労務費とは?
内訳・人件費との違い・計算方法・
削減方法などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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労務費とは、事業やサービスの提供のために発生した労働への対価にかかる費用です。
・賃金や賞与、法定福利費は労務費に含まれます。
・建設業・製造業は、業種ごとにポイントをおさえた労務管理が必要です。
・労務費の削減には、人員配置や業務プロセスの見直しが効果的です。この記事では、労務費の内訳や業種ごとのポイントを解説します。
※この記事は、2025 年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
労務費とは
労務費とは、製品の製造やサービスの提供のために、直接的・間接的に発生した労働力への対価です。「ものづくりやサービス提供に関わった人々のためのコスト」と捉えられます。
例えば、製造業であれば工場の組立ラインで働く作業員の賃金、建設業であれば特定の土木工事や建築工事に従事する職人の給料が労務費に該当します。
労務費は、企業の製造原価や工事原価を構成する中心的な要素のひとつです。企業の利益を正しく計算するためには、原価を正確に把握する必要があります。
そのために、人にかかる費用の中でも、原価に該当する部分を労務費として区分し、原価計算を行う必要があるのです。
人件費との違い
労務費は人件費の一部です。人件費は企業が労働の対価として支払う費用であり、役員報酬や労働者に支払う給与、賞与、各種手当、法定福利費などが該当します。
一方、労務費は人件費のうち、製品の製造やサービスの提供に直接・間接的に関わった労働力への対価です。
また、人件費は決算書などで会社全体の経営成績を示すために「販売費及び一般管理費」などの項目で管理されます。一方、労務費は、製品や工事ごとの採算性を測るための原価計算で用いられる費用です。
外注費や派遣費との違い
外注費は、業務の一部を外部に委託する費用です。また、派遣費は人材派遣会社に人材派遣を依頼する際に支払う費用です。いずれも労務費には含まれません。
会計上で違いを判断する際は、契約形態をチェックすることがポイントです。
- 外注費:業務委託契約
- 派遣費:労働者派遣契約
- 労務費:雇用契約
契約形態を元に、各費用を区分してください。
労務費の内訳
労務費の内訳は、以下のとおりです。
- 賃金・割増賃金
- 雑給
- 労働者賞与手当
- 退職給付費用
- 法定福利費
それぞれの費用について解説します。
賃金・割増賃金
賃金とは、労働者へ支払う給与や日当のことです。もし労働者が所定の労働時間を超えて働いた場合には、割増賃金を支払います。
割増率は、労働する時間帯などによって変わり、以下のように定められています。
- 時間外労働:25%以上(60時間超の部分は50%以上)
- 深夜労働:25%以上
- 休日労働:35%以上
労働時間を適切に把握して賃金を支払うことが重要です。
雑給
雑給とは、アルバイトやパートタイマー、日雇い労働者といった、期間の定めがある臨時雇用の労働者に対して支払われる給与です。正社員とは雇用契約や給与体系が異なるため、会計上は雑給として区別して管理することが一般的です。
雑給が製品の製造やサービスの提供に直接関わるものであれば、直接労務費として扱います。労務費の種類は、作業対価に応じて判断します。
労働者賞与手当
労働者賞与手当は、労働者に対して支払われる賞与と各種手当を合計したものです。各種手当には、以下のようなものが含まれます。
- 通勤手当
- 住宅手当(家賃補助)
- 家族手当
- 役職手当
- 危険手当
賞与は一度に支払う金額が大きいため、原価への影響を正しく把握することが大切です。将来の賞与支払いに備え、あらかじめ「賞与引当金」として毎月一定額を費用計上し、月ごとの原価の突出を防いで損益を安定させるなどの方法を取るとよいです。
退職給付費用
退職給付費用とは、労働者が将来退職する際に支払う退職金や企業年金に備え、あらかじめ計上しておく引当金のことです。将来支払う退職金のための積立費用と捉えておくとよいです。
退職金は、一般的に労働者の退職時に一括で支払われますが、その支払義務は長年の勤続期間にわたって徐々に発生していると考えられます。そのため、会計上では将来の大きな支出を、その原因が発生した期間にわたって按分し、毎期少しずつ費用として認識します。これにより、期間ごとの損益を正確に計算できるのです。
法定福利費
法定福利費とは、社会保険や労働保険の保険料のうち、企業が負担する部分を指します。主な費用は以下のとおりです。
- 社会保険料:健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40〜64歳)
- 労働保険料:雇用保険料、労災保険料
社会保険料・労働保険料は、労働者に支払う賃金や賞与の総額に、定められた保険料率を乗じて計算します。労働者に支給する給与や賞与だけでなく、企業負担分の保険料も忘れずに計上します。
労務費の種類
労務費は、大きく分けると以下の2つに区分されます。
- 直接労務費
- 間接労務費
それぞれの概要を解説します。
直接労務費
直接労務費とは、事業やサービスに直接関わった労働者の労働コストです。事業やサービスの提供に携わった労働者の賃金などが該当します。
直接労務費を正確に把握する目的は、製品や工事ごとの個別原価を正しく算出するためです。製品やサービスの提供にかかったコストを把握できないと、適切な見積もりや価格設定などができません。直接労務費の管理では、労働者の作業時間や実務時間を正しく把握することが重要です。
間接労務費
間接労務費とは、製品の製造やサービスの提供を支えるために要した労働コストです。特定の製品やサービスと直接結び付けられないため、全体共通のコストというイメージで捉えておくとよいです。
間接労務費の代表例は、管理者やマネージャーの賃金です。管理者やマネージャーは、部署やプロジェクトグループ全体のマネジメントを担当するため、特定のサービスや商品と業務が結び付きません。よって、こうした費用は間接労務費に分類されます。
間接労務費は、配賦手続きにより、各製品やサービスの原価に振り分けられます。明確なルールを設けて、適切に配賦手続きを済ませてください。
労務費の計算方法
原価計算を正確にするには、労務費の計算方法を把握する必要があります。直接労務費・間接労務費の計算方法や、労務費率について解説します。
直接労務費の計算
直接労務費の計算式は、以下のとおりです。
- 「賃率(労働者ひとり・1時間あたりの単価)」×「直接作業時間」=直接労務費
賃率(労務費レート)は、基本給や各種手当を合計した月額の賃金を、月の総労働時間で割って算出します。一方、直接作業時間は、製品やサービスのために労働者が直接費やした時間です。
例えば、賃率が2,500円の作業員が、ある製品の製造に20時間従事した場合、製品にかかった直接労務費は「2,500円×20時間=50,000円」となります。
間接労務費の計算
間接労務費は、特定の製品に直接紐づかない共通的な費用です。計算式は以下のとおりです。
- 「労務費総額」-「直接労務費」=関節労務費
間接労務費を計算するためには、まず直接労務費の計算が必要です。計算した直接労務費を労務費の総額から控除することで、間接労務費が計算できます。また、間接労務費の項目をすべて足していくことでも計算可能です。
例えば、労務費総額が30万円で、直接労務費が15万円であれば「30万円-15万円=15万円」で間接労務費は15万円となります。
建設業における労務費率
労務費率は、労災保険料を計算する際に用いられます。一般的な業種であれば、「賃金総額×労災保険料率」で保険料が計算可能です。しかし、建設業では数次の請負によって工事が行われることも珍しくなく、賃金総額の正確な把握が困難な場合が多くなっています。
そのため、請負による建設業では、一般的な計算式による保険料の算出が困難であり、代わりに労務費率を用いて保険料を計算可能とする特例が設けられています。
請負による建設業の労災保険料は、以下の計算式で計算します。
- 賃金総額(請負金額×労務費率)×労災保険料率=労災保険料
請負金額を労務費率で乗じることで、賃金総額を計算しています。なお、労災保険料率や労務費率は、道路工事や舗装工事など、事業の種類によって異なります。詳細は、厚生労働省のホームページなどで確認してください。
【業種別】労務費の特徴や管理のポイント
労務費の特徴や管理の仕方は、業種によって異なります。以下の3業種を例に、労務費の管理のポイントを解説します。
- 建設業の場合
- 製造業の場合
- IT・サービス業の場合
建設業の場合
建設業における労務費管理は、工事案件ごとの正確な原価把握と、労災保険料との密接な連動がポイントです。
原価把握のためには、工事ごとに材料費や外注費と並行して労務費の「実行予算」を作成するのが一般的です。作業員の日報や出面管理によって日々の実績を把握し、予算と実績を比較分析します。
また、労働災害のリスクが高い業種であるため、労災保険料の算定基礎となる賃金総額の把握も重要です。
元請負事業者は下請企業の労働者分も含めて労災保険料を申告・納付する義務があります。下請の外注費に含まれる労務費相当額を、労務費率を用いて正確に把握することが大切です。
製造業の場合
製造業における労務費管理は、製品1つ当たりの原価の正確な計算と、生産効率の改善が特徴です。多くの製造業では、あらかじめ目標となる「標準原価」を設定し、実際にかかった「実際原価」との差異を分析する「標準原価計算」で労務費を管理します。
近年は工場の自動化が進んでおり、直接作業を行う人員が減って直接労務費の比率が下がっています。一方、機械の維持管理などに関わる間接費の割合が増加するため、間接費の適切な配賦が重要です。
IT・サービス業の場合
IT・サービス業における労務費管理は、プロジェクト単位の採算性管理と、労働者個人の正確な工数管理がポイントです。
IT・サービス業では、労働者個人の労働がサービスになります。よって労務費が原価の大部分を占めるため、どのプロジェクトに誰がどれだけの時間を費やしたかを正確に把握できなければ、経営に支障が出ます。
労務費の管理では、プロジェクトコードや作業内容ごとに、誰がどの業務に何時間かけたかを日々記録する工数管理が必須です。
労務費を削減するための方法
労務費を削減するには、以下の5つの方法が考えられます。
- 人員配置を見直す
- 業務プロセスや効率を見直す
- 業務の自動化を進める
- アウトソーシングを検討する
- 残業時間を削減する
業務のあり方や人員などを徹底的に見直し、コスト削減につなげることがポイントです。
人員配置を見直す
労務費を最適化する際は、人員配置の見直しが効果的です。人員配置を見直せば、人員の削減だけではなく、組織全体の生産性を高められる可能性があります。
スキルマップなどで労働者の能力を可視化し、活躍できる部署や役割へ配置転換することで、労働者本人のモチベーション向上と生産性アップが期待できます。
また、ひとりが複数の業務をこなせるような職場環境を作れば、特定の労働者が不在でも業務が滞らず、柔軟な人員運用が可能です。
業務プロセスや効率を見直す
業務プロセスの見直しも、労務費の削減に直結します。まずは、部署ごとに行なっている業務をリストアップし、目的や手順、所要時間を可視化する作業からはじめてみましょう。
業務の終了や手順の改善、単純化などができるか確かめながら、不要な業務はやめ、必要な業務だけに集中できるような形にすることがポイントです。現場の労働者から、日々の業務で非効率だと感じるものをヒアリングしておくのも、プロセスの改善に役立ちます。
業務の自動化を進める
RPA(Robotic Process Automation)やAIといったITツールによる業務の自動化は、労務費の削減に有効です。定型業務をITツールに任せることで、作業時間を大幅に短縮し、業務品質を安定させられます。
また、労働者もデータ分析や業務改善の企画、顧客対応といった、人でなければできない付加価値の高い業務に集中できるようになります。
時間がかかる単純作業やミスが起こりやすい作業を洗い出し、費用対効果の高い業務から少しずつ自動化に移行することがポイントです。
アウトソーシングを検討する
専門性の高い業務は、業務委託を検討するのもひとつの手です。外部へ業務を委託すれば、自社で専門人材を雇用・育成するコストや、担当者の急な退職によって業務が滞るリスクを回避できます。
自社の業務をコア業務とノンコア業務に切り分け、ノンコア業務は外部の専門家の力を借りるといった経営判断が重要です。
残業時間を削減する
残業時間の削減は、割増賃金の抑制に加えて、健康維持や生産性の向上にもつながります。休日出勤などの長時間労働は労働者の心身を疲弊させ、割増賃金の支払いにより人件費がかさむ原因にもなります。
勤怠管理システムで労働時間を把握し、ノー残業デーの設定や一定以上の残業を事前申請・承認制にすることが有効です。また、残業発生の原因を根本的に突き止め、業務プロセスの改善などで対策していくのも効果的です。
労務費を適切に管理する方法
労務費を適切に管理するには、以下の2つが重要です。
- 法改正の最新情報をおさえる
- 労務管理ツールを活用する
情報の収集や業務効率化などを強化し、ミスや不備なく労務費の管理をすることがポイントです。
法改正の最新情報をおさえる
労務管理を適切に行うためには、法改正の情報を常に把握することが大切です。
労務関連の法律は頻繁な改正や制度変更があるため、法律が遵守できていないと賃金未払いが起きたり罰則を受けたりする可能性があります。罰則を受ければ、企業の社会的信用の失墜は避けられません。
法改正の情報収集とあわせて、就業規則の変更や36協定の見直しなどもしておくと、速やかに改正された法律に対応できます。常に最新の情報をキャッチできる環境づくりが重要です。
労務管理ツールを活用する
勤怠管理システムや工数管理システムといった労務管理ツールを導入・活用することで、労働時間や作業内容を正確に把握できるようになります。
手作業での労働時間集計やエクセルを使った管理では、入力ミスや集計漏れなどが発生する場合があります。ツールを活用すれば、自動で労働時間を計算してくれたり、データをリアルタイムで収集できたりするため、ミスやトラブルの可能性が少なくなります。
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