諾成契約とは?
成立要件・要物契約との違い・
民法改正による変更点などを分かりやすく解説!

この記事のまとめ

諾成契約」とは、物の引渡しなどを要することなく、当事者の合意のみによって成立する契約です。企業法務で取り扱う契約の大半は、諾成契約に該当します。

諾成契約の対義語は、物の引渡しをもって契約が成立する「要物契約」です。以前の民法では代物弁済契約・消費貸借契約・使用貸借契約・寄託契約が要物契約とされていました。
しかし取引の実情を踏まえて、2020年4月に施行された改正民法により、要物契約の多くが諾成契約へと変更されました。改正民法に定められる契約(典型契約)の中では、書面によらない消費貸借契約だけが要物契約に該当します。

法律上、諾成契約の成立には、保証契約など一部の例外を除いて、契約書の作成は必須ではありません。しかし、合意内容を明確化し、当事者間のトラブルを防止する観点からは、常に契約書を作成することが推奨されます。企業間取引の実務においては、ほぼすべての諾成契約について契約書が作成されています。

今回は諾成契約について、成立要件・要物契約との違い・民法改正による変更点などを解説します。

諾成契約は、契約類型の中の一つではないのですね?

売買契約や雇用契約など、さまざまな契約が「諾成契約」のカテゴリーに入っているイメージです。その要素を解説していきます。

※この記事は、2022年12月15日時点の法令等に基づいて作成されています。

※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・改正民法…2020年4月施行の「民法等の一部を改正する法律」による改正後の民法
・民法…2020年4月施行の「民法等の一部を改正する法律」による改正前の民法

諾成契約とは

諾成契約」とは、物の引渡しなどを要することなく、当事者の合意のみによって成立する契約です。合意が成立した時点(契約書の締結時など)から、当事者は契約上の義務を負います。

企業法務で取り扱う契約の大半は、諾成契約に該当します。

諾成契約と「要物契約」の違い

諾成契約の対義語は、物の引渡しをもって契約が成立する「要物契約」です。

要物契約は、当事者が合意するだけでなく、目的物を実際に引き渡すことが契約成立の要件となります。
例えば要物契約である金銭消費貸借契約の場合、貸主が借主に対して貸付金を交付した時点で契約が成立し、あとは借主が貸主に対して借りたお金を返すだけです。

これに対して諾成契約は、目的物の引渡しがされていない段階でも、当事者の合意があれば成立します。
例えば諾成契約である売買契約は、売主から買主へ目的物を引き渡すという内容です。この場合、売主と買主の合意によって売買契約が成立し、その後契約に基づいて、売主が買主に目的物を引き渡す流れになります。

例えば、インターネットで買い物をする際、注文した物は後から送られてきますが、売買契約は「注文を確定する」を押したとき(=合意したとき)に成立します。

諾成契約・要物契約の例

改正後の民法では、書面または電磁的記録によらない消費貸借契約のみが要物契約とされています(民法587条)。

その他の民法で定められた契約(典型契約)は、すべて諾成契約です。また、民法で定められていない各種の契約(非典型契約)も、諾成契約に該当します。

諾成契約の例

<典型契約>
・贈与契約
・売買契約
・交換契約
・書面等による消費貸借契約
・使用貸借契約
・賃貸借契約
・雇用契約
・請負契約
・委任契約・準委任契約
・寄託契約
・組合契約
・終身定期金契約
・和解契約

<非典型契約>
・保証契約
・抵当権設定契約(その他の担保権の設定契約も同様)
・秘密保持契約
・ライセンス契約
・M&A契約
・業務委託契約
など

諾成契約と「要式契約」の関係性

契約の種類を区別する方法には、諾成契約・要物契約という区別のほか、「要式契約」「不要式契約」という区別もあります。

要式契約」とは一定の方式に従って締結する必要がある契約、「不要式契約」とはそれ以外の契約のことです。

契約は原則として、当事者の合意によって成立するため、不要式契約であるのが原則です。ただし、一部の契約については、法律によって要式契約とされています。

要式契約の例

保証契約
→書面または電磁的記録による締結が必要(民法446条2項・3項)

定期建物賃貸借契約
→書面または電磁的記録による締結が必要(借地借家法38条1項・2項)

諾成的消費貸借契約
→書面または電磁的記録による締結が必要(民法587条の2)

任意後見契約
→公正証書による締結が必要(任意後見契約に関する法律3条)

要式契約であるか不要式契約であるかについては、諾成契約・要物契約の区別とは関係がありません。したがって諾成契約の中にも、要式契約であるものと、不要式契約であるものの両方が存在します。

諾成契約の成立要件

諾成契約は原則として、当事者間における申込みと承諾の合致のみによって成立します。

ただし例外的に、要式契約に該当する諾成契約については、法律の要件に従った方式による締結が必要です。

申込みと承諾の合致だけで成立|書面の作成は原則不要

諾成契約の成立要件を示しているのは、民法522条1項です。同規定によれば、契約は締結を申し入れる意思表示(=申込み)を、相手方が承諾したときに成立します。

例えば売買契約は、売主が「不動産Aを売ります」と申し込み、それに対して買主が「わかりました、不動産Aを買います」と承諾した時点で成立します。その際、契約書など書面の作成は必須とされていません(民法522条2項)。

(契約の成立と方式)
第522条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

例外的に書面の作成が必須となる契約の例

諾成契約は当事者の合意(=申込みと承諾の合致)のみによって成立するという原則に対して、その例外が前述の「要式契約」です。

要式契約の場合、法律で定められた方式に従って締結しなければ無効となります。
ただし、書面または電磁的記録を作成しなかった消費貸借契約は、要物契約としてならば有効となります(民法587条)。

2020年4月民法改正|要物契約から諾成契約に変更された契約

2020年4月1日に改正民法が施行され、従来の民法のルールが大幅に変更されました。その際、ほとんどの契約が諾成的に締結されている取引の実情を踏まえて、以下の契約が要物契約から諾成契約へと変更されました。

要物契約から諾成契約に変更された契約

・代物弁済契約
・書面等による消費貸借契約(諾成的消費貸借契約)
・使用貸借契約
・寄託契約

上記変更の結果、改正民法に定められる契約(典型契約)の中では、書面または電磁的記録によらない消費貸借契約だけが要物契約に該当します。

代物弁済契約

代物弁済契約とは、本来の債務の弁済に代えて、別の給付を行う契約です。

(例)借金を返す代わりに、貴金属類を譲渡する

民法における条文解釈上、代物弁済契約は要物契約であると解されていました。

しかし、2020年4月1日に施行された改正民法では、「契約をした」ことと「給付をした」ことが分けて定められたことにより、代物弁済契約が新たに諾成契約として位置づけられました。

<改正前民法>
(代物弁済)
第482条 債務者が、債権者の承諾を得て、その負担した給付に代えて他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

<改正民法>
(代物弁済)
第482条 弁済をすることができる者(以下「弁済者」という。)が、債権者との間で、債務者の負担した給付に代えて他の給付をすることにより債務を消滅させる旨の契約をした場合において、その弁済者が当該他の給付をしたときは、その給付は、弁済と同一の効力を有する。

民法の一部を改正する法律案新旧対照条文 – 法務省

書面等による消費貸借契約(諾成的消費貸借契約)

消費貸借契約とは、貸した物をいったん消費した後、同種・同品質・同数量の物を返す内容の契約です。

(例)100万円を借りて、後で100万円を返す

民法では、消費貸借契約は一律で要物契約とされていました。これに対して、2020年4月1日に施行された改正民法では、書面または電磁的記録によってなされる場合に限り、消費貸借契約は諾成契約に当たることが明確化されました(諾成的消費貸借契約。民法587条の2)。

なお、書面または電磁的記録を作成しない消費貸借契約は、改正民法の下でも、引き続き要物契約に該当します。

(消費貸借)
第587条 消費貸借は、当事者の一方が種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約して相手方から金銭その他の物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

(書面でする消費貸借等)
第587条の2 前条の規定にかかわらず、書面でする消費貸借は、当事者の一方が金銭その他の物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物と種類、品質及び数量の同じ物をもって返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。
2 書面でする消費貸借の借主は、貸主から金銭その他の物を受け取るまで、契約の解除をすることができる。この場合において、貸主は、その契約の解除によって損害を受けたときは、借主に対し、その賠償を請求することができる。
3 書面でする消費貸借は、借主が貸主から金銭その他の物を受け取る前に当事者の一方が破産手続開始の決定を受けたときは、その効力を失う。

民法– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

使用貸借契約

使用貸借契約とは、物を無償で貸し渡して、後に返してもらう内容の契約です。

民法では、使用貸借契約は「物を受け取る」ことによって成立する要物契約とされていました。これに対して、2020年4月1日に施行された改正民法では、無償での貸し渡しと返還を「約する」ことによって成立する諾成契約に変更されました。

<改正前民法>
(使用貸借)
第593条 使用貸借は、当事者の一方が無償で使用及び収益をした後に返還をすることを約して相手方からある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

<改正民法>
(使用貸借)
第593条 使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。

民法の一部を改正する法律案新旧対照条文 – 法務省

寄託契約

寄託契約とは、受寄者が寄託者のために物を保管する内容の契約です。

民法では、寄託契約は「物を受け取る」ことによって成立する要物契約とされていました。これに対して、2020年4月1日に施行された改正民法では、物の保管委託と承諾によって成立する諾成契約に変更されました。

<改正前民法>
(寄託)
第657条 寄託は、当事者の一方が相手方のために保管をすることを約してある物を受け取ることによって、その効力を生ずる。

<改正民法>
(寄託)
第657条 寄託は、当事者の一方がある物を保管することを相手方に委託し、相手方がこれを承諾することによって、その効力を生ずる。

民法の一部を改正する法律案新旧対照条文 – 法務省

企業法務における諾成契約に関する注意点

企業における法務担当者は、諾成契約について、特に以下の2点にご留意ください。

・法律上は不要でも、契約書を作成すべき
・「契約締結日」と「実行日」「開始日」の違いに注意

法律上は不要でも、契約書を作成すべき

法律上、要式契約とされているものを除き、諾成契約を締結する際には、契約書その他の書面の作成は必須ではありません。

しかし企業法務においては、合意内容を明確化するため、契約締結時には必ず契約書を作成すべきです。特に相手方との間で契約トラブルが発生した場合には、契約書がなければ自社の権利を主張できず、不測の損害を被るおそれがあるのでご注意ください。

「契約締結日」と「実行日」「開始日」の違いに注意

諾成契約の場合、契約上の義務が発生する「契約締結日」と、物の引渡しや実際の業務などが行われる「実行日」「開始日」がずれるケースがあります。

この場合、「契約締結後・実行前(開始前)」と「実行後(開始後)」の2段階に分けて、業務フローやルールを定める必要があります。それぞれの段階に対応して、必要な規定が盛り込まれているかどうかを意識してチェックしましょう。

この記事のまとめ

諾成契約の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!