債権者とは?
債務者との違い・債権回収のためにできること・
破産時の取り扱いなどを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「債権者」とは、債務者に対して何らかの義務(=債務)を履行するよう請求できる権利を持つ人です。
債権者は、債務者に対して弁済(=債務の履行)を請求できるほか、債務不履行が発生した場合には損害賠償請求や契約の解除ができます。また、保証人がいる場合には、保証人に対しても債務の弁済や損害賠償を請求可能です。
債務者が債務を履行しない場合は、内容証明郵便の送付・支払督促の申立て・訴訟の提起などを通じて債権回収を図りましょう。支払督促や訴訟の判決が確定すれば、強制執行によって債権を強制的に回収することができます。
債務者が破産すると、債権はほとんど回収できなくなってしまうことが多いです。債務不履行が発生した場合は、速やかに債権回収へ着手しましょう。
この記事では債権者について、債務者との違い・債権回収のためにできること・破産時の取り扱いなどを解説します。
※この記事は、2024年11月13日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
債権者とは
「債権者」とは、債務者に対して何らかの義務(=債務)を履行するよう請求できる権利を持つ人をいいます。
債権とは
「債権(さいけん)」とは、他人に対して何らかの行為を請求する権利のことです。
例えば物を売った人(=売主)は、買った人(=買主)に対して、代金の支払いを請求する権利があります。この権利は「売買代金請求権」という債権です。
反対に、買主は売主に対して、買った物を引き渡すよう請求する権利があります。この権利は「引渡請求権」という債権です。
このような債権を有する人を「債権者」といいます。
債権者と債務者の違い
債権とは反対に、他人のために何らかの行為をする義務は「債務」といいます。
例えば物を買った人(=買主)は、売った人(=売主)に対して代金を支払う義務を負います。この義務は「売買代金債務」という債務です。
反対に、売主は買主に対して、売った物を引き渡す義務があります。この義務は「引渡債務」という債務です。
このような債務を負担する人を「債務者」といいます。
債権者は債務者に対して何らかの行為を請求する権利がある一方で、債務者は債権者のために何らかの行為をする義務を負います。債権者と債務者は、互いに対応する関係にある言葉です。
債権者の具体例
企業間取引においては、当事者のいずれか一方または両方が債権者となります。
代表的な取引について、債権者に当たる人は誰かを見てみましょう。
- 債権者に当たる人
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① 売買契約の場合
売主:買主に対して代金の支払いを請求できる債権者
買主:売主に対して目的物の引渡しを請求できる債権者② 金銭消費貸借契約の場合
貸主:借主に対して貸したお金の返済を請求できる債権者
※諾成的金銭消費貸借契約では、貸付けが実行されるまでの間、借主も貸主に対してお金を貸すよう請求できる債権者に当たります。③ 業務委託契約の場合
委託者:受託者に対して業務を行うよう請求できる債権者
受託者:委託者に対して業務の対価(報酬)を請求できる債権者
債権者ができること
債権者は、自らの有する債権に基づき、主に以下のことができます。
① 弁済(=債務の履行)の請求
② 債務不履行時の損害賠償請求・契約の解除
③ 保証人に対する請求
弁済(=債務の履行)の請求
債権者は債務者に対して、債務を履行する(=義務を果たす)よう請求できます。債務を履行することは「弁済」といい、弁済がなされれば債権(債務)は消滅します。
- 弁済の請求の例
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・お金を貸した人が、借りた人に対して、貸したお金の返済を請求した。
・建設工事を行った事業者が、施主に対して、工事代金の支払いを請求した。
・物を買った人が、売った人に対して、目的物の引渡しを請求した。
債務不履行時の損害賠償請求・契約の解除
債務者が債務を履行しない場合(=債務不履行)、債権者は債務者に対して、自らに生じた損害の賠償を請求できます(民法415条1項)。
- 債務不履行に基づく損害賠償請求の例
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・返済期限が過ぎても借主がお金を返さなかったので、貸主が借主に対して遅延損害金を請求した。
・施主が工事代金を支払わないので、工事を行った事業者が施主に対して遅延損害金を請求した。
・売主が目的物を引き渡さないので、買主は転売ができずに得られなかった逸失利益の損害賠償を請求した。
また、債務を履行しない債務者に対して、相当の期間を定めてその履行を催告し、その期間内に履行がないときは、原則として債権者は契約を解除することができます(民法541条本文)。
ただし、債務不履行が契約および取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、契約の解除は認められません(同条但し書き)。
なお、債務が履行不能である場合や、債務者が債務の履行を拒絶している場合などには、履行の催告をすることなく契約を解除すること(=無催告解除)も認められています(民法542条)。
保証人に対する請求
債務者が債務を履行しない場合に、代わりに債務を履行する義務を負う人を「保証人」といいます。金銭消費貸借契約や、不動産賃貸借契約などに関しては、保証人が定められるケースがあります。
保証人がいる場合において、債務者が債務を履行しなかった場合には、債権者は保証人に対して債務の履行を請求できます。
- 保証人に対する請求の例
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・返済期限が過ぎても借主がお金を返さなかったので、貸主が保証人に対して返済を請求した。
・建物の借主が賃料を払わなかったので、貸主が保証人に対して賃料の支払いを請求した。
なお保証人には、通常の保証人と連帯保証人の2パターンがあります。
通常の保証人と連帯保証人の違いは、以下の3点です。連帯保証人の方が、通常の保証人よりも重い責任を負っています。
- 通常の保証人と連帯保証人の違い
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① 催告の抗弁
通常の保証人は、債権者から請求を受けた際に、先に主たる債務者に請求するよう求めることができます(=催告の抗弁。民法452条)。これに対して、連帯保証人には催告の抗弁が認められていません。
したがって、債務不履行の発生後に債権者から請求を受けたら、先に主たる債務者への請求が行われたか否かにかかわらず、連帯保証人は支払いに応じなければなりません。② 検索の抗弁
通常の保証人は、債権者から請求を受けた場合でも、主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ執行が容易であることを証明すれば、保証債務の履行を拒否できます(=検索の抗弁。民法453条)。これに対して、連帯保証人には検索の抗弁が認められていません。
したがって、債務不履行の発生後に債権者から請求を受けたら、主たる債務者が財産を持っているか否かにかかわらず、連帯保証人は支払いに応じなければなりません。③ 分別の利益
保証人が複数いる場合、通常の保証人は、保証債務を人数で割った額のみを債権者に支払えば足ります(=分別の利益)。これに対して、連帯保証人には分別の利益が認められていません。
したがって連帯保証人は、債務不履行の発生後に債権者から請求を受けたら、保証人が複数いる場合でも、保証債務全額を弁済する義務を負います。
なお、連帯保証人が自己の負担分を超える額を支払った場合は、他の保証人に対して求償することができます。
債務が履行されない場合に、債権者がとり得る主な対応
債務者(または保証人)によって履行されない債権を回収するためには、債権者は以下の対応をとることが考えられます。
① 内容証明郵便等による請求
② 支払督促の申立て
③ 訴訟の提起
④ 強制執行の申立て
内容証明郵便等による請求
債権者が債務者や保証人に対して債務の履行を請求する際には、内容証明郵便がよく用いられます。
内容証明郵便は、郵便局が差出人・宛先・日時・内容を証明する郵便物です。相手方に対して正式な請求を行う旨を伝えられる点や、債権の消滅時効の完成が6カ月間猶予される点(民法150条1項)などのメリットがあります。
内容証明郵便以外にも、他の種類の郵便(普通郵便や特定記録郵便など)、メール、電話、口頭などで請求する方法が考えられます。
債務者や保証人から返答があったら、債務の履行方法を話し合います。
例えば分割払いなど、債務の履行方法について新たな合意をした場合は、その内容をまとめた合意書を締結しましょう。
支払督促の申立て
金銭の支払い、または有価証券もしくは代替物の引渡しを請求する際には、裁判所に支払督促を申し立てることもできます。
支払督促は、裁判所が債務者に対して、債務の支払いを督促する手続きです。訴訟とは異なり、書類審査のみが行われ、短期間で支払督促が発せられます。
支払督促が債務者に送達されてから2週間を経過すると、債権者は裁判所に対して、支払督促に仮執行宣言に付すよう申し立てることができます。仮執行宣言付支払督促を得た債権者は、強制執行の申立てができるようになります(民事執行法22条4号)。
ただし支払督促に対しては、仮執行宣言付支払督促の送達から2週間が経過するまで、債務者による異議申立てが認められています。債務者が適法に異議を申し立てた場合は、自動的に訴訟手続きへ移行する点にご注意ください。
訴訟の提起
訴訟は、裁判所の公開法廷で行われる紛争解決手続きです。債務者が債務の履行を拒み続けている場合、債権者は最終的に訴訟を提起して、債権の回収を図ることになります。
訴訟では、債権者が債権の存在を立証し、裁判所に対して債務の履行を命ずる判決を求めます。債務者は、「債権は存在しない」「債権は消滅している」「債務を今履行する必要はない」などと反論することが考えられます。
訴訟の審理が熟した段階で、裁判所は判決を言い渡します。債権者側の主張が認められれば、裁判所は債務者に対して債務の履行を命じます。
訴訟の勝訴判決が確定すると、債権者は強制執行を申し立てることができるようになります(民事執行法22条1号)。
強制執行の申立て
仮執行宣言付支払督促や訴訟の勝訴判決が確定すると、債権者は裁判所に強制執行を申し立てることができます。
強制執行手続きでは、債務者の財産を差し押さえた上で、強制的に債務の弁済へ充当します。比較的スムーズに換価等ができる、預貯金債権や給与債権を差し押さえるケースが多いです。
強制執行によって差し押さえるべき財産は、申立人である債権者が特定しなければなりません。
債務者の財産を把握していない場合は、「財産開示手続」(民事執行法196条以下)や「第三者からの情報取得手続」(同法204条以下)を利用すれば、差押可能な財産を特定できる可能性があります。
債務者が破産してしまったら、債権者はどうなる?
債務が履行されないまま、債務者が破産してしまうと、債権者は強制執行などを申し立てることができなくなります。破産手続開始の決定前の原因によって発生した債権は「破産債権」となり、ほとんど弁済を受けられないケースが多いです。
破産者に対しては、強制執行などができなくなる
破産手続開始の決定があったときは、その時点で債務者が所有していた財産は「破産財団」となります。破産財団は、破産手続きによって換価・処分され、債権者への配当などに充てられます。
破産財団に対しては、強制執行などの申立てをすることができません(破産法42条1項)。また、すでに破産財団に対してなされている差押えは失効します(同条2項)。
破産債権は、ほとんど弁済を受けられないことが多い
破産手続開始前の原因に基づいて生じた債務者に対する債権は、原則として「破産債権」に当たります(破産法2条5項)。
破産債権に対しては、破産法に定められた順位に従って配当がなされます。
しかし破産債権への配当を行う前に、破産管財人の報酬や公租公課など、優先順位の高い債権に対する支払いが行われます。その結果、破産債権に対する配当は全く行われないか、ごくわずかな金額にとどまるケースが多いです。
債務者が破産してしまった場合、債権者は債権をほとんど回収できなくなってしまうと考えておくべきです。債権が期日どおりに支払われなかった場合は、速やかに債権回収を図りましょう。
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