取締役の解任とは?
株主総会での手続き・登記申請の方法・
注意点などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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取締役を退任させるには、任期満了を待つことや自ら辞任してもらうことのほか、会社法に基づく解任手続きをとることも考えられます。
会社法上、取締役の解任は株主総会決議による場合と、株主が提起する解任の訴えによる場合の2通りがあります。
株主総会で取締役を解任する場合は、原則として普通決議(出席議決権の過半数の賛成)が必要です。どのような理由であっても解任できますが、解任に正当な理由がない場合、会社は取締役に生じた損害を賠償しなければなりません。
取締役解任の訴えは、保有割合・保有期間の要件を満たす株主のみが提起できます。取締役とともに会社も被告となるため、会社としても適切な対応が求められます。
この記事では、取締役の解任について、要件・手続き・注意点などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年3月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
取締役の解任とは
取締役の解任とは、取締役を任期途中で強制的に辞めさせることをいいます。
解任と辞任・退任の違い
株式会社の役員(取締役・会計参与・監査役)および会計監査人を、任期途中で強制的に辞めさせることを「解任」といいます。
一方「辞任」は、役員等が任期途中で自ら辞めることをいいます。解任は本人の意思に関わらず強制的に行われるのに対して、辞任は本人の意思によるものであるという違いがあります。
また「退任」は、役員等が辞めることをいいます。解任・辞任による場合も退任に当たるほか、任期満了による辞職も退任に当たります。
文脈によっては、任期満了による辞職のみを指して「退任」と表現することもあります。
取締役を解任する場合のリスク
取締役を任期途中で解任する場合、会社は解任した取締役から損害賠償請求を受けるリスクを負います(損害賠償請求については後で詳述します)。
また、解任によって取締役に欠員が生じるため、後任取締役を選任しなければなりません(定款上の最低人数を下回らない場合は、後任取締役を選任しないこともできます)。
前任者の担っていた役割を十分補い得る後任取締役を選任しないと、会社の業務に穴が開き、業績の低下等につながりかねないので注意が必要です。
解任されそうな取締役が取り得る対抗策
会社から解任されそうな取締役が解任を回避するには、株主総会決議での解任決議が否決されるように動くほかありません。基本的には、多数派株主の支持を得られるような根回しが求められますが、支配株主(創業経営者など)の解任意思が固い場合は難しいでしょう。
解任を回避できないとすれば、会社に対する損害賠償請求を準備すべきです。損害賠償請求については、後で詳述します。
取締役を退任させる方法
取締役を退任させる方法には、以下の4つがあります。
- 任期満了を待つ
- 辞任してもらう
- 株主総会決議で解任する
- 解任の訴えを提起する
任期満了を待つ
任期が満了した取締役が再任されない場合、その取締役は退任となります。
取締役の任期は原則として、選任後2年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時までです(会社法332条1項本文)。
ただし、以下の手続き・内容による変更が認められています。
① 公開会社の場合
定款または株主総会決議によって短縮可(会社法332条1項但し書き)
② 非公開会社の場合
定款または株主総会決議によって短縮可(同項但し書き)
定款によって、選任後10年以内に終了する事業年度のうち、最終のものに関する定時株主総会の終結時まで伸長可(同条2項)
辞任してもらう
取締役本人の同意があれば、任期途中で委任契約を合意解約し、辞任してもらうことができます。
なお、監査等委員である取締役が辞任した場合、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨およびその理由を述べることが認められています(会社法342条の2第2項)。
株主総会決議で解任する
任期途中で取締役を(強制的に)解任する場合、株主総会決議によるのが原則です。
取締役は、株主総会決議によっていつでも解任できます(会社法339条1項)。ただし、解任について正当な理由がない場合、会社は取締役に生じた損害を賠償しなければなりません(同条2項、後述)。
解任の訴えを提起する
取締役に不正行為等があったにもかかわらず、解任議案が株主総会で否決された場合には、株主による解任の訴えが認められています(会社法854条)。
ただし、解任の訴えを提起できるのは、保有割合と保有期間の要件を満たす株主に限られています(少数株主権)。
株主総会決議で取締役を解任する手続き・流れ
株主総会決議で取締役を解任する場合、手続きの流れは以下のとおりです。
① 株主総会の招集
② 解任の株主総会決議
③ 解任の登記
1|株主総会の招集
取締役の解任議案を審議するため、まずは株主総会を招集する必要があります。
定時株主総会において審議することもできますが、取締役の解任は緊急性を要するため、臨時株主総会で審議するのが一般的です。臨時株主総会は、必要がある場合にいつでも招集できます(会社法296条2項)。
株主総会の招集に当たっては、取締役会決議で招集事項を決定します(会社法298条1項)。
- 招集事項の例
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・株主総会の日時、場所
・株主総会の議題(取締役を解任する件)
・書面による議決権行使を認める場合は、その旨
・電磁的方法による議決権行使を認める場合は、その旨
その後、決定した招集事項を記載した招集通知を、公開会社では開催日の2週間前まで、非公開会社では開催日の1週間前までに発送しなければなりません(会社法299条1項)。
ただし、株主の承諾を得れば電磁的方法(メールなど)によって通知を発送できるほか(同条3項)、株主全員の同意があれば招集手続きを省略できます(会社法300条)。
2|解任の株主総会決議
株主総会では、提出された取締役の解任議案を審議した上で、株主による採決を行います。
解任議案の可決は、原則として普通決議により行います(会社法309条1項)。ただし、累積投票によって選任された取締役、および監査等委員である取締役の解任には、例外的に特別決議が必要です(同条2項7号)。
① 普通決議の要件
定足数:行使可能議決権の過半数を有する株主の出席
賛成数:出席株主の議決権の過半数
※定足数は定款で排除可能
② 特別決議の要件
定足数:行使可能議決権の過半数を有する株主の出席
賛成数:出席株主の議決権の3分の2以上
※定足数は定款で行使可能議決権の3分の1以上まで緩和可能
※賛成数は定款で加重可能
3|解任の登記
解任決議によって取締役が解任されたら、決議日から2週間以内に、その旨の変更登記を行わなければなりません(会社法915条1項・911条3項13号等)。
変更登記の申請は、本店所在地を管轄する法務局または地方法務局に対して行います。
株主総会決議で取締役を解任する際の注意点
株主総会決議で取締役を解任する場合、以下の2点にご留意ください。
✅ どのような理由でも解任可能
✅ 解任の正当な理由がなければ、会社に損害賠償責任が発生する
どのような理由でも解任可能
株主総会決議によって取締役を解任する場合、その理由は問われません。どのような理由であっても、株主総会決議が行われれば取締役を解任できます。
会社と取締役の間では委任契約が締結されるところ、委任契約は各当事者がいつでも解除できます(民法651条1項)。取締役の解任に関しても、民法に基づく委任の解除の考え方を反映して、理由を問わず取締役の解任が可能とされています。
解任の正当な理由がなければ、会社に損害賠償責任が発生する
解任自体は理由を問わず可能ですが、解任について正当な理由がある場合を除き、会社は解任した取締役の損害を賠償しなければなりません(会社法339条2項)。
「正当な理由」がある場合、ない場合の例
取締役を解任する「正当な理由」としては、以下の例が挙げられます。
- 解任に正当な理由がある場合の例
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① 不正の行為や定款・法令違反の行為があった場合
・会社資金の横領
・故意または重大な過失による任意懈怠
など② 経営に失敗して会社に損害を与えた場合
・巨額の事業投資に失敗した
・注力していた市場開拓が失敗し、完全撤退に追い込まれた③ 経営能力の不足により、客観的な状況から判断して将来的に会社に損害を与える可能性が高い場合
・部下のフォローにより大損害は回避できたものの、経営上の重大な判断ミスが再三発生した
など
これに対して、単にオーナー株主と経営方針が相違している、従業員から嫌われているといった事情があるに過ぎない場合は、解任の「正当な理由」は認められないと考えられます。
賠償の対象となる損害の例
解任の正当な理由がない場合、会社は解任した取締役に対し、少なくとも残存任期の月額報酬を損害賠償として支払う義務を負うと考えられます。
また、役員賞与・退職金などについても、支給の蓋然性(確実性)を考慮した上で、一部または全部の損害賠償が認められる可能性があります。
解任の訴えで取締役を解任する手続き・流れ
解任の訴えによって取締役を解任する場合、手続きの流れは以下のとおりです。
① 株主総会における解任議案の否決等
② 株主による解任の訴えの提起
③ 口頭弁論期日等における審理
④ 解任判決
⑤ 解任の登記
1|株主総会における解任議案の否決等
取締役解任の訴えを提起できるのは、以下のいずれかの場合に限られます(会社法854条1項)。
① 当該取締役の解任議案が株主総会で否決された場合
② 種類株主総会の決議が得られないために、解任決議が効力を生じない場合
したがって、解任の訴えを提起するに先立ち、株主総会で解任議案が否決されることが必要です。
2|株主による解任の訴えの提起
取締役解任の訴えは、解任決議が否決された株主総会の日から30日以内に、会社の本店所在地を管轄する地方裁判所へ提起しなければなりません(会社法854条・856条)。
解任の訴えの原告は株主、被告は会社と取締役です(会社法855条)。
解任の訴えを提起できる株主の要件
解任の訴えを提起できるのは、以下の(a)または(b)に該当する株主に限られます。
(a) 総株主(次に掲げる株主を除く)の議決権の3%以上の議決権を6カ月以上前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く)
× 解任議案について議決権を行使できない株主
× 解任請求の対象となっている役員である株主
(b) 発行済株式(次に掲げる株主の有する株式を除く)の3%以上の数の株式を6カ月以上前から引き続き有する株主(次に掲げる株主を除く)
× 当該株式会社である株主(=自社株を保有する会社自身)
× 解任請求の対象となっている役員である株主
※ (a)(b)いずれも、保有割合・保有期間の各要件は定款で緩和可能
3|口頭弁論期日等における審理
株主により解任の訴えが提起されると、裁判所の公開法廷で行われる「口頭弁論期日」において、解任判決の要件を満たしているかどうかが審理されます。原告である株主は、解任要件の存在を立証しなければなりません。
なお、口頭弁論期日の合間に、争点整理を目的とした「弁論準備手続」や「書面による準備手続」が非公開で行われることもあります。
解任判決の要件
取締役解任の判決を得るには、当該取締役による不正の行為、または法令・定款に違反する重大な事実があることが必要です(会社法854条1項)。
- 解任判決の要件を満たす場合の例
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① 不正の行為
・会社資金と個人資金を全く区別せず、公私混同した会計処理をしていた② 法令違反
・会社資金を横領した
・定時株主総会を全く招集しなかった(本来は1年に1回の開催が必要)③ 定款違反
・定款の事業目的とは全く関係がない事業を独断で行ったなど
4|解任判決
審理の結果、裁判所が解任判決の要件を満たしていると判断した場合は、取締役を解任する旨の判決を言い渡します(認容判決)。反対に、解任判決の要件を満たしていないと判断した場合には、解任請求を棄却する旨の判決を言い渡します(棄却判決)。
認容判決と棄却判決のいずれについても、不服のある当事者(株主・取締役・会社)は控訴・上告をすることが可能です。
取締役を解任する旨の認容判決が確定した場合、その時点で取締役は解任されます。
5|解任の登記
解任判決が確定したら、株主総会決議による解任の場合と同様に、会社は取締役解任の変更登記を行わなければなりません(会社法915条1項・911条3項13号等)。
変更登記の申請期限は判決確定から2週間以内、申請先は会社の本店所在地を管轄する法務局または地方法務局です。
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