契約における目的条項とは?
書き方・レビューポイントなどを解説!

この記事のまとめ

契約における目的条項とは、契約に基づいて予定される取引の目的や内容などを記載した条項です。多くの場合、第1条に置かれます。

当事者間で契約締結の目的を明確に共有するためには、目的条項の記載内容について協議を尽くすことが効果的です。

また、目的条項は契約解釈の基準にもなり得るため、適切な内容になるようきちんとレビューする必要があります。

今回は契約の「目的条項」について、書き方・レビューのポイントなどを解説します。

ヒー

契約における目的条項ってレビューする必要あるんですか?

ムートン

確かに、形式的に置かれていることの多い条項ではありますが、2020年の民法により重要性が高まった条項でもあるんですよ。この記事で勉強していきましょう。

※この記事は、2022年7月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

契約における目的条項とは

契約における目的条項とは、契約に基づいて予定される取引の目的や内容などを記載した条項です。

目的条項は、契約の冒頭に記載するのが一般的です。

多くの場合、「第1条(目的)」などの条文を設けて目的条項を規定します。

<目的条項の例>

目的条項は、当事者間の具体的な権利義務を定めるものではありません。しかし、目的条項には契約全体に通じる精神・理念が表れるため、不可欠な条項です。

なお、契約の中で「信義誠実の原則」が規定されることがありますが、信義誠実の原則を定める必要性は低いと言えます。

ヒー

「信義誠実の原則」って何ですか?

ムートン

契約書で定めた権利義務について、お互いにきちんと守り務めを果たすよう、誠実に行動しなければならないとする原則のことです。

当事者が信義誠実の原則に従うことは当然であり、民法でも明確に規定されているため(民法1条2項)、わざわざ契約書に記載する必要はないからです。

契約書に目的条項を記載すべき理由

契約に目的条項を記載すべき理由は、主に以下の2点です。

✅  取引の目的を当事者間で明確に共有するため
✅  契約解釈の基準となるため

取引の目的を当事者間で明確に共有するため

目的条項には、当事者間で予定される取引の目的・内容が明記されます。

契約交渉において目的条項の内容を調整する中で、互いに契約に関する認識を共有するため、契約に定めた権利義務を履行するという意思を高める効果が見込めるでしょう。

契約解釈の基準となるため

目的条項は、契約全体の解釈の基準としての役割を有しています。

ヒー

「契約の解釈」って何ですか?

ムートン

契約書の内容が不明確な場合に、その真意を読み解き、意味を明確化する作業のことです。契約の解釈をする必要のない表現をすることが理想ですが、100%明確な表現を用いることが難しい場合もあります。そうしたときは、契約の解釈をすることで解決を図ります。

契約の解釈に当たっては、実際の文言が重視されるということは言うまでもありませんが、同時に当事者の意思(この契約で何を実現したいのか/なぜこの契約を締結したのかなど)も考慮されます。

そしてこれらの情報が書かれているのが「目的条項」であり、目的条項に照らして、契約の文言が解釈されることになるのです。

また、民法が定める、

✅  「取引上の社会通念に照らして……」と記載されている条文
✅  契約不適合責任契約の内容に適合しないことに伴う責任)

などを解釈する際にも、目的条項の内容が考慮されるため、この点からも目的条項の記載は必要不可欠です。

なお、契約の解釈に当たり、目的条項が考慮される民法の条文の例としては、以下のようなものが挙げられます。

<契約の解釈に当たり、目的条項が考慮される民法の条文の例>

✅  錯誤取消しに関する規定

(錯誤)

第95条  意思表示は、次に掲げる錯誤に基づくものであって、その錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときは、取り消すことができる。

一  意思表示に対応する意思を欠く錯誤

二  表意者が法律行為の基礎とした事情についてのその認識が真実に反する錯誤

✅  特定物の引渡しに関する善管注意義務の規定

(特定物の引渡しの場合の注意義務)

第400条  債権の目的が特定物の引渡しであるときは、債務者は、その引渡しをするまで、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らして定まる善良な管理者の注意をもって、その物を保存しなければならない。

✅  履行不能に関する規定

(履行不能)

第412条の2  債務の履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして不能であるときは、債権者は、その債務の履行を請求することができない。

✅  債務不履行による損害賠償の規定

(債務不履行による損害賠償)

第415条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないとき又は債務の履行が不能であるときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。ただし、その債務の不履行が契約その他の債務の発生原因及び取引上の社会通念に照らして債務者の責めに帰することができない事由によるものであるときは、この限りでない。

✅  準占有者に対する弁済の規定

(受領権者としての外観を有する者に対する弁済)

第478条  受領権者(債権者及び法令の規定又は当事者の意思表示によって弁済を受領する権限を付与された第三者をいう。以下同じ。)以外の者であって取引上の社会通念に照らして受領権者としての外観を有するものに対してした弁済は、その弁済をした者が善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、その効力を有する。

✅  特定物の現状による引渡しの規定

(特定物の現状による引渡し)

第483条  債権の目的が特定物の引渡しである場合において、契約その他の債権の発生原因及び取引上の社会通念に照らしてその引渡しをすべき時の品質を定めることができないときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。

✅  債権者による担保の喪失に関する規定

(債権者による担保の喪失等)

第504条  弁済をするについて正当な利益を有する者(以下この項において「代位権者」という。)がある場合において、債権者が故意又は過失によってその担保を喪失し、又は減少させたときは、その代位権者は、代位をするに当たって担保の喪失又は減少によって償還を受けることができなくなる限度において、その責任を免れる。その代位権者が物上保証人である場合において、その代位権者から担保の目的となっている財産を譲り受けた第三者及びその特定承継人についても、同様とする。

2  前項の規定は、債権者が担保を喪失し、又は減少させたことについて取引上の社会通念に照らして合理的な理由があると認められるときは、適用しない。

✅  債務不履行解除に関する規定

(催告による解除)

第541条  当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。

✅  定型約款におけるみなし合意の例外規定

(定型約款の合意)

第548条の2  (略)

2  前項の規定にかかわらず、同項の条項のうち、相手方の権利を制限し、又は相手方の義務を加重する条項であって、その定型取引の態様及びその実情並びに取引上の社会通念に照らして第1条第2項に規定する基本原則に反して相手方の利益を一方的に害すると認められるものについては、合意をしなかったものとみなす。

✅  契約不適合責任の規定

(買主の追完請求権)

第562条  引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

「民法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ

特に、2020年4月1日に改正民法が施行されて以降、契約不適合責任の新設をはじめとして、契約の目的条項を考慮すべきと考えられる民法の規定が増えました。そのため、契約の目的条項の重要性は、これまで以上に高まっている状況と言えるでしょう。

目的条項に記載すべき要素

目的条項に記載すべき内容は、主に以下のとおりです。

✅  契約締結の目的
まずは、契約締結の動機も含めて、目的を記載します。

✅  契約に基づく成果物・サービス等の利用方法
いずれかの当事者からもう一方の当事者に成果物やサービスなどが提供される場合、提供を受けた側がそれをどのように利用するかについても、目的条項の中で定めておきましょう。
特に、民法の契約不適合責任との関係では、成果物・サービスの利用方法を明記しておくことが重要になります。提供されるべき成果物・サービスの内容は、提供を受ける側の利用方法も考慮して決定すべきだからです。

✅  契約条項で定める内容のまとめ(簡潔に)
目的条項は契約の要約としての役割ももっているため、契約条項全体において定める内容のまとめも記載しておきましょう。ただし、詳細な記載は必要なく、一言で簡潔に記載しておけばOKです。

目的条項の記載例(書き方)

業務委託契約秘密保持契約取引基本契約の3つについて、目的条項の記載例を紹介します。

ただし、目的条項はオーダーメイド性の高い規定であるため、実際に契約中で定める目的条項の内容は、取引の実情に応じて当事者間でご調整ください。

業務委託契約の目的条項の記載例

記載例

(目的)
第1条
本契約は、甲がソフトウェア開発事業を行うに当たり、乙の有する技術者としての専門性を活用するため、甲が乙に対して以下の業務を委託し、乙がこれを受託する取引に適用されるルールその他の事項を定めることを目的とする。
(1)……
(2)……

秘密保持契約の目的条項の記載例

記載例

(目的)
第1条
本契約は、甲と乙が業務提携に関する取引を相互に検討するに当たって、甲乙間で授受される秘密情報の第三者に対する流出・漏えい等を防ぐため、甲乙がそれぞれ負うべき秘密保持義務、秘密情報の適切な管理に必要な措置その他の事項を定めることを目的とする。

取引基本契約の目的条項の記載例

記載例

(目的)
第1条
本契約は、乙が製造する製品「○○」の△△機能を活用して事業運営の効率化を図るため、甲が乙から同製品を継続的に購入する取引につき、共通して適用されるルールその他の事項を定めることを目的とする。

目的条項をレビューする際のポイント

契約の目的条項をレビューする際には、主に以下の3点に注目して確認を行うのがよいでしょう。

✅  自社の動機が明確に反映されているか
✅  成果物・サービス等の個性が適切に表現されているか
✅  契約条項に対応する内容となっているか

自社の動機が明確に反映されているか

契約締結の動機は、目的条項に記載すべき要素の中でも重要度の高い事項です。

特に契約不適合責任との関係では、契約締結の動機に応じて、提供すべき商品・サービスの内容が判断される傾向にあります。そのため、目的条項の中で自社の動機が適切に表現されていることを必ず確認しましょう。

成果物・サービスの個性が適切に表現されているか

目的条項では、契約に基づいて提供される成果物・サービスの個性を明記することも大切になります。提供を受ける側がなぜそれを必要としているのかを明らかにすることで、提供すべき商品・サービスの内容が明確になるからです。

業務委託契約・請負契約・サービス利用契約など、何らかの成果物やサービスの提供が予定されている契約については、その成果物やサービスの特徴的な部分を目的条項の中で明記しておきましょう。

契約条項に対応する内容となっているか

契約の目的条項は、契約全体の要約という位置づけでもありますので、契約条項に対応する記載内容になっているかどうかも重要なチェックポイントです。

あまり詳しく記載する必要はありませんが、目的条項を確認しただけで、以下の内容がわかるような記載とすることが望ましいでしょう。

✅  どのような商品・サービスなどが取引されるのか
✅  当事者間で発生する主要な契約上の権利義務は何か(例:商品を購入する、業務を委託・受託するなど)
✅  継続的な取引である場合はその旨
✅  取引に関する特有の事情(もしあれば)
など

この記事のまとめ

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