譲渡禁止条項(譲渡制限条項)とは?
民法上の原則や例文、
レビューポイントを分かりやすく解説!
- この記事のまとめ
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譲渡禁止条項(譲渡制限条項)とは、相手方の承諾を得ずに、契約上の地位(権利・義務)を第三者に譲渡することを禁止する条項です。
譲渡禁止特約(譲渡制限特約)ともいわれます。
契約に譲渡禁止条項を定める理由は、契約の相手方が意図せず変更となり、予期せぬリスクが発生してしまうことを防止する点にあります。
譲渡禁止条項の設定・レビューの際は、契約によって自身が取得する債権と相手方に負う債務を適切に把握した上で検討することがポイントです。
例えば、債権者側にとって、その債権を担保として資金調達を行いたいといった需要などがある場合には、譲渡禁止条項を設けることは望ましくないため、排除する方向で交渉することになります。
反対に、債務者側にとっては、譲渡禁止条項を設けることで、意図しない人物に債務の履行をしなければならなくなるリスクを回避できるので、譲渡禁止条項を設ける方向で交渉することになります。
今回は、譲渡禁止条項について、民法上の原則・例文・レビューポイントなどを解説します。
※この記事は、2022年10月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・民法…2020年4月1日施行後の民法
・改正前民法…2020年4月1日施行前の民法
目次
譲渡禁止条項(譲渡制限条項)とは
譲渡禁止条項(譲渡制限条項)とは、契約上の地位(権利・義務)を第三者に譲渡することを禁止する条項です。
「譲渡禁止特約」(「譲渡制限特約」)ともいわれます。
譲渡禁止条項(譲渡制限条項)が存在する契約上の債権は、譲渡禁止特約付き(譲渡制限特約付き)の債権といわれます。
債務 | 相手方に対して負っている義務 例:代金を支払う義務・借金を返済する義務 |
債務者 | 債務を負っている者 ※債務者が義務を果たすことを「履行」という |
債権 | 相手方に対して請求できる権利 例:購入した物を受け取る権利・代金の支払いを求める権利 |
債権者 | 債権を保有している者 |
譲渡禁止条項を定める理由
譲渡禁止条項を定める理由は、契約の相手方が意図せず変更となり、予期せぬリスクが発生してしまうことを防止する点にあります。
取引の相手方を選ぶときは、資金状況や保有するノウハウ、反社会的勢力に該当しない相手であることなどを考慮・確認して決定するのが通常です。相手方が決定したら、契約を締結し双方を権利・義務で拘束します。しかしこれらの権利・義務が勝手に第三者に譲渡できてしまうと、相手方を選定して契約をした意味がなくなってしまいます。そこで、譲渡禁止条項が設けられます。
特に、債務者にとっては、債権者を固定することにより、以下の3点のメリットがあります。
- 誤った相手へ弁済してしまうリスク(過誤払い)を防止する
- 反対債権による相殺をする機会を喪失するリスクを防止する
- 債権者の変更に伴って生じる事務手続きの煩雑さを回避する
譲渡禁止条項の例文と書き方
譲渡禁止条項の例文を紹介します。
- 例文
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第●条(譲渡禁止)
甲および乙は、事前に相手方の書面による承諾がない限り、本契約により生じた契約上の地位を移転し、または本契約により生じた自己の権利義務の全部もしくは一部を、第三者に譲渡し、もしくは第三者の担保に供してはならない。
相手方の承諾の有無については、事後的な争いを予防するため、「事前」の「書面」による承諾を要件として定める場合が多いです。
譲渡禁止条項において禁止される行為
譲渡禁止条項において禁止される主な行為は以下の3つです。
①契約上の地位の移転
契約上の地位の移転とは、契約から生じる権利義務の全て(取消権や解除権なども含む)を第三者に移転させることをいいます。
②債権譲渡
債権譲渡とは、文字どおり、債権(金銭債権であれば、債務者から金銭を受領する権利)を第三者に譲渡することをいいます。
③債務引受
債務引受とは、債務(金銭債務であれば、債権者に対して支払う義務)を第三者(引受人)に負わせることをいいます。
債務引受には2つのパターンがあり、併存的債務引受と免責的債務引受があります。
- 併存的債務引受…元々の債務者に加えて、引受人も債務を負担すること
- 免責的債務引受…元々の債務者が債務を免れて、引受人のみが債務を負担すること
譲渡禁止条項に関する民法上の原則
①契約上の地位の移転、②債権譲渡、③債務引受の民法上の原則を説明します。
契約上の地位の移転について
民法は、以下のとおり定めています。
(契約上の地位の移転)
「民法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第539条の2 契約の当事者の一方が第三者との間で契約上の地位を譲渡する旨の合意をした場合において、その契約の相手方がその譲渡を承諾したときは、契約上の地位は、その第三者に移転する。
民法上、契約上の地位の移転をするためには相手方の承諾が必要となります。
そのため、譲渡禁止条項において、相手方の承諾なく移転できない旨を定めることは民法の原則どおりです。しかし実務上は、「承諾は事前の書面によらなければならない」という形式的要件を追加するケースがほとんどです。口頭での合意となると、言った言わないの紛争に発展してしまう可能性があるためです。
債権譲渡について
民法は、以下のとおり定めています。
(債権の譲渡性)
第466条 債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2 当事者が債権の譲渡を禁止し、又は制限する旨の意思表示(以下「譲渡制限の意思表示」という。)をしたときであっても、債権の譲渡は、その効力を妨げられない。
3 前項に規定する場合には、譲渡制限の意思表示がされたことを知り、又は重大な過失によって知らなかった譲受人その他の第三者に対しては、債務者は、その債務の履行を拒むことができ、かつ、譲渡人に対する弁済その他の債務を消滅させる事由をもってその第三者に対抗することができる。
4 前項の規定は、債務者が債務を履行しない場合において、同項に規定する第三者が相当の期間を定めて譲渡人への履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、その債務者については、適用しない。(譲渡制限の意思表示がされた債権に係る債務者の供託)
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第466条の2 債務者は、譲渡制限の意思表示がされた金銭の給付を目的とする債権が譲渡されたときは、その債権の全額に相当する金銭を債務の履行地(債務の履行地が債権者の現在の住所により定まる場合にあっては、譲渡人の現在の住所を含む。次条において同じ。)の供託所に供託することができる。
2 (略)
3 (略)
後述の改正前民法では、譲渡禁止条項がある場合に債権譲渡を行っても無効というルールでした。
しかし、2020年の民法改正により、譲渡禁止条項が定められていたとしても、債権譲渡自体は有効となりました(民法466条2項)。したがって、契約の相手方が変更となるリスクを完全に防止することはできません。
ただし、民法466条3項では、以下のいずれかに債権譲渡をした場合は、債権譲渡が無効になるとも定めています。
- 悪意の第三者(譲渡制限条項があることを知っていながら、債権の譲渡を受けた者)
- 重過失の第三者(譲渡制限条項があることを知らなかったが、知らなかったことに重大な過失がある者)
これにより、譲渡禁止条項を設けることで、誤った相手へ弁済してしまうリスク(過誤払い)などを回避することができます。
そのため、2022年9月現在の民法下においても、実務上は多くの契約書において譲渡禁止条項が設けられています。
債務引受について
民法は、併存的債務引受と免責的債務引受について以下のとおり定めています。
(併存的債務引受の要件及び効果)
第470条 併存的債務引受の引受人は、債務者と連帯して、債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担する。
2 併存的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。
3 併存的債務引受は、債務者と引受人となる者との契約によってもすることができる。この場合において、併存的債務引受は、債権者が引受人となる者に対して承諾をした時に、その効力を生ずる。
4 前項の規定によってする併存的債務引受は、第三者のためにする契約に関する規定に従う。(免責的債務引受の要件及び効果)
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第472条 免責的債務引受の引受人は債務者が債権者に対して負担する債務と同一の内容の債務を負担し、債務者は自己の債務を免れる。
2 免責的債務引受は、債権者と引受人となる者との契約によってすることができる。この場合において、免責的債務引受は、債権者が債務者に対してその契約をした旨を通知した時に、その効力を生ずる。
3 免責的債務引受は、債務者と引受人となる者が契約をし、債権者が引受人となる者に対して承諾をすることによってもすることができる。
民法上、併存的債務引受と免責的債務引受を行うには、債権者の承諾が必要となります(民法470条3項、同472条3項)。
そのため、譲渡禁止条項において、相手方の承諾なく移転できない旨を定めることは、民法の原則と類似しています。しかし実務上は、「承諾は相手方に対する事前の書面によらなければならない」という形式的要件を追加するケースがほとんどです。
改正前民法の規定
契約上の地位の移転と債務引受は、改正前民法には明文化されておらず、判例法理(裁判所が示した判断の蓄積によって形成された法理)として認められている制度でした。
それが現在の民法において明文化する形で新設されましたので、現在の民法に定められる制度と改正前民法下における制度に大きな違いはありません。
債権譲渡についての改正前民法の規定は、以下のとおりです。
改正前民法466条1項では、原則として債権譲渡が自由であるとされた上で、同条2項において「当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない」と定められていました。そのため、譲渡禁止条項を設けた場合には、債権譲渡が原則として無効とされていました。
そのため、譲渡禁止条項を設けることで、上述の目的(契約の相手方を固定する、また、債権者にとっては弁済先を固定するなど)が達せられていました。
民法改正の背景
改正前民法では、原則として譲渡禁止特約付きの債権譲渡が無効とされていたのに対し、現在の民法では有効と改正された理由は、中小企業等が債権を譲渡して(または担保に入れて)資金調達を行うこと妨げる原因となっていたためです。
現在の民法においては、債権譲渡禁止特約付きの債権譲渡も有効となりましたので、債権者側からすれば、債権を譲渡したり、債権を担保にしたりして資金調達を行うことが可能となったというメリットがあります。
譲渡禁止条項に違反した債権譲渡の効力
上述のとおり、現在の民法においては、譲渡禁止条項に違反した債権譲渡であっても有効となります(民法466条2項)。
もっとも、譲渡禁止条項を設けることで、
- 譲渡禁止特約の存在について悪意・重過失の債権の譲受人に対して、債務の履行を拒んだ上で、譲渡人に弁済することができる(民法466条3項)
- 債権の全額に相当する金額を供託することができる(民法466条の2第1項)
といった実益があるため、現在の民法下においても、実務上は多くの契約書において譲渡禁止条項が設けられています。
債権者側・債務者側における譲渡禁止条項のレビューポイント
契約書に譲渡禁止条項を設けるか否かについては、契約によって自身が取得する債権と相手方に負う債務を適切に把握した上で検討をすることがポイントです。
例えば、代金を受領するといった債権をもつ者側にとっては、その債権を担保として資金調達を行いたいといった需要などがある場合には、譲渡禁止条項を設けることは望ましくないため、排除する方向で交渉をすることになります。
反対に、代金を支払う・目的物を引き渡すといった債務を負う側にとっては、譲渡禁止条項を設けることで、意図しない譲受人に弁済・債務履行をしなければならないリスクを回避できますので、譲渡禁止条項を設ける方向で交渉をすることになります。
COC(Change of Control)条項
譲渡禁止条項のように、契約上の地位の移転や権利義務の変動についての規定ではないものの、実質的に当事者が変更となるような場合を想定した条項として、COC条項(Change of Control条項)があります。
COC条項(Change of Control条項)とは、契約当事者のどちらかが一方に、支配権の変更が生じることになった場合のルールを定めた条項です。
具体的には、以下のような内容が定められます。
- 支配権の変動があった場合には、もう一方の当事者は、契約を解除できる旨
- 支配権の変動が生じる前に通知する義務
ここでいう支配権に変更が生じる場合とは、例えば支配株主が変更する場合などを指しますが、会社によって株主や経営陣の構成さまざまなので、契約ごとに具体的に定められる場合が多いです。
記載例を以下のとおり紹介します。
- 記載例1(解除権を発生させる場合)
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第●条(支配権の変更)
甲は、乙の支配権に変更が生じた場合(乙が組織再編行為を行った場合および乙の現在の株主が保有する乙の議決権が50%を超えて変動した場合を含む。)には、何らの催告なく本契約を解除することができる。
- 記載例1(通知義務を課す場合)
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第●条(支配権の変更)
1.甲及び乙は、支配権に変更が生じる場合(乙が組織再編行為を行った場合および乙の現在の株主が保有する乙の議決権が50%を超えて変動した場合を含む。)には、事前に相手方に対して書面で通知をしなければならない。
2.前項の通知がなされなかった場合、相手方は何らの催告なく本契約を解除することができる。
契約においてCOC条項が設けられる主な目的は、相手方企業の支配権が変更となった場合に、契約を継続するか否かについて検討する機会を設ける点にあります。
一般論として、企業同士の契約は、通常、相手方企業の信用力や属性なども踏まえて締結されています。そのため、相手方企業の支配権が変更して経営陣や経営方針なども大幅に変更される場合には、契約を継続するか否かを検討する機会を確保すべきといえます。
実務上、売買契約、役務提供契約、業務委託契約など、さまざまな契約類型においてCOC条項が設けられる場合があります。
COC条項では、このような支配権の変動(経営権の変動)が生じた場合の効果には、
- 事前の通知義務を課す
- 相手方当事者において、契約の解除権を発生させる
- 期限の利益を喪失させて弁済期を到来させる
といった効力が生じることを定めておくことが多いです。
この記事のまとめ
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