瑕疵とは?
問題になる場面と法的効果・種類・
契約不適合責任のルールなどを
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「瑕疵(かし)」とは、「傷」「欠点」などの意味を有する用語です。法律上は、意思表示・代理行為・占有・契約の目的物・土地工作物の設置および保存などについて、何らかの問題があることを意味します。これらの瑕疵がある場合、意思表示の取消しや契約不適合責任の法的効果が発生します。
契約の目的物の瑕疵については、2020年4月1日に施行された改正民法により、従来の「瑕疵担保責任」が「契約不適合責任」に改められました。
瑕疵のある(=契約に適合しない)物を引き渡した売主等は、買主等に対して契約不適合責任を負います。この場合、買主等は売主等に対して、履行の追完・代金の減額・損害賠償を請求し、または契約を解除することができます。
なお、新築住宅の請負契約および売買契約については、契約不適合責任の特例として、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく瑕疵担保責任が適用されます。
この記事では「瑕疵」について、問題になる場面と法的効果・種類・契約不適合責任のルールなどを解説します。
※この記事は、2023年9月19日時点に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 品確法…住宅の品質確保の促進等に関する法律
- 品確法施行令…住宅の品質確保の促進等に関する法律施行令
目次
瑕疵とは
「瑕疵(かし)」とは、「傷」「欠点」などの意味を有する用語です。法律上は、意思表示・代理行為・占有・契約の目的物・土地工作物の設置および保存などについて、何らかの問題があることを意味します。
これらの瑕疵が発生した場合、契約などの法律関係の当事者間において、トラブルに発展するケースが多いです。
瑕疵が問題になる場面と法的効果
法律関係においては、主に瑕疵が問題となり得ます。
① 意思表示の瑕疵
・詐欺
・強迫
② 代理行為の瑕疵
③ 占有の瑕疵
④ 契約の目的物の瑕疵
⑤ 土地工作物の設置・保存の瑕疵
意思表示の瑕疵|民法上の「瑕疵ある意思表示」とは
法律上の「意思表示」とは、一定の法律効果を発生させようとする意思を表明することです。
表示に対応する内心の意思は存在するものの、その意思の形成過程で他人の干渉を受けて自由な判断ができなかった場合、その意思表示には瑕疵があると評価されます(=瑕疵ある意思表示)。
民法では、瑕疵ある意思表示について「詐欺」と「強迫」が定められており、いずれも意思表示を取り消すことができるとされています(民法96条1項)。
詐欺
「詐欺」とは、他人に対して嘘を言い、錯誤に陥らせて意思表示をさせること(=騙して何かをさせること)を意味します。詐欺による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
ただし、詐欺を行ったのが意思表示の相手方ではなく第三者である場合は、相手方が詐欺の事実を知り、または知ることができたときに限り、意思表示の取消しが認められます(同条2項)。
また、詐欺による意思表示の取消しは、善意無過失の第三者に対抗できません(同条3項)。
強迫
「強迫」とは、意思表示をする者に対して暴行や脅迫を行い、自由意思を奪った上で意思表示をさせることを意味します。強迫による意思表示は、取り消すことができます(民法96条1項)。
強迫による意思表示の取消しは、詐欺とは異なり、相手方や第三者の主観的態様によって制限されることはありません。詐欺は騙された側にも一定の責任があると考えられますが、強迫された人に抵抗を期待することは難しく、保護の必要性が高いためです。
代理行為の瑕疵
「代理行為」とは、代理人が本人のためにすることを示してする意思表示です。代理行為について、その意思表示または代理人が受けた意思表示に何らかの問題があることを「代理行為の瑕疵」といいます。
代理行為の瑕疵については、以下のルールが定められています(民法101条)。
① 代理人の意思表示については、意思の不存在・錯誤・詐欺・強迫、善意または悪意、過失の有無は代理人を基準に判断します(同条1項)。
(例)本人が詐欺を受けていなくても、代理人が詐欺を受けて意思表示をした場合は、詐欺取消しが認められる
② 代理人が相手方から受けた意思表示については、善意または悪意、過失の有無は代理人を基準に判断します(同条2項)。
(例)代理人が本人のために借金を返済したが、返済先が受領権者でなかった場合に、本人に過失がなくても、代理人に過失があれば、その返済は無効となる(民法478条)
③ 本人は、自ら知っていた事情または過失により知らなかった事情について、代理人が知らなかったことを主張できません(同条3項)。
(例)代理人が本人のために借金を返済したが、返済先が受領権者でなかった場合に、代理人が善意無過失であっても、本人が悪意(=返済先が受領権者でないことを知っていた)の場合は、その返済は有効となる(民法478条。代理人の善意無過失を主張できないため)
占有の瑕疵
物の占有を開始した際、以下のいずれかを満たしていないことを「占有の瑕疵」といいます。
① 所有の意思をもって占有を開始したこと
② 平穏に占有を開始したこと
③ 公然と占有を開始したこと
④ 他人の物であるとは知らなかったこと(=善意)
⑤ 他人の物であるとは知らなかったことにつき、過失がなかったこと(=無過失)
所有の意思・平穏・公然の要件のうち、一つでも満たしていないものがある場合は、占有物を時効取得できません(民法162条参照)。
また、所有の意思・平穏・公然の要件を全て満たしていても、占有が悪意または有過失である場合は、取得時効期間が20年となります(瑕疵のない占有の場合は10年)。
なお、前占有者から占有を承継した者は、占有の瑕疵も承継します(民法187条2項)。
例えば、前占有者が所有の意思なく土地の占有を開始した場合は、承継者の占有も所有の意思がないことになるため、承継者は土地を時効取得できません。
契約の目的物の瑕疵
有償契約(売買・請負など)に基づいて引き渡された目的物が、種類・品質・数量について契約の内容に適合していない場合、売主等は買主等に対して「契約不適合責任」を負います(民法562条以下)。
2020年4月1日に改正民法が施行される前の民法では、契約不適合責任は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。これは、契約の目的物に「瑕疵」があった場合に生じる責任であることを意味します。
改正前の民法において、「瑕疵」の意義は条文上明らかではありませんでしたが、「目的物が契約に適合していないこと」を意味するという判例法理が次第に確立されました。
そこで、2020年4月1日に施行された改正民法により、瑕疵担保責任は契約不適合責任に改められた上で、判例法理を踏まえた詳細な規定が設けられました。
土地工作物の設置・保存の瑕疵
土地の工作物の設置・保存に瑕疵があることにより、他人に損害が生じたときは、工作物の占有者が被害者に対して損害賠償責任を負います。ただし、占有者が損害の発生防止のために必要な注意をしたときは、所有者が損害賠償責任を負います。これらの責任は「工作物責任」と呼ばれています(民法717条)。
工作物責任における「瑕疵」とは、土地の工作物の設置または保存の方法が不適切であるために、工作物が有すべき本来の安全性を欠いていることを意味します。
契約の目的物の瑕疵の種類
企業法務において、最も頻繁に問題となる瑕疵は、契約の目的物の瑕疵(=契約不適合)です。
契約の目的物の瑕疵は、以下の種類に分類されます。
① 権利の瑕疵
② 物理的瑕疵
③ 法律的瑕疵
④ 心理的瑕疵
⑤ 環境的瑕疵
権利の瑕疵
「権利の瑕疵」とは、契約に基づき目的物を引き渡す義務を負う側(=債務者)が、その目的物について完全な所有権を持っていないことを意味します。
所有権そのものを有しない場合のほか、抵当権などの担保権が設定されている場合も権利の瑕疵に当たります(契約において担保権の存在が予定されている場合を除く)。
この場合、債務者は目的物の完全な所有権を取得した上で、債権者にその所有権を移転しなければなりません(民法561条)。
例えば、以下のようなケースが権利の瑕疵に当たります。
・購入した中古車が盗難車だった
・自分で使用するために土地を購入したが、借地権が設定されていた
など
物理的瑕疵
「物理的瑕疵」とは、目的物の種類・品質・数量のいずれかが、物理的に契約内容に適合していないことを意味します。
例えば、以下のようなケースが物理的瑕疵に当たります。
・引き渡された目的物の種類が、契約と異なる
・引き渡された目的物の品質が、契約に定められた品質よりも劣っている
・引き渡された目的物が壊れている
・引き渡された目的物の数量が、契約に定められた数量に足りない
など
法律的瑕疵
「法律的瑕疵」とは、法令によって目的物の使用・収益・処分が制限されているため、契約上予定された使用・収益・処分ができないことを意味します。
法律的瑕疵が問題になることが多いのは、不動産の売買契約などです。例えば、以下のようなケースが法律的瑕疵に当たります。
・建物を建てるために土地を購入したが、接道義務を満たさないために建築不可であった
・ビルを建てるために土地を購入したが、条例によってビルの建築が禁止されていた
など
心理的瑕疵
「心理的瑕疵」とは、目的物の引渡しを受ける側にとって、心理的な抵抗を生じ得る事柄を意味します。
心理的瑕疵も、不動産の売買契約においてよく問題になります。例えば、以下のようなケースが心理的瑕疵に当たります。
・建物内において自殺、他殺、事故死、孤独死などが発生した
・物件のすぐ近くに墓地が存在する
・物件の近隣に暴力団事務所が存在する
など
環境的瑕疵
「環境的瑕疵」とは、目的物の近隣において、環境上の問題が発生していることを意味します。
環境的瑕疵も、不動産の売買契約においてよく問題になります。例えば、以下のようなケースが環境的瑕疵に当たります。
・物件の近隣にひどい騒音を起こす人が住んでいる
・物件の近隣に廃棄物処理施設が存在し、日常的に異臭がする
・物件の近隣に非常に高いビルが建っており、終日にわたって日照が阻害されている
など
契約不適合責任について
引き渡された目的物に瑕疵が存在する場合、買主等は売主等に対して「契約不適合責任」を追及できます。
「瑕疵担保責任」は使ってはいけない?
契約不適合責任は前述のとおり、2020年4月1日に施行された改正民法により設けられた新しい制度で、改正前は「瑕疵担保責任」と呼ばれていました。
旧民法に慣れている方は依然として「瑕疵担保責任」と呼称する場合もあるようですが、現行民法においては、条文の内容に即して「契約不適合責任」と呼称するのが適切です。
なお「瑕疵担保責任」の用語は、品確法に基づく新築住宅の瑕疵担保責任に残されています(後述)。
契約不適合責任の追及方法
契約不適合責任の追及方法は、以下の4種類です。
① 履行の追完請求(民法562条)
目的物の修補、代替物の引渡しまたは不足分の引渡しを請求できます。
② 代金減額請求(民法563条)
履行の追完がなされないときは、不適合の程度に応じて代金の減額を請求できます。
③ 損害賠償請求(民法564条・415条1項)
契約不適合によって損害を被ったときは、損害賠償を請求できます。
④ 契約の解除(民法564条・542条)
履行の追完がなされないときは、契約を解除できます。ただし、不適合が契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約の解除は認められません。
契約不適合責任の追及期間
買主等が売主等の契約不適合責任を追及するためには、不適合を知った時から1年以内に、不適合の存在を売主等に対して通知しなければなりません。ただし、売主が引渡しの時に不適合を知り、または重大な過失によって知らなかったときは、上記の期間を過ぎても契約不適合責任を追及できます(民法566条)。
なお、契約不適合責任の追及期間は、原則として特約による変更が可能です。ただし、法律によって期間の変更が制限される場合があります。
(例)
・宅地または建物の売買契約において、売主が宅地建物取引業者であり、買主が宅地建物取引業者でない場合
→引渡日から2年以上とする場合を除き、民法の規定よりも契約不適合責任の期間を短縮する特約は無効(宅地建物取引業法40条1項)
・売主等が事業者であり、買主等が消費者である場合
→契約不適合責任の期間を短縮する特約であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものは無効(消費者契約法10条)
新築住宅に関する特例|品確法上の瑕疵担保責任
新築住宅の請負契約および売買契約については、契約不適合責任に代えて、「住宅の品質確保の促進等に関する法律」(品確法)に基づく瑕疵担保責任が適用されます。
品確法上の瑕疵担保責任の対象となるのは、新築住宅のうち以下の部分です(同法94条1項・95条1項、品確法施行令5条)。
① 構造耐力上主要な部分
以下のうち、住宅の自重、積載荷重・積雪・風圧・土圧・水圧、または地震その他の振動・衝撃を支えるもの
・住宅の基礎
・基礎ぐい
・壁
・柱
・小屋組
・土台
・斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するもの)
・床版
・屋根版
・横架材(はり、けたその他これらに類するもの)
② 雨水の浸入を防止する部分
・住宅の屋根、外壁、またはその開口部に設ける戸、わくその他の建具
・雨水を排除するために住宅に設ける排水管のうち、住宅の屋根・外壁の内部、または屋内にある部分
品確法上の瑕疵担保責任の追及方法は、民法上の契約不適合責任と同じです(履行の追完請求・代金減額請求・損害賠償請求・契約の解除)。
品確法上の瑕疵担保責任の期間は、新築住宅の引渡しの時から10年間と長く設定されています。また、注文者または買主に不利な特約は無効であるため(同法94条2項・95条2項)、特約によって瑕疵担保責任の期間を短縮することはできません。
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