内部通報制度とは?
公益通報者保護法のルール・
法務担当者の業務・留意事項などを解説!
- この記事のまとめ
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「内部通報制度」とは、企業内における違法行為などの通報を促すため、役員・従業員などに向けた通報窓口を設置した上で、通報者を保護する制度です。公益通報者保護法によって、内部通報制度のルールが定められています。
法務担当者は、内部通報制度の整備・運用に関して、主に以下の業務を担当します。
・公益通報の受付・窓口対応
・社外窓口との連絡役
・通報対象事実に関する法令リサーチ・リスク分析
・関連する社内規程の制定・改定
・内部通報制度に関する社内向けの教育・周知法務担当者がこれらの業務を行うに当たっては、経営幹部や関係者からの独立性を確保した上で、通報者の利益やプライバシーの保護に努めることが大切です。
この記事では内部通報制度の整備・運用について、公益通報者保護法のルールや、法務担当者の担当する業務・留意事項などを解説します。
※この記事は、2022年12月27日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
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目次
内部通報制度とは|公益通報者保護法のルール
「内部通報制度」とは、企業内における違法行為などの通報を促すため、役員・従業員などに向けた通報窓口を設置した上で、通報者を保護する制度です。まずは、内部通報制度の概要を確認しておきましょう。
内部通報制度を導入する意義・メリット
内部通報制度を導入すると、社内における違法行為を未然に防ぎ、または早期に発見できる可能性が高まります。
役員や従業員による違法行為が明るみに出ると、会社が刑事罰や行政処分などの対象となるほか、社会的な評判も失墜してしまいます。内部通報制度の導入は、このようなコンプライアンス上のリスクを回避する観点から効果的です。
「公益通報」の要件
内部通報制度に基づく「公益通報」を行った者は、公益通報者保護法によって保護されます。
「公益通報」に該当するのは、以下の要件を全て満たす通報です。
- 公益通報の要件
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(1) 「公益通報者」による通報であること
(2) 「通報対象事実」の通報であること
(3) 公益通報者保護法で定められた窓口に対する通報であり、窓口ごとの通報要件を満たしていること
「公益通報者」とは
「公益通報者」とは、以下のいずれかに該当する者をいいます(公益通報者保護法2条1項・2項)。
- 公益通報者とは
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(1) 労働者(退職後1年以内の者を含む)
※使用者に関する通報が対象(2) 派遣労働者(退職後1年以内の者を含む)
※派遣先の事業者に関する通報が対象(3) 請負契約などに基づき業務に従事する者・従事していた労働者(従事後1年以内の者を含む)
※注文者(発注者)である事業者に関する通報が対象(4) 役員
※役員として所属する事業者(当該事業者が請負人である場合は、注文者〔発注者〕である事業者)に関する通報が対象
「通報対象事実」とは
「通報対象事実」とは、以下のいずれかに該当する行為に関する事実をいいます(公益通報者保護法2条3項)。
- 通報対象事実とは
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(1) 犯罪行為
→公益通報者保護法が定める法令に違反する犯罪行為
※2022年12月現在、約460個が定められています。具体的な法律については「公益通報者保護法別表第八号の法律を定める政令」をご参照ください。(2) 過料対象行為
→公益通報者保護法が定める法令によって過料の対象とされている行為(3) (1)または(2)の行為につながる恐れのある行為
公益通報を行うことができる窓口・通報要件
公益通報を行うことができる窓口と、各窓口の通報要件は以下のとおりです。
- 公益通報を行うことができる窓口・通報要件
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(1) 会社が定めた社内窓口/社外窓口
通報要件:以下のいずれかに該当すること
✅ 通報対象事実が生じていること
✅ 通報対象事実がまさに生じようとしていると考えていること(2) 通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関、またはその行政機関が定めた外部窓口
通報要件:以下のいずれかに該当すると信ずるに足りる相当の理由があること
✅ 通報対象事実が生じていること
✅ 通報対象事実がまさに生じようとしていること(3) その者に対して当該通報対象事実を通報することが、その発生や被害拡大の防止に必要と認められる者(通報対象事実により被害を受ける者・受ける恐れがある者を含む)
通報要件:(2)の通報要件に加え、以下のいずれか一つに該当すること
✅ (1)または(2)の窓口に公益通報をすれば、解雇その他不利益な取り扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由があること
✅ (1)の窓口に公益通報をすれば、証拠の隠滅・偽造・変造の恐れがあると信ずるに足りる相当の理由があること
✅ 公益通報をしないことを、使用者に正当な理由なく要求されたこと
✅ (1)の窓口に公益通報をした日から20日を経過しても調査を行う旨の通知がないこと、または事業者が正当な理由がなく調査を行わないこと
✅ 個人の生命、身体への危害(財産への損害も一部含まれる)が発生していること、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由があること
公益通報を理由とする不利益取り扱いは禁止
公益通報を行ったことを理由として、公益通報者に対して以下の不利益な取り扱いをすることは禁止されています。
- 公益通報者に対する不利益取り扱いの禁止
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(1) 使用者による、労働者の解雇(公益通報者保護法3条)
(2) 派遣先事業者による、派遣元事業主との労働者派遣契約の解除(同法4条)
(3) (1)(2)のほか、事業者による、労働者・派遣労働者・役員に対する不利益な取り扱い(同法5条)
また、役員が公益通報をしたことを理由に解任された場合、会社に対して解任により生じた損害の賠償を請求できます(公益通報者保護法6条)。
公益通報者保護法改正により、内部通報制度の整備が義務化(2022年6月施行)
2022年6月1日より改正公益通報者保護法が施行され、常時使用する労働者の数が300人を超える事業者には、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務が課されました(300人以下の場合は努力義務。公益通報者保護法11条)。
同改正ではそのほか、公益通報者の保護を強化するため、各種のルール変更が行われています。2022年6月施行・改正公益通報者保護法の詳細については、以下の記事をご参照ください。
内部通報制度に関する法務担当者の主な業務
内部通報制度を効果的に機能させるためには、法務担当者が重要な役割を果たします。内部通報制度に関する法務担当者の主な業務は、以下のとおりです。
✅ 内部通報の受付・対応方針の策定
✅ 通報対象事実に関する調査
✅ 是正措置・再発防止策の実施
✅ 関連する社内規程の制定・改定
✅ 社外窓口との連絡役
✅ 内部通報制度に関する社内教育・周知
内部通報の受付・対応方針の策定
法務担当者は一般に、専門性と独立性を備えた人材として、内部通報の窓口担当者の適性があるといえます。実際に窓口担当者に就任した場合は、従業員などから寄せられる内部通報の受付を行い、関係者と担当部署をつなぐ役割を果たすことになります。
また、内部通報制度の運用方法や対応方針につき、公益通報者保護法の規定を踏まえつつ策定に関与することも、法務担当者の役割の一つです。
通報対象事実に関する調査
実際に内部通報が行われた場合は、通報対象事実の有無・内容に関する調査を行います。
通報対象事実の調査に関する法務担当者の役割は、主に関係者に対するヒアリングを法的な観点からバックアップすることです。また、必要に応じてヒアリング現場に同席することも想定されます。
是正措置・再発防止策の実施
通報対象事実の存在が認められた場合は、その是正措置と再発防止策を検討することが、法務担当者の重要な役割です。
通報対象事実に係る違法行為等をした者については、役員であれば解任、従業員であれば懲戒処分を検討すべきです。法務担当者はその際、解任や懲戒処分の有効性や、関連する法律問題について検討することが求められます。
再発防止策の検討についても、法務担当者はリーガル面から意見を述べるなどの形で参画します。また、外部弁護士などで構成される第三者委員会を設置する場合は、法務担当者が第三者委員会との連絡役を担うケースもあります。
関連する社内規程の整備・改定
内部通報制度の整備・運用を行うに当たっては、関連する社内規程を整備する必要があります。法務担当者は、公益通報者保護法のルールや社内事情などを総合的に考慮して、内部通報制度を適正かつスムーズに運用できるような社内規程の内容を検討します。
また、内部通報制度の運用状況に応じて、関連する社内規程を定期的に見直すことも大切です。その際には法務担当者が中心となって、社内規程の改定などを行います。
社外窓口との連絡役
内部通報の社外窓口を設置する場合、法務担当者は、社外窓口担当者である外部弁護士などとの連絡役を務めることがあります。
法務担当者は、社外窓口に寄せられた内部通報の内容を正確に聴き取り、情報の流出に十分注意を払いながら、社内の関係部署に持ち帰って検討を推し進める役割を担います。
内部通報制度に関する社内教育・周知
内部通報制度を効果的に機能させるには、社内における認知度を高めることが必要不可欠です。
法務担当者には、定期的に従業員研修などを企画して、内部通報制度に関する社内向けの教育・周知を行うことが求められます。
内部通報制度の整備・運用に当たり、法務担当者が留意すべきポイント
内部通報制度を整備・運用するに当たり、法務担当者は特に以下の各点に留意した上で対応すべきです。
✅ 独立性を確保する
✅ 関係者との利益相反を排除する
✅ 社内窓口と社外窓口の両方を設置する
✅ 内部通報に関する調査・対応を適切に行う
✅ 通報者の保護・不利益取り扱いの禁止を徹底する
独立性を確保する
内部通報に関する窓口や検討の担当者は、社内における違法行為について客観的な立場から調査を行うため、他の役員・従業員からの独立性を確保しなければなりません。
特に、経営陣の意向によって内部通報への対応が左右されないように、内部通報の担当者に十分な権限を与え、情報統制を厳密に行うなどの対応が求められます。
関係者の利益相反を排除する
内部通報によって違法行為の疑いがあるとされた本人は、通報対象事実の調査等の業務に関与させてはなりません。利益相反に伴う癒着が生じ、調査が適切に行われない恐れがあるためです。
さらに本人のみならず、所属部署の上司・同僚など、本人と近しい関係にある者も調査等の業務から外して、利益相反を徹底的に排除し得るルールを整備すべきでしょう。
社内窓口と社外窓口の両方を設置する
内部通報の社内窓口において、経営陣等からの独立性の確保や利益相反の排除を図ることには、一定の限界があるのは否めません。
内部通報窓口の独立性を高め、社内における違法行為をより実効的に抑止するためには、社内窓口と社外窓口の両方を設置することが効果的です。
外部弁護士などに社外窓口を依頼すれば、公益通報を行う方法の選択肢が広がり、役員・従業員に対して通報を促すことにつながります。
内部通報に関する調査・対応を適切に行う
実際に内部通報が行われた場合には、通報対象事実に関する調査や、関係者に対する処分などの対応を適切に行わなければなりません。
法務担当者としては、法的な観点から調査・検討すべき事項を助言するなど、通報対象事実の見落としを防ぐこと、および発覚した通報対象事実の是正・再発防止をサポートすることが求められます。
通報者の保護・不利益取り扱いの禁止を徹底する
公益通報者を保護し、会社による不利益な取り扱いを禁止することは、内部通報制度の根幹というべきポイントです。
特に、経営陣やそれに近い従業員の違法行為が問題になっている場合は、行為者をかばって公益通報者を虐げるような空気が発生する可能性があります。
法務担当者には、公益通報者の保護は徹底的に図られるべきであることを進言して、内部通報制度の趣旨が没却されないように軌道修正することが求められます。
内部通報制度の認証制度の見直しとは
内部通報制度の認証制度として、WCMS認証(Whistleblowing Compliance Management System認証)が2019年から運営されてきました。しかし、2022年の改正公益通報者保護法で内部通報制度の整備が義務化(常時使用する労働者が300人以下の事業者は努力義務)されたことにより、同制度は休止しています。
今後、内部通報制度に関して新たな認証制度が導入される可能性もあります。認証を受けることができれば、コンプライアンス面での対外的なアピールなどにつながりますので、法務担当者は注意して情報収集をすべきでしょう。
この記事のまとめ
内部通報制度の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!
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参考文献
消費者庁「公益通報者保護法に基づく指針(令和3年内閣府告示第118号)の解説」
消費者庁「公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」