証憑とは?
読み方・領収書との違い・証憑書類の例
・保存期間などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「証憑」とは、取引や業務に関する事項を証明するための書類です。
証憑に当たる文書としては、以下の例が挙げられます。それぞれ、法令によって定められた期間にわたって保存しなければなりません。
・合意文書|契約書・覚書・合意書など
・約束文書|誓約書・念書など
・金銭の支払いに関する文書|請求書・領収書など
・受発注に関する文書|見積書・発注書・納品書・検収書など
・会計帳簿|仕訳帳・総勘定元帳など
・決算関係書類|損益計算書・貸借対照表など
・人事労務に関する文書|労働条件通知書・法定三帳簿など
・内容証明郵便
・当事者間でやり取りされたメッセージ|メールなど
・議事録|株主総会議事録・取締役会議事録など証憑の保存に当たっては、改ざんや紛失を防止することが大切です。また、電子データの証憑については、電子帳簿保存法に従った保存が求められます。研修などを通じて、証憑の保存方法に関する教育を行いましょう。
この記事では証憑について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 電子帳簿保存法…電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律
※この記事は、2023年12月26日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
証憑とは|読み方・領収書との違いも含め分かりやすく解説!
「証憑(しょうひょう)」とは、取引や業務に関する事項を証明するための書類です。
業務フローや先例の確認、取引相手との紛争、税務調査などに関しては、証憑に示された事実を踏まえて対応することが求められます。
なお、領収書は証憑の代表例の一つですが、そのほかにもさまざまな文書が証憑としての役割を果たします。
証憑に当たる文書の例・種類
証憑に当たる文書としては、以下の例が挙げられます。
①合意文書|契約書・覚書・合意書など
②約束文書|誓約書・念書など
③金銭の支払いに関する文書|請求書・領収書など
④受発注に関する文書|見積書・発注書・納品書・検収書など
⑤会計帳簿|仕訳帳・総勘定元帳など
⑥決算関係書類|損益計算書・貸借対照表など
⑦人事労務に関する文書|労働条件通知書・法定三帳簿など
⑧内容証明郵便
⑨当事者間でやり取りされたメッセージ|メールなど
⑩議事録|株主総会議事録・取締役会議事録など
合意文書|契約書・覚書・合意書など
取引の内容を証明するためには、当事者間で締結された合意文書が重要な証憑となります。
合意文書としては、
- 契約書
- 覚書
- 合意書
などが挙げられます。これらの文書は名称が異なりますが、いずれも合意文書であるため、証憑としての機能は同じです。
約束文書|誓約書・念書など
取引などの当事者の間で、一方の当事者が相手方に対して約束文書を提出することがあります。約束文書に当たるのは、誓約書や念書です。
約束文書に基づき、提出者が相手方に対して何らかの義務を負う場合は、その約束文書が重要な証憑となります。
金銭の支払いに関する文書|請求書・領収書など
取引に関して金銭の精算が発生する場合は、当事者間において請求書や領収書がやりとりされます。経理業務や会計業務は、請求書や領収書などの証憑に基づいて行われます。
受発注に関する文書|見積書・発注書・納品書・検収書など
当事者間で受注・発注を行う場合には、受発注に関連して
- 見積書
- 発注書
- 納品書
- 検収書
などがやり取りされます。これらの文書は、受発注の内容や結果に関する重要な証憑です。
会計帳簿|仕訳帳・総勘定元帳など
会社には、会計帳簿として仕訳帳と総勘定元帳の作成が義務付けられています。また会社によっては、
- 現金出納帳
- 仕入先元帳
- 固定資産台帳
- 売上帳
- 仕入帳
などの会計帳簿を作成することもあります。会計帳簿は、決算業務や税務調査に関する重要な証憑です。
決算関係書類|損益計算書・貸借対照表など
会社が決算を行う際には、損益計算書と貸借対照表を作成します。さらに、会社によってはキャッシュ・フロー計算書の作成が必要となることもあります。
これらの決算関係書類は、法人税等の課税や税務調査に関する重要な証憑です。
人事労務に関する文書|労働条件通知書・法定三帳簿など
使用者が労働者を雇い入れる際には、労働者に対して労働条件通知書を交付する必要があります。さらに、労働者を雇用している使用者は、労働者名簿・賃金台帳・出勤簿(=法定三帳簿)を作成しなければなりません。
労働条件通知書や法定三帳簿は、人事労務に関する重要な証憑です。
内容証明郵便
内容証明郵便とは、郵便局が差出人・宛先・日時・内容を証明する郵便物です。請求書や紛争に関する連絡文書などは、内容証明郵便によって送付する場合があります。
内容証明郵便は、客観的な立場にある郵便局の証明により、高い証拠力が認められている証憑です。
当事者間でやり取りされたメッセージ|メールなど
形式の整った文書でなくても、当事者間でやり取りされたメッセージ(メールなど)も証憑になり得ます。「言った言わない」のトラブルが懸念される場合は、取引相手との間でやり取りしたメッセージを整理して保存しておきましょう。
議事録|株主総会議事録・取締役会議事録など
会社法では、株主総会議事録や取締役会議事録の作成が義務付けられています。そのほか、会社において開催される会議等については、適宜議事録が作成されることがあります。
これらの議事録は、会社の運営に関する重要な証憑です。
証憑を保存すべき期間
法律上保存が義務付けられている証憑については、保存期間についても法律で定められています。主な証憑の保存期間は、以下のとおりです。
保存期間 | 証憑の種類 |
---|---|
10年 | ・株主総会議事録(本店)|会社法318条 ・取締役会議事録|会社法371条 ・監査役会議事録|会社法394条 ・監査等委員会議事録|会社法399条の11 ・計算書類(貸借対照表、損益計算書など)およびその附属明細書|会社法435条 ・事業に関する重要な書類(総勘定元帳、各種補助簿など)|会社法432条 など |
7年 | ・取引に関する帳簿(仕訳帳、総勘定元帳、現金出納帳、仕入先元帳、固定資産台帳、売上帳、仕入帳など)|法人税法施行規則59条 ・決算に関して作成された書類(貸借対照表、損益計算書など)|法人税法施行規則59条 ・取引に関して相手方から受け取った書類(契約書、注文書、請求書、領収書など)|法人税法施行規則59条 ・源泉徴収票|法人税法施行規則59条 ・源泉徴収に関する申告書(扶養控除等申告書、配偶者控除等申告書、基礎控除申告書、保険料控除申告書など)|法人税法施行規則59条 など |
5年 | ・株主総会議事録の謄本(支店)|会社法318条 ・事業報告(本店)|会社法442条 ・監査報告(本店)|会社法442条 など |
3年 | ・事業報告の謄本(支店)|会社法442条 ・監査報告の謄本(支店)|会社法442条 ・労働者名簿|労働基準法109条 ・雇入れ、解雇、退職に関する書類|労働基準法109条 ・災害補償に関する書類|労働基準法109条 ・労働関係の重要書類(タイムカード、残業報告書など)|労働基準法109条、附則143条1項 など |
証憑が必要となる場面
①取引上のルールを確認したいとき
②会社における先例を確認したいとき
③取引や業務に関するトラブルが発生したとき
④税務調査を受けるとき
取引上のルールを確認したいとき
取引上のルールを知りたいときは、対応する証憑を確認する必要があります。
取引上のルールに関して、もっとも重要な証憑は契約書などの合意文書です。契約書などの条文を確認すれば、
- 当事者が互いにどのような権利を有し義務を負うのか
- トラブルが発生した際には、どのように処理すべきか
などが分かります。
会社における先例を確認したいとき
取引や業務などを取り扱うに当たり、会社における先例を確認したい場合にも、対応する証憑の確認が必要です。
会社における先例については、会社が保存している契約書や議事録・マニュアルなどが重要な証憑となります。これらの証憑を確認すれば、
- 会社が過去にどのような取引を行ったのか
- その際にどのようなルールが適用されたのか
- 会社内部での検討・処理はどのような手順で行うべきなのか
が分かります。
取引や業務に関するトラブルが発生したとき
取引に関するトラブルが発生した場合、最終的には法的手続きによって解決を目指すことになります。
取引に関する紛争は、どのような契約についても発生する可能性があります。万が一の紛争に備えて、取引に関する証憑は必ず保存しておきましょう。
また、会社内部の業務に関してトラブルが発生した場合も、証憑によって示される事実を踏まえて対応する必要があります。業務フローを記載したマニュアル、関連する社内規程や議事録などをきちんと保存し、必要に応じて確認できるようにしておきましょう。
税務調査を受けるとき
税務署による税務調査を受ける際には、会社が行った取引や金銭の出し入れなどに関する証憑がチェックされます。
税務署がチェックする主な証憑は、会計帳簿や決算関係書類、会社が関与する取引に関する契約書・請求書・領収書などです。不正な経理・会計を疑われないように、きちんとした形で証憑を作成および保存する必要があります。
証憑の保存方法に関する注意点
証憑の保存は、適切な方法によって行う必要があります。不適切な方法で証憑を保存していると、トラブルの原因になるので注意が必要です。
証憑の保存に関しては、特に以下の各点に注意して対応しましょう。
①アクセスできる役員・従業員は最小限に限定すべき|紛失・改ざん等の防止
②電子データの証憑は、電子帳簿保存法に従って保存する必要がある
③従業員研修を通じて、証憑の保存方法について教育すべき
アクセスできる役員・従業員は最小限に限定すべき|紛失・改ざん等の防止
会社が保存する証憑にアクセスできる役員や従業員は、必要最小限の範囲に限定すべきです。
閲覧する必要がない人まで証憑にアクセスできるような状態にしていると、紛失や改ざんなどのリスクが高くなります。証憑が必要となる場面で紛失や改ざんなどが発覚すると、以下に挙げるように、会社にとって不利益な事態が生じてしまいかねません。
- 業務上の不適切な対応によってミスが発生する
- 訴訟において不利益な判決が言い渡される
- 税務調査で指摘を受けて追徴課税が行われる
証憑へのアクセスを制限するためには、
- データの保存先フォルダにアクセス権を設定する
- データファイルにパスワードを設定する
などの方法が考えられます。
紙の証憑については、鍵のかかるキャビネットに保管するなどして、無関係の役員・従業員のアクセスを遮断しましょう。
電子データの証憑は、電子帳簿保存法に従って保存する必要がある
証憑が電子データである場合は、電子帳簿保存法に従って保存しなければなりません。
電子帳簿保存法では、例えば電子取引データの保存について、大要以下の要件が定められています。
①真実性の確保
以下のいずれかの措置を講じる必要があります。
(a)タイムスタンプを事前に付与する
(b)締結後速やかにタイムスタンプを付与し、保存者または監督者の情報を確認できるようにする
(c)訂正・削除の履歴を確認できるようにするか、または訂正・削除ができないシステムを利用する
(d)不正な訂正・削除の防止に関する事務処理規程を定め、その規程に沿って保存する
②可視性の確保
以下の措置を講じる必要があります。
(a)データ出力用の機器・操作説明書を備え付ける
(b)検索機能を確保する※
(c)システムの概要書・操作説明書などを備え付ける(自作プログラムを用いている場合などに限る)
(d)データ保存等に関する事務処理規程を備え付ける
※検索機能については、売上規模が一定以下であるなどの要件を満たせば免除されます。
また、2024年1月1日以降は、電子取引データの印刷保存が一律不可となり、電子データのまま保存することが義務付けられます。
従業員研修を通じて、証憑の保存方法について教育すべき
証憑の保存を適切に行うためには、従業員に対しても保存方法に関する教育を行い、知識と意識を浸透させるべきです。
定期的に研修を行い、証憑の適切な保存方法について認識の共有を図ることが望ましいでしょう。コンプライアンス担当者や専門家が講師として研修を行う方法のほか、eラーニングを活用する方法なども考えられます。
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参考文献
高橋郁夫/北川祥一/斎藤綾/伊藤蔵人/丸山修平/星諒佑/西山諒/細井南見著『即実践!!電子契約』日本加除出版、2020年