個人事業主とは?
フリーランス・法人との違い・
メリットやデメリット・開業手続き・税金・
取引する企業の注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「個人事業主」とは、個人として事業を営む人をいいます。
個人事業主と法人では、開業時や廃業時の手続き、税金、年金や保険の取り扱いなどが異なります。また、個人事業主は自らの事業について全責任を負うのに対して、法人のオーナーは有限責任のみを負うケースが多いです(株式会社または合同会社の場合)。
個人事業主は法人と比較して、機動的に意思決定ができるため小回りが利きやすいメリットがあります。また、税務申告の手続きが簡素である点も個人事業主のメリットです。
その一方で、個人事業主は法人に比べると、取引相手からの信用を得にくい傾向にあります。そのため、大規模な取引を受注しにくい点や、多額の融資を受けるのは難しい点などがデメリットといえるでしょう。個人事業主は税金として、所得税・住民税・消費税・個人事業税を納める必要があります。このうち所得税と消費税については、確定申告が必要です。
個人事業主と取引する企業は、インボイス制度や下請法に基づく取り扱いを確認した上で、法律に従った対応を行いましょう。また、2024年秋ごろからはフリーランス保護新法が施行予定となっており、個人事業主との取引に当たってはそのルールに留意する必要があります。
この記事では個人事業主について、法人との違い・メリットやデメリット・開業手続き・税金・取引する企業の注意点などを解説します。
※この記事は、2023年10月17日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
・下請法…下請代金支払遅延等防止法
・フリーランス保護新法…特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律
目次
個人事業主とは
「個人事業主」とは、個人として事業を営む人をいいます。
事業は法人(会社など)として営むこともできますが、個人として営むことも可能です。特に大きな借入れをせず、従業員も多くは雇わない(または全く雇わない)場合には、会社を作らずに個人のまま事業を行う方が身軽な側面があります。
個人事業主とフリーランスの関係
会社などに属さず、個人として仕事をする人を「フリーランス」と呼ぶことがあります。
個人事業主もフリーランスも、法令上定義された用語ではありません。したがって、個人事業主とフリーランスの意味や、両者の違いは曖昧な部分があります。
一般的には、個人として行う業務が一定以上の規模(=事業的規模)に達している人を「個人事業主」と呼ぶことが多いです。
これに対してフリーランスは、「会社などに属さない」という働き方に着目した分類です。さらに、「どこでも仕事ができる」「さまざまな会社と取引する」という意味を込めて用いられることもあります。
フリーランスは個人事業主でもあるのが通常ですが、個人事業主が全て「フリーランス」と呼ばれるわけではありません。
例えば飲食店を構えて運営している店主(=個人事業主)を、「フリーランス」と呼ぶのは一般的でないでしょう。「どこでも仕事ができる」「さまざまな会社と取引する」というイメージにそぐわないからかもしれません。
個人事業主とフリーランスの区別は明確ではありませんが、あえて厳密に区別する必要はないと思われます。
個人事業主と法人の違い
事業は個人事業主として行う選択肢のほか、会社などの法人を設立して行う選択肢もあります。
事業を営む主体として、個人事業主と法人の違いは、主に以下の各点です。
- 個人事業主と法人の違い
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① 開業時・廃業時の手続きの違い
② 税金の違い
③ 年金・保険の違い
④ 事業主の責任の違い
開業時・廃業時の手続きの違い
個人事業主と法人では、開業・廃業時の手続きが異なります。
個人事業主が開業する際には、税務署に開業届を提出し、都道府県税事務所に事業開始の申告を行います。そのほかにも状況に応じて申請・届出等を行う場合がありますが、法人に比べると、開業手続きは比較的シンプルです。
これに対して、法人にて開業する際には、まず法人を設立しなければなりません。さらに、税務署・都道府県税事務所・市町村などに対して、個人事業主よりも多くの届出等を行う必要があります。
廃業時の手続きも、個人事業主より法人の方が複雑です。個人事業主は税務署への廃業届の提出などが中心ですが、法人は清算手続き(=会社財産の処分等を行った上で、法人格を消滅させる手続き)が必要となります。
税金の違い
個人事業主と法人では、納めるべき税金の税目が異なります。
個人事業主が納めるべき主な税金は、所得税・住民税・消費税・個人事業税です。
これに対して、法人が納めるべき主な税金は、法人税・地方法人税・法人事業税・特別法人事業税・法人住民税・消費税です。
年金・保険の違い
個人事業主は原則として、国民年金と国民健康保険に加入します。
これに対して法人では、常勤の役員または従業員を、原則として健康保険と厚生年金保険に加入させなければなりません。健康保険料と厚生年金保険料は、法人と役員・従業員が折半して負担します。
また、法人の従業員については、雇用保険と労災保険への加入も義務付けられています。
事業主の責任の違い
個人事業主は、自らの事業について全責任を負います。例えば業務に関するミスによって取引先に損害を与えた場合には、その損害全額を賠償しなければなりません。
これに対して法人では、法人の種類によって事業主(株主・社員)が負う責任が異なります。
例えば株式会社・合同会社では、出資の限度でのみ責任を負う「有限責任」が採用されています。これに対して合名会社では、社員が全責任を負う「無限責任」が採用されています。
合資会社では、有限責任社員と無限責任社員が両方いるのが特徴です。
個人事業主のメリット・デメリット|法人と比較
個人事業主と法人のどちらを選択するかは、事業を営むに当たって大きな分岐点となります。
法人と比較した場合に、個人事業主にどのようなメリット・デメリットがあるのかを紹介します。
法人と比較した個人事業主のメリット
法人と比較して、個人事業主として事業を行うことの主なメリットは以下のとおりです。
① 開業・廃業手続きが簡素
開業・廃業の手続きが簡単な届出等だけで済み、法人に比べて簡素である点がメリットの一つです。
② 税務申告の手間が少ない
個人事業主の確定申告は、法人の確定申告に比べて提出すべき書類が少ないため、申告の手間が少なく済みます。
③ 社会保険料の負担を抑えられる
個人事業主が加入する国民年金と国民健康保険の保険料は、法人の場合に加入が義務付けられる厚生年金と健康保険の保険料に比べて、安く済むことが多いです。
法人と比較した個人事業主のデメリット
その一方で、個人事業主として事業を行うことには、法人と比べて以下のデメリットがあります。
① 金融機関や取引先からの信用力に劣る
個人事業主の信用力は、一般に法人より劣ります。そのため、大規模な融資を受けにくいほか、取引の規模も限定されてしまう傾向にあります。
② 事業について無限責任を負う
株式会社の株主や合同会社の社員と異なり、個人事業主は事業について無限責任を負います。業務上のミス等により、取引先に多大な損害を与えてしまうと、個人事業主は直ちに破産に追い込まれてしまうリスクがあります。
③ 税率が高くなることがある
個人事業主の所得が高額である場合、納付する所得税・住民税の税率が法人税等よりも高くなり、課税の面で法人よりも不利となることがあります。
個人事業主の開業手続き|個人事業主になるには
個人事業主が開業する際の主な手続きは、以下のとおりです。
- 個人事業主の開業手続き
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① 税務署への届出・申請
② 都道府県税事務所への申告
③ 年金・保険関係の手続き
税務署への届出・申請
個人事業主が開業する際には、納税地の税務署に対して以下の届出・申請を行います。
① 開業届
必ず提出します。
提出時期:事業開始後1カ月以内
② 青色申告の承認申請
青色申告を行う場合に提出します。青色申告には、確定申告時に最大65万円の所得控除を受けられる点や、赤字を最長3年間繰り越せるメリットがあります。
提出時期:事業開始後2カ月以内(1月15日以前に事業を開始した場合には、その年の3月15日まで)
③ 給与支払事務所等の開設届出
従業員に対して給与を支払う場合に提出します。
提出時期:給与の支払い開始から1カ月以内
都道府県税事務所への申告
個人事業主が開業する際には、都道府県税事務所に対して「事業開始(廃止)等申告書」を提出する必要があります。提出時期は、事業の開始日から15日以内です。
年金・保険関係の手続き
会社などを辞めて個人事業主として開業する場合は、厚生年金保険・健康保険から国民年金・国民健康保険への切り替えが必要です。
国民年金への切り替えは、居住地の市区町村役場で手続きを行います。
国民健康保険への切り替えについても、居住地の市区町村役場で手続きを行うのが原則ですが、職種によっては国民健康保険組合に加入できる場合もあります。
個人事業主の税金と税務申告(確定申告)
個人事業主が納めるべき税金と、行うべき税務申告について解説します。
個人事業主が納めるべき税金
個人事業主が納めるべき主な税金は、以下のとおりです。
税目 | 課税標準 | 税率 | 納付時期 |
---|---|---|---|
所得税 | 1年間の所得 ※原則として全ての所得を合算 | 5~45% ※所得金額によって異なる ※所得税額に対して2.1%の復興特別所得税を加算 | 確定申告:翌年3月15日まで 源泉所得税:売上の計上ごとに随時 予定納税:7月・11月 |
住民税 | 1年間の所得 ※原則として全ての所得を合算 | 10%(道府県民税4%、市町村税6%) | 翌年6月・8月・10月・翌々年1月 |
消費税・地方消費税 | 1年間の売上 ※年間売上1000万円以下の個人事業主は免除される場合あり | 税抜価格に対して10%(消費税7.8%、地方消費税2.2%) ※軽減税率8%が適用される場合あり | 確定申告:翌年3月31日まで ※売上規模によって中間申告を要する場合あり |
個人事業税 | 1年間の事業所得 ※290万円以下の部分は非課税 | 3~5% ※業種によって異なる | 翌年8月・11月 |
個人事業主が行うべき税務申告
個人事業主が行うべき税務申告は、主に所得税の確定申告と、消費税の確定申告・中間申告です。
① 所得税の確定申告
翌年3月15日までに、全ての所得を合算した総所得額を申告し、所得税を納付します。源泉所得税や予定納税の額が、本来の所得税額を上回っている場合は、超過分が還付されます。
住民税については、所得税の確定申告に基づいて自治体の側で計算するため、別途申告を行う必要はありません。
② 消費税の確定申告
消費税の課税事業者は、翌年3月31日までに消費税の確定申告を行います。
③ 消費税の中間申告
前年の確定消費税額(国税のみ)が48万円を超える個人事業主は、その額に応じて年1回・年3回または年11回、消費税の中間申告を行う必要があります。
参考:
No.6609 中間申告の方法|国税庁
個人事業主と取引する企業の注意点
企業が個人事業主と取引する際には、特に以下の各点にご注意ください。
① 個人事業主には免税事業者が多い|インボイス制度の取り扱いを要確認
② 下請法違反を犯さないように要注意
③ 施行予定のフリーランス保護新法にも要注意
個人事業主には免税事業者が多い|インボイス制度の取り扱いを要確認
個人事業主には、年間売上1000万円以下の免税事業者が多いです。免税事業者は、2023年10月1日から施行されたインボイス制度に基づく「適格請求書」を発行できません。
適格請求書が発行されないと、買手である企業は原則として、消費税の仕入税額控除を受けられなくなるので注意が必要です(ただし、経過措置あり)。
個人事業主と取引する際には、インボイス制度に関する経理・税務上の取り扱いを確認しましょう。
インボイス制度の詳細については、以下の記事をご参照ください。
下請法違反を犯さないように要注意
売上規模の小さい個人事業主との取引には、下請法が適用されることがあります。
下請法が適用される取引については、親事業者が下請事業者を不当に搾取する行為が禁止されます。例えば下請代金の支払遅延や、安すぎる下請代金を設定する「買いたたき」などが典型例です。
個人事業主と取引する際には、下請法が適用されるかどうかを確認した上で、そのルールを適切に遵守しましょう。
下請法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
施行予定のフリーランス保護新法にも要注意
2024年秋ごろまでには、フリーランス保護新法が施行される予定です。フリーランス保護新法は、従業員を使用しない個人事業主との取引などに適用されます。
下請法と重なる部分もありますが、いわゆるフリーランスをより強力に保護するためのルールが設けられています。取引条件の明示のほか、出産・育児・介護への配慮やハラスメント対策などの努力義務が定められているのが特徴的です。
個人事業主と取引する企業は、2024年秋ごろの施行に備えて、フリーランス保護新法のルールを理解しておきましょう。
フリーランス保護新法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
おすすめ資料を無料でダウンロードできます ✅ 契約と印鑑・押印の基本研修資料 |