私文書偽造とは?
種類・公文書偽造罪との違い・構成要件・
罰則・会社が負う責任などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「私文書偽造」とは、権利・義務・事実証明に関する文書または図画(=私文書)を、行使の目的で権限なく作成する行為です。私文書の変造行為とともに、刑法に基づく処罰の対象とされています(私文書偽造・変造罪)。
例えば契約書の偽造などが、私文書偽造の典型例です。従業員が会社の業務の執行に関して私文書偽造を行った場合には、会社も刑事・民事上の責任を問われ得るので注意しましょう。
この記事では私文書偽造について、種類・構成要件・罰則・会社が負う責任などを解説します。
※この記事は、2024年3月7日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
私文書偽造とは
「私文書偽造」とは、権利・義務・事実証明に関する文書または図画(=私文書)を、行使の目的で権限なく作成する行為です。
私文書の変造行為とともに、刑法に基づく処罰の対象とされています(私文書偽造・変造罪。以下「私文書偽造等罪」と総称します)。
私文書とは
「私文書」とは、権利・義務・事実証明に関する文書または図画をいいます。
文書:文字またはこれに代わるべき可視的符号により、一定期間永続すべき状態である物体の上に記載した、人の意思・観念の表示
(例)契約書、通知書、手紙など
図画:意思・観念が象形的符号により表示されたもの
(例)絵画、イラストなど
偽造とは|有形偽造・無形偽造と変造の違い
「偽造」とは、権限なく他人名義の文書・図画(=文書等)を作成することをいいます。「有形偽造」とも呼ばれます。
偽造(有形偽造)によって作成された文書等は、偽造文書または不真正文書といいます。
- 偽造(有形偽造)の例
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AがBであると偽り、Bの名義でお金を借りる契約書にサインした。
これに対して、文書の作成権限を有する者が内容虚偽の文書等を作成することは「無形偽造」または「虚偽文書作成」と呼ばれます。無形偽造によって作成された文書等は、虚偽文書といいます。
- 無形偽造(虚偽文書作成)の例
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医師が診察した患者につき、実際の診断結果とは異なる虚偽の診断書を作成した。
なお、真正に成立した文書の内容を権限なく変更した場合において、元の文書の本質的部分が変更された場合には有形偽造または無形偽造となります(例:お金の貸し借りを内容とする契約書を、不動産の売買を内容とするものに変更した)。
一方、変更が元の文書の本質的部分に及ばない場合は「変造」となります。
- 変造の例
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借用証書に記載された借用金額を、100万円から1000万円に書き換えた。
私文書については、無形偽造が処罰されるのは「虚偽診断書等作成罪」(後述)に当たる場合に限られています。
これに対して私文書偽造等罪は、いずれも私文書の有形偽造または変造を処罰するものです。
私文書偽造等罪の保護法益
私文書の有形偽造および変造は、私文書偽造等罪として処罰の対象とされています(刑法159条~161条)。
私文書偽造等罪の保護法益は、私文書に対する関係者の信用です。
私文書は、名義人が一定の意思・観念を表示したことの証拠として機能します。しかし、私文書が偽造または変造されると、その証拠としての信用性が揺らいでしまいます。
このような事態を避け、私文書の信用性を確保するため、偽造・変造行為をした者は罰せられます。
私文書偽造等罪の種類
私文書偽造等罪には、以下の種類があります。
- 私文書偽造等罪の種類
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① 有印私文書偽造罪(刑法159条1項)
行使の目的で、他人の印章もしくは署名、または偽造した他人の印章もしくは署名を使用して、権利・義務・事実証明に関する文書・図画を有形偽造した者に成立します。法定刑は「3カ月以上5年以下の懲役」です。② 有印私文書変造罪(同条2項)
行使の目的で、他人が押印または署名した権利・義務・事実証明に関する文書・図画を変造した者に成立します。法定刑は「3カ月以上5年以下の懲役」です。③ 無印私文書偽造・変造罪(同条3項)
行使の目的で、①または②に該当するもの以外の権利・義務・事実証明に関する文書・図画を有形偽造または変造した者に成立します。法定刑は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
私文書偽造等罪と公文書偽造等罪の違い
私文書のほか、公文書についても偽造・変造行為が処罰の対象とされています(公文書偽造等罪)。私文書偽造等罪と公文書偽造等罪の違いは、対象となる文書の性質および法定刑です。
私文書偽造等罪の対象は、権利・義務・事実証明に関する文書・図画です。
これに対して、公文書偽造等罪の対象は、公務所または公務員の作成すべき(またはすでに作成した)文書・図画とされています。
一般に、公文書の方が私文書よりも信用性を確保する公益上の要請が強いと考えられます。
そのため、私文書偽造等罪に比べると、公文書偽造等罪の法定刑は重く設定されています。
私文書偽造と詐欺罪の関係性
私文書を偽造または変造した上で、その偽造文書または変造文書を利用し、他人を騙して金品を詐取した場合には、私文書偽造等罪と詐欺罪(刑法246条1項)の両方が成立します。
この場合、私文書偽造等罪に当たる行為が手段、詐欺罪に当たる行為が結果の関係にあるため、両罪は牽連犯(けんれんはん。刑法54条1項後段)となり、最も重い刑によって処断されます。
私文書に関するその他の犯罪
有形偽造・変造行為のほか、私文書に関する各種の不正行為が以下の犯罪による処罰の対象とされています。
① 虚偽診断書等作成罪(刑法160条)。
医師が公務所に提出すべき診断書・検案書・死亡証書に虚偽の記載をした場合に成立します。法定刑は「3年以下の禁錮または30万円以下の罰金」です。
② 偽造私文書等行使罪(刑法161条)
偽造文書・虚偽文書・変造文書を実際に行使した者に成立します。法定刑は、有印私文書の場合は「3カ月以上5年以下の懲役」、無印私文書の場合は「1年以下の懲役または10万円以下の罰金」です。
③ 私印偽造・不正使用等罪(刑法167条)
行使の目的で、他人の印章もしくは署名を偽造し、不正に使用し、または偽造した印章もしくは署名を使用した者に成立します。法定刑は「3年以下の懲役」です。
私印偽造・不正使用等罪は、私文書偽造等罪の予備行為を処罰するために設けられた犯罪類型です。私印偽造・不正使用等罪と私文書偽造等罪が両方成立する場合は、牽連犯(刑法54条1項後段)の関係となります。
私文書偽造等罪の構成要件
私文書偽造等罪は、以下の構成要件を全て満たす行為について成立します(無印私文書偽造・変造罪については①と②のみで足ります)。
① 私文書の有形偽造または変造
② 行使の目的
③ 他人の印章・署名(有印私文書偽造・変造罪の場合)
私文書の有形偽造または変造
私文書偽造等罪による処罰の対象となるのは、私文書の有形偽造または変造です。前述のとおり、私文書・有形偽造・変造は、それぞれ以下の意義を有します。
私文書:権利・義務・事実証明に関する文書または図画
有形偽造:権限なく他人名義の文書または図画を作成すること
変造:真正に成立した文書につき、権限なくその本質的部分に及ばない変更を加えること
無形偽造(=権限ある者による虚偽文書の作成)は私文書偽造等罪の対象外とされています。一般の私文書については、刑罰を科してまで内容の真実性を確保・担保すべき要請が認められないからです。
ただし、医師が公務所に提出すべき診断書・検案書・死亡証書を無形偽造した場合には虚偽診断書等作成罪(刑法160条)が成立します。
行使の目的
私文書偽造等罪は、「行使の目的」を有する場合に限り成立します。
無印私文書偽造・変造罪(刑法159条3項)については明文化されていませんが、有印私文書の場合と同様に、行使の目的を要すると解されています。
「行使」とは、偽造または変造された私文書を真正なものとして使用することです。
例えば裁判における証拠として提出する、詐欺の道具として他人に示すなどの目的を有する場合には、行使の目的が認められます。
これに対して、偽造文書を他人に提示するつもりがないなど、行使の目的を有しない場合には、私文書偽造等罪は成立しません。
他人の印章・署名(有印私文書偽造・変造罪の場合)
有印私文書偽造罪(刑法159条1項)については、他人の印章もしくは署名を使用し、または偽造した他人の印章もしくは署名を使用して私文書を偽造したことが要件とされています。
また、有印私文書変造罪(同条2項)については、他人が押印しまたは署名した私文書を変造したことが要件とされています。
これに対して、無印私文書偽造・変造罪(同条3項)については、他人の印章・署名の使用等は要件とされていません。
無印私文書については一般に、有印私文書よりも信頼性が低いと考えられるため、法定刑に差が設けられています(有印私文書偽造・変造罪:3カ月以上5年以下の懲役、無印私文書偽造・変造罪:1年以下の懲役または50万円以下の罰金)。
ただし、署名にはゴム印や印字などによる記名も含まれると解されています(大審院明治45年5月30日判決)。そのため、有印私文書偽造・変造罪の成否が問題となるケースが大半であり、無印私文書偽造・変造罪はごく限られた場合にしか成立しません。
私文書偽造等罪に当たる行為の例
私文書偽造等罪に当たる行為としては、以下の例が挙げられます。
(例)
・法務局で所有権移転登記手続きを行う際に提出する目的で、AがBの同意を得ることなく、BがAに対して不動産Xを譲渡する内容の契約書を偽造した(=有印私文書偽造罪)。
・実際に貸した金額よりも多くのお金を回収する目的で、AがBの同意を得ることなく、AがBに対して100万円を貸したという内容の契約書を、200万円を貸したという内容に変造した(=有印私文書変造罪)。
私文書偽造等罪・関連犯罪の罰則(法定刑)
私文書偽造等罪および私文書に関するその他の犯罪について、刑法で定められた罰則(法定刑)をまとめます。
有印私文書偽造罪 有印私文書変造罪 有印偽造私文書行使等罪 | 3カ月以上5年以下の懲役 |
私印偽造・不正使用等罪 | 3年以下の懲役 |
虚偽診断書等作成罪 虚偽診断書等行使等罪 | 3年以下の禁錮または30万円以下の罰金 |
無印私文書偽造・変造罪 無印偽造私文書行使等罪 | 1年以下の懲役または10万円以下の罰金 |
従業員による私文書偽造等について、会社が負う法的責任
従業員による私文書の偽造や変造につき、会社に属する人が指示や教唆を行った場合は共同正犯(刑法60条)や教唆犯(刑法61条)、知っていながら敢えて見過ごした場合には幇助犯(刑法62条)の責任を問われることがあります。
また、従業員が会社の事業の執行について私文書を偽造または変造し、それによって他人に損害が生じた場合には、会社も使用者責任に基づく損害賠償義務を負う可能性があります(民法715条1項)。
私文書偽造等罪で逮捕された場合の刑事手続きの流れ
私文書偽造等罪で逮捕された場合の刑事手続きの流れは、大まかに以下のとおりです。
① 逮捕~勾留請求
逮捕後は、警察官や検察官による取調べが行われます。
逮捕の期間は最長72時間ですが(刑事訴訟法205条2項)、検察官が勾留請求を行い、裁判官が罪証隠滅や逃亡のおそれなどがあると判断した場合には勾留状が発せられます。
② 起訴前勾留~起訴・不起訴
勾留状が発せられた場合には、逮捕から起訴前勾留に移行します。起訴前勾留の期間は当初10日間、延長により最長20日間です(同法208条)。
起訴前勾留の期間満了までに、検察官は被疑者を起訴するかどうかを判断します。正式起訴された場合は起訴後勾留に移行し、不起訴となった場合は釈放となります。
③ 起訴後勾留~公判手続き
起訴後勾留の期間は当初2カ月間で、1カ月ごとに更新が可能です(同法60条2項)。起訴後勾留への移行後は、裁判所に対する保釈請求が認められます(同法89条・90条)。
起訴後勾留への移行後、1カ月程度が経過すると、裁判所の法廷において公判手続きが行われます。公判手続きでは、被告人は罪を認めて情状酌量を求めるか、または罪を否認して争います。
④ 判決・上訴・刑の執行
公判手続きにおける審理の末に、裁判所が判決を言い渡します。
一審判決については高等裁判所に対する控訴、控訴審判決については最高裁判所に対する上告が認可能です。控訴・上告の手続きを経て判決が確定します。
また、控訴・上告の期間(=判決の言渡日の翌日から起算して14日間)が経過した場合にも、判決が確定します。
その後、有罪の場合は刑が執行されますが、執行猶予が付された刑については執行が猶予されます。
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