役員報酬とは?
役員報酬の意義・給与との違い・決め方・
必要な手続について分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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役員報酬とは、取締役などの会社の役員等に対して支払われる報酬等の財産上の利益をいいます。
役員報酬を支給するためには、会社と役員との間で契約を締結するのみでは足りず、別途会社法上定められている手続を履践することが必要です。
この記事では、役員報酬について、その意義・給与との違い・決め方・必要な手続について分かりやすく解説します。
※この記事は、2024年2月14日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
役員報酬とは
役員報酬の意義
役員報酬とは、取締役、会計参与、監査役、会計監査人といった会社の役員等(会社法305条4項1号参照)に対して支払われる報酬等(報酬のほか、賞与その他の職務執行の対価として会社から受け取る財産上の利益、会社法361条1項柱書参照)のことをいいます。
役員報酬を支給するためには、会社と役員との間で契約を締結するのみでは足りず、別途会社法上定められている手続を履践することが必要なため、当該手続について押さえておくことが重要です。
以下では、役員報酬と給与の違い、役員報酬の決め方(損金算入の可否)、役員報酬の決定手続について、見ていきます。
役員報酬と給与の違い
役員報酬とは、「役員報酬の意義」記載のとおり、会社から取締役などの役員等に支払われる報酬のことをいいますが、役員等と会社とは委任関係に立ちますので(会社法330条)、役員報酬の法律上の性質は、委任契約に基づいて会社から受任者(役員等)に支払われる報酬といえます(民法648条1項)。
一方、給与は、一般的に、会社から従業員に対して支払われる労働の対価と考えられており、法律上の性質としては、雇用契約に基づいて会社から従業員に対して支払われる報酬といえます(民法623条参照)。
役員報酬の法的性質が委任契約に基づく報酬であるとすると、原則としては、委任者である会社(代表取締役が会社を代表することになります)と、受任者である役員等との間の契約により報酬額を決定すれば足りることになりそうです。
しかし、会社(代表取締役)と役員等との契約のみにより役員報酬を決定できるとすると、「取締役の報酬等」以下で見るような問題が生じることになります。このため、会社法では、役員等の報酬の決定について、手続的なルールを設けることとしています(各ルールについては、「取締役の報酬等」以下で詳しく見ていきます)。
役員報酬の決め方|損金算入の可否に注意
役員報酬を決定する際に重要な考慮要素となるのが、役員報酬を損金算入する(経費として扱う)ことができるかです。役員報酬を損金算入することができれば税負担を軽減することができるという税務上のメリットを得ることができます。
もっとも、仮に役員報酬について無条件で損金算入することができるとすれば、例えば、会社は、利益があがったときには役員報酬を高額に設定するなどすることで過剰な税務メリットを享受することができることとなってしまいます。そこで、法人税法では、役員報酬について、原則として損金算入することができないとしつつ(法人税法34条1項柱書)、例外的に、損金算入することができる場合について規定しています。
以下では、主な例外である、3つの役員報酬について説明します。
① 定期同額給与
定期同額給与とは、支給時期が1カ月以下の一定の期間ごとである給与で、その支給時期における支給額が同額であるものをいいます(法人税法34条1項1号)。例えば、毎月同じ金額の報酬を受け取っている場合が定期同額給与に当たり、このような場合は役員報酬を損金算入することができます。
定期同額給与は、原則として、事業年度開始から3カ月以内の時期にだけ変更することができますので(法人税法施行令69条1項1号イ。通常改定)、定期同額給与を採用する場合には、基本的には、1年間、役員の報酬を同額にする必要があります。
② 事前確定届出給与
事前確定届出給与とは、役員の職務について所定の時期に確定額等を支給する旨の定めに基づいて支給する給与をいいます。事前確定届出給与を損金算入するためには、所定の届出時期までに、支給時期および確定額を記載した届出書を税務署に提出する必要があります(法人税法34条1項2号)。
事前に届け出た金額と実際の支給額が異なる場合、支払った給与は事前確定届出給与に該当しない結果、支給した金額の全額が損金不算入扱いとなりますので、注意が必要です。
③ 業績連動給与
業績連動給与とは、会社の利益の状況を示す指標等を基礎として算定・支給される給与等をいいます(法人税法34条5項)。
業績連動給与のうち、損金算入が認められるのは、業務執行役員に対して支給される給与で、交付される金銭等の算定方法が客観的なものであり、かつ有価証券報告書に記載されていること等の一定の要件を満たすものに限られています(法人税法34条1項3号)。
特に算定方法について有価証券報告書等での開示が求められていることから、採用している会社は主に上場企業に限られています。
取締役の報酬等
次に、取締役の報酬等の決定手続について見ていきます。
規制の趣旨
取締役の報酬等について、会社(代表取締役)と取締役との契約で決定することができるとすると、取締役同士の馴れ合いから、報酬額が過大なものに設定される(いわゆる「お手盛り」)おそれがあります。
このため、会社法では、「報酬決定の手続」記載のとおり、取締役の報酬の決定に当たってのルールを設けています。
報酬決定の手続
取締役の報酬等については、定款または株主総会決議によって、取締役の報酬の種類ごとに、以下に掲げる事項を定めなければならないとされています(会社法361条1項柱書)。
報酬の種類 | 定めるべき事項 |
---|---|
① 確定額報酬 | その額(会社法361条1項1号) |
② 不確定額報酬 | 具体的な算定方法(会社法361条1項2号) |
③ 株式報酬 | 募集株式の数の上限等(会社法361条1項3号・5号イ、会社法施行規則98条の2各号・98条の4第1項各号) |
④ 新株予約権報酬(ストックオプション) | 募集新株予約権の数の上限等(会社法361条1項4号・5号ロ、会社法施行規則98条の3各号・98条の4第2項各号) |
⑤ 非金銭報酬 | 具体的な内容(会社法361条1項6号) |
また、上記に掲げる事項を定め、またはこれを改定する議案を株主総会に提出した取締役は、株主総会で、当該事項を相当とする理由を説明しなければならないこととされています(会社法361条4項)。
取締役の報酬等を決定するに当たっては、以上のとおり、上記に掲げる事項を定款または株主総会で定めることが必要ですが、例えば、確定額報酬について、個々の取締役の報酬額を定款または株主総会で定めることになると、個々の取締役の報酬額が公になってしまい、不都合もあります。
このため、実務では、株主総会で、取締役全員の報酬総額の限度額を定め、その枠内で、個々の取締役の報酬額の決定を取締役会に一任する取扱いがされています。そして、判例も、このような取扱いについて、株主総会で報酬総額の上限が定められていればお手盛りを防止できるとして、是認しています(最高裁第三小法廷昭和60年3月26日判決・判タ557号124頁)。
また、実務では、個々の取締役の報酬額の決定を一任された取締役会が、その決定をさらに代表取締役等の特定の取締役に再一任することもあり、このような取扱いも、判例で是認されています(最高裁第三小法廷昭和58年2月22日判決・判タ495号84頁)。
一方、①公開大会社で有価証券報告書の提出義務を負う監査役会設置会社と、②監査等委員会設置会社では、取締役会において、個々の取締役の報酬等の決定に関する方針を決定しなければならないこととされていますので注意が必要です(会社法361条7項、会社法施行規則98条の5各号)。
特殊な報酬決定手続
以上が、取締役の報酬等の決定に関する原則的なルールですが、以下では、少し特殊な取締役の報酬等の決定に関するルールについて見ていきます。
退職慰労金
取締役に退職慰労金を支給する会社も多いと思いますが、退職慰労金は、取締役の報酬の後払いとしての性格を有しますので、原則として、「報酬決定の手続」記載のルールに従って支給する必要があります。
もっとも、ある事業年度に退職する取締役の数は限られますので、株主総会で退職慰労金の額やその上限額を決定すると、事実上、特定の取締役に支払われる退職慰労金額が明らかになってしまいます。
このため、実務では、株主総会では、一定の支給基準に従って退職慰労金を支給することと、その具体的な金額等については取締役会に一任することに関する決議をとる取扱いがされており、判例も、このような取扱いを是認しています(最高裁第三小法廷昭和44年10月28日判決・判時577号92頁)。
使用人兼務取締役
取締役としての地位とともに従業員(使用人)としての地位も有する取締役(使用人兼務取締役)の報酬等について、仮に取締役としての報酬等についてのみ「報酬決定の手続」記載のルールが適用され、使用人としての給与には当該ルールが適用されないこととなれば、取締役としての報酬等を低額に抑えておき、使用人としての給与を高額に設定することで、取締役の報酬等の決定ルールを潜脱することが可能になってしまいます。
この点も踏まえ、判例では以下のように、使用人として受ける給与の体系が確立されている場合には、株主総会で取締役として受ける報酬額のみを決議することが可能とされています。
「使用人として受ける給与の体系が明確に確立されている場合においては、使用人兼務取締役について、別に使用人として給与を受けることを予定しつつ、取締役として受ける報酬額のみを株主総会で決議することとしても、取締役としての実質的な意味における報酬が過多でないかどうかについて株主総会がその一視機能を十分に果たせなくなるとは考えられない」
最高裁第三小法廷昭和60年3月26日判決・判タ557号124頁
会計参与の報酬等
次に、会計参与の報酬等の決定手続について見ていきます。
規制の趣旨
会計参与とは、取締役と共同して、会社の計算関係書類を作成する機関のことをいいます(会社法374条)。
このような会計参与の報酬等について、会社(代表取締役)と会計参与との契約で決定することになると、会計参与の報酬を会社(代表取締役等)が決定できることになるため、会計参与の独立性を確保することができなくなってしまいます。
このため、会社法では、「報酬決定の手続」記載のとおり、会計参与の報酬の決定に当たってのルールを設けています。
報酬決定の手続
会計参与の報酬等については、定款または株主総会決議によって、その金額を定めなければならないこととされています(会社法379条1項)。
また、会計参与が2人以上いる場合に、各会計参与の報酬等について定款または株主総会決議がないときは、各会計参与の報酬等は、株主総会決議等で定められた範囲内で、会計参与の協議によって定められることになります(会社法379条2項)。なお、会計参与は、株主総会において、会計参与の報酬等について意見を述べることができることとされています(会社法379条3項)。
監査役の報酬等
次に、監査役の報酬等の決定手続について見ていきます。
規制の趣旨
監査役とは、取締役の職務執行を監査する機関のことをいいます(会社法381条)。
監査役の報酬等について、会社(代表取締役)と監査役との契約で決定することになると、監査役の報酬を会社(代表取締役等)が決定できることになるため、監査役の独立性を確保することができなくなってしまいます。
このため、会社法では、「報酬決定の手続」記載のとおり、監査役の報酬の決定に当たってのルールを設けています。
報酬決定の手続
監査役の報酬等については、定款または株主総会決議によって、その金額を定めなければならないこととされています(会社法387条1項)。
また、監査役が2人以上いる場合に、各監査役の報酬等について定款または株主総会決議がないときは、各監査役の報酬等は、株主総会決議等で定められた範囲内で、監査役の協議によって定められることになります(会社法387条2項)。なお、監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができることとされています(会社法387条3項)。
会計監査人の報酬等
次に、会計監査人の報酬等の決定手続について見ていきます。
規制の趣旨
会計監査人とは、株式会社の計算書類などを監査する機関のことをいいます(会社法396条)。
会計監査人の報酬等について、会社(代表取締役)と会計監査人との契約でのみ決定することになると、会計監査人の報酬を会社(代表取締役等)が決定できることになり、会計監査人が十分な監査を行えないような低い報酬額が設定されてしまうおそれがあります。このため、会社法では、「報酬決定の手続」記載のとおり、会計監査人の報酬の決定に当たってのルールを設けています。
報酬決定の手続
取締役が、会計監査人の報酬等を定める場合には、監査役(監査役が2人以上いる場合にはその過半数。監査役会設置会社においては監査役会)の同意を得なければなりません(会社法399条1項・2項)。
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