保守契約とは?
目的・メリット・主な規定事項・
締結時の注意点などを分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

保守契約」とは、製品システムなどの点検メンテナンスに関する契約です。新規に製品やシステムなどを開発・導入した後、運用期間におけるサポートを目的として保守契約を締結することがあります。

保守契約を締結すれば、専門技術者による優先的なサポートを受けることができます。また、定期的にメンテナンスアップデートを行うことができるので、予期せぬ故障や不具合などのリスクを抑えることができます。

保守契約に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。
① 保守点検の範囲・保守業務の内容
② 保守業務の実施方法|対応時間・連絡方法・実施業務の確認方法など
③ 保守業務の対価(報酬)
④ 保守業務にかかる費用の負担
⑤ 契約期間
⑥ 契約の解除・中途解約
⑦ その他

特に、保守点検の範囲・保守業務の内容、および契約の中途解約に関する方法に関する事項はよく確認しておきましょう。契約条件に不明確な点があれば、疑義をなくすために修正を求めるべきです。

この記事では保守契約について、目的・メリット・主な規定事項・締結時の注意点などを解説します。

ヒー

他社に開発してもらったシステムについて、保守契約のレビュー依頼がありました。どこを重点的にチェックしたらよいでしょうか?

ムートン

保守契約は対象による個別性が高く、契約条項の明確さが求められます。ポイントを詳しく見ていきましょう。

※この記事は、2024年4月16日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

保守契約とは|目的・対象となる製品やシステムの例

保守契約」とは、製品システムなどの点検メンテナンスに関する契約です。新規に製品やシステムなどを開発・導入した後、運用期間におけるサポートを目的として保守契約を締結することがあります。

保守契約の対象となる製品やシステムとしては、以下の例が挙げられます。

・コンピューターソフトウェア
・サーバー
・ネットワーク機器
・コピー機、複合機
・監視カメラ
・産業用ロボットなど、工場内にある産業設備
・発電機
・MRI、超音波検査装置などの医療機器
など

保守契約を締結するメリット

製品やサービスについて保守契約を締結することのメリットは、主に以下の2点です。

① 専門技術者による優先的なサポートを受けられる
② 定期的なメンテナンスとアップデートができる

専門技術者による優先的なサポートを受けられる

製品やシステムについては、使用期間の経過に連れて故障が発生したり、セキュリティ上の問題が発覚したりすることがあります。

保守契約を締結していれば、こうしたトラブルが生じた場合に、専門技術者による優先的なサポートを受けることができます。迅速に製品やシステムを復旧させることができれば、事業活動への影響を最小限に抑えられるでしょう。

ムートン

自社にトラブル対応ができる人がいない場合などは、保守契約を結ぶメリットが大きいと言えるでしょう。

定期的なメンテナンスとアップデートができる

会社において導入した製品やサービスについては、具体的なトラブルが発生していなくても、定期的にメンテナンスアップデートを行うことが重要です。そのため、保守契約の内容には、定期的なメンテナンスやアップデートも含めるのが一般的となっています。

保守契約に基づく定期点検を通じて問題点を早期に発見すれば、トラブルの発生や深刻化などを防ぐことができます。

保守契約のデメリット

他方で、保守契約を締結することには、以下のデメリットもあります。

① 定期的な費用・追加費用がかかる
② 特定の取引先への依存度が高くなる

定期的な費用・追加費用がかかる

保守契約を締結している場合、契約期間に応じた費用が発生するのが一般的です。具体的なトラブルが生じていなくても、保守業務の対価として費用を支払う必要があります。
また、保守契約に基づくサービスの範囲を外れた修理等が発生した場合には、追加費用も支払わなければなりません。このようなコスト負担は、保守契約のデメリットの一つといえます。

しかし、製品やサービスを良好な状態に維持するためには、一定のコスト負担は避けられません。保守点検を怠ったことが原因で、大きなトラブルが発生しては本末転倒なので、必要経費と割り切る方が合理的でしょう。

特定の取引先への依存度が高くなる

同じ委託先との間で保守契約を長期間にわたり締結していると、対象となる製品やシステムの保守点検に関するノウハウが自社に蓄積されず、その委託先に対する依存度が高まります

他に安価で保守業務を行ってくれる委託先が見つかったとしても、対象となる製品やシステムに関するノウハウがリセットされてしまう点を不安視して、乗り換えることができず高コストを支払い続けるケースが多いです。

また、保守業務の委託先が倒産などによって受注を停止すると、対象となる製品やシステムの保守点検を適切に行える人がいなくなり、困ってしまうケースがあります。

保守契約に定めるべき主な事項

保守契約に定めるべき主な事項は、以下のとおりです。

① 保守点検の範囲・保守業務の内容
② 保守業務の実施方法|対応時間・連絡方法・実施業務の確認方法など
③ 保守業務の対価(報酬)
④ 保守業務にかかる費用の負担
⑤ 契約期間
⑥ 契約の解除・中途解約
⑦ その他

保守点検の範囲・保守業務の内容

保守契約においては、受託者が行う保守点検の範囲や、具体的な保守業務の内容を明確化する必要があります。

保守点検の範囲・保守業務の内容に関する規定事項

・対象製品等を特定できる情報
・対象製品等の設置場所
・保守点検の対象となる機能やパーツなどの内容
・実際に行う保守業務の内容
など

保守業務の実施方法|対応時間・連絡方法・実施業務の確認方法など

保守業務の実施方法については、以下の事項などを定めるのが一般的です。

保守業務の実施方法に関する規定事項

・受託者が対応を受け付ける時間
・委託者の受託者に対する連絡の方法
・実施する保守業務の内容を、委託者と受託者の間で確認する際の手続き
・具体的な保守業務の実施手順
など

保守業務の実施方法については、特に規定を明確化することが重要です。実施方法に関する条件が不明確だと、委託者・受託者間のトラブルに発展するリスクが高まってしまいます。

保守業務の対価(報酬)

保守契約においては、委託者が受託者に対して支払う報酬を、年額・月額などの期間に応じて決定・精算するのが一般的です。疑義が生じないように、報酬の金額・計算方法や支払方法を明確に定めましょう。

また、定期報酬に含まれる業務を明確化しておくことも重要です。解釈上の疑義を避けるため、定期報酬に含まれる業務は限定列挙とするのがよいでしょう。

定期報酬に含まれる業務の例

・定期的なメンテナンス、アップデート
・定期的に交換が必要となる部品の購入
・上記の各業務に関する問い合わせへの回答
など

定期報酬に含まれない業務(=対象外業務)を実施する場合、その費用は委託者が受託者に対して別途支払わなければなりません。

定期報酬に含まれない業務の例

・委託者の故意または過失によって破損した部分の修理
・大規模な機器や部品の交換
・対応時間外での保守点検
など

対象外業務を実施する際には、委託者と受託者との間で、実施業務の内容についてあらかじめ合意する必要があります。対象外業務の実施を決定する際の手続きについても、保守契約に明記しておくことが望ましいでしょう。

保守業務にかかる費用の負担

保守業務にかかる費用としては、保守点検担当者の交通費などが挙げられます。

交通費などの費用は、保守業務の報酬に含めるものとして受託者負担とするケースと、委託者が別途負担するケースの両方があり得ます。いずれにしても、保守業務にかかる費用負担の取り扱いを保守契約において明記しましょう。

契約期間

保守契約の期間については、以下のいずれかの方法によって特定するのが一般的です。

(a) 契約期間の始期と終期を特定する方法
(例)
「本契約の期間は、2024年4月1日から2025年3月31日までとする。」

(b) 契約期間の始期と始期からの期間を定める方法
(例)
「本契約の期間は、契約締結日から1年間とする。」
「本契約の期間は、2024年4月1日から起算して1年間とする。」

また、自動更新条項を定める場合には、以下の事項を明記しておきましょう。

自動更新条項の内容

(a) 当事者のいずれかから更新拒絶の申入れがなければ、従前と同条件で自動的に契約が更新される旨
(b) 更新拒絶の申入れ期間
(c) 更新拒絶の申入れの方法
(d) 自動更新後の契約期間

契約期間に関する条項については、以下の記事も併せてご参照ください。

契約の解除・中途解約

保守契約の相手方が契約に違反した場合に備えて、契約の解除事由と解除手続きを明記しておきましょう。

また、相手方の契約違反などがない状況でも、中途解約権を留保しておけば、任意のタイミングで保守契約を中途解約することができます。
特に委託者においては、将来的に保守契約の必要性がなくなることや、別の業者に乗り換えることなどを見据えると、中途解約権を留保することが望ましいです。

保守契約の中途解約条項には、主に以下の事項を定めます。

(a) 中途解約権を有する当事者は誰か
(b) 中途解約権を行使できる条件
(c) 解約時の損害賠償(違約金)の取り扱い
(d) 解約時の報酬の取り扱い
など

中途解約条項については、以下の記事も併せてご参照ください。

その他

上記のほか、保守契約には以下の事項などを定めるのが一般的です。

(a) 秘密保持条項
(b) 反社会的勢力の排除に関する条項
(c) 損害賠償条項
(d) 合意管轄条項
など

保守契約を締結する際の注意点

保守契約を締結する際には、特に以下の各点に注意しましょう。

① 契約に含まれるサービス・別料金となるサービスを確認する
② 中途解約の手続き・条件を確認する
③ 不明確な契約条件については修正を求める

契約に含まれるサービス・別料金となるサービスを確認する

保守契約に基づくサービス(業務)の範囲は、委託者と受託者の間で争いになりやすいポイントの一つです。
委託者は保守契約の範囲内で対応してもらえると思っていたのに、受託者から別料金になる旨を伝えられ、トラブルに発展してしまうケースがよくあります。

このようなトラブルを防ぐためには、保守契約において受託者の業務範囲を明確に特定することが大切です。契約に含まれるサービスと、別料金となるサービスをできる限り明確に区別できるように、保守契約の条項を調整しましょう。

中途解約の手続き・条件を確認する

保守契約は永続するものではなく、いずれどこかのタイミングで終了させることになります。期間満了時に契約を更新せず打ち切るのが原則ですが、中途解約を検討することになる可能性も大いにあります。

そのため、中途解約の条件については、保守契約を締結する前にしっかり確認しておかなければなりません。いつまでに相手方へ通知すればよいのか、中途解約時の損害賠償や報酬の取り扱いはどうなるのかなどについて、契約締結前の段階で疑問点を解消しておきましょう。

また、保守契約を自動更新とする場合は、契約期間が満了するよりも一定期間前の通知が必要とされるのが一般的です。自動更新を拒絶する場合の手続きについても、契約締結前の段階できちんと確認しておきましょう。

不明確な契約条件については修正を求める

保守業務の内容や中途解約に関する事項を含めて、保守契約の条項に不明確な部分が残っていると、委託者・受託者の間でトラブルに発展する可能性が高くなります。
契約条項に解釈の余地が生まれてしまうと、双方の当事者が自社にとって都合のよい解釈を主張し、深刻な対立が生じることが多いためです。

保守契約の締結に当たっては、不明確な契約条項が存在しないかどうかについて、契約書を隅々までチェックすることが大切です。もし不明確な条項を見つけた場合には、理由を付して修正案を提示し、相手方に対して修正への同意を求めましょう。

ムートン

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