不実証広告規制とは?
基本を分かりやすく解説

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シティライツ法律事務所弁護士
慶應義塾大学大学院法務研究科修了 2012年弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、2012~15年小松製作所(コマツ)の経営企画部門で主にクロスボーダーM&Aの法務を担当。2015~19年Baidu Japan(百度日本法人)にて法務部長と経営企画部長を兼任。百度の国際部門における法務責任者も兼務。その後現職。 2020年~株式会社ワンキャリア監査役。
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この記事のまとめ

不実証広告規制とは、消費者庁が「ある表示が優良誤認表示に該当するか否か」を判断するために必要があるときには、その表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を事業者に求めることができる制度です。

本記事では、不実証広告規制について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

事業部が作成した広告に、「サプリを飲むだけで10㎏痩せる」という表現があるんですが、話を聞くと合理的な根拠がなさそうで…。どうしたらいいですか?

ムートン

合理的な根拠がない広告は、消費者庁から資料提出を求められたときにも提出ができませんし、そもそも景品表示法違反ですし、きちんとストップをかけたほうがいいですね。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • 景品表示法または法…不当景品類及び不当表示防止法

※この記事は、2024年2月5日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

不実証広告規制とは

不実証広告規制とは、景品表示法に定める優良誤認表示の規制をより実効的なものにするために、これを補完する目的で設けられた制度です。景品表示法の2003年改正において導入されました。

優良誤認表示とは

優良誤認表示とは、商品やサービスの品質が、実際のもの・他社のものよりも著しく優良であると表示することをいいます(法5条1号)。

優良誤認表示は、景品表示法によって禁止されています。

不実証広告規制が導入された理由

優良誤認表示の制度上は「著しく優良」であることの立証責任は、消費者庁長官の側が負っています。しかし、立証には時間と手間がかかり、「一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれのある行為」を制限するという目的が迅速に達成できないおそれがありました。

そこで、優良誤認表示の疑いを認める場合、

  • 消費者庁長官は事業者に対して当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる
  • かかる資料の提出がないときは、当該表示を優良誤認表示とみなすことができる

としたのが不実証広告規制の制度です。

不実証広告規制の詳細

資料提出要求

法7条2項前段は、消費者庁長官が「事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるとき」(必要性要件)には、「当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」(合理的根拠資料)の提出を求めることができる、という資料提出要求の制度を定めています。

資料提出要求の要件は、上記の「必要性要件」に集約されています。

優良誤認表示該当性の擬制

法7条2項後段は、当該事業者が合理的根拠資料を提出しないときには、措置命令の適用については、当該表示は優良誤認表示とみなす旨を定めています。

ここに不実証広告規制の特殊性があります。すなわち、①資料提出要求があったにもかかわらず、②合理的根拠資料が提出されないときは、優良誤認表示該当性を審査することなく、措置命令を発することができる、とされているのです。

いいかえれば、この「擬制」により、合理的根拠資料の提出の実効性を確保しているのです。

他の法律における資料の提出を求める制度をみると、例えば国税通則法上の質問検査権(同法74条の2)では、刑罰により実効性を確保しています(同法128条2号)。

このような制度と比較すると、不実証広告規制が「優良誤認表示該当性を擬制する」という仕組みで提出を促していることは特徴的だといえます。

不実証広告規制の合憲性

合理的根拠資料の不提出をもって、優良誤認表示の該当性を審査することなく措置命令を発することは、仕組みとして乱暴すぎはしないだろうか、と感じる方もおられるでしょう。

実際、過去には、不実証広告規制の合憲性が争われた事案「だいにち堂事件最高裁判決(最判令和4年3月8日集民267号29頁)」がありました。

同判決は、

法7条2項は、事業者がした自己の供給する商品等の品質等を示す表示について、当該表示のとおりの品質等が実際の商品等には備わっていないなどの優良誤認表示の要件を満たすことが明らかでないとしても、所定の場合に優良誤認表示とみなして直ちに措置命令をすることができるとすることで、事業者との商品等の取引について自主的かつ合理的な選択を阻害されないという一般消費者の利益をより迅速に保護することを目的とするものであると解されるところ、この目的が公共の福祉に合致することは明らかである。
(…)また、法7条2項により事業者がした表示が優良誤認表示とみなされるのは、当該事業者が一定の期間内に当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものと客観的に評価される資料を提出しない場合に限られると解されるから、同項が適用される範囲は合理的に限定されているということができる。加えて、上記のおそれが生ずることの防止等をするという同項の趣旨に照らせば、同項が適用される場合の措置命令は、当該事業者が裏付けとなる合理的な根拠を示す資料を備えた上で改めて同様の表示をすることについて、何ら制限するものではないと解される。そうすると、同項に規定する場合において事業者がした表示を措置命令の対象となる優良誤認表示とみなすことは、前記の目的を達成するための手段として必要かつ合理的なものということができ、そのような取扱いを定めたことが立法府の合理的裁量の範囲を超えるものということはできない。

と判示したうえで、「法7条2項は、憲法21条1項、22条1項に違反するものではない」と制度の合憲性を示しました(下線部は引用者、以下同じ)。

不実証広告規制の運用の詳細

不実証広告ガイドライン

ここからは、不実証広告規制の運用の詳細を見ていきます。

運用の詳細については、次の資料に記載されています。

「不当景品類及び不当表示防止法第7条第2項の運用指針」(2003年10月28日公正取引委員会、一部改正2016年4月1日消費者庁)

※以下「不実証広告ガイドライン」といいます。

資料提出要求の発動要件(必要性)

(1) 概要

まず、資料提出要求の発動要件である「必要性」について、不実証広告ガイドライン第2の1「基本的な考え方」(3頁)は

「例えば、原材料、成分、容量、原産地、等級、住宅等の交通の便、周辺環境のような事項に関する表示については、通常、契約書等の取引上の書類や商品そのもの等の情報を確認することによって、当該表示が実際のものとは異なるものであるか否かを判断できる。」(ゆえに、必要性の要件を欠く)

としています。他方で

「痩身効果、空気清浄機能等のような効果、性能に関する表示については、契約書等の取引上の書類や商品そのもの等の情報を確認することだけでは、実際に表示されたとおりの効果、性能があるか否かを客観的に判断することは困難である。」(ゆえに、必要性の要件を満たす)

としています。

すなわち、商品に関して表示された情報と商品そのものを見比べただけでは優良誤認表示であることが一見して明らかではない、効果や性能に対する表示が、資料提出要求の対象となるということです。

(2)必要性要件が争われた事例

必要性要件の充足が争われた事案として、だいにち堂事件第一審(東京地判令和2年3月4日金判1651号17頁)があります。

この判決では、広告の中に、

「ボンヤリ・にごった感じに!!」
「1日1粒(目安)30日分に納得!!」
「60代でも衰え知らずが私の自慢!! ようやく出会えたクリアでスッキリ!!」
「クリアな毎日に『アスタキサンチン』 つまり、だいにち堂の『アスタキサンチン アイ&アイ』でスッキリ・クリアな毎日を実感、納得の1粒を体感出来ます。」(…)

との記載があった(以下「本件記載」といいます)との事実が認定されています。

原告は、本件記載について、本件商品が含有する原材料の一般的性質として、目に良いということを社会的に許容される範囲で誇張したものにすぎない、などとして、合理的根拠資料の提出を求める対象とはならない(すなわち、必要性要件を満たさない)と主張しました。

しかし、東京地裁は、

「一般的に広告中においてある程度の誇張がされることがあるとしても、本件記載について、その文言及び内容全体から一般消費者が受ける印象・認識を踏まえるならば、本件記載による表示は、単に本件商品に含まれるアスタキサンチンが目に良い成分であるという一般的な内容にとどまらず、上記のとおり、視覚の不良感が改善されるという効能・効果を有する本件商品の優良性を強調するもの」(と認められる)

として、必要性要件は充足されていると判示しました。

合理的根拠資料の適否

(1)概要

資料提出要求の必要性が認められる場合は、事業者が提出した資料(以下「提出資料」といいます)が当該表示の裏付けとなる合理的根拠を示すものであると認められるかを判断することになります。

具体的には、以下の2つを判断します(不実証広告ガイドライン第3の1「基本的な考え方」、5頁)。

①提出資料が客観的に実証された内容のものであること
②表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応していること

以下ではそれぞれの要件を詳しく検討します。

(2)提出資料の客観的実証性

まず「客観的に実証された内容のもの」とは以下のいずれかに該当するものをいうとされています(不実証広告ガイドライン第3の2、5頁)。

① 試験・調査によって得られた結果
② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献

① 試験・調査によって得られた結果を根拠として提出する場合

試験・調査によって得られた結果を根拠として提出する場合には、「客観的に実証された内容のもの」といえるか否かにつき、以下の考え方が適用されます(不実証広告ガイドライン第3の2(1)、5-6頁)。

ア 試験・調査によって得られた結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、当該試験・調査の方法は、表示された商品・サービスの効果、性能に関連する学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法によって実施する必要がある。

イ 学術界又は産業界において一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法が存在しない場合には、当該試験・調査は、社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法で実施する必要がある。社会通念上及び経験則上妥当と認められる方法が具体的にどのようなものかについては、表示の内容、商品・サービスの特性、関連分野の専門家が妥当と判断するか否か等を総合的に勘案して判断する。

ウ 試験・調査を行った機関が商品・サービスの効果、性能に関する表示を行った事業者とは関係のない第三者(例えば、国公立の試験研究機関等の公的機関、中立的な立場で調査、研究を行う民間機関等)である場合には、一般的に、その試験・調査は、客観的なものであると考えられるが、上記ア又はイの方法で実施されている限り、当該事業者(その関係機関を含む。)が行った試験・調査であっても、当該表示の裏付けとなる根拠として提出することも可能である。

エ なお、一部の商品・サービスの効果、性能に関する表示には、消費者の体験談やモニターの意見等を表示の裏付けとなる根拠にしているとみられるものもあるが、これら消費者の体験談やモニターの意見等の実例を収集した調査結果を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合には、無作為抽出法で相当数のサンプルを選定し、作為が生じないように考慮して行うなど、統計的に客観性が十分に確保されている必要がある。

この点、翠光トップライン事件(東京地判平成28年11月10日判例タイムズ144号122頁)は、窓用フィルムの断熱性能に関する表示について、試験・調査によって得られた結果が根拠として提出されたものの、それが測定条件を完全に同一に設定できる実験室ではなく、測定条件が完全に同一とはいえない同じ建物内の2室において実験がなされており、提出された資料は商品の性能を実証するものではないとしています。

② 専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献を根拠として提出する場合

専門家、専門家団体若しくは専門機関の見解又は学術文献を根拠として提出する場合には、「客観的に実証された内容のもの」といえるか否かにつき、以下の考え方が適用されます(不実証広告ガイドライン第3の2(2)、7頁)。

ア 当該商品・サービス又は表示された効果、性能に関連する分野を専門として実務、研究、調査等を行う専門家、専門家団体又は専門機関(以下「専門家等」という。)による見解又は学術文献を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合、その見解又は学術文献は、次のいずれかであれば、客観的に実証されたものと認められる。
  ① 専門家等が、専門的知見に基づいて当該商品・サービスの表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの
  ② 専門家等が、当該商品・サービスとは関わりなく、表示された効果、性能について客観的に評価した見解又は学術文献であって、当該専門分野において一般的に認められているもの

イ 特定の専門家等による特異な見解である場合、又は画期的な効果、性能等、新しい分野であって専門家等が存在しない場合等当該商品・サービス又は表示された効果、性能に関連する専門分野において一般的には認められていない場合には、その専門家等の見解又は学術文献は客観的に実証されたものとは認められない。この場合、事業者は前記(1)の試験・調査によって、表示された効果、性能を客観的に実証する必要がある。

ウ 生薬の効果など、試験・調査によっては表示された効果、性能を客観的に実証することは困難であるが、古来からの言い伝え等、長期に亘る多数の人々の経験則によって効果、性能の存在が一般的に認められているものがあるが、このような経験則を表示の裏付けとなる根拠として提出する場合においても、専門家等の見解又は学術文献によってその存在が確認されている必要がある。

この点が争点となったミュー審決取消請求事件(東京高判平成22年11月26日)では、

  • 「ビタクール」という名称の商品に係る「たばこの先に付けて吸うだけで」
  • 喫煙者が体内に吸い込むたばこの煙について、「ニコチンをビタミンに変える」「ニコチンの約80%をビタミンに転化させる」

等の表示について、ペルーの大学による試験報告書と特許公報が根拠資料として提出されましたが、裁判所は以下のように判示し、いずれも合理的根拠資料たりえないとしました。

(ペルーの大学による試験報告書について)
「上記試験報告書は、30年以上前に作成されたものであるところ、たばこの煙の中に含まれるニコチンの量の測定方法に関して現在一般的に認められた方法又は関連分野の専門家多数が認める方法である公定法(…)とは異なる方法による試験結果に基づいて作成されたものであり、現在は、より正確な試験結果を導く試験方法が存在しているとして、我が国の複数の専門家は、その試験結果の正確性に疑問を呈している。」

(特許公報について)
「特許庁により発明に特許を受けたとしても、それは出願された特許について拒絶の理由がなかったと判断されたことを示すにすぎないのであって、発明の効果・性能に関してすべて実証されていることを担保するものではない。また、特許公報に特定の試験の結論が記載されている場合においても、その記載自体が当該試験の客観性、信頼性等を担保するものではなく、特許公報自体が発明の効果・性能のすべてを実証するものとはいえない。」

(3)表示と提出資料との対応性

次に、表示された効果・性能提出資料によって実証された内容が適切に対応しているかが問題となります。

不実証広告ガイドラインは「提出資料自体は客観的に実証された内容のものであっても、表示された効果、性能が提出資料によって実証された内容と適切に対応していなければ、当該資料は、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。」としたうえで、いくつか例を挙げています(不実証広告ガイドライン第3の3、7-9頁)。

<例1>
家屋内の害虫を有効に駆除すると表示する家庭用害虫駆除器について、事業者から、公的機関が実施した試験結果が提出された。
しかしながら、当該試験結果は、試験用のアクリルケース内において、当該機器によって発生した電磁波が、害虫に対して一時的に回避行動を取らせることを確認したものにすぎず、人の通常の居住環境における実用的な害虫駆除効果があることを実証するものではなかった。
したがって、上記の表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず、当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。

<例2>
あらゆる種類のエンジンオイルに対して10%の燃費向上が期待できると表示する自動車エンジンオイル添加剤について、事業者から、民間の研究機関が実施した試験結果が提出された。
しかしながら、その試験結果は、特定の高性能エンジンオイルについて燃費が10%向上することを確認したものにすぎず、一般的な品質のエンジンオイルについて同様の効果が得られることを実証するものではなかった。
したがって、上記の表示された効果、性能と提出資料によって実証された内容が適切に対応しているとはいえず、当該提出資料は表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものとは認められない。

これらの例にみるように、一見するともっともらしい資料が事業者から提出されていたとしても、表示された効果・性能と提出資料によって実証された内容とが適切に対応しているとはいえない場合には、やはり、提出資料は当該表示の裏付けとなる合理的根拠を示すものであるとは認められないことになります。

(4)提出資料に合理的根拠が認められない場合

提出資料が当該表示の裏付けとなる合理的根拠を示すものとは認められない場合には、事業者は合理的根拠資料を提出しなかったことになります。その結果、法7条2項後段に従い、事業者の表示は法5条1号の優良誤認表示とみなされることになります。(オーシロ審決取消請求事件(東京高判平成22年10月29日審決集第2分冊162頁))

行政手続

合理的根拠資料の提出手続

ここまで、法7条2項の実体要件を見てきましたが、ここからは手続面を見ていきたいと思います。

合理的根拠資料の提出手続は、以下のように進められます。

【1】消費者庁長官は、事業者に、以下を記載した文書を交付して資料提出要求をします(不当景品類及び不当表示防止法施行規則(以下「規則」といいます。)7条1項)。
①事業者の氏名または名称
②資料の提出を求める表示
③資料を提出すべき期限および場所

【2】事業者側は、資料提出要求に応じて合理的根拠資料を提出します。
合理的根拠資料の提出期限は、資料提出要求を交付した日から15日後とされています(規則7条2項)。

※この15日という期間は、かなり短いように思われますが、不当表示を迅速に規制するための必要性と、事業者側が合理的根拠資料をとりまとめるために必要な準備期間とを勘案して定められたものとされています(西川康一編著『景品表示法(第6版)』商事法務、2021年、95頁)。
※正当な事由がある場合はこの限りではないとされていますが、新たなまたは追加的な試験・調査を実施する必要があるなどの理由は、正当事由とは認められません(不実証広告ガイドライン第4、2(2)第2段落、9頁)。

措置命令

消費者庁は、事業者が提出した資料が合理的根拠資料と認められない場合には優良誤認表示に対する措置命令を発出することができます(法7条1項、2項、5条1号)。

なお、措置命令書においては、合理的根拠資料と認められない理由を明らかにしないのが消費者庁の運用となっています(植村幸也「[連載]実践知財法務第22回不当表示(景表法・不競法)—表示根拠の十分性について」ジュリスト1587号(2023年)88頁)。

このことは、行政手続法14条1項が不利益処分に際して理由付記を求めていることを考慮すると特異なことに思えます。このため、取消訴訟に備えて措置命令の理由を知ろうとする事業者は、行政不服審査の申立て(行政不服審査法2条)や、仮の差止めの訴えの提起(行政事件訴訟法37条の5)などの手段によることになります。

課徴金納付命令

本記事では措置命令の手続きを中心に扱いましたが、不実証広告規制は2016年4月施行の改正景品表示法より導入された課徴金納付命令(法8条1項)の手続においても設けられています(法8条3項)。

ただし、措置命令に関して合理的根拠資料の提出がないことの効果は、事業者の表示を不当表示であると「みなす」(法7条2項)とされているのに対し、課徴金納付命令に関して合理的根拠資料の提出がないことの効果は、不当表示であると「推定する」(法8条3項)とされている点に大きな違いがあります。

このことは、事業者の手続保障に配慮し、資料提出期間経過後であっても、仮に合理的根拠資料が備わった場合には優良誤認表示該当性を争える趣旨であるとされています(西川・前掲書、339頁)。

取消訴訟

取消訴訟の審理対象

本記事の最後に、合理的根拠資料の提出要求を経て発出された措置命令に対して、事業者が取消訴訟(行政事件訴訟法3条2項)を提起した場合に、当該取消訴訟の審理対象は何であるのか、という問題を扱います。

すなわち、それは法5条1号の優良誤認表示該当性それ自体であるのか、法7条2項の必要性と合理的根拠資料該当性であるのか、という問題です。いいかえれば、法7条2項による「みなし」の効果は審決取消訴訟にも及ぶのか否かという問題です。

A説:法7条2項の「みなし」の効果は取消訴訟にも及ぶため、取消訴訟の審理対象は法7条2項の要件それ自体である。
B説:法7条2項の「みなし」の効果は取消訴訟には及ばない。取消訴訟では法5条1項の優良誤認表示該当性そのものが審理される。

裁判例

上記の論点について、オーシロ審決取消請求事件(東京高判平成22年10月29日審決集第2分冊162頁。旧法下の事件のため、公正取引委員会の審決に対する審決取消訴訟。)は、以下のとおり判示して、A説を採ることを明らかにしました。

本件は、抗告訴訟である審決取消訴訟であり、原処分及びこれを是認した本件審決の適否を判断することになるのであるから、その審理の対象は、原処分の根拠とされた法令の定める処分の要件の有無であり、景表法4条2項(引用者注:現在の7条2項)に定める要件、すなわち、Yが本件表示が同条1項1号(引用者注:現在の5条1号)に該当する表示か否かを判断するために資料の提出を求める必要があると認めるときに該当するか否か、及びXの提出した本件資料が『当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料』に該当するか否かが審理の対象になると解すべきである。

同判決では、原告はB説を主張していましたが、東京高裁は以下のように述べてB説を排斥しています。

原告の主張するところによれば、事業者は、審決取消訴訟を提起しさえすれば、当該訴訟においては、景表法4条2項(引用者注:現在の7条2項)の適用がないことになり、被告が当該表示が同条1項1号(引用者注:現在の5条1号)に当たることを主張立証しない限り、原処分が取り消されることになるのであるから、被告(引用者注:公正取引委員会)としては、取り消されることのない原処分をするためには、結局、当該表示が同号に該当するか否かまで検討せざるを得ないことになって、被告が迅速、適正な審査を行い、速やかに処分を行うことを可能とすることによって、公正な競争を確保し、もって一般消費者の利益を保護するという同法の目的を達成するという同項の立法趣旨に反する結果となる。

景品表示法が消費者庁に移管され、審判制度が廃止された後の事件である翠光トップライン事件(東京地判平成28年11月10日判例タイムズ144号122頁)でも、東京地裁は以下のように述べて、B説を排斥し、A説を採ることを明らかにしています。

取消訴訟の審理の対象となる訴訟物は処分の違法性一般であり、処分が適法であるといえるためには、当該処分の時において当該処分の根拠となる法規に規定された処分要件が充足されていることが必要であって、その処分要件の充足の有無が当該取消訴訟の審理の対象となるものと解される。
しかるところ、本件取消訴訟は、本件各措置命令の取消しを求めるものであるから、その審理の対象となる訴訟物は本件各措置命令の違法性一般である。そして、本件各措置命令は、消費者庁長官が、平成27年2月27日、原告らに対し、本件各資料は本件各表示の裏付けとなる合理的な根拠を示すものであるとは認められないため、法4条2項(引用者注:現在の7条2項。以下同じ。)により本件各表示は優良誤認表示とみなされるとして、同法6条(引用者注:現在の7条1項。以下同じ。)に基づいてされたものである(前記前提事実(3)エ)。このように、本件各措置命令は、本件各表示が法4条1項1号(引用者注:現在の5条1号。以下同じ。)に規定する優良誤認表示に該当するか否かを直接判断してされたものではなく、同条2項により本件各表示は優良誤認表示とみなされるとして、同法6条に基づいてされたものであるから、本件各措置命令が適法であるといえるためには、その根拠規定である法4条2項に規定された処分要件、すなわち、〈1〉消費者庁長官が、本件各表示が同条1項1号に該当するか否かを判断するため必要があると認め、本件各表示をした原告らに対し、期間を定めて、本件各表示の裏付けとなる合理的根拠資料の提出を求めたこと、〈2〉原告らの提出した本件各資料が合理的根拠資料に該当しないことの各要件が充足されていることが必要である。
したがって、本件取消訴訟の審理の対象となる訴訟物は本件各措置命令の違法性一般であり、その根拠規定である法4条2項に規定された処分要件の充足の有無が審理の対象となるところ、上記〈1〉の処分要件が充足されていることについては当事者間に争いがないため、本件取消訴訟においては、上記〈2〉の処分要件の充足の有無、すなわち、原告らの提出した本件各資料が合理的根拠資料に該当するか否かが審理の対象となるというべきである。

以上みるように、現在では、措置命令の取消訴訟の審理対象は法7条2項の要件それ自体の充足性であり、同項によってみなされる法5条1号の優良誤認表示該当性そのものは審理対象とならないとする見解が主流になっています(西川治「景品表示法上の不実証広告規制に係る行政法上の諸問題」ジュリスト1587号(2023年)43頁参照。)。

おわりに

本記事では、景品表示法上の優良誤認表示規制を補完する不実証広告規制の概要とその運用について、不実証広告ガイドラインと裁判例を元に概観しました。

以上に述べたとおり、不実証広告規制における合理的根拠資料の提出要求は、

  • 時間制限の厳しさ(要求から15日以内の提出)
  • 合理的根拠資料に求められる客観的実証性の厳しさ(研究文献や実験環境に求められる客観性の要求水準の高さ)

が特徴的であり、事業者としては、商品の効果・性能に関する表示をするにあたり、事前に十分な検証をし、表示内容を支える根拠資料を備えておくことが求められているといえます。

ムートン

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