株主総会の決議事項とは?
決議の種類と決議事項を一覧で
分かりやすく解説!

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東京八丁堀法律事務所弁護士
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この記事のまとめ

株主総会において決議(決定)する事項を、「株主総会の決議事項」といいます。

株主総会決議が必要な事項は、会社法などの法令で定められています。
株主総会の決議事項は、取締役会が設置されているか否かという会社の機関設計により異なります。
また、決議事項の重要度によって、決議の方法(定足数・表決数)も異なります。

株主総会の決議が必要な事項について、株主総会決議を経ていなかった場合や、その決議方法に問題(瑕疵)がある場合は、
✅ 決議の取消し・不存在・無効が争われる
✅ 決議の存在を前提にした行為の有効性が争われる
といったリスクが生じて、企業活動に混乱を来すので、会社の機関設計に応じた株主総会の決議事項と、その決議方法を正しく理解することが重要です。

この記事では、株主総会の決議事項について解説をした上で、株主総会の決議事項と決議方法を一覧表にして紹介しています。

ヒー

会社で決めることはたくさんありますが、株主総会で決議する事項なのか、取締役会で決議する事項なのかよく分からなくなります。どこかにまとまっていませんか?

ムートン

株主総会の決議事項は会社法などの法令の定めや、会社の定款に定めることによって決まります。どれも会社にとって重要なポイントなので、詳しく確認しましょう。

※この記事は、2023年10月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

株主総会の決議事項とは

株式会社には、株主から構成される「株主総会」が存在します。
この「株主総会」において決定(決議)する事項を「株主総会の決議事項」といいます。

株主総会の決議が必要な事項は、会社法などの法令で定められており、決議事項の重要度に応じて決議方法も異なります。

株主総会とは

株主総会」とは、株主が会社に関する事項の意思決定をする会議体であり、株式会社の最高意思決定機関です。
株主総会は、会社の規模を問わず、全ての会社に存在します。

株主総会では、「株式会社に関する一切の事項について決議をすることができる」(会社法295条1項)と定められており、原則として、強力な権限が認められています。

もっとも、後述のとおり、取締役会が置かれている会社では、株主総会は会社法や定款に規定する事項だけを決議することができます。

取締役会との違い

取締役会」とは、3名以上の取締役から構成される会議体です。
株主総会と同じく、会社に関する事項を決定する役割を持ちます。

取締役会がある会社を「取締役会設置会社」、取締役会がない会社を「非取締役会設置会社」あるいは「取締役会非設置会社」といいます。

ムートン

会社経営に関するあらゆる事項を株主総会で決定するのは大変ですので、より機動的な意思決定をして、企業活動を迅速に行うために、取締役会が設置されます。

取締役会設置会社と非取締役会設置会社の決議事項の違い

非取締役会設置会社では、株主総会においてあらゆる事項を決議することができます(会社法295条1項)。
したがって、会社の業務執行全般について、株主総会で決定することができます。

取締役会設置会社の場合は、以下①②のみが株主総会の決議事項となります(会社法295条2項)。

① 会社法で株主総会の決議事項と定められた事項
② 定款で株主総会の決議事項とする旨が定められた事項

ヒー

2つだけですか? なんだかかなり狭くないですか?

ムートン

これは、取締役会を置く場合、基本的な業務執行の決定権を取締役会に帰属させて、重要な事項だけを株主総会の決議事項とする方が、会社として機動的な意思決定ができるためです。

なお、法令で株主総会の決議事項と定められている事項を、取締役会の決議事項とすることはできません。

決議事項として法定されていない事項を決議した場合

法令で株主総会の決議事項と定められていない事項を決議した場合の効果(有効・無効)は、取締役会が設置されているか否かで異なります。

非取締役会設置会社では、株主総会においてあらゆる事項を決議することができますので、株主総会の決議事項として法定されていない事項に関する決議も有効です。

取締役会設置会社では、法令または定款で株主総会の決議事項と定められていない事項について株主総会決議をしても、それは法律上無効です(上述のとおり、会社の定款において、株主総会の決議事項とする旨を定める必要があります。会社法295条2項)。

決議事項と報告事項の違い

株主総会の報告事項とは、株主総会において、株主に対して報告がなされる事項をいいます。

報告」をすれば足りますので、当該報告について株主総会の承認の「決議」をする必要はありません。

株主総会での報告が必要な事項は、会社法で、以下の2つが定められています。

  • 事業報告(会社法438条3項)
  • 計算書類(会社法439条、438条2項)

ただし、「計算書類」は、以下の①~③を全て満たす場合は「報告事項となりますが(会社法439条)、いずれにも該当しない場合は「決議事項」となり、承認の決議が必要となります(会社法438条2項)。

① 取締役会設置会社であること
② 会計監査人設置会社であること
③ 次の3点を満たすこと(計算書類の内容が適正であること)
・会計監査報告の内容に問題がない(無限定適正意見である)
・監査役の監査報告の内容に問題がない(会計監査人の監査方法・結果を「相当でない」とする意見がない)
・計算書類が監査報告の通知報告期限の徒過により監査を受けたものとみなされたものでないこと

株主総会の決議方法

株主は、保有する株式1株につき1個の議決権を有しています(会社法308条1項)。

そして、株主総会の決議は、一定数以上の議決権を有する株主が出席した上で、出席した株主の議決権の一定以上の割合の賛成が得られた場合に成立します。

株主総会の決議方法は、決議事項の重要度に応じて、①普通決議②特別決議③特殊決議の大きく3つに分類されます。

定足数・評決数

3つの決議方法は、

  • 株主総会が成立するための「定足数」(出席株主数)
  • 賛否を決するための「表決数」(賛成割合、決議要件)

がそれぞれ異なります。

定足数表決数(決議要件)
① 普通決議
(会社法309条1項)
議決権の過半数を有する株主の出席が必要
 
※定款で修正・排除が可能。
ただし、役員の選任・解任は議決権の1/3以上を有する株主の出席が必要(会社法341条)。
出席株主の議決権の過半数の賛成が必要
 
※定款で修正・排除が不可。
② 特別決議
(会社法309条2項)
議決権の過半数を有する株主の出席が必要
 
※定款で1/3以上の割合まで緩和することも可。
出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要
 
 
③ 特殊決議
(会社法309条3項)
なし
 
① 議決権を行使できる株主の半数以上(頭数要件)
かつ
② 当該株主の議決権の2/3以上の賛成
が必要
 
※剰余金の配当等に関して株主ごとに異なる取扱いをする旨の定款変更をする場合は、②について、総株主の議決権の3/4以上の賛成が必要(会社法309条4項)。
ヒー

定足数を満たした上で、決議要件を満たす必要があるんですよね。うーん、複雑です。

ムートン

株主総会にかける決議事項がどれに当たるのか判断した上で、これらの要件を満たすように確認する必要があります。

株主総会の書面決議

株主総会は、

① 実開催して決議をする(株主を招集した上で、上記のとおり決議事項に応じて必要な決議方法をとる)

という方法以外にも、

株主全員が書面(メールなど電磁的記録も含む)で同意することで、「決議があったものとみなす」

ことができます(会社法319条1項)。

この②書面による決議を、「書面決議」といいます。

条文では、「決議があったものとみなす」と記載されていることから、「みなし決議」とも呼ばれます。

(株主総会の決議の省略)
319条
1 ……株主……の全員が書面又は電磁的記録により同意の意思表示をしたときは、当該提案を可決する旨の株主総会の決議があったものとみなす。
2 (以下略)

「会社法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

書面決議の対象となる決議事項は、株主総会の決議事項です。
したがって、特殊決議に該当する重要な事項(会社の解散など)であっても、株主全員の書面による同意がある場合は、株主総会を開催せずに決議をすることができます。

株主総会の実開催は、その招集手続や会場の確保などに費用・手間がかかりますので、非上場会社(非公開会社)のような株主が少ない会社では、この書面決議(みなし決議)が日常的に行われています。

株主総会の決議事項の一覧

株主総会の決議事項は、大きく、以下①~⑤に分類されます。

株主総会の決議事項

① 会社の基礎に関する事項
② 役員等の選任・解任に関する事項
③ 会社の計算に関する事項
④ 株主の利益に関する事項
⑤ 取締役等の利益相反のおそれがある事項

また、上記のとおり、取締役会設置会社非取締役会設置会社では、株主総会の決議事項は異なります。

✅ 取締役会設置会社…法令・定款で定められた事項のみが決議事項となる
✅ 非取締役会設置会社…あらゆる事項を株主総会の決議事項とすることができる

以下では、会社法に規定されている株主総会の決議事項の例を一覧で紹介します。

決議事項条文(会社法)決議方法
① 会社の基礎に関する事項定款の変更466条特別
資本金・準備金額の減少447条1項、448条1項普通
事業譲渡等の契約の承認467条1項特別
組織再編の承認
(吸収合併契約、新設合併契約、吸収分割契約、新設分割計画、株式交換契約、会社移転計画、株式交付計画)
783条1項、795条1項、804条1項、816条の3第1項特別
解散471条3号特別
② 役員等の選任・解任に関する事項取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任329条1項普通
取締役・監査役・会計参与・会計監査人の解任339条1項普通
代表取締役の選定
〔非取締役設置会社〕
349条3項普通
③ 会社の計算に関する事項計算書類の承認438条2項普通
④ 株主の利益に関する事項剰余金の配当454条普通
譲渡制限株式の譲渡承認の決定
〔非取締役設置会社〕
139条1項特別
自己株式の取得に関する事項の決定156条1項、160条1項特別
相続人等に対する株式の売渡請求の決定175条1項特別
株式の併合180条2項特別
募集株式の発行等における募集事項の決定199条2項特別
新株予約権の発行における募集の決定238条2項特別
⑤取締役等の利益相反のおそれがある事項取締役・監査役・会計参与の報酬等の決定361条1項、379条1項、387条1項普通
取締役の競業取引・利益相反取引の承認
〔非取締役会設置会社〕
356条1項普通
取締役・監査役等の責任の一部免除425条1項特別
※〔非取締役設置会社〕と記載があるものは、非取締役会設置会社の場合のみ決議事項となるもの。取締役会設置会社では株式総会の決議事項とはならない(取締役会の決議事項となる)。

①会社の基礎に関する事項

会社の組織事業の在り方に関する基礎的な事項の決定・変更は、その重要性が大きいことから、株主総会の決議事項とされています。

(例)定款変更、合併、事業譲渡、解散など

②役員等の選任・解任に関する事項

取締役・監査役・会計参与・会計監査人などの役員等は、会社から委任を受けて株主の利益のために業務を行うことが求められるため、その選任・解任に関する事項については、株主総会の決議事項とされています。

例えば、取締役は会社の経営を株主から委任され、株主のために職務を行う立場にあるため、株主が取締役の選任・解任を行うことで、取締役の業務執行を常に監督する仕組みとなっています。

監査役は、会社の委任を受けて取締役の業務執行を監督する立場にあるため、株主が選任・解任を行い、取締役(取締役会)が選任・解任することを禁止する仕組みとなっています。

(例)取締役・監査役・会計参与・会計監査人の選任・解任

③会社の計算に関する事項

会社計算に関する事項のうち、計算書類の確定は、剰余金の額や分配可能額の算定の基礎となる重要な事項であるため、株主総会の承認決議が必要とされています。

ただし、前述のとおり、①取締役会設置会社かつ②会計監査人設置会社であって、③監査の結果、計算書類に問題がないという3要件を満たす場合は、株主総会への「報告事項」となり、株主総会の「決議」は不要となります(会社法439条)。

(例)計算書類の承認など

④株主の利益に関する事項

株主利益に関する事項のうち、特に株主に及ぼす影響が大きい事項については、株主において慎重に判断すべきであるため、株主総会の決議事項とされています。

(例)剰余金の配当、株式の併合など

⑤取締役等の利益相反のおそれがある事項

取締役報酬などの利益相反のおそれがある事項について、取締役自らが決められるとすると、私腹を肥やすため不当に高額な報酬が設定される危険があります。いわゆる「お手盛り」の危険といいます。

そのため、取締役の報酬は、株主総会の決議事項と定められ、これによって株主が取締役をコントロールする仕組みとなっています。

(例)取締役・監査役・会計参与の報酬等の決定

必要な株主総会決議がなされない場合のリスク

株主総会決議が必要な事項について株主総会決議がなされていない場合決議方法に瑕疵があった場合は、会社の当該行為が無効になるリスクがあります。

具体的には、以下①~③の訴訟により、株主総会決議の適法性が争われます。

① 株主総会決議の取消しの訴え(会社法831条)
② 株主総会の不存在の確認の訴え(同法830条1項)
③ 株主総会決議の無効の訴え(同法830条2項)

このような訴訟が提起されると、対応する時間や費用が発生するほか、決議の取消し・不存在・無効などが確定すると、決議が有効であることを前提に行われた企業活動の有効性についても争いが生じ、円滑な企業活動に多大な支障が生じます。

ムートン

取締役選任の株主総会決議がなされていないケースで考えてみましょう。

例えば、取締役の選任は株主総会決議が必要な事項ですが、中小企業などで規模が大きくない会社の場合、株主総会決議が行われていないにもかかわらず、議事録だけを作成して役員登記をしているというケースがありえます。

このような会社で支配権争いが起き、取締役の選任決議について②株主総会不存在の確認の訴えが提訴されて認められた場合、

  • 取締役の役員登記が無効になる
  • 取締役として行った行為や、取締役会決議の有効性も問題となる
  • 取締役に支払われた報酬について不当利得として返還請求がなされる

といった事態が想定され、企業活動が停滞するおそれがあります。

ムートン

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