【2022年6月1日施行】
公益通報者保護法改正とは?
改正のポイントを分かりやすく解説!

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株式会社LegalOn Technologies弁護士
慶應義塾大学法科大学院修了。2012年弁護士登録。都内法律事務所、特許庁審判部(審・判決調査員)を経て、2019年から現職。社内で法務開発等の業務を担当する。LegalOn Technologiesのウェブメディア「契約ウォッチ」の企画・執筆にも携わる。
この記事のまとめ

改正公益通報者保護法(2022年6月1日施行)のポイントを解説!

「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(2020年6月12日公布)では、事業者による不正の早期是正、また通報者が安心して通報できる通報制度、をめざして、公益通報者保護法が改正されました。

2022年6月1日から施行される予定です。

この記事では、改正公益通報者保護法の改正のポイントを解説していきます。

※この記事は、2021年7月8日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

この記事では、法令名を次のように記載しています。

  • ・旧公益通報者保護法…公益通報者保護法の一部を改正する法律による改正前の公益通報者保護法(平成16年法律第122号)
  • ・公益通報者保護法…公益通報者保護法の一部を改正する法律による改正前の公益通報者保護法(平成16年法律第122号)
ヒー

先生、「公益通報者保護法」が改正されるようですね。

ムートン

そうですね。企業としては、内部通報制度などをしっかりと整える必要がありますよ。

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改正公益通報者保護法とは?

改正の目的

そもそも、公益通報者保護法とは、企業の不祥事による被害拡大を防止するための内部通報について、通報者の保護に関するルールを定めた法律です。

企業の不祥事が後を絶たず、社会問題化している今、不祥事をより早期に発見、是正して、被害を防止する必要があります。

そこで、公益通報者保護法の改正によって、事業者自らが不正を是正しやすくするとともに、通報者が安心して通報を行いやすく、また保護されやすいものとしました。

公布日・施行日

改正の根拠となる法令名は、「公益通報者保護法の一部を改正する法律」(令和2年法律第51号)です。

公布日と施行日は次のとおりです。

公布日・施行日

公布日 | 2020年6月12日

施行日 | 2022年6月1日

改正された公益通報者保護法をふまえた「指針」「ガイドライン」についても、順次公開されています。

改正の概要

改正公益通報者保護法には、大きく分けて次の6つのポイントがあります。

改正ポイント(6つ)

・ポイント1
内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務

・ポイント2
内部調査に従事する者の情報の守秘義務

・ポイント3
行政機関等への通報の要件緩和

・ポイント4
保護される通報者の範囲を拡大

・ポイント5
保護される通報の範囲を拡大

・ポイント6
保護の内容を拡大

改正のポイントを分かりやすく解説

6つのポイントについて、一つ一つ解説します。

ポイント1 内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務

改正により、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備義務が定められました(公益通報者保護法11条)。

ただし、中小企業(従業員が300人以下)については努力義務にとどまります(同法11条3項)。
この「300人」には、役員は労働者ではないので含まれませんが、パートタイマーは含まれます(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)令和2年8月版」)。

事業者に課された義務は以下となります。

  1. 公益通報対応業務従事者を定める義務(同法11条1項)
  2. 公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとる義務(同法11条2項)

①の「公益通報対応業務従事者」とは、公益通報を受け、社内調査を行い、是正措置をとる業務に従事する者をいいます。

②の「必要な体制の整備その他の必要な措置」とは、通報窓口の設定、適切な社内調査、是正措置、通報を理由とした不利益取扱いの禁止、通報者に関する情報漏えいの防止、内部通報規程の整備・運用などが挙げられます(「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)令和2年8月版」より)。

①および②の具体的な内容については、指針(「公益通報者保護法第 11 条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関し て、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針」)が公表されています(同法11条4項~7項)。

こちらの指針、および指針の解説(「公益通報者保護法に基づく指針 (令和3年内閣府告示第 118 号)の解説」)を参照しながら、社内において必要な体制整備を進める必要があります。

なお、通報窓口の整備について、「公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)に関するQ&A(改正法Q&A)令和2年8月版」には、「改正後の法においては、独立した法人格を有する事業者ごとにこれら義務を課していることから、グループ全体ではなく、関係会社ごとに改正法に基づく通報窓口を整備する義務を果たしていただくことが必要になります。」との記載があります。

そこで、原則としては、グループ全体で1つではなく、事業者ごとに通報窓口を設置するのが望ましいと考えられます。
ただし、同Q&Aによれば、「子会社が、自らの内規において定めた上で、通報窓口を親会社に委託して設置し、従業員に周知しているなど、子会社として必要な対応をしている場合には、 体制整備義務を履行していると評価できるものと考えられます。」とのことであり、子会社において必要な対応をしっかりと行っていれば、 親子会社において親会社で通報窓口を一元化することは許容されることもあるようです。

また、指針の解説においても「子会社や関連会社において、企業グループ共通の窓口を自社の内部公益通報受付窓口とするためには、 その旨を子会社や関連会社自身の内部規程等において「あらかじめ定め」ることが必要である」とされています(「指針の解説」Ⅱ1⑵④)。

この整備義務を適切に履行しない場合、行政措置(助言、指導、勧告、勧告に従わない場合の公表)の対象となります(同法15条、16条)。

(事業者がとるべき措置)
第11条
1 事業者は、第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報を受け、並びに当該公益通報に係る通報対象事実の調査をし、及びその是正に必要な措置をとる業務(次条に おいて「公益通報対応業務」という。)に従事する者(次条において「公益通報対応業 務従事者」という。)を定めなければならない。
2 事業者は、前項に定めるもののほか、公益通報者の保護を図るとともに、公益通報の内容の活用により国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法令の規定の遵守を図るため、第3条第1号及び第6条第1号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、第一項中「定めなければ」とあるのは「定めるように努めなければ」と、前項中「とらなければ」とあるのは「とるように努めなければ」とする。
4 内閣総理大臣は、第1項及び第2項(これらの規定を前項の規定により読み替えて適用する場合を含む。)の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針(以下この条において単に「指針」という。)を定めるものとする。
5 内閣総理大臣は、指針を定めようとするときは、あらかじめ、消費者委員会の意見を聴かなければならない。
6 内閣総理大臣は、指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するものとする。
7 前2項の規定は、指針の変更について準用する。

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文

ポイント2 内部調査に従事する者の情報の守秘義務

改正によって、内部調査に従事する者の情報の守秘義務が定められました。

公益通報対応業務従事者(内部調査等に従事する者)、又は過去に公益通報対応業務従事者であったものは、正当な理由なく、「公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるもの」を漏えいしてはいけない、と定められました(公益通報者保護法12条)。

この「正当な理由」とは、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」によると、以下のような場合を想定しています。

公益通報者保護法12条の「正当な理由」

✅ 公益通報者本人の同意がある場合
✅ 法令に基づく場合
✅ 調査等に必要である範囲の従事者間で情報共有する場合
✅ ハラスメントが公益通報に該当する場合等において、公益通報者が通報対象事実に関する被害者と同一人物である等のために、調査等を進める上で、公益通報者の特定を避けることが著しく困難である場合

また、「公益通報者を特定させる事項」とは、「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会 報告書」によると、以下のような事項を想定しています。

公益通報者保護法12条の「公益通報者を特定させる事項」

✅ 公益通報者の氏名
✅ 公益通報者の社員番号
*性別等の一般的な属性であっても、当該属性と他の事項とを照合されることで、排他的に特定の人物が公益通報者であると判断できる場合は該当する

この守秘義務に違反した場合、刑事罰(30万円以下の罰金)の対象となります(同法21条)

(公益通報対応業務従事者の義務)
第12条
公益通報対応業務従事者又は公益通報対応業務従事者であった者は、正当な理由がなく、その公益通報対応業務に関して知り得た事項であって公益通報者を特定させるものを漏らしてはならない。

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文

ポイント3 行政機関等への通報の要件緩和

改正により、行政機関等への通報の要件が緩和されました。

具体的には、以下のような改正がなされました

  • 行政機関への通報の要件緩和(公益通報者保護法3条2号)
  • 報道機関等への通報の要件緩和(同法3条3号)
  • 行政機関における、通報に適切に対応するために必要な体制の整備(同法13条2項)

行政機関への通報の要件緩和

行政機関への通報について、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合の要件が緩和されました(公益通報者保護法3条2号)。
つまり、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合が増えました。

行政機関への通報の要件
旧公益通報者保護法ア 通報対象事実が生じ、生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
公益通報者保護法ア 通報対象事実が生じ、生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
または
イ 通報対象事実が生じ、生じようとしていると思料し、公益通報対象事実等を記載した書面を提出する場合

報道機関等への通報の要件緩和

報道機関等への通報(「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」)について、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合の要件が緩和されました(公益通報者保護法3条3号)。
つまり、通報をしたことを理由として企業が行う解雇が無効とされる場合が増えました。

ヒー

この3条3号の「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」というのは、報道機関以外にどのような者が考えられるのでしょうか?

ムートン

例えば、消費者団体、事業者団体、労働組合等が考えられますよ。また、例えば有害な公害物質が排出されている場合等は、周辺住民がこれに当たります。

報道機関等への通報の要件
旧公益通報者保護法①通報対象事実が生じ・生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
 + 
②以下のいずれかに該当する
ア 公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある
イ 公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅・偽造・変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある
ウ 個人の生命・身体に対する危害が発生し・発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
エ 企業から正当な理由なく内部通報しないことを要求された
オ 企業で書面によって内部通報したにもかかわらず、通報した日から20日を経過しても、企業が調査を行う旨を通知をせず、又は企業が正当な理由なく調査を行わない
公益通報者保護法①通報対象事実が生じ・生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある
 + 
②以下のいずれかに該当する
ア 公益通報をすれば、解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある
イ 公益通報をすれば、通報対象事実に係る証拠が隠滅・偽造・変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある
ウ 内部通報をすれば、企業が通報者についての情報を漏えいすると信ずるに足りる相当の理由がある
エ 個人の生命・身体に対する危害、個人の財産に対する損害(回復できない・著しく多数の個人における多額の損害で、通報対象事実を直接の原因とするもの)が発生し・発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある
オ 企業から正当な理由なく内部通報しないことを要求された
カ 企業で書面によって内部通報したにもかかわらず、通報した日から20日を経過しても、企業が調査を行う旨を通知をせず、又は企業が正当な理由なく調査を行わない

(解雇の無効)
第3条
労働者である公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第1項第号に定める事業者(当該労働者を自ら使用するものに限る。第九条において同じ。)が行った解雇は、無効とする。
① 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 
当該役務提供先等に対する公益通報
② 通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合又は通報対象事実が生じ、若しくはまさに生じようとしていると思料し、かつ、次に掲げる事項を記載した書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。次号ホにおいて同じ。)を提出する場合
当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関等に対する公益通報
イ 公益通報者の氏名又は名称及び住所又は居所
ロ 当該通報対象事実の内容
ハ 当該通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する理由
ニ 当該通報対象事実について法令に基づく措置その他適当な措置がとられるべきと思料する理由
③ 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合
その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報
イ・ロ (略)
ハ 第1号に定める公益通報をすれば、役務提供先が、当該公益通報者について知り得た事項を、当該公益通報者を特定させるものであることを知りながら、正当な理由がなくて漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
ニ 役務提供先から前2号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
ホ 書面により第1号に定める公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該役務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該役務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
ヘ 個人の生命若しくは身体に対する危害又は個人(事業を行う場合におけるものを除く。以下このヘにおいて同じ。)の財産に対する損害(回復することができない損害又は著しく多数の個人における多額の損害であって、通報対象事実を直接の原因とするものに限る。第6条第2号ロ及び第3号ロにおいて同じ。)が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文

行政機関における、通報に適切に対応するために必要な体制の整備

行政機関は、公益通報をされた場合に、必要な調査を行い、通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置などの適当な措置をとらなければなりませんが(公益通報者保護法13条1項)、この措置を適切に実施するために、必要な体制の整備などを行う義務が定められました(同法13条2項)。

(行政機関がとるべき措置)
第13条
1 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関は、公益通報者から第3条第2号及び第6条第2号に定める公益通報をされた場合には、必要な調査を行い、当該公益通報に係る通報対象事実があると認めるときは、法令に基づく措置その他適当な措置をとらなければならない。
2 通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関(第2条第4項第1号に規定する職員を除く。)は、前項に規定する措置の適切な実施を図るため、第3条第2号及び第6条第2号に定める公益通報に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置をとらなければならない。
3 (略)

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文

ポイント4 保護される通報者の範囲を拡大

改正によって、保護される通報者の範囲が拡大されました(公益通報者保護法2条1項等)

これまでは、退職者、役員は保護される通報者の範囲に含まれていませんでしたが、退職者、役員についても保護される通報者に含まれるようになりました。

なお、保護される退職者は、退職後1年以内の者になります。派遣社員についても、退職後1年以内の者が保護されます。

(定義)
第2条
この法律において「公益通報」とは、次の各号に掲げる者が、不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でなく、当該各号に定める事業者(法人その他の団体及び事業を行う個人をいう。以下同じ。)(以下「役務提供先」という。)又は当該役務提供先の事業に従事する場合におけるその役員(法人の取締役、執行役、会計参与、監査役、理事、監事及び清算人並びにこれら以外の者で法令(法律及び法律に基づく命令をいう。以下同じ。)の規定に基づき法人の経営に従事している者(会計監査人を除く。)をいう。以下同じ。)、従業員、代理人その他の者について通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしている旨を、当該役務提供先若しくは当該役務提供先があらかじめ定めた者(以下「役務提供先等」という。)、当該通報対象事実について処分(命令、取消しその他公権力の行使に当たる行為をいう。以下同じ。)若しくは勧告等(勧告その他処分に当たらない行為をいう。以下同じ。)をする権限を有する行政機関若しくは当該行政機関があらかじめ定めた者(次条第2号及び第6条第2号において「行政機関等」という。)又はその者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者(当該通報対象事実により被害を受け又は受けるおそれがある者を含み、当該役務提供先の競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある者を除く。次条第3号及び第6条第3号において同じ。)に通報することをいう。
① 労働者(労働基準法(昭和22年法律第49号)第9条に規定する労働者をいう。以下同じ。)又は労働者であった者
当該労働者又は労働者であった者を自ら使用し、又は当該通報の日前1年以内に自ら使用していた事業者(次号に定める事業者を除く。)
② 派遣労働者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。第4条において「労働者派遣法」という。)第2条第2号に規定する派遣労働者をいう。以下同じ。)又は派遣労働者であった者
当該派遣労働者又は派遣労働者であった者に係る労働者派遣(同条第1号に規定する労働者派遣をいう。第4条及び第5条第2項において同じ。)の役務の提供を受け、又は当該通報の日前1年以内に受けていた事業者
③ 前2号に定める事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行い、又は行っていた場合において、当該事業に従事し、又は当該通報の日前1年以内に従事していた労働者若しくは労働者であった者又は派遣労働者若しくは派遣労働者であった者
当該他の事業者
④ 役員 次に掲げる事業者
イ 当該役員に職務を行わせる事業者
ロ イに掲げる事業者が他の事業者との請負契約その他の契約に基づいて事業を行う場合において、当該役員が当該事業に従事するときにおける当該他の事業者
2~4(略)

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文
通報の主体役務提供先通報対象通報先
労働者・労働者であった者①雇用主である事業者
②通報の日前1年以内に労働者を雇用していた事業者
役務提供先、役務提供先の役員・従業員・代理人などについて通報対象事実が生じ・生じようとしている旨①役務提供先
②役務提供先があらかじめ定めた者
③通報対象事実について処分・勧告等の権限を有する行政機関・行政機関があらかじめ定めた者
④その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者
派遣労働者・派遣労働者であった者①派遣先の事業者
②通報の日前1年以内に派遣労働者から役務の提供を受けていた派遣先の事業者
事業者間の請負契約などに基づき業務に従事し・従事していた労働者委託元(取引先)の事業者
役員①役員に職務を行わせる事業者
②①の事業者の委託

ポイント5 保護される通報の範囲を拡大

改正によって、保護される通報の範囲が拡大されました(公益通報者保護法2条3項)。

具体的には、保護される通報の範囲として、公益通報者保護法で定める法律に違反する犯罪行為(刑事罰の対象となる行為)に加えて、公益通報者保護法で定める法律に違反する過料の対象となる行為(行政罰の対象となる行為)が追加されました。

(定義)
第2条
1~2 (略)
3 この法律において「通報対象事実」とは、次の各号のいずれかの事実をいう。
① この法律及び個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護に関わる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。以下この項において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実又はこの法律及び同表に掲げる法律に規定する過料の理由とされている事実
② (略)
4 (略)

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文
通報対象事実
旧公益通報者保護法この法律及び別表に掲げる法律(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する罪の犯罪行為の事実
公益通報者保護法この法律及び別表に掲げる法律(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する罪の犯罪行為の事実
または
この法律及び別表に掲げる法律(これらの法律に基づく命令を含む。)に規定する過料の理由とされている事実

この「別表に掲げる法律」は、公益通報者保護法別表及び別表8号に基づき「公益通報者保護法別表第8号の法律を定める政令(平成17年政令第146号)」で定められています。

法律の一覧は「通報対象となる法律一覧(474本)(令和3年2月1日現在)」として、消費者庁が公開しています。

ポイント6 保護の内容を拡大

改正によって、保護の内容が拡大されました(公益通報者保護法7条)。

具体的には、保護の内容として、損害賠償責任の免除が追加されました。
公益通報者の保護の内容として、通報を理由とした解雇の無効、降格・減給などの不利益取り扱いの禁止等に加えて、「事業者は…公益通報によって損害を受けたことを理由として、…公益通報者に対して、賠償を請求することができない」と定められました。

その他、保護される通報者の範囲に役員が含まれるようになった(ポイント4)ことに対応して、役員に対する不利益取扱いの禁止(同法5条3項)、役員を解任された場合の損害賠償請求(同法6条)なども定められました。

(損害賠償の制限)
第7条
第2条第1項各号に定める事業者は、第3条各号及び前条各号に定める公益通報によって損害を受けたことを理由として、当該公益通報をした公益通報者に対して、賠償を請求することができない。

消費者庁 公益通報者保護法の一部を改正する法律(令和2年法律第51号)新旧対照条文
保護の内容
旧公益通報者保護法☑ 解雇の無効(3条)
:3条各号に定める公益通報をしたことを理由とした解雇の無効
☑ 派遣契約の解除の無効(4条)
:3条各号に定める公益通報をしたことを理由とした派遣契約の解除の無効
☑ その他不利益な取扱いの禁止(5条)
:3条各号に定める公益通報をしたことを理由とした、解雇以外の不利益な取扱いの禁止(派遣労働者の場合、派遣先が派遣元に交代を求める等の不利益取扱いの禁止)
公益通報者保護法☑ 解雇の無効(3条)
:同上(ただし、公益通報の要件緩和⇒ポイント3)
☑ 派遣契約の解除の無効(4条)
:同上(ただし、公益通報の要件緩和⇒ポイント3)
☑ その他不利益な取扱いの禁止(5条)
:同上(ただし、公益通報の要件緩和⇒ポイント3)
また、「役員が6条各号に定める公益通報をしたことを理由とした、解任以外の不利益な取扱い(報酬の減額等)の禁止」を追加
☑ 役員を解任された場合の損害賠償(6条)
:6条各号に定める公益通報をしたことを理由として解任された場合に、事業者に損害賠償を請求できる
☑ 損害賠償の制限(7条)
:事業者による、3条各号に定める公益通報・6条各号に定める公益通報をしたことを理由とした損害賠償請求の禁止
ヒー

労働者に対する解雇以外の不利益な取扱いにはどのようなものが考えられるのでしょうか?

ムートン

例えば、減給、降格、退職金の減額・没収などが考えられます。退職の強要や自宅待機命令などもこれに当たります。

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参考文献

・消費者庁ウェブサイト「公益通報者保護法と制度の概要」

・消費者庁ウェブサイト「公益通報者保護法に基づく指針等に関する検討会」