訴訟対応とは?
手続きの流れ・法務担当者の役割・
注意すべきポイントなどを解説!

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企業法務担当者が押さえておきたい重要法令まとめ
この記事のまとめ

訴訟対応」とは、他者との間で訴訟が発生した際、訴訟手続きの準備遂行のために行う業務です。

具体的には
・訴状・答弁書・準備書面の作成
・証拠書類の準備
・訴訟が始まれば期日への出席
などが発生します。

特に会社が当事者となる訴訟の場合、法務担当者が経営陣と外部弁護士のつなぎ役として、訴訟対応における重要な役割を担います。

法務担当者には、経営陣・外部弁護士との立場の違いに留意しつつ、会社として適切に方針を決定できるように、両者のコミュニケーションを取り持つ意識が求められます。

今回は訴訟対応について、手続きの流れ・法務担当者の役割・注意すべきポイントなどを解説します。

ヒー

先生、A社との紛争の件、和解に至らず、訴訟になりそうです。初めての経験で怖いのですが、どうしたらいいでしょうか。

ムートン

落ち着いてください。まずは、この記事で、訴訟の流れや法務担当者に求められる役割を理解していきましょう。

※この記事は、2023年1月20日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。

訴訟対応とは

訴訟対応」とは、他者との間で訴訟が発生した際、訴訟手続きの準備・遂行のために行う業務です。

企業が事業を運営する中では、契約トラブル・事故・知的財産権の侵害など、さまざまな法的紛争に直面することがあります。

ヒー

法的紛争が発生したら、訴訟で解決するしかないのでしょうか?

ムートン

訴訟は、最終手段ですね。訴訟になると時間・費用がかかるので、基本は、当事者間の話し合いによる和解での解決を目指すのが一般的です。

話し合いで解決・和解できなかった場合は、訴訟による解決を図ることになり、その際、法務部門では、訴訟対応の業務が発生します。

訴訟対応における、法務担当者の主な業務

企業において訴訟対応の必要性が生じた場合、法務担当者は主に以下の業務を行います。

訴訟代理人となる弁護士選任
・弁護士と連携し訴訟準備|訴訟書類の作成・証拠の収集など
判決後の対応

訴訟代理人となる弁護士の選任

訴訟対応には膨大な労力法的知見が必要になるため、企業内部の人材だけで対応するのは現実的ではありません。これは、法務部門や社内弁護士を擁する企業であっても同様です。

そのため、訴訟対応を行うときは、外部弁護士訴訟代理人(=当事者本人に代わり訴訟行為を行う者)に選任するのが一般的です。

法務担当者は

①顧問弁護士・以前に相談したことがある弁護士・知り合いの弁護士などの中から、訴訟代理人としての適任者を見つける
②弁護士との相談や経営陣による決裁などを経る
③正式に訴訟対応の依頼を適任者に行う

といった流れで訴訟代理人を選任します。

弁護士と連携し訴訟準備|訴訟書類の作成・証拠の収集など

訴訟対応を弁護士に依頼した後、法務担当者は弁護士と連携して訴訟準備を行います。

ヒー

訴訟準備って、具体的に何をする必要があるんですか?

ムートン

大きくは、訴訟書類の作成証拠の収集ですね。

訴訟書類には、

訴状|裁判を起こした人(原告)が、請求内容とその根拠を記載して裁判所に提出する書類
答弁書|裁判を起こされた人(被告)が、訴状に対する反論を書いて裁判所に提出する最初の書面
準備書面|当事者が口頭弁論で述べようとする事項を記載し、あらかじめ裁判所に提出する書面
証拠説明書|提出されている証拠の一覧表

などがありますが、これらは、依頼先の弁護士が作成するのが通常です。

法務担当者は、弁護士からの質問に回答したり、社内の役員・従業員にヒアリングを行ったりして、弁護士による訴訟準備をサポートします。

判決後の対応

訴訟の判決が出た場合、その後の対応について経営陣と協議し、必要な手続きをとることも法務担当者の役割です。

自社の請求を認める判決が確定した場合は、相手方に対する債権回収を行う必要があります。

債権回収とは

期限どおりに支払われなかった債権(債務)を、債権者の側から具体的な行動を起こして回収すること

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まずは相手方と直接やり取りして支払い等を求めますが、応じなければ裁判所に強制執行を申し立てます。強制執行については、法務担当者自ら対応することもありますが、改めて弁護士に依頼するケースも多いです。

敗訴判決が言い渡された場合は、控訴・上告を行うかどうかを検討します。控訴・上告の成否やコストを踏まえて、経営陣が適切に判断できるようにアドバイスをすることが求められます。

訴訟対応の流れ|訴訟を提起する場合

訴訟を提起する側を「原告」、その相手方を「被告」といいます。

原告として訴訟を提起する場合、訴訟対応の流れは以下のとおりです。

1|訴えの提起
2|口頭弁論(+準備的口頭弁論、弁論準備手続き、書面による準備手続き)
3|証人尋問・当事者尋問
4|判決・和解
5|控訴・上告

1|訴えの提起(訴状・証拠書類を提出する)

訴訟を提起する際には、裁判所に訴状を提出します(民事訴訟法133条1項)。

【訴状のイメージ】

裁判所「訴状」

訴状提出後は、裁判官が訴状に不備がないかを確認します。問題なければ受理され、訴えの提起が完了しますが、不備がある場合は、不備の修正が命じられます。

訴状の提出先は原則として、相手方の住所地(本店所在地)を管轄する裁判所です(同法4条)。

ヒー

つまり、相手の本店所在地が沖縄の場合は、自社が東京でも、沖縄に出向かねばらならないということですか?

ムートン

そのとおりです。

ただし、請求内容によっては別の裁判所に管轄が認められることもあります。

(例)
・契約上の債務の履行を請求する場合
→義務履行地(同法5条1号)

・不法行為に基づく損害賠償を請求する場合
→不法行為があった地(同条9号)

・不動産に関する請求をする場合
→不動産の所在地(同条12号)

など

請求額が140万円以下の場合には、簡易裁判所または地方裁判所を選択できます。これに対して、請求額が140万円を超える場合は、地方裁判所に訴状を提出しなければなりません。

また、訴状と併せて、原告の主張を裏付ける証拠書類も裁判所に提出します

ムートン

有効な証拠は請求内容や背景事情によって変わるため、訴訟代理人の弁護士と協議しながら準備しましょう。

2|口頭弁論(証拠に基づき主張・立証を行う)

訴訟の提起が完了すると、口頭弁論に進みます。

ヒー

口頭弁論って何ですか?

ムートン

口頭弁論は、裁判所が、法廷という公開の場で、当事者双方の主張・立証を聞く民事訴訟上の手続きのことです。口頭弁論の際、当事者は直接法廷に足を運ばないといけなかったんですが、2022年5月公布の民事訴訟法改正により、2026年までにはオンラインでの実施も認められるようになる予定です。

訴訟というと、法廷で、裁判官が高いところに座り、原告と被告が向かい合って、主張し合う図がイメージされると思いますが、これが口頭弁論です。

【口頭弁論のイメージ】

裁判所は口頭弁論期日を指定し、被告あてに訴状を送達します。その後、被告は、1回目の口頭弁論期日までに、裁判所に答弁書証拠書類を提出します。

実際の口頭弁論では、原告は訴状の内容を、被告は答弁書の内容を陳述し、その後は「準備書面」と呼ばれる主張書面を互いに提出し合うことになります。

口頭弁論が複数回開催される中で、原告・被告は主張・立証を行い、裁判所は事件に関する心証(訴訟の中で形成される、裁判官の主観的な認識や確信)を固めていきます。

争点整理のための手続き|争点整理を行う

なお、口頭弁論が行われる前に、裁判所の判断により、「争点整理のための手続き」が行われることもあります(民事訴訟法168条)。

この手続きは、当事者間の認識に相違があり、効率的に口頭弁論を進めるために争点整理を行う必要があると裁判所が判断した場合に行われます。

具体的には、以下3つの中から、最も適切な手続きが選択されます。

準備的口頭弁論
実際の口頭弁論同様、公開の法廷において行われる手続き。証人尋問含め、争点整理に必要なあらゆる行為をすることができる。

【弁論準備手続き】
法廷以外の準備室などで行われる手続き。準備的口頭弁論のように、公開で行う必要がないが、証人尋問ができないなどの制約もある。なお、一方の当事者が遠隔地に居住している場合などには、web会議システムによって手続きを進めることもできる。

【書面による準備手続き】
当事者が遠方に居住しており直接足を運べない場合などに、準備書面の提出などをすることで争点整理を行う手続き。基本的には書面で行われるが、必要に応じて、web会議システムなどを通じて協議することもできる。

3|証人尋問・当事者尋問

双方の争点・証拠が整理された段階で、証人と訴訟の当事者に対する尋問が行われることがあります。これらは、訴訟の結論を左右するような事実関係に争いが残っている場合に、証人と訴訟の当事者に話を聞くことで、事実関係を立証するために行われます。

ヒー

重要な事実関係に争いがない場合や、残りの争点が法的解釈のみの場合には、証人尋問・当事者尋問ともに、実施する必要はありません。

集中証拠調べ」(民事訴訟法182条)の原則があるため、比較的単純な事件であれば、証人尋問と当事者尋問は1日で行われます。ただし、証人の人数が多い場合などには、複数の日程にまたがるケースもあります。

なお、証人尋問・当事者尋問は、以下の順番で行われます。

主尋問
証人を申請した側(当事者尋問の場合は、当事者の代理人弁護士)によって行われる尋問です。

反対尋問
主尋問を行った側の相手方によって行われる尋問です。

再主尋問
主尋問を行った側が再度行う尋問です。

補充尋問
裁判長または陪席裁判官による尋問です。

4|判決・和解

裁判所は、事件に関する心証が固まった段階で口頭弁論を終結させ、判決を言い渡します(民事訴訟法250条)。

これに対して、審理の途中で和解が成立する場合もあり、その際には判決に至らず訴訟が終了します。和解が成立した場合は、確定判決と同一の効力を有する和解調書が作成されます(同法267条)。

5|控訴・上告

日本では、判決に納得がいかない場合、2回まで不服申し立てを行うことができます。1回目の不服申し立てを「控訴」、2回目の不服申し立てを「上告」といいます。

控訴・上告が可能な期間は、「判決書の送達日から2週間以内」です。(民事訴訟法281条1項、285条、313条)。

不服申し立ては、原審裁判所(審理をした裁判所)に対して行いますが、不服申し立てを受け入れるか否かの判断は、上級裁判所が行います(原審が簡易裁判所なら地方裁判所、原審が地方裁判所なら高等裁判所)。

ヒー

いろいろな裁判所の名前がでてきて難しいです…。

ムートン

裁判所の組織は、以下のようになっています。

ムートン

この関係の中で、上位にある裁判所を上級裁判所、下位にある裁判所を下級裁判所と呼びます。

控訴・上告の手続きを経て、判決が確定します。また、期間内に適法な控訴・上告が行われなかった場合も、同様に判決が確定します。

訴訟対応の流れ|他社から訴訟を提起される場合

ムートン

次からは、他社から訴訟を提起された場合の流れを見てきましょう。

被告として他社から訴訟を提起される場合、訴訟対応の流れは以下のとおりです。

1|訴状の送達
2|答弁書・証拠書類の提出
3|口頭弁論期日~尋問~判決~控訴・上告

1|訴状の送達

原告が裁判所に訴状を提出すると、「特別送達」という方式によって訴状が送られてきます。

【相手から訴訟を提起されるまでの流れ】

さらに、口頭弁論期日と答弁書の提出期限を指定する書面も添付されます。

被告は訴状の内容を確認した上で、訴訟代理人弁護士と対応を協議します。

2|答弁書・証拠書類の提出

被告は、裁判所が指定した期限までに、答弁書と証拠書類を提出する必要があります。答弁書には、原告の主張する事実に対する認否や、被告として新たに主張する事実とその根拠などを記載します。

なお、被告の原告主張に対する反論は、「否認」「抗弁」に分類されます

ヒー

答弁書(その後の準備書面も同様)を作成する際には、否認と抗弁の違いを意識することが大切です。

①否認
原告が主張する事実について、その存在を否定します。被告としては、当該事実を真偽不明とすれば足ります。

②抗弁
原告が主張する事実の存在を認めた上で、原告主張を無効化する新たな事実を主張します。被告は、当該事実について立証責任を負います。

3|口頭弁論~尋問~判決~控訴・上告

口頭弁論期日以降の以下の流れは、原告として訴訟を提起する場合と同様です。

・口頭弁論(+準備的口頭弁論、弁論準備手続き、書面による準備手続き)
・証人尋問・当事者尋問
・判決・和解
・控訴・上告

訴訟対応における法務担当者の役割

企業が訴訟対応を行うに当たり、法務担当者は以下の役割を果たすことが求められます。

・経営陣と弁護士の間の連絡役
・弁護士のアドバイスに関する再検討
・経営陣に対する、自社の事業に寄り添った助言
・紛争の再発防止策の検討

経営陣と弁護士の間の連絡役

法務担当者は、経営陣と訴訟代理人弁護士の間の連絡役を担います。

経営陣に対しては、弁護士による法的意見をかみ砕いて、経営判断の参考になるかたちで分かりやすく説明すべきです。

弁護士に対しては、社内事情や経営陣が抱いている懸念を伝えて、実態に即した法的アドバイスを依頼する姿勢が求められます。

弁護士のアドバイスに関する再検討

法務担当者には、法律や裁判例に関する自らの知見を生かして、弁護士のアドバイスを再検討することも求められます。

ヒー

弁護士のアドバイスなら、そのまま従ったほうがいいんじゃないですか? なぜ再検討する必要があるんですか?

ムートン

弁護士のアドバイスが常に正しいとは限らないんですよ。アドバイスの内容が会社の実態に即していないケースもあるのです。

法務担当者としては、アドバイスに誤りがあると思われる場合は、弁護士に再検討を促す必要があります。また、より実務に即したアドバイスが欲しい場合には、自社の状況などについて弁護士に補足説明を行うなどして、追加のアドバイスを求めましょう。

経営陣に対する、自社の事業に寄り添った助言

法務担当者の強みは、法的な知見を有するとともに、内部者として会社の事業をよく理解している点です。

弁護士からは、訴訟対応に当たって取り得る選択肢のメリットやリスクについて説明があるでしょう。法務担当者には、それを会社の事業に即したかたちに解釈した上で、経営陣に対して、適切な経営判断の参考になる助言を行うことが期待されます。

紛争の再発防止策の検討

訴訟対応にはコストとリスクが伴うため、今後、できる限り訴訟対応が発生しないように、紛争の再発防止策を検討することも大切です。

紛争の原因を分析した上で再発防止策を検討し、社内におけるその実行をサポートすることも、法務担当者の重要な役割といえます。

訴訟対応に当たり法務担当者が注意すべきポイント

法務担当者が訴訟対応を行うに当たっては、以下のポイントに十分留意しましょう。

①弁護士に対して、問題状況を分かりやすく説明する
②経営陣に対して、リスクを分かりやすく説明する
③弁護士のアドバイスをうのみにしない|必ず自分でも検討する

弁護士に対して、問題状況を分かりやすく説明する

訴訟代理人となる弁護士は外部者であるため、会社の内情に精通しているわけではありません。

ムートン

経営判断に役立つ具体的な法的アドバイスを得るためには、法務担当者が弁護士に問題状況を分かりやすく説明しすることが求められます。

経営陣に対して、リスクを分かりやすく説明する

訴訟対応の中では、どのような主張を行うか、和解に応じるか否かなどの選択を迫られる場面があります。

経営陣は、会社にとってのリスクを考慮した上で、訴訟対応に関する経営判断を行います。

ムートン

適切な経営判断を可能とするには、法務担当者が経営陣に対して、弁護士から説明を受けたリスクを分かりやすく伝えることが大切です。

弁護士のアドバイスをうのみにしない

繰り返しになりますが、弁護士のアドバイスは常に正しいとは限らず、会社の実態を踏まえたものでない可能性もあります。

法務担当者としては、弁護士のアドバイスを参考にしつつも、それをうのみにするのではなく、必ず自身で再検討しなければなりません。

ムートン

弁護士と法務担当者が両輪となって事件を検討することが、より良い訴訟対応につながります。

この記事のまとめ

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参考文献

裁判所ウェブサイト「裁判手続 民事事件Q&A」

裁判所ウェブサイト「口頭弁論等」

裁判所ウェブサイト「裁判所の組織について」

法務省ウェブサイト「裁判手続の流れ」

森・濱田松本法律事務所編『企業訴訟実務問題シリーズ企業訴訟総論』中央経済社、2017年