に考慮すべきものと解するのが相当である(最高裁平成29年(受)第442号同30年6月1日第二小法廷判決・民集72巻2号202頁)ところ、 賃金以外の労働条件の相違についても、同様に、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきものと解するのが相当である。」
労働条件の相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるか否かを判断にするに当たっては、個々の労働条件が定められた趣旨を個別に考慮すべき(最二判平成30年6月1日・民集62巻2号202頁)。
原審の判断を是認。

正社員に夏期冬期休暇が与えられるのは、労働から離れる機会を与えることにより、心身の回復を図るという目的と解され、取得の可否や取得日数は勤続期間の長さで変わるものではない。
時給制契約社員は、繁忙期に限定された短期間の勤務ではなく、業務の繁閑に関わらない勤務が見込まれ、夏期冬期休暇を与える趣旨は、時給制契約社員にも妥当する。
→不合理と認められる。

待遇の趣旨を認定して、その趣旨が非正規雇用労働者にも妥当するのかを判断しているんですね。

そうですね。企業は、待遇の趣旨からみて、正規雇用労働者と非正規雇用労働者の待遇差が不合理と判断されるか否か、を慎重に考えて制度を設計する必要がありそうです。

参考文献

最高裁判所ウェブサイト「裁判例検索」

大阪医科薬科大学事件 最三判令和2年10月13日:令和元年(受)1055号、1056号

メトロコマース事件 最三判令和2年10月13日:令和元年(受)1190号、1191号

日本郵便事件 最一判令和2年10月15日:東京(令和元年(受)777号、778号)

大阪(令和元年(受)794号、795号)

佐賀(平成30年(受)1519号)

厚生労働省ウェブサイト「同一労働同一賃金特集ページ」