権原とは?
権限との違い・種類・具体例・
無権原者への対処法などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「権原」とは、ある行為を正当化する法律上の原因をいいます。
「権限」はある者に認められた行為の範囲を意味するのに対して、権原は権限の原因となる法的根拠を意味するものであり、両者は異なるものです。権原の例としては、物の占有権原および管理権原、ならびに金銭を保持する権原などが挙げられます。これらの権原は、法律または契約に従って発生します。
無権原者の行為によって何らかの損害を受けている場合は、所有権に基づく物権的請求や、不当利得返還請求および不法行為に基づく損害賠償請求などによって対処しましょう。
この記事では「権原」について、権限との違い・種類・具体例・無権原者への対処法などを解説します。
※この記事は、2023年12月25日時点の法令等に基づいて作成されています。
目次
権原とは|読み方も解説
「権原」とは、ある行為を正当化する法律上の原因をいいます。例えば「物を管理する権原」は、その物の管理を認める根拠となる法律上の原因(=管理契約など)のことです。
「権原」は通常「けんげん」と読みますが、「権限」との混同を避けるために「けんばら」と読まれることもあります。
権原と権限の違い
「権原」と混同されやすい用語として「権限(けんげん)」があります。
「権限」は、ある者に認められた行為の範囲です。例えば「物を管理する権限」は、「その物を管理できること」を意味します。
これに対して「権原」は、権限の原因となる法的根拠を意味するものです。すなわち、権原に基づいて権限が発生します。
例えば「物を管理する権限」は、管理契約などの「権原」に基づいて発生します。
権原の種類
権原は、「物権」と「債権」の2種類に大別されます。
物権|法律に従って発生する
「物権」とは、物を支配する権利です。
物権については「物権法定主義」が採用されており、法律に基づくものを除いて創設できないとされています(民法175条)。したがって、契約によって独自に物権を創り出すことはできません。
物権の大きな特徴は、全ての人に対してその物の支配を主張できる点です(=絶対性)。債権を主張できるのは、原則として債務者に対してのみですが、物権は全ての人に対して主張できます。
債権|主に契約に従って発生する
「債権」とは、他人に対して債務の履行を請求できる権利です。
物権とは異なり、債権は契約を締結して発生させることができます。この場合、債権の内容は当事者の合意によって自由に決められます。
また、不当利得(民法703条・704条)や不法行為(民法709条)などにより、契約外で債権が発生することもあります。
債権を主張できるのは、原則として債務者(=契約等に従って債務を履行する義務を負う人)に対してのみです。ただし不動産の賃借権については、一定の要件を満たせば第三者への対抗力が認められます(民法605条、借地借家法10条・31条)。
権原の具体例
権原に当たるものの具体例として、物の占有権原と管理権原を紹介します。
物の占有権原
物の占有権原とは、物の占有を正当化する法律上の原因(=物権または債権)です。具体的には、以下の権利が物の占有権原に当たります。
① 地上権
② 賃借権
③ 使用借権
④ 留置権
⑤ 質権
地上権
「地上権」とは、他人の土地について工作物または竹木を所有するため、その土地を使用する権利です(民法265条)。
地上権の設定を受けた人には土地の占有権原があるため、その地上権が有効である限り、所有者に求められてもその土地から立ち退く必要はありません。また、地上権は物権であるため、所有者以外の人に対しても土地の占有権原を主張できます。
賃借権
「賃借権」とは、他人の物を有償で使用・収益する権利です(民法601条)。
賃借権の設定を受けた人には賃借物を占有する権原があるため、その賃借権が有効である限り、賃貸人から求められても賃借物を返還する必要はありません。
なお、賃借権は債権であるため、賃借物の占有権原を主張できるのは、原則として賃貸人に対してのみです。したがって、賃貸人が第三者に賃借物を譲渡した場合、賃借人は譲受人である第三者に対して、賃借物の占有権原を主張できないのが原則となります。
ただし、不動産の賃借権についてはその重要性に鑑み、一定の要件を満たせば第三者への対抗力が認められるなど、物権に近い保護が行われています(民法605条、借地借家法10条・31条)。
使用借権
「使用借権」とは、他人の物を無償で使用・収益する権利です(民法593条)。
使用借権の設定を受けた人は、その使用借権が有効である限り、借用物を占有し続けることができます。ただし、使用貸借は無償であることに鑑み、貸主による契約の解除が緩やかな要件で認められています(民法598条)。
なお、使用借権は債権であるため、借用物の占有権原を主張できるのは貸主に対してのみです。賃借権とは異なり、借用物が不動産である場合にも、第三者への対抗力は認められていません。
留置権
「留置権」とは、他人の物に関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置できる権利です(民法295条1項)。
弁済期が到来した債権が支払われない場合、留置権者は弁済を受けるまでの間、留置物を所有者に返還せずにおくことができます。例えば自動車の整備を受託した事業者は、顧客から整備代金の支払いを受けるまでの間、自動車を返還しなくても構いません。
留置権は物権であるため、留置物の所有者以外の者に対しても主張できます。
質権
「質権」とは、債権の担保として債務者または第三者から受け取った物を占有し、かつその物について、他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利です(民法342条)。
例えば、AがBから100万円を借り、その担保として高級骨董品を質物としてBに引き渡したとします。この場合、Bは100万円の返済を受けるまでの間、高級骨董品を留置できます(民法347条)。
また、返済期日までに100万円が返済されない場合は、質物である高級骨董品を売却した上で、売却代金を100万円の弁済に充当することが可能です。
質権は物権であるため、質権設定者以外の者に対しても主張できます。
物の管理権原|管理契約など
特に不動産については、管理会社が不動産を占有した上で、メンテナンスや入居者とのやり取りなどを賃貸人に代わって行うケースがよくあります。
この場合、管理会社には不動産の管理権限が認められています。不動産の管理権限は、所有者と管理会社が締結する管理契約を権原として発生するものです。
金銭を保持する権原
他人の金銭を勝手に自分のものにすることは犯罪行為ですが、権原があれば、本来他人のものである金銭を保持し続けることができます。
金銭を保持する権原としては、以下の例が挙げられます。
① 金銭消費貸借契約
② 金銭消費寄託契約
金銭消費貸借契約
「消費貸借」とは、当事者の一方が種類・品質・数量の同じ物をもって返還をすることを約して、相手方から金銭その他の物を受け取る契約です(民法587条)。特に、金銭を目的とする消費貸借は「金銭消費貸借」と呼ばれます。
自動車ローン・住宅ローン・カードローンや消費者金融のローンなどが、金銭消費貸借の典型例です。また、個人間で行われるお金の貸し借りも金銭消費貸借に当たります。
金銭消費貸借契約の借主は、契約に基づいて、弁済期が到来するまでの間、借りたお金を保持できます。貸主から返済を求められても、弁済期が到来していなければ返す必要はありません。
金銭消費寄託契約
「消費寄託」とは、寄託者がある物を保管することを受寄者に委託する内容の契約であって、受寄者が寄託物を消費できるものをいいます(民法657条・666条)。消費寄託においては、受寄者は寄託された物をそのまま返すのではなく、寄託された物と種類・品質・数量の同じ物を返還すれば足ります。
消費寄託のうち、寄託物が金銭であるものは「金銭消費寄託」と呼ばれます。銀行と利用者が締結する預金契約は、金銭消費寄託であると解されています。
金銭消費寄託契約の受寄者は、契約に従って寄託者の金銭を保持する権原があります。
寄託者はいつでも寄託物である金銭の返還を請求できますが(民法662条1項)、返還請求によって寄託者の期限の利益(利息請求権など)を害する場合には、寄託者がその損害を賠償しなければなりません(同条2項)。
無権原者によって損害を受けた場合の対処法
無権原者の行為によって何らかの損害を受けた場合には、以下の法的請求を行って対処しましょう。
① 所有権に基づく物権的請求
・返還請求
・妨害排除請求
・妨害予防請求
② 不当利得返還請求
③ 不法行為に基づく損害賠償請求
所有権に基づく物権的請求
無権原者の行為によって物の所有権が侵害された場合は、所有権に基づく物権的請求を行いましょう。
所有権に基づく物権的請求には、返還請求・妨害排除請求・妨害予防請求の3種類があります。
返還請求
所有権に基づく返還請求は、自己の所有物の占有を他人に奪われているときに行うことができます。
例えば、自分が所有している時計を無権原者が盗んで保管している場合には、その時計の返還を請求可能です。
また、自分が所有している土地上において、無権原者が建物を勝手に建てている場合は、その建物を収去して立ち退くように求めることができます。
妨害排除請求
所有権に基づく妨害排除請求は、自己の所有物の占有を失っているわけではないものの、何らかの方法で所有権の行使を妨害されているときに行うことができます。
例えば、自分が所有している土地の上に無権原者が自動車を停めている場合には、その自動車をどけるべき旨の請求が可能です。
また、自分が所有している土地について、すでに消滅した抵当権の登記が残っている場合には、その抵当権登記の抹消を請求できます。
妨害予防請求
所有権に基づく妨害予防請求は、将来的な所有権侵害のおそれが認められる場合に行うことができます。
例えば、隣地所有者が境界線近くの土地を深く掘り下げたことにより、自分が所有する土地が崩れる危険が生じた場合には、地盤工事などによる土砂崩れを防ぐための措置を請求可能です。
不当利得返還請求
不当利得返還請求は、無権原者が自分の財産や労務によって利益を受け、そのために自分が損失を被っている場合に行うことができます(民法703条・704条)。
例えば、自分の所有物だった貴金属類を無権原者が勝手に売ってしまった場合、その売却代金相当額について不当利得返還請求が可能です。
不当利得返還請求の対象となるのは、原則として現存利益のみです(民法703条)。無権原者が不当利得に当たる金銭を浪費してしまった場合、現存利益は認められないので、不当利得返還請求は原則としてできなくなります。
ただし、不当利得であることについて無権原者が悪意だった(=知っていた)場合には、現存利益に限らず、不当利得全額に利息を付して返還しなければなりません(民法704条)。
不法行為に基づく損害賠償請求
不法行為に基づく損害賠償請求は、無権原者の故意または過失によって、自分の権利または法律上保護される利益が侵害された場合に行うことができます(民法709条)。
例えば、自分が所有している建物を無権原者が勝手に占有していたことにより、占有期間中にその建物の使用・収益ができなかった場合は、逸失利益相当額につき、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
なお、不当利得返還請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権は、同じ損失(損害)について両方発生する場合も多いです。例えば、前述の無権原者が建物を勝手に占有していたケースでは、無権原者は占有によって不当利得を得ており、かつ不法行為に当たる占有によって所有者に損害を与えています。
このように、不当利得返還請求権と不法行為に基づく損害賠償請求権が併存する場合、債権者はどちらかを選んで、または両方を行使することができます。ただし、不当利得および損害賠償の二重取りが認められるわけではなく、実際に支払いを受けることができるのは、被った損失(損害)額の範囲内に限られる点にご注意ください。
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