譴責(けん責)とは?
懲戒処分としての位置づけ・適法に行うための要件・企業が注意すべきポイントなどを解説!
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- この記事のまとめ
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「譴責(けん責)」とは、労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分です。
懲戒処分の中では、譴責は軽い部類の処分となります。例えば業務における中程度のミス、軽度のハラスメント、単発の無断欠勤、私生活上の非違行為などが譴責相当と考えられます。
譴責を適法に行うためには、就業規則に懲戒処分の種別・事由が示されていることが必要となります。その上で、労働者に行為が懲戒事由に当たることと、懲戒権の濫用に当たらないことが必要です。
労働者の非違行為が認められない場合や、きわめて軽微な非違行為である場合などには、譴責が違法・無効となるおそれがあるので注意しましょう。この記事では譴責について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
譴責(けん責)とは
「譴責(けん責)」とは、労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分です。懲戒処分の中では、譴責は軽い部類の処分となります。
譴責は懲戒処分の一種
「懲戒処分」とは、労働者による就業規則違反の行為につき、会社がペナルティとして行う処分です。
譴責は懲戒処分の一種であり、労働者に対して厳重注意を与えることを内容とします。文書で厳重注意が与えられるのが一般的で、さらに始末書の提出などを求めることもあります。
譴責と戒告の違い
譴責と同じく、労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分であるのが「戒告」です。
譴責と戒告の間に実質的な違いはありません。どちらも厳重注意を行うにとどまり、減給などの不利益は伴わないのが特徴です。
ただし会社によっては、譴責と戒告の両方を懲戒処分として設けていることもあります。この場合、始末書の提出の有無などによって、譴責と戒告の内容に差を付けていることが多いです。
懲戒処分としての譴責の重さ|他の懲戒処分との比較
懲戒処分にはさまざまな種類がありますが、譴責は懲戒処分の中で最も軽い部類となります。
一般的な懲戒処分の種類を軽い順に並べると、以下のとおりです。
①戒告・譴責
労働者に対して厳重注意を与える懲戒処分です。
②減給
労働者の賃金を減額する懲戒処分です。
③出勤停止
労働者に対して一定期間出勤を禁止し、その期間中の賃金を支給しない懲戒処分です。
④降格
労働者の職位を降格させ、役職手当などを不支給とする懲戒処分です。
⑤諭旨解雇(諭旨退職)
労働者に対して、退職を勧告する懲戒処分です。退職するかどうかは任意ですが、拒否すると懲戒解雇が行われることが多いです。
⑥懲戒解雇
会社が労働者を強制的に退職させる懲戒処分です。
譴責を受けた従業員の不利益|信用低下・人事考課への悪影響など
譴責は労働者に対して厳重注意を与える一方で、減給などの不利益を直ちに伴うものではありません。
しかし、過去に譴責を受けた事実は、社内における信用や人事考課の面でマイナスに働くことが多いです。結果的に、譴責によって低下した信用や人事上の評価を挽回できず、出世レースから外れたり、退職したりする労働者が少なくありません。
譴責に相当する行為の例
懲戒権の濫用(後述)を避けるためには、軽いものから段階的に懲戒処分を行うことが対策の一つとなります。最も部類の懲戒処分である譴責は、比較的軽微な就業規則違反や、初回の就業規則違反に対する懲戒処分として選択されることが多いです。
- 譴責相当と考えられる就業規則違反の例
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・業務における中程度のミス
・軽度のハラスメント
・単発の無断欠勤
・私生活上の非違行為
など
譴責を適法に行うための要件
譴責を適法に行うためには、以下の3つの要件を満たす必要があります。
要件1|就業規則に懲戒処分の種別・事由が示されていること
要件2|懲戒事由に該当すること
要件3|懲戒権の濫用に当たらないこと
要件1|就業規則に懲戒処分の種別・事由が示されていること
懲戒処分として譴責を行うためには、就業規則上の根拠が必要です。
就業規則には懲戒処分の種類を定めますが、その一つとして譴責が定められている必要があります。譴責を行うことがある旨を就業規則で定めていなければ、労働者に対して譴責を行うことはできません。
また、懲戒処分を行うためには、就業規則において懲戒処分を行うことができる場合(=懲戒事由)を明記する必要があります。就業規則で懲戒事由が示されていなければ、譴責の根拠規定がそもそも存在しないことになるので、譴責を行うことはできません。
要件2|懲戒事由に該当すること
労働者に対して譴責を行う際には、労働者の行為が就業規則上の懲戒事由のいずれかに該当することが必要です。
例えば就業規則において、懲戒事由の一つに「無断欠席」が挙げられていれば、無断欠席をした労働者は譴責を含む懲戒処分の対象となります。
「素行不良で社内の秩序および風紀を乱したとき」などの抽象的な懲戒事由によっても、労働者に対して懲戒処分を行うことは可能です。ただし、懲戒事由に当たるかどうかは、労働者の行為の内容・性質等に応じて合理的に判断する必要があります。
要件3|懲戒権の濫用に当たらないこと
労働者の行為の性質・態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となります(労働契約法15条)。
譴責は最も軽い部類の懲戒処分であるため、懲戒権の濫用が問題になるケースは少ないように思われるかもしれません。しかし過去の裁判例においても、譴責が懲戒権の濫用として無効とされた例があります。
例えば東京地裁平成25年1月22日判決の事案では、契約社員が他の契約社員に対して、「雇⽌めを⾔い渡された場合であっても、⾃⼰都合退職になることもあり得る」などと会社から言われた旨を記載した電⼦メールを送信したことにつき、譴責処分が行われました。
東京地裁は、メールの送信が過剰反応であったことを指摘しながらも、会社側の発言内容は不適切であって、メール内容に大きく客観的事実から外れた点はないこと、会社において実質的な被害や混乱等は生じていないことなどを併せて指摘しました。
その上で契約社員の行動は、非正規社員全体の立場が不当に弱められることを防止する意図に基づくもので、それなりに理解できるとしました。他方で譴責処分については、会社側の発言が不適切であったことを棚に上げ、契約社員によるメール送信のみをことさらに問題視する点が問題であるとしました。
最終的に東京地裁は、契約社員によるメール送信が懲戒事由に該当せず、仮に該当するとしても懲戒権の濫用に当たるとして、譴責処分を無効と判示しました。
東京地裁の同裁判例では、5万円と比較的少額ではあるものの、会社に対して契約社員への慰謝料の支払いも命じられています。また会社にとっては、契約社員によって提起された訴訟への対応自体に、慰謝料を上回る大きなコストがかかったものと思われます。
このような事態を避けるためには、譴責が軽い懲戒処分であるとはいえ、その客観的合理性および社会的相当性を慎重に検討することが大切です。
譴責を行う際の注意点
労働者に対して譴責を行う際には、後のトラブルによって大きな損害を被らないように、以下の各点に十分注意しましょう。
注意点1|以下の各原則に違反しないよう注意
・一事不再理の原則(二重処罰の禁止)
・不遡及の原則
・相当性の原則
・平等取り扱いの原則
注意点2|懲戒処分の手続きを守る
注意点3|譴責を社内向けに公表することの是非
注意点1|以下の各原則に違反しないよう注意
譴責を含む懲戒処分を行う際には、以下の各原則に違反しないように注意が必要です。
①一事不再理の原則(二重処罰の禁止)
②不遡及の原則
③相当性の原則
④平等取り扱いの原則
一事不再理の原則(二重処罰の禁止)
労働者による1つの就業規則違反に当たる行為につき、複数回にわたって懲戒処分を行うことは原則としてできません。これを「一事不再理の原則(二重処罰の禁止)」といいます。
一事不再理の原則は、刑事裁判における原則を借用したものです(日本国憲法39条、刑事訴訟法337条1号参照)。
懲戒処分は刑事罰そのものではないため、刑事裁判に比べて、一事不再理の原則は緩やかに適用すべきと解されています。例えば、後から判明した事実を踏まえて懲戒処分の内容を変更することは可能です(東京地裁令和4年2月10日判決等)。
ただし、合理的な理由がないのに、1つの就業規則違反について何度も懲戒処分を行えば、懲戒処分が無効となる可能性が高いのでご注意ください。
不遡及の原則
懲戒処分は、対象行為がなされた時点において有効な就業規則に基づいて行う必要があります。
対象行為の後で新たに懲戒処分の根拠規定が設けられても、その規定を根拠に懲戒処分を行うことはできません。これを「不遡及の原則」といいます。
労働者の行為が気に入らないからといって、懲戒処分を行うために後から就業規則を改定しても、改定後の就業規則に基づいて懲戒処分を行うことはできないので注意が必要です。
相当性の原則
客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効です(労働契約法15条)。
この規定を反対解釈すれば、懲戒処分には客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が求められます。これを「相当性の原則」といいます。
懲戒処分の客観的合理性や社会的相当性の有無は、労働者の行為の性質・態様やその他の事情に照らして判断します。
譴責は軽い部類の懲戒処分ですが、敢えて目くじらを立てる必要がない行為に対して行ったり、会社に非がある部分を棚に上げて行ったりすると、懲戒権の濫用として無効になるおそれがあるのでご注意ください。
平等取り扱いの原則
「平等取り扱いの原則」とは、就業規則違反に当たる行為の内容や程度が同じであれば、実際に行う懲戒処分の種類や重さも同じでなければならないという原則です。懲戒処分の客観的合理性・相当性を判断する際に、基準の一つとして平等取り扱いの原則が考慮されることがあります。
平等取り扱いの原則の観点からは、裁判例や自社における過去の懲戒処分事例を調査した上で、実際に懲戒処分を行おうとしている事例と比較することが大切です。会社が検討している懲戒処分の種類(重さ)が、過去事例に照らして妥当であるのかどうかを慎重に判断しましょう。
注意点2|懲戒処分の手続きを守る
譴責を含む懲戒処分は、適正な手続きによって決定しなければなりません。きちんとした手続きを踏まずに決定された懲戒処分は、懲戒権の濫用として無効となる可能性が高いです。
懲戒処分を行うかどうか、どの種類の懲戒処分を行うかなどを判断する際には、対象労働者本人を含む多様な関係者の意見を聴くことが大切です。
その上で、事実調査や過去事例との比較検討などの結果をレポート等にまとめるなど、適正な手続きを踏んで懲戒処分を決定したことを説明できるようにしておきましょう。
一例として、懲戒処分を決定する際には、以下の対応を行うことをおすすめします。
①メール・書類・録音データなど、調査可能な資料を漏れなく調べて、調査結果をレポートにまとめる
②関係者や目撃者などから幅広く事情を聴き、その内容をレポートにまとめる
③対象労働者本人に対して事情聴取を行い、その際に自由な弁明の機会を与える
④過去の裁判例や自社の懲戒処分事例等を調査し、対象事案との比較を行った上で、その内容をレポートにまとめる
⑤取締役会等の適切な意思決定機関が、適正な合議を経て懲戒処分を決定する
など
注意点3|譴責を社内向けに公表することの是非
譴責を行った事実を社内向けに公表する会社が多数見られますが、対象労働者のプライバシーや名誉権の侵害に当たらないかどうかについては慎重な検討を要します。
懲戒処分の公表は、社内における信用低下などの観点から、対象労働者に少なからず不利益を与えるものです。したがって、公表も懲戒処分の一内容であり、以下のルールが適用されると考えるべきでしょう。
①就業規則に懲戒処分を公表することがある旨が明記されていなければNG
②公表に客観的合理性がなく、社会通念上相当と認められない場合はNG
これらのルールに抵触する公表を行った場合は、プライバシー権侵害や名誉毀損などにより、会社は労働者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。
譴責は軽い部類の懲戒処分であることを考慮すると、公表する必要性に乏しいケースも多いと考えられます。公表のリスクを正しく理解した上で、本当に譴責の事実を公表すべきかどうか慎重に検討しましょう。
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