時効の「援用」とは?
民法のルール・要件・効果・方法・
時効の種類・援用できないケースなどを
分かりやすく解説!

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この記事のまとめ

援用」とは、自己の利益のために何らかの事実を主張することです。法律上は、主に時効について援用が行われます。

時効には取得時効消滅時効の2種類があり、いずれも時効期間が経過すると援用できます。取得時効を援用した者は債権を取得し、消滅時効を援用した者はその負担する債務が消滅します。時効の援用により、裁判所は時効完成の事実を基に裁判できるようになります。

ただし、取得時効については中断、消滅時効については完成猶予または更新が認められることがあり、その場合いずれも時効を援用できなくなる点に注意が必要です。

この記事では時効の援用について、基本から分かりやすく解説します。

ヒー

「時効」ってそもそも、なんでしたっけ…?

ムートン

「時効」とは、長い間続いた事実状態に、法律関係(権利・義務)を合わせるための制度です。「時効とは?目的・種類・取得時効と消滅時効の完成要件・時効完成を阻止する方法などを分かりやすく解説!」の記事で分かりやすく解説していますので、よかったら読んでみてください。

※この記事は、2023年12月19日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

援用とは

「デジタル大辞泉」によると、「援用」は以下の意味を有するとされています。

えん‐よう〔ヱン‐〕【援用】
読み方:えんよう
[名](スル)
1 自分の主張の助けとするため、他の意見・文献などを引用したり、事例を示したりすること。「海外の論文を—する」
2 法律で、ある事実を自己の利益のために主張すること。時効の援用、証拠の援用、抗弁の援用など。

weblio辞書 デジタル大辞泉「援用」

法律行為としての「時効の援用」とは

法律契約に関しては、「援用」は主に時効について行われます法律行為としての「時効の援用」について、要件・効果や方法・流れ、時効援用通知書の記載例を解説します。

時効の援用の要件・効果

時効の援用は、時効期間が経過した場合に行うことができます。

当事者が時効を援用すると、裁判所が訴訟における判断を行うに当たり、その時効の完成によって権利を取得し、または権利が消滅した事実を判断の基礎にできます(民法145条)。

時効の援用を行う方法・流れ

時効の援用の方法については、法律において特にルールが定められていません。したがって、文書や口頭など、どのような方法でも有効に時効を援用できます

ただし、時効を援用したことの証拠が残るように、内容証明郵便によって時効援用通知書を発するのが一般的です。そのほか、訴訟において時効を援用し、権利の取得または消滅を主張するケースもあります。

時効援用通知書とは|記載例も含め解説!

時効援用通知書は、時効を援用する人が相手方に対して、時効を援用する旨を通知する書面です。内容証明郵便によって時効援用通知書を送付すれば、証拠が残る形で時効を援用できます。

時効援用通知書の記載例を紹介します。

○○ 様(御中)

時効援用通知書

○年○月○日
(住所)
(氏名)

前略
貴殿(貴社)と私の間の○年○月○日付「金銭消費貸借契約」に基づき、貴殿(貴社)が私に対して有した○○万円の貸付債権は、その支払期日(○年○月○日)から5年以上が経過したため、時効により消滅しております。
私は本書により、当該時効を援用しますので、今後は当該貸付債権を請求しないようにお願い申し上げます。

草々

援用できる時効の種類

時効には、「取得時効」と「消滅時効」の2種類があります。

種類1|取得時効

取得時効」とは、以下のいずれかの場合に、その物の所有権または財産権を取得できる制度です。

  • 所有の意思をもって物の占有を一定期間継続した場合
  • 自己のためにする意思をもって財産権を一定期間継続して行使した場合

民法では、「所有権の取得時効」(民法162条)と「所有権以外の財産権の取得時効」(民法163条)が定められています。

所有権の取得時効

所有権の取得時効は、以下の要件を全て満たした場合に完成します(民法162条。ただし、20年間の時効取得を主張する場合には、④は不要です)。

①所有の意思をもって占有を開始したこと
所有の意思の有無は、占有権原の内容および占有に関する具体的な事情によって判断されます。
(例)
・賃貸借に基づいて占有を開始した賃借人には、所有の意思が認められない(他主占有権原)
・占有者が土地の固定資産税を支払っていない場合、所有の意思が認められない方向に働く(他主占有事情)

②平穏に占有を開始したこと
暴力的に占有を奪った場合には、時効取得が認められません。

③公然と占有を開始したこと
所有者に対して占有を隠匿している場合には、時効取得が認められません。

④(10年間の時効を主張する場合)占有開始時に善意無過失であったこと
10年間の時効を主張する場合は、占有開始時に無権原であることを知らず、かつ知らなかったことについて過失がないことが必要です。

⑤時効期間を通じて占有が継続したこと
占有開始から10年間または20年間、その物の占有を継続したことが必要です。

所有権以外の財産権の取得時効

所有権以外の財産権の取得時効は、以下の要件を全て満たした場合に完成します(民法163条。ただし、20年間の時効取得を主張する場合には、④は不要です)。

①自己のためにする意思をもって権利の行使を開始したこと
②平穏に権利の行使を開始したこと
③公然と権利の行使を開始したこと
④(10年間の時効を主張する場合)権利の行使開始時に善意無過失であったこと
⑤時効期間(10年または20年)を通じて権利の行使が継続したこと

種類2|消滅時効

消滅時効」とは、一定期間行使されなかった権利(債権)を消滅させる制度です。

ムートン

民法では、債権の消滅時効について以下の定めが置かれています。

①債権の消滅時効(原則)(民法166条1項、167条)
②債権・所有権以外の財産権の消滅時効(同条2項)
③定期金債権の消滅時効(民法168条)
④判決で確定した権利の消滅時効(民法169条)
⑤不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効(民法724条、724条の2)

また、一部の債権については、民法以外の法律(特別法)によって消滅時効の特則が定められています(例:労働基準法に基づく賃金請求権の消滅時効)。

債権の消滅時効(原則)

債権の消滅時効は原則として、以下のいずれかの期間が経過すると完成します(民法166条1項、167条)。

①債権者が権利を行使できることを知った時から5年間
②権利を行使できる時から10年間(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については20年間)

債権・所有権以外の財産権の消滅時効

債権・所有権以外の財産権の消滅時効は、権利を行使することができる時から20年間行使されなかった場合に完成します(民法166条2項)。

定期金債権の消滅時効

ムートン

定期金債権」とは、ある期間において定期的に金銭などの給付を受ける権利です。

定期金債権の消滅時効は、以下のいずれかの期間が経過すると完成します(民法168条1項)。

①債権者が各債権を行使できることを知った時から10年間
②各債権を行使できる時から20年間

なお、定期金の債権者は、時効の更新(後述)の証拠を得るため、いつでも債務者に対して承認書の交付を求めることができます(同条2項)。

判決で確定した権利の消滅時効

確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間が定められているものでも、その時効期間は10年となります(民法169条)。

例えば貸金返還請求権は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年で時効消滅するのが原則です。しかし、貸金返還請求権の存在が判決で確定した場合は、判決確定後から10年間の時効が新たに進行します。

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効

不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、以下のいずれかの期間が経過すると完成します(民法724条、724条の2)。

①被害者またはその法定代理人が損害および加害者を知った時から3年間(人の生命または身体の侵害による損害賠償請求権については5年間)
②不法行為の時から20年間

賃金請求権の消滅時効

労働基準法では、賃金請求権の時効期間を行使できる時から5年間と定めていますが(同法115条)、経過措置によって、行使できる時から3年間に時効期間が短縮されています(同法附則143条3項)。

ムートン

労働基準法の上記の規定は、債権に関する原則的な時効期間(=5年or10年。民法166条1項)の例外を定めたものです。

時効を援用できないケース

時効期間が経過したように見えても、以下のいずれかに該当する場合には、その時効を援用することができません。

①取得時効が中断した場合
②消滅時効の完成が猶予されている場合
③消滅時効が更新された場合

取得時効が中断した場合

取得時効の進行がストップし、ゼロからカウントし直しになることを取得時効の「中断」といいます

取得時効は、以下のいずれかに該当する場合に中断します(民法164条、165条)。

①所有権の取得時効
・占有者が任意にその物の占有を中止した場合
・占有者が他人によってその物の占有を奪われた場合

②所有権以外の財産権の取得時効
・行使者が任意にその権利の行使を中止した場合
・行使者が他人によってその権利を奪われた場合

なお、物の占有権は原則として、占有者が占有の意思を放棄し、または占有物の所持を失うことによって消滅します(民法203条本文)。ただし、占有者が占有回収の訴えを提起したときは、例外的に占有権が失われないため(同条但し書き)、取得時効も中断しません。

消滅時効の完成が猶予されている場合

消滅時効の進行が一時的に停止することを、消滅時効の「完成猶予」といいます

時効の完成猶予の効果は、以下のいずれかの事由が発生した場合に生じます。時効の完成が猶予されると、対応する猶予期間が経過するまでは、消滅時効を援用できません。

①裁判上の請求等の事由(民法147条1項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

猶予期間:その事由が終了するまで(確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定することなくその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)

②強制執行等の事由(民法148条1項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

猶予期間:その事由が終了するまで(申立ての取り下げまたは法律の規定に従わないことによる取り消しによってその事由が終了した場合は、その終了の時から6カ月を経過するまで)

③仮差押え、仮処分(民法149条)
猶予期間:その事由が終了したときから6カ月を経過するまで

④内容証明郵便などによる履行の催告(民法150条1項)
猶予期間:催告の時から6カ月を経過するまで
※再度の催告は時効の完成猶予の効力を有しない(同条2項)

⑤書面または電磁的記録による協議の合意(民法151条1項)
猶予期間:以下のいずれか早い時まで
(a) 合意時から1年を経過した時
(b) 合意において協議期間(1年未満に限る)を定めたときは、その期間を経過した時
(c) 当事者の一方から相手方に対して協議続行拒絶通知が書面でされたときは、通知時から6カ月を経過した時
※再度の協議の合意による猶予も可(ただし通算5年まで、同条2項)

⑥天災その他避けることのできない事変のため、①または②に係る手続きができないとき(民法161条)
猶予期間:その障害が消滅したときから3カ月を経過するまで

消滅時効が更新された場合

消滅時効をリセットしてゼロからカウントし直すことを、消滅時効の「更新」といいます

時効の更新の効果は、以下のいずれかの事由が発生した場合に生じます。時効が更新されると、改めて時効期間が経過しない限り、消滅時効を援用できません。

①裁判上の請求等の事由がある場合において、確定判決または確定判決と同一の効力を有するものによって権利が確定したこと(民法147条2項)
・裁判上の請求
・支払督促
・裁判上の和解
・民事調停、家事調停
・破産手続参加、再生手続参加、更生手続参加

②強制執行等の事由がある場合において、その事由が終了したこと(民法148条2項)
・強制執行
・担保権の実行
・留置権による競売、法律の規定による換価のための競売
・財産開示手続
・第三者からの情報取得手続

③権利の承認(民法152条1項)

時効の援用に失敗したらどうなる?

時効の援用に失敗すると、

  • 取得時効による債権の取得
  • 消滅時効による債務の免除

が認められません。

さらに、取得時効の援用に失敗した場合は、それをきっかけとして、真の権利者が権利回復に向けて訴訟を提起する可能性があります。

消滅時効の援用に失敗した場合は、その時点で債権者の権利を承認したことになり(民法152条1項)、改めて時効期間が経過しなければ消滅時効を援用できなくなってしまいます。

このように、時効の援用に失敗すると大きなリスクを負うので、時効援用の要件を満たしているかどうかにつき、あらかじめ慎重に確認することが大切です。

ムートン

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