偽装請負とは?
違法性の判断基準・問題点・罰則・事業者の注意点などを解説!
- この記事のまとめ
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「偽装請負」とは、実質的に労働者派遣であるのにもかかわらず、請負契約や業務委託契約のように偽装する行為を意味します。請負契約では、注文主(委託者)が請負主の社員に対して直接的な業務の指示をすることや、契約外の業務の委託が禁止されています。労働者派遣契約の場合は、直接指示を出すことが可能です。
偽装請負は、労働者派遣法及び職業安定法によって禁止されています。偽装請負が許されてしまうと、労働者に対して不当な搾取が行われ、待遇の悪化・不安定化をもたらす可能性があるためです。
偽装請負に該当するかどうかは、当事者間に指揮命令関係が存在するかどうかによって判断されます。契約内容のみならず、現場での実態も総合的に考慮されるため、事業者は現場の状況を随時把握して、偽装請負を避けるように努める必要があります。
この記事では「偽装請負」について、問題点・違法性の判断基準・罰則・事業者の注意点などを解説します。
※この記事は、2022年5月12日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 労働者派遣法…労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律
目次
偽装請負とは
「偽装請負」とは、実質的に「労働者派遣」又は「労働者供給」であるのにもかかわらず、「請負契約」や「業務委託契約」に偽装する行為を意味します。
昨今、企業がフリーランスや他社に業務の一部を委託すること(いわゆるアウトソーシング)は日常的に行われており、業務委託契約や請負契約を締結する場面も少なくありません。故意に偽装請負をしないのはもちろんのこと、業務委託契約だったものが、実態として偽装請負になってしまっていたという状態にならないよう注意する必要があります。
偽装請負の違法性
請負契約や業務委託契約が偽装請負であると評価されると、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法との関係で違法性の問題が生じます。
労働者派遣法違反|無許可での「労働者派遣」に該当
労働者派遣事業を行う場合、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません(労働者派遣法5条1項)。
請負契約や業務委託契約の場合、指揮命令関係は本来存在しないはずです。しかし実質的に見て、派遣された自社の労働者と派遣先の間に指揮命令関係があると認められる場合には、「労働者派遣」と評価されます。
労働者派遣事業の許可を受けていないにもかかわらず、業として労働者派遣を行った派遣元事業主は、労働者派遣法違反に該当します。
また派遣先についても、無許可で労働者派遣事業を行う事業主から労働者派遣を受けた場合、労働者派遣法違反となります(労働者派遣法24条の2)。
職業安定法違反|「労働者供給」に該当
職業安定法44条では、労働組合等が厚生労働大臣の許可を受けて無料で行う場合を除き、労働者供給事業の実施及び労働者供給による労働者の受入れを一律禁止しています。
請負契約や業務委託契約に基づいて他社に派遣する作業者は、自社の雇用する労働者ではなく、再委託先のフリーランスなどのケースもあるでしょう。このとき、派遣先と作業者の間に実質的な指揮命令関係が存在する場合、請負や業務委託ではなく「労働者供給」と評価されます。
有料の労働者供給事業は一律禁止であるため、請負や業務委託が労働者供給と評価された場合、職業安定法違反となります。
労働基準法違反|中間搾取の禁止
特に労働者供給の場合、労働基準法6条に定められる「中間搾取の排除」にも抵触する可能性があります。
前述のとおり労働者供給は、自社と雇用関係にない作業者を、他社の指揮命令下で労働に従事させることを内容としています。
作業者に対しては、供給元から一定の報酬が支払われますが、供給元はそれを上回る報酬を供給先から得るのが通常です。言い換えれば、供給元が作業者の就業に関して、中間搾取を行っていると評価されます。
労働基準法6条には、以下のとおり定められています。
(中間搾取の排除)
第6条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。
「労働基準法」– e-Gov法令検索 – 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
「法律に基づいて許される場合」とは、職業安定法に基づく有料職業紹介事業などが例に挙げられますが、偽装請負と評価されるケースは、法律に基づく例外に該当しないと考えられます。
したがって、請負契約や業務委託契約が実質的に労働者供給と評価される場合には、供給元について、同時に労働基準法違反も成立する可能性が高いです。
偽装請負が問題になりやすい契約の具体例
偽装請負が問題になりやすいのは、当事者間の指揮命令関係を前提とせずに、仕事の完成や一定の事務を委託する内容の契約です。
具体的には、請負・業務委託・委任・準委任などの契約について、偽装請負と判断される可能性があります。
偽装請負の問題点・禁止されている理由
偽装請負が法律上禁止されているのは、事業者による労働者の不当な搾取を許し、労働者の待遇の悪化・不安定化をもたらす可能性が高いと考えられるためです。
労働者派遣に当たる偽装請負の問題点
労働者派遣に当たる偽装請負の場合、労働の実態は、派遣先が労働者を直接雇用している場合と変わりません。
しかし労働者派遣の場合、通常の雇用とは異なり、派遣元がマージンを得る分、労働者の待遇が低く抑えられる可能性があります。また、派遣契約の打ち切りにより、派遣元や派遣先の都合で職場環境を変えられてしまうことも多いです。
このように、労働者派遣は労働者の待遇を悪化・不安定化させる懸念があるため、労働者派遣法に基づく規制を遵守する限度でのみ認められています。したがって、無許可での労働者派遣に当たる偽装請負は、事業者による労働者の不当な搾取を許す可能性がある点で問題があります。
労働者供給に当たる偽装請負の問題点
使用者と雇用契約を締結する労働者は、労働基準法などの労働法令に従い、その権利が比較的厚く保護されています。
これに対して請負や業務委託などの場合、労働基準法などの労働法令が適用されません。具体的には、以下に挙げるポイントなどについて保護を受けられなくなってしまいます。
✅ 残業代が発生しない ✅ 労働時間の上限が適用されない ✅ 有給休暇を取得できない ✅ 解雇権濫用の法理が適用されない(会社側が契約を打ち切りやすい) など |
供給元との間で、雇用ではなく業務委託や請負などの契約を締結している作業者は、上記の保護を受けられないことに伴い、待遇の悪化や不安定化が懸念されます。これに対して供給元や供給先は、雇用に伴う負担やリスクを回避しつつ、作業者を実質的な労働者として働かせることができてしまいます。
労働者供給に当たる偽装請負は、事業者が作業者(個人)を搾取する構造を生む可能性が高い点に問題があります。
偽装請負かどうかの判断基準
請負や業務委託などが偽装請負に当たるかどうかは、当事者間の実質的な指揮命令関係の有無によって判断されます。
当事者間に実質的な指揮命令関係があれば、偽装請負に当たる
請負や業務委託などは、指揮命令関係のない対等な当事者関係を本質としています。
したがって、当事者間に指揮命令関係が認められる場合、それは請負や業務委託などではなく、偽装請負(労働者派遣又は労働者供給)です。
偽装請負該当性を判断する際の考慮要素
当事者間の指揮命令関係の有無は、契約内容のみならず、実際の業務の態様も踏まえたうえで、実質的・総合的に判断されます。具体的には、以下の要素などが考慮されます。
✅ 勤務規則が適用されているかどうか ✅ 定時があるかどうか ✅ 仕事のやり方や時間配分について、詳細な指示が行われているかどうか ✅ 勤務場所が指定されているかどうか など |
偽装請負に当たるパターンの具体例
厚生労働省東京労働局は、偽装請負のパターンを以下の4つに類型化しています。
✅ 代表型 →発注者(派遣先・供給先)が細かい業務指示を行ったり、勤務時間の管理を行ったりするパターンです。偽装請負の典型例と言えます。 ✅ 形式だけ責任者型 →受注者側の現場責任者を形式上設置するものの、発注者の指示を個々の労働者へ伝えるだけで、実質的には発注者(派遣先・供給先)が業務指示を行っているのと同じ状態にあるパターンです。単純な業務によく見られます。 ✅ 使用者不明型 →偽装請負が何重にも発生していて、日々複数の事業者から指示を受けて働いており、誰に雇われているのか分からない状態にあるパターンです。 ✅ 一人請負型 →供給元が供給先に対して作業者をあっせんし、供給先は作業者との間で、雇用契約ではなく請負契約などを締結し、実際には供給先の指揮命令下で働かせるパターンです。 |
偽装請負をした場合の罰則・法的リスク
偽装請負に対しては、労働者派遣法・職業安定法・労働基準法に基づく罰則や、各種行政監督の対象となるリスクがあります。
労働者派遣法・職業安定法・労働基準法違反の罰則
労働者派遣法違反の罰則
偽装請負が無許可での労働者派遣事業に該当する場合、派遣元事業主に対して「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(労働者派遣法59条1号)。
法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が偽装請負の行為者である場合、法人に対しても「100万円以下の罰金」が科されます(労働者派遣法62条)。
職業安定法違反の罰則
偽装請負が労働者供給に該当する場合、供給元・供給先の双方の事業主に対して「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法64条9号)。
法人の代表者・代理人・使用人その他の従業者が偽装請負の行為者である場合、法人に対しても「100万円以下の罰金」が科されます(職業安定法67条)。
労働基準法違反の罰則
さらに、労働者供給である偽装請負が、労働基準法違反の中間搾取に該当する場合、供給元の事業主に対して「1年以下の懲役又は50万円以下の罰金」が科されます(労働基準法118条1項)。
事業主の代表者・代理人・使用人その他の従業者が行為者の場合、事業主に対しても「50万円以下の罰金」が科されます(労働基準法121条1項。ただし、事業主が違反の防止に必要な措置を講じた場合を除きます)。
罰則以外の法的リスク
偽装請負が労働者派遣法又は職業安定法違反に当たる場合、厚生労働大臣による指導・助言、改善命令等、公表等の対象となります(労働者派遣法48条~49条の2、職業安定法48条の2、48条の3)。
上記の行政監督への対応は、業務上多大な労力を要するほか、公表措置に至ってしまうと、事業者のレピュテーションにも悪影響を及ぼすおそれがあるので要注意です。
偽装請負を避けるために、事業者が講ずべき対策
偽装請負を避けるためには、契約内容と業務実態の両面から、指揮命令関係のない状態をクリアに確保する必要があります。
指揮命令関係がないことを契約上明記する
大前提として、請負や業務委託などの契約上、指揮命令関係がないことを明らかにしておかなければなりません。単に「指揮命令関係がないことを確認する」などと規定するだけでなく、以下のような観点から、契約内容の妥当性をチェックしましょう。
✅ 勤務規則が適用されないことを明記する ✅ 作業時間、仕事のやり方や時間配分、勤務場所などは受注者側の裁量に委ねることを明記する など |
現場担当者に対して、業務実態のヒアリングを行う
偽装請負に該当するかどうかの判断に当たっては、契約内容だけでなく、業務実態も考慮されます。経営陣が把握していないところで、本来認められないはずの具体的な業務指示等が行われる可能性もある点に注意が必要です。
業務実態を把握するための方法としては、現場担当者に対するヒアリングが挙げられます。現場担当者に、職場における状況を自由に話してもらい、偽装請負に当たるような実態が存在しないかをチェックしましょう。
経営陣が不定期に現場の抜き打ち確認を行う
現場担当者に対するヒアリングだけでは、回答が表面的な内容に終始し、業務実態を十分に把握できない可能性があります。
そこで、不定期に現場の抜き打ち確認を行うことが、より良く業務実態を把握するために効果的です。予告なしで経営陣が現場を訪問すれば、普段どおりの業務のやり方・指示の行われ方などを確認できるでしょう。
現場の抜き打ち確認を行う場合は、偽装請負の該当性を判断する際の考慮要素をまとめたチェックリストを作成して、問題がないかを項目ごとにチェックすることをお勧めいたします。
この記事のまとめ
偽装請負の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!