誹謗中傷とは?
企業がネット上で誹謗中傷を受けた際の
対応や具体例を分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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誹謗中傷とは、一般に、人の悪口を言うなど根拠のない内容で人を貶める行為全般を広く意味しますが、法的な概念ではありません。
もっとも、場合によっては、名誉毀損などの法的問題に発展する場合があり、名誉毀損は個人だけでなく企業にも成立します。
この記事では、企業が誹謗中傷を受けた際の対応について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月20日時点の法令等に基づいて作成されています。
目次
企業に対する誹謗中傷とは
誹謗中傷とは、一般に、人の悪口を言ったり根拠のない内容で人を貶めたりする行為全般を広く意味しますが、法的な概念ではありません。もっとも、誹謗中傷の内容や態様次第では、名誉毀損などの不法行為や各種犯罪に該当し、民事上または刑事上の法的責任が発生する場合があります。
特に、企業に対する誹謗中傷は、企業を直接の対象とするものだけでなく、経営者や従業員、商品やサービスなどさまざまなものが対象とされやすく、それによる不利益も小さくありません。
企業に対する誹謗中傷の例
企業に対する誹謗中傷としては、例えば、以下のようなものがあります。
誹謗中傷を受けた企業の影響
そして、上記のような誹謗中傷による風評被害は、以下のようなさまざまなレピュテーションリスクを顕在化させるおそれがあり、時として企業の存続にも影響を与えるおそれがあります。
- 企業イメージの悪化
- 株価の下落
- 売上の減少
- 従業員の離職
- 求人応募者の減少 等
誹謗中傷に対する対応の方法
企業がインターネット上で誹謗中傷を受けた際の対応方法としては、事実上のものと法的なものに大別できます。事実上の対応としては、当該投稿の真偽を確認し、必要に応じて自社のウェブサイトで注意喚起を行ったり、社内でのルール制定や研修を実施したりすることなどが考えられますが、ここでは、法的な対応に焦点を当てて解説します。
インターネット上で誹謗中傷を受けた際の法的な対応としては、主に以下のような対応が考えられます。
- 削除請求
- 発信者情報開示請求
- 損害賠償請求
- 刑事告訴
削除請求
インターネット上に誹謗中傷に当たる投稿がされた場合、まずは当該投稿の削除請求を検討しましょう。誹謗中傷による風評被害は日を追うごとに拡大していくために、初動の速さが重要です。
誹謗中傷に当たる投稿を削除請求する方法としては、次の2つがあります。
➀ 当該投稿が書き込まれたSNSや掲示板の運営者に対して直接削除を請求する
➁ 裁判所に対して、当該投稿の削除を命じる仮処分を申し立てる
➀運営者に直接削除を請求する
一番簡便な方法がSNSや掲示板の運営者に対して直接、投稿の削除を求める方法です。一部の掲示板などでは、本人から削除請求があれば比較的簡単に削除に応じてくれることもありますが、表現の自由の保護などを理由に、すぐには削除に応じない方針のSNSや掲示板も珍しくありません。
そのため、投稿の削除を求める場合には、最初から裁判所の仮処分手続を利用した方が早く確実に解決できる可能性が高いです。
➁裁判所に仮処分を申し立てる
仮処分手続とは、簡単にいえば、簡略化された裁判手続であり、裁判所の仮の判断が迅速に下される手続です。誹謗中傷に当たる投稿の削除であれば、通常は仮処分を申し立ててから1~2カ月程度で結論が出ます。
削除を認める仮処分決定が出た場合には、運営者は決定に従って投稿等を削除することになります。
発信者情報開示請求
誹謗中傷に当たる投稿を削除するだけでは、同じ人物が誹謗中傷を繰り返す可能性があります。また、投稿者に対して直接責任追及をしたいと考える人もいるでしょう。そこで、投稿者を特定するために、発信者情報開示請求という制度があります。
発信者情報開示請求は、概ね次のような手続を経ることになります。
➀ 掲示板などの運営者に対するIPアドレス開示請求
➁ インターネットサービスプロバイダ(ISP:携帯電話会社など)に対する契約者情報の開示請求
➀運営者に投稿者のIPアドレスの開示請求をする
誹謗中傷に当たる投稿が書き込まれるSNSや掲示板などでは、匿名で利用可能なものが多いですが、運営者は投稿時のIPアドレスを一定期間保存しており、IPアドレスが分かれば、そこから投稿者を特定することが可能です。
そこで、まずはサイト運営者に対して直接、投稿者のIPアドレスの開示請求をします。もっとも、IPアドレスは個人情報なので、任意の開示には応じない場合が多いです。この場合には、削除請求と同様に、裁判所に対して発信者情報開示の仮処分を申し立てることになります。
②ISPに契約者情報の開示請求をする
IPアドレスが運営者から開示された場合、開示されたIPアドレスから投稿者が契約しているISPを割り出し、当該ISPに対して、投稿時に開示されたIPアドレスを割り当てていた契約者の氏名・住所の開示請求をします。
ISPは、原則として、投稿者の同意がない限り、任意での開示には応じません。そこで、ここではISPに対して、発信者情報開示請求の訴訟を提起することになります。開示がされるまでには、8カ月から10カ月程度かかります。
損害賠償請求
以上のようにして投稿者の氏名・住所を特定できた場合、当該投稿者に対して損害賠償請求を行うことが可能となります。
損害賠償請求は、投稿者に対して内容証明郵便などで直接請求をすることもできますが、裁判外での示談交渉による解決が難しいと思われる場合は、最初から訴訟を提起することもあります。損害賠償請求の訴訟を提起する場合、解決までには更に、6カ月から1年程度かかります。
刑事告訴
以上は民事上の責任追及の手段ですが、場合によっては刑事告訴することも一つの選択肢となります。なお、誹謗中傷の内容や態様次第では、名誉毀損罪だけでなく、脅迫罪や信用毀損罪、偽計業務妨害罪なども成立する可能性があります。
対応の判断基準|誹謗中傷は無視すべき?
前提として、前述のような仮処分による削除請求や発信者情報開示請求、または損害賠償請求が認められるためには、いずれも投稿内容に「違法性」が必要です。仮に違法性が認められない場合に削除請求や発信者情報開示請求を試みても、表現の自由や個人情報の保護などを理由に門前払いされてしまうだけです。
違法性が認められる投稿によって、企業の売上や求人面に悪影響が生じている場合や、そうした投稿の存在が金融機関や証券会社等の第三者に問題視されている場合には、そうした問題を除去するため、削除等の対策を採る必要があると言えるでしょう。また、前述のように、単に削除を行うだけでは同一人物が再度の投稿を行うことが予測される場合には、発信者情報開示請求や損害賠償請求を検討すべきであると言えます。
企業が具体的に主張すべき「違法性」とその要件
誹謗中傷を受けた企業が主張しうる「違法性」にはさまざまなものがありますが、ここでは主に名誉毀損に焦点を当てて、以下に解説します。
名誉毀損の成立要件
(名誉毀損)
「刑法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第230条
公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。
2 (略)
「公然と」とは
「公然と」とは、「不特定または多数の者が認識できる」という意味です。つまり、「不特定」か「多数」か、少なくとも片方が満たされていればよい、ということです。
そして、「不特定」とは、相手方が限定されていないことをいいます。例えば、同じ部署の従業員などは「特定」ですが、繁華街の通行人などは「不特定」です。他方で、「多数」に明確な基準はありませんが、裁判例などを踏まえると、数十人程度であれば「多数」といえます。
先ほどの例で考えると、「同じ部署の全従業員」は「特定」ですが「多数」なので、「不特定又は多数」の片方を満たすので、「公然と」に該当します。そのため、「同じ部署の全従業員」に向けて特定の人物等の悪口を言った場合には、名誉毀損が成立する可能性があります。
一方で、「特定の人物にメールを送った」という場合は、「特定少数」への事実摘示なので、「不特定または多数」という条件を満たさず、この場合には名誉毀損が成立しないのが原則です。
しかし、「特定少数」への事実摘示でも「公然と」に該当する場合があります。これを、伝播性の理論といいます。伝播性の理論とは、ある事実を一人に対して伝えただけであっても、その一人が不特定多数に対して当該事実を「伝播」する可能性があれば、不特定多数への事実摘示と同一視できる、というものです。つまり、「特定少数」への事実摘示であっても、伝播性がある場合には、「公然と」に該当します。
典型的な例としては、新聞記者に対してタレコミをするケースなどがあります。新聞記者がタレコミを記事にすることは通常想定できるものであり、新聞記事になれば不特定多数が当該記事を読むことになります。そのため、伝播性が認められ、「公然と」に該当します。
「事実を摘示し」とは
名誉毀損が成立するためには、その摘示内容が「事実」でなければなりません。「事実」とは、「証拠によって真偽を確かめられる事柄」を意味します。
例えば、
というのは、個人的な感想に過ぎず、「証拠を出してどちらが正しいか決めよう」という話ではありません。一方で、例えば、
という内容は、証拠によってその真偽を確かめることができます。そのため、後者の摘示内容は「事実」に当たります。このような内容の発言をすれば、名誉毀損が成立する可能性があります。
ただし、「事実」であるか否かの区別は、具体的な事案の中で常に明確なわけではありません。例えば、「ブラック企業」というのは、「事実」であるか否か、必ずしも明確ではない言葉です。したがって、当該表現が「事実」に該当するか否かは、過去の裁判例などを参考に判断する必要があります。
なお、ここでいう「事実」とは、本当か嘘かは問いません。そのため、摘示事実が「真実」であったとしても、原則として、名誉毀損は成立します。ただし、後述するように、「真実性」を立証できる場合には、例外的に、名誉毀損が成立しない場合があります。
「人の名誉を毀損した」とは
名誉毀損における「名誉」とは、客観的な社会的評価を意味します。社会的評価は企業等の法人にも存在するため、「人」には、個人だけでなく企業も含まれます。したがって、企業を名宛人とする名誉毀損も成立します。
そして、「名誉を毀損する」とは、社会的評価を低下させることをいいます。「犯罪を行った」、「不倫をした」という事実は、本当であれ嘘であれ、公表されれば人の社会的評価を低下させるおそれがあります。そのため、これらの事実を摘示することは名誉毀損に当たります。
一方、「自尊心を傷つけられた」という程度にとどまる事実は、社会的評価を低下させるものではなく、個人の感情(名誉感情)が害されたに過ぎないため、名誉毀損は成立しません。
名誉感情が害された場合のように、人の社会的評価を低下させるものではない場合には、刑法上の責任は生じません。しかし他方で、民事上の責任については、名誉感情が害された場合でも、人格権を侵害するものとして、不法行為責任が生じる可能性があります。
なお、名誉毀損が成立するためには、前提として、「同定可能性」が認められることも必要です。同定可能性とは、名誉毀損となる表現の対象が、間違いなく特定の人を指しており、同姓同名の別人を指す可能性がないことをいいます。
例えば、5ちゃんねるなどの匿名掲示板で、「株式会社AのK.Sは会社の物を盗んでクビになった」というように書かれて誹謗中傷を受けたとしても、Aというイニシャルの会社に勤めるK.Sというイニシャルの人物は、複数名存在する可能性がありため、同定可能性は認められず、これでは名誉毀損は成立しない、ということです。
例外的に名誉毀損が成立しない場合
以上の要件を満たす場合であっても、例外的に、以下の要件を満たす場合には名誉毀損は成立しないものとされています。
(公共の利害に関する場合の特例)
「刑法」e-gov法令検索 電子政府の総合窓口e-Gov イーガブ
第230条の2
前条第1項の行為が公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは、これを罰しない。
2 (略)
公共性(「公共の利害に関する事実」)とは
「公共性」に明確な定義はありませんが、裁判例では、「多数の人の社会的利害に関係する事実」や「国民の正当な関心事」などと表現されています。しかし、その線引きは難しく、表現の対象者の属性や摘示事実の内容などの観点から、類型的に判断する必要があります。
例えば、政治家の不倫に関する事実摘示は、政治家という公職者を対象とするものである一方で、不倫自体は私生活上の事柄です。このような場合には、社会に対する影響力の程度や公職への適格性などのさまざまな事情を考慮したうえで公共性が判断されます。なお、政治家のような特に公共性の高い職業の場合には、公共性が否定されることはあまりありません。
また、裁判例では、政治家や官僚などの公職者だけでなく、宗教団体や有名企業の幹部など、社会的な影響力が強い「準公人」についても、公共性が認められたケースがあります。特に企業に関しては、一般消費者に対して商品やサービスを提供している場合には、公共性が比較的認められやすい傾向にあります。
公益性(「専ら公益を図る目的」)とは
公共性とも密接に関連しますが、公益性は、目的の問題です。なお、「専ら」とありますが、公益目的以外の目的が併存している場合でも、必ずしも公益性は否定されません。しかし、客観的事情から、嫌がらせや報復、営利などの公益目的以外が主たる目的であると認められる場合には、公益性は否定されます。
例えば、前述の政治家の不倫に関する事実摘示は、当該政治家の公職者としての適格性を問題視する目的であれば公益性が認められますが、仮に当該政治家と三角関係にある人が不倫相手を奪う目的などでなされたものであれば、公益性が否定される可能性があります。
このように、公益性の判断はケースバイケースであり、判例でも、事実を摘示する際の表現方法や事実調査の程度などさまざまな事情が考慮されています。
真実性(「真実であることの証明があったとき」)とは
真実性とは、摘示された事実が真実であると立証できるか、という問題です。摘示した事実の細部まですべてが真実である必要はなく、重要な部分について真実であれば、「真実性」は認められます。
また、判例では、公共性および公益性が認められる表現については、真実性が認められない場合であっても、当該事実を真実であると誤信し、誤信したことについて確実な資料・根拠に照らして相当の理由があるとき(以下、「相当性」という)には、名誉毀損は成立しないとされています。ただし、何らかの資料に基づくものであっても、それが一方的な立場の資料であったり、資料への理解が不十分であったりする場合には、相当性は否定されます。
名誉棄損を主張する場合のポイント
名誉毀損を主張する側としては、公共性や公益性が否定されるケースは少ないため、ライフラインとなるのが真実性・相当性です。つまり、多くの場合、名誉毀損を成立させるためには、「公共性や公益性はともかく、真実性はないし、相当性もない」と主張する必要があるのです。
プライバシー侵害を問えるケース
以上のとおり、真実性等を満たす場合には名誉毀損は成立しません。もっとも、プライバシー侵害を理由とする不法行為は、真実であっても別途成立しえます。また、名誉毀損と同時にプライバシー侵害を問えることもあります。
裁判例では、一般的に、プライバシー侵害が成立するためには、公開された情報が以下の3つの要件を満たす必要があるとされています。
- プライバシー侵害の成立要件
-
① 私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること
②一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること
③一般の人々に未だ知られていない事柄であること
ただし、上記3つの要件を満たせば常にプライバシー侵害は違法になるわけではなく、公開された情報の性質や公開の態様等のさまざまな事情を考慮して、最終的に違法か否かが判断されています。
誹謗中傷に関する裁判例|具体的な事例で解説
では、誹謗中傷に対して、裁判例ではどのような判断がされているのでしょうか。いくつかの具体例とともに解説します。
労働環境に関するもの
「ブラック企業」という表現は、企業の労働環境に関する投稿でもっとも典型的な誹謗中傷の例です。しかし、「ブラック企業」という単語だけでは抽象的過ぎであり、具体的な「事実」を摘示したものとはいえないケースが多いです。しかし他方で、文脈に照らして考えれば「ブラック企業」が具体的な事実を摘示しているといえるケースもあります。例えば、裁判例では、以下のように判示して、「文脈上、原告についても労働法規違反などがあると述べているに等しい」と認定したものがあります。
✅ 東京地裁平成28年12月22日判決
本件記事が掲載されているスレッドのタイトルに「ブラック企業」という名称が用いられているところ,「ブラック企業」という名称は,一般的には労働条件が過酷で労働環境が劣悪であると受け止められる表現であることに加え,本件ウェブサイトの説明として,「離職率が高い」と記載されていることや,本件スレッド内の他の投稿に他の会社に関する投稿ではあるものの,「昼休憩時間なし」や「残業も1日最低3時間月では70時間以上してるのに明細書見たら60時間くらいしかついてなかった」などと具体的な労働条件や労働環境に関する記載があること〔中略〕からしても,本件スレッドにある「ブラック企業」という表現を読んだ通常の読者としては,「ブラック企業」の意味について,「過酷な労働又は労働環境を強いる企業」と十分に理解することができる。
商品・サービスに関するもの
商品やサービスに関する投稿は、正当な意見や感想であることが多いですが、誹謗中傷といえるものもあります。典型的な例としては、「料理に虫が混入していた」というような投稿です。商品・サービスに対する投稿であっても、企業の名誉に直接関係するものであり、名誉毀損罪が成立する可能性があります。また、これが虚偽の事実であった場合、名誉毀損罪だけでなく、信用毀損罪や偽計業務妨害罪が成立する余地もあります。
例えば判例では、コンビニで購入した飲料に洗剤を投入した被告が、警察に対して購入した飲料に異物が入っていたと虚偽申告をし、その旨がニュース報道されてしまった事件において、企業が扱う商品に対する評価も、刑法233条の『信用』に該当すると判断されて、信用毀損罪の成立が認められたものもあります(最高裁平成15年3月11日判決)。
経営者個人に関するもの
企業に関する誹謗中傷の中には、企業そのものや商品・サービスに関するものだけでなく、経営者個人に向けられたものもあります。
例えば、裁判例では、企業の代表取締役の不貞行為に関する事実の摘示に名誉毀損罪が成立するかが問題となった事案において、公共性が認められるかが争点となったものがあります。この点に関して、裁判例では、以下のように判示して、公共性を認めました。
✅ 東京地裁令和4年8月19日決定
債権者が代表取締役を務める(株式会社)が、株式を公開して機関投資家や一般投資家の売買の対象に供する上場企業であり、しかも、その市場が我が国を代表する企業が名を連ねるプライム市場であることをも踏まえれば、その代表取締役である債権者の身上、経歴及び行動は、(株式会社)の株主や機関投資家・一般投資家その他の社会公共の重大な関心事であると言い得る。このことに加えて、不貞行為が社会的に非難される行為であることからすれば、本件記事の内容は、公共の利害に関わる事項であるということができる。
上記裁判例では、上場企業の代表取締役であることが公共性を肯定する重要な要素となっており、確かに、東京地裁平成25年8月20日判決でも、「原告が一私企業の代表取締役であることからすれば,不倫等の私生活上の事実が公共の利害に関する事実ということができないことは明らか」として、未上場企業の代表取締役の不倫等に関する事実について、公共性を否定しています。
このように、未上場企業の場合には、原則として経営者個人に関する事実は公共性を満たさないと考えてよいでしょう。裁判例には、その他の事情から未上場企業の代表取締役に関する事実について例外的に公共性を認めたものも存在しますが、いずれにしても、「会社の代表取締役である以上、その不倫に関して『暴露』をされることは一般論としてやむを得ない」ということはありません。
経営者個人に関する投稿であっても企業全体にとって重大な風評被害につながることもあるため、このような投稿に対しても、企業として厳正に対処する必要があるでしょう。
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