労災認定基準とは?
労災認定される要件や流れ、
改正ポイントを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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労災認定基準とは、労働者が業務上または通勤中に被った傷病や死亡について、それが労災保険給付の対象となるか否かを、労働基準監督署が判断するための基準です。
・労災認定されるには、「その傷病の原因となった災害が事業主の支配下で起きた災害か(業務遂行性)」と、「業務が原因の傷病か(業務起因性)」の両方を満たす必要があります。
・業務上の負傷や疾病などが労災認定される基準は、「事業主の支配・管理下で業務している場合」「事業主の支配・管理下だが業務していない場合」「事業主の支配にあるが、管理下から離れて業務している場合」に分けて判断します。
・労災認定までの流れは、従業員から労働災害の報告を受ける→労働者が労働基準監督署へ労災保険給付を申請する→事業者が労働基準監督署へ「労働者死傷病報告」を提出→労働基準監督署が調査を行う、という手順で進みます。本記事では、労災認定基準について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年10月21日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
労災認定基準とは
労災認定基準とは、労働者が業務上または通勤中に負った怪我や病気、障害、死亡について、労働基準監督署が労災保険給付の対象かどうかを判断するために、厚生労働省が定めた基準です。
近年は、働き方の多様化により、在宅勤務中の事故や副業先での負傷、長時間労働によるメンタル不調など、労働災害にあたるかどうか、企業として対応に迷うケースが増えています。
例えば、精神障害の労災認定では「発病前おおむね6カ月以内に、業務による強い心理的負荷があったか」が基準となります。しかし、「強い心理的負荷」に該当するかどうかは、出来事の客観的な強度だけでなく、個別の状況により判断されるため、企業にとっては対応が難しいケースの一つです。
このような労働災害全般の考え方や事例などについては、以下の記事で詳しく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
労災認定される要件
業務災害として労災認定されるには、以下の要件を満たす必要があります。
- 業務遂行性
- 業務起因性
2つの要件は関係しており、どちらか一方でも欠けると労災として認められません。
業務遂行性
業務遂行性とは、従業員が事業主の支配・管理下にある状態で災害が発生したかを判断する要件です。
例えば、事務所内での作業はもちろん、上司の指示による出張中の移動や社用車での営業活動も、事業主の管理下にあるとみなされます。一方、昼休みに事業場の外で私的な用事を済ませている最中の事故などは、原則として認められません。
業務起因性
業務起因性とは、発生した傷病が業務が原因で起こったといえるかどうか、因果関係を判断する要件です。仕事に伴う危険や負担が原因で傷病が発生した場合に、業務起因性があると認められます。
例えば、建設現場での転落事故や、プレス機に手を挟むといったケースは、仕事との関係が明らかです。
また、長時間労働による脳・心臓疾患、上司のパワーハラスメント、顧客からの過度なクレーム対応による精神障害なども、業務による過重な負荷が医学的に認められれば、業務起因性が認められます。
業務上の負傷が労災認定される基準
業務上の負傷が労災として認められるかは、主に以下の3つのケースに分けて判断します。
- 事業主の支配・管理下で業務している場合
- 事業主の支配・管理下だが業務していない場合
- 事業主の支配にあるが、管理下から離れて業務している場合
事業主の支配・管理下で業務している場合
事業主の明確な支配・管理下で発生した怪我は、原則として労災として認められます。多くの場合、労働者の業務上の行為や職場の設備の状態が原因で起こると考えられているためです。
例えば、工場での機械操作中やオフィスでのデスクワーク中などが該当し、業務との因果関係が明確であれば、労災認定される可能性が高くなります。
ただし、その怪我の原因が、労働者の個人的な恨みによる同僚との喧嘩や、故意による自傷行為などの場合は、業務起因性が否定され、労災とは認められません。
事業主の支配・管理下だが業務していない場合
就業時間外に職場にいて、業務を行っていないときに起きた災害は、原則として業務災害と認められません。具体的には、休憩時間や始業前・終業後の災害が業務災害に認定されないケースに該当します。なぜなら、この時間帯に行った作業は私的行為と判断されるためです。
ただし、職場の設備や管理上の問題が原因で発生した場合は、業務災害とみなされることがあります。
また、トイレや食事などの生理的行為は、事業主の支配下で業務に付随する行為とされるため、この間に起きた災害も就業中の災害と同様に労災の対象となります。
事業主の支配下にあるが、管理下から離れて業務している場合
出張や社用での外出など、職場の外で業務を行っている際に起きた災害は、私的な行為が原因でない限り、原則として労災に該当します。
事業主の管理下を離れていたとしても、労働契約に基づいて事業主の命令を受けて仕事をしている場合は、事業主の支配下にあると考えられます。
精神障害の労災認定基準
厚生労働省が定める「精神障害の労災認定基準」では、以下の3つの基準を全て満たす必要があります。
- 労災認定の対象となる精神疾患と診断された場合
- 発症前おおむね6カ月以内に業務による強いストレスを受けた場合
- 業務以外のストレスや個人要因が発症の主因でない場合
労災認定の対象となる精神疾患と診断された場合
労災の対象となる精神障害は、業務に関連して発病する可能性がある精神疾患です。代表的な対象疾患は、以下の通りです。
- 統合失調症、統合失調症型障害および妄想性障害
- うつ病などの気分障害
- 神経症性障害、ストレス関連障害および身体表現性障害
このうち、うつ病や急性ストレス反応、適応障害などは、業務上の強い心理的負荷が原因となるケースがあり、労災認定の中心的な対象とされています。
ただし、労災認定は、あくまでその精神障害が業務に起因して発病したことが前提です。そのため、うつ病のような症状が見られても、その原因が認知症や頭部外傷、アルコール、薬物の影響など業務以外にある場合は、原則として対象外となります。
発症前6カ月以内に業務による強いストレスを受けた場合
精神障害が労災として認定されるためには、発症前おおむね6カ月の間に「業務による強い心理的負荷(ストレス)」があったかどうかが重要な判断基準です。
心理的負荷の強度は、発病前6カ月以内の出来事を「特別な出来事」または「具体的出来事」に当てはめ、強・中・弱の3段階で評価します。「特別な出来事」とは、悲惨な事故の体験のような心理的負荷が大きい出来事を指し、これに該当する場合は原則として心理的負荷が「強」と判断されます。
心理的負荷が「強」と判断される代表的な例は、以下の通りです。
- 業務上で重大な病気や怪我をした
- 悲惨な事故や災害を体験・目撃した
- 業務に関連し、重大な事故を起こした
- 会社の経営に影響するような重大なミスをし、事後対応に当たった
労働基準監督署では、出来事の内容や発生時期だけでなく、長時間労働や上司とのトラブルのような「具体的出来事」の有無やその後の状況、職場環境の変化も含めて総合的に判断します。
業務以外のストレスや個人要因が発症の主因でない場合
業務以外のストレスや個人要因が発症の主な原因でないことも、精神障害が労災と認められるための重要な基準です。
例えば、家族の死亡や離婚、重大な金銭問題、交通事故などの出来事は、業務以外の強い心理的負荷とされます。こうした出来事が複数重なっている場合や、精神障害の発症時期と近い場合には、それが主な原因であったかどうかが、慎重に判断されます。
また、精神障害の既往歴やアルコール依存などの要因がある場合も、業務と精神障害の発症との因果関係は総合的に判断されます。最終的には、私生活上の出来事と業務上のストレスのどちらがより大きな影響を与えたかが、認定の判断ポイントです。
脳や心臓疾患の労災認定基準
厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定」では、以下の4つの要件のいずれかに該当する場合に、業務との関連があると評価されます。
- 対象疾病である場合
- 長期間の過重労働があった場合
- 短期間の過重労働があった場合
- 発症直前に強度の精神的負荷を引き起こす出来事があった場合
対象疾病である場合
脳・心臓の疾患による過労死等が労災として認められるには、厚生労働省が定める「対象疾病」に該当することが前提です。対象疾病は、動脈硬化や動脈瘤などの血管障害を基盤として発症するもので、以下のような疾患が含まれます。
| 脳血管疾患 | 虚血性心疾患等 |
|---|---|
| ・脳内出血 ・くも膜下出血 ・脳梗塞 ・高血圧性脳症 | ・心筋梗塞 ・狭心症 ・心停止(心臓性突然死を含む) ・重篤な心不全 ・大動脈解離 |
上記の疾患は、加齢や生活習慣、遺伝的要因などによって徐々に進行することもあります。しかし、仕事による過重な負荷が引き金となって発症したり、既存の疾患を著しく悪化させたりしたと医学的に認められる場合は、業務に起因する疾病として労災の対象になります。
長期間の過重労働があった場合
脳・心臓疾患が労災と認められるかは、発症前の長期間にわたる過重労働の有無が重要な判断材料です。厚生労働省の基準では、発症前おおむね6カ月間を評価期間とし、その間の労働時間や業務負荷の状況を総合的に判断します。
この判断は客観的な指標である労働時間だけでなく、不規則な勤務や拘束時間の長さ、出張の多さ、精神的緊張を伴う業務など労働時間以外の負荷要因もあわせて考慮し、総合的に行われます。
中でも、過重性の評価において重視される労働時間については、業務と発症との関連性を評価するための目安として、厚生労働省は以下のような基準を示しています。
- ・“発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、業務と発症との関連性が弱いと評価できること”
- ・“おおむね45時間を超えて時間外労働時間が長くなるほど、業務と発症との関連性が徐々に強まると評価できること”
- ・“発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できること”
「発症前1カ月におおむね100時間」または「発症前2カ月ないし6カ月間にわたり、1カ月あたりおおむね80時間を超える時間外労働」が認められる場合は、疲労の蓄積によって血管障害や心疾患の発症リスクが著しく高まるとされます。
短期間の過重労働があった場合
脳・心臓疾患が労災として認められるかどうかは、発症直前の短期間に過重業務に従事していたかも重要な判断基準です。評価期間は、発症前おおむね1週間とされ、その間の業務内容や労働時間、作業環境などを総合的に検討します。
過重労働の有無は、業務の量や内容、作業環境を考慮し、同種業務を行う従業員と比べて特に身体的・精神的負荷が高かったかという観点から、客観的かつ総合的に判断されます。業務と発症との関連性が強いと評価されるのは、以下のような場合です。
- 発症直前から前日までの間に、特に過重な長時間労働が認められる場合
- 発症前おおむね1週間にわたって、深夜勤務や長時間労働が続いた場合
上記の状況が確認された場合には、発症との因果関係が強いと判断される可能性があります。また、労働時間の長さだけでなく、勤務密度や休憩の有無、労働時間外の負荷要因もあわせて検討されます。
発症直前に強度の精神的負荷を引き起こす出来事があった場合
脳・心臓疾患が労災と認められる要件の一つに、発症直前に強い精神的負荷を伴う「異常な出来事」に遭遇したかどうかが挙げられます。評価期間は発症直前から前日までとされ、その間に極度の緊張・興奮・恐怖・驚きなど、通常の業務を超える精神的ストレスを受けたかを判断します。
厚生労働省が示す「異常な出来事」の具体的な例は、以下の通りです。
- 業務に関連した重大な人身事故や災害に直接関与した場合
- 事故やトラブルの発生後に、救助活動や事後対応など強い心理的・身体的負荷を伴う業務に携わった場合
- とても暑い場所や極端に寒い場所での作業、または温度差が激しい場所を頻繁に出入りしていた場合
上記のような異常な出来事によって、急激かつ強い精神的緊張が生じた場合は、業務による過重負荷が強いと判断され、業務と発症との関連性が認められる可能性が高まります。最終的には、精神的負荷の程度や出来事の異常性、突発性などを総合的に検討し、業務と発症との関連が認められるかどうかが、客観的に判断されます。
腰痛が労災認定される基準
腰痛が労災認定される基準は、以下の2点が挙げられます。
- 業務中の転倒や腰への負荷により起こった腰痛の場合
- 日々の業務による腰への負荷の蓄積による腰痛の場合
以下では、それぞれのケースにおける労災認定の考え方と判断基準について解説します。
業務中の転倒や腰への負荷により起こった腰痛の場合
業務中に転倒したり、急に重いものを持ち上げたりしたことで腰に強い負担がかかり、痛みが発生した場合は、災害性の原因による腰痛として労災認定されます。外傷がなくても、突発的で強い力によって筋肉や靭帯などが損傷したケースを含みます。
例えば、重いものを運搬中に転倒した場合や、2人で荷物を運んでいるときに相手がバランスを崩して荷物の重みが片方にかかった場合などです。
日々の業務による腰への負荷の蓄積による腰痛の場合
日常的に腰へ負担のかかる作業を続けた結果、筋肉や骨に疲労や変化が生じて発症した腰痛も、労災として認められる場合があります。
例えば、筋肉の疲労が原因の腰痛は、おおむね3カ月以上にわたり、重量物の運搬や不自然な姿勢での作業を日常的に行っていた場合に、労災認定の対象となることがあります。一方、骨の変化が原因とする腰痛は、約10年以上にわたり重い荷物を扱う業務を継続していた場合などが、労災認定の対象です。
ただし、腰痛が労災として認められるには、加齢による影響の範囲を超えて、業務による負荷が明らかに大きいと医学的に認められる必要があります。
労災認定までの流れ
一般的な労災認定までの流れは、以下の通りです。
- 従業員から労働災害の発生の報告を受ける
- 労働者が労働基準監督署へ労災保険給付を申請する
- 労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を電子申請する
- 申請を受け、労働基準監督署が調査を開始する
以下では、業務中の怪我を例として、それぞれの手順について具体的に解説します。
従業員から労働災害の発生の報告を受ける
労働災害が発生した場合、企業はまず、被災した従業員本人、または事故を目撃した他の従業員から状況の報告を受けます。報告を受けたら、被災した従業員の安全確保を優先し、速やかに医療機関で受診するよう指示します。
応急的な措置と並行して、後の手続きの基礎となる客観的な情報を記録・保全することが重要です。時間が経つと記憶が曖昧になり、証拠も失われやすいため、発生直後に「いつ・どこで・誰が・何をしていたときに・なぜ・どのように」災害が起きたのかを、本人や目撃者から具体的に聞き取ることが重要です。
発生直後の正確な記録は、労災申請手続きや労働基準監督署の調査において、企業の主張の正当性を裏付ける証拠資料になります。
労働者が労働基準監督署へ労災保険給付を申請する
労働災害に遭った従業員や遺族は、労災保険給付を受けるため、労働基準監督署への申請が必要です。申請は会社経由または従業員本人が直接行います。
休業(補償)等給付は「賃金を受けない日ごとに請求権が発生し、その翌日から2年」、遺族(補償)等給付は「被災労働者が亡くなった日の翌日から5年」のようにそれぞれの給付に時効があるため、早めの手続きが重要です。
労働基準監督署に「労働者死傷病報告」を電子申請する
従業員が労働災害によって死亡または休業した場合、事業主には労働安全衛生法に基づき、「労働者死傷病報告」を所轄の労働基準監督署へ提出する義務があります。
なお、2025年1月1日より労働者死傷病報告は原則として電子申請(e-Gov)での提出が義務化されました。
労働者死傷病報告の提出を怠ったり、虚偽の内容を記載したりすると労災隠しとみなされ、50万円以下の罰金が科されます。
労働者死傷病報告は、行政が災害の発生状況を把握し、再発防止のための指導や対策を行うための資料です。提出様式は休業日数によって異なり、休業4日以上の場合は遅滞なく提出、4日未満の場合は以下の通り、四半期ごとにまとめて提出します。
- 1月~3月発生分 → 4月末日まで
- 4月~6月発生分 → 7月末日まで
- 7月~9月発生分 → 10月末日まで
- 10月~12月発生分 → 翌年1月末日まで
また、従業員が労災保険の給付を申請する際には、会社が「事業主証明」を記入する必要があります。会社が災害を業務上と認めるという意味ではなく、あくまで事実関係を確認するための欄です。そのため、業務外と考えている場合でも証明を拒まず、会社の意見を添えて協力するのが望ましい対応です。
書類作成に不明点がある場合は、労働基準監督署へ相談して進めます。
労働者による申請に従い、労働基準監督署が調査を行う
労災保険の給付請求書や労働者死傷病報告が提出されると、労働基準監督署は災害が業務または通勤に起因するかどうかを確認するため、調査を行います。この調査は、報告された災害が業務または通勤に起因するものかを判断するために行われるものです。
調査により労災が認定されると、被災した従業員に対して保険給付が支給されます。
【2023年9月1日改正】精神障害の労災認定基準の改正ポイント
厚生労働省は、2023年9月1日に「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」を改正しました。改正されたポイントは、以下の通りです。
- 業務による心理的負荷評価表の見直し
- 悪化した精神障害に関する労災認定要件の見直し
- 専門医1名での意見決定が可能に
業務による心理的負荷評価表が見直された
今回の改正では、精神障害の労災認定基準である「業務による心理的負荷評価表」の内容が、現代の労働環境に合わせて見直されました。
心理的負荷評価表は、従業員が経験した業務上の出来事を当てはめ、ストレスの強さを「強・中・弱」で評価するための基準です。心理的負荷評価表の主な変更点は、評価項目の追加と具体例の拡充の2点です。
まず、評価項目として、現代的なハラスメントや労働環境の変化を反映した以下の2点が追加されました。
- 顧客や取引先、施設利用者などから著しい迷惑行為を受けた(いわゆるカスタマーハラスメント)
- 感染症など、病気や事故の危険性が高い業務に従事した
また、既存項目についても、心理的負荷の強度を判断する具体例が拡充されました。特に、パワーハラスメントについては、代表的な6類型すべてに対応する事例が明記され、より実態に即した判断が可能となっています。
悪化した精神障害の労災認定要件が見直された
今回の改正により、すでに発症していた精神障害が業務によって悪化した場合の労災認定要件が緩和されました。
従来は、悪化前おおむね6カ月以内に「特別な出来事」がある場合にのみ、業務との関連が認められていました。
しかし、改正により、特別な出来事がなくても、業務による強い心理的負荷が原因で症状が悪化した場合には、悪化部分について業務起因性が認められるようになりました。
専門医1名の意見で決定できるようになった
改正前は、精神障害の労災認定を行う際、原則として専門医3名による合議で医学的な意見をまとめる運用がとられていました。しかし、調査や審査に時間を要するケースが多く、迅速な判断が難しいという課題がありました。
今回の改正では、特に判断が難しい事案を除き、専門医1名の意見で決定できるよう変更されています。
【2021年9月14日改正】脳・心臓疾患の労災認定基準の改正ポイント
2021年9月14日、厚生労働省の「脳・心臓疾患の労災認定基準」が改正されました。主な改正ポイントは、以下の通りです。
- 労働時間以外の負荷要因が判断基準に追加された
- 期間や労働時間以外の負荷要因が見直された
- 発症との関連性が強い業務が明確になった
- 対象疾病に重篤な心不全が追加された
各改正ポイントについて詳しく解説します。
労働時間以外の負荷要因が判断基準に追加された
今回の改正により、脳・心臓疾患の労災認定において、労働時間以外の負荷要因も総合的に評価されることが明確化されました。
従来、労災認定では、「発症前1カ月におおむね100時間」、または「発症前2〜6カ月間で月平均80時間」の時間外労働が、業務と発症との関連性が強いと判断される重要な目安でした。
しかし、今回の改正により、時間外労働が上記の水準に満たない場合でも、水準に近い時間外労働がある場合は対象となる場合があります。
さらに、労働時間以外の負荷要因も総合的に考慮して判断することが明確化されました。「労働時間以外の負荷要因」には、勤務内容の過重さ、交替制勤務や深夜勤務などの勤務形態、人間関係による精神的負荷などが含まれます。長時間労働だけでなく、職場環境や業務実態を踏まえて総合的に判断する仕組みへと見直された点が、今回の改正の要点です。
期間や労働時間以外の負荷要因が見直された
今回の改正では、長期間の過重労働だけでなく、短期間の過重労働における評価基準も見直されました。特に、労働時間以外の負荷要因について、現場の実態を踏まえた項目追加と内容の拡充が行われています。
具体的には、休日のない連続勤務や勤務間インターバルが短い勤務など、勤務時間の不規則性による負荷が新たに評価対象に追加されました。
また、「精神的緊張を伴う業務」とされていた項目を拡大し、心理的・身体的負荷を伴う業務としてより包括的に整理されています。さらに、「その他事業場外における移動を伴う業務」なども新たに加わり、実際の勤務環境や業務内容をより正確に反映した基準となりました。
発症との関連性が強い業務が明確になった
改正により、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が特に強いと判断できる具体例が明確化されました。特に、短期間における過重労働や、突発的で強い負荷を伴う出来事が発症要因となり得るケースが整理されています。
短期間の過重業務としては、発症直前から前日までに特に過度の長時間労働があった場合や、発症前おおむね1週間にわたり深夜勤務や長時間の時間外労働を行っていた場合などが挙げられます。また、異常な出来事として、重大な人身事故や災害への関与、命の危険を感じるようなトラブル、著しい身体的・精神的負荷を伴う業務が明示されました。
対象疾病に重篤な心不全が追加された
改正前は、不整脈が原因となる心不全などの症状は、対象疾病である「心停止(心臓性突然死を含む)」の一部として取り扱われていました。しかし、心不全は心停止とは異なる病態であることから、新たに「重篤な心不全」が独立した対象疾病として追加されました。
「重篤な心不全」には、不整脈によるものも含まれており、従来よりも幅広い心疾患が労災認定の対象となります。
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参考文献
厚生労働省「労災認定の考え方(業務災害・複数業務要因災害・通勤災害)」
厚生労働省「心理的負荷による精神障害の労災認定基準を改正しました」
厚生労働省「脳・心臓疾患の労災認定基準 改正に関する4つのポイント」
監修者












