【2024年4月施行】労働条件通知書とは?
新たな労働条件明示のルールを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「労働条件通知書」とは、給与や労働時間等の労働条件を記載した書面のことをいいます。
会社が労働者を雇い入れた際には「労働条件通知書」を労働者に交付する義務があります。2024年4月からは、労働条件通知書の記載内容として、
・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲
・更新上限の有無および内容
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件
の明示も必要となります。この記事では「労働条件通知書」について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2023年10月10日時点の法令等に基づいて作成されています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- 労基法…労働基準法
- 労基則…労働基準法施行規則
- パート・有期法…短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
- パート・有期則…短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則
- 雇止め基準…有期労働契約の締結、更新、雇止め等に関する基準
- 職安法…職業安定法
- 職安則…職業安定法施行規則
目次
労働条件通知書とは
会社は労働者を雇用した際に労働条件を明示する義務があります。その際に労働者に交付する書面を通称、労働条件通知書といいます。
労働条件明示義務とは
労働契約締結に当たって労働条件が明示されなければ、労働者が自分の労働条件を知ることができないおそれや、使用者が恣意的に労働条件を決定するおそれがあります。そこで、労基法15条1項では、「使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。」と定められています。
また、労基法で明示が必要とされる労働条件に追加して、短時間労働者、有期雇用労働者に対しては、パート・有期法6条1項に追加で明示が必要な事項が定められていますので、労働条件通知書には、パート・有期法で求められる事項も一緒に記載することが多いです。
✅ 短時間労働者:一週間の所定労働時間が同一の事業主に雇用される通常の労働者の一週間の所定労働時間に比べて短い労働者(パート・有期法2条1項)
✅ 有期雇用労働者:事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者(パート・有期法2条2項)
労働条件通知書と雇用契約書の違い
一般的に、労働条件通知書は労基法15条の労働条件明示義務を果たすために会社が労働者に交付する書面を指し、雇用契約書は会社と労働者との間で労働契約の内容について合意した書面を指します。また、労働条件通知書と雇用契約書は兼ねることもでき、「労働条件通知書 兼 雇用契約書」とすることも可能です。
現実的には、例えば、新卒入社のような同じ労働条件の社員が複数居る場合は「労働条件通知書」の交付、あるいは「労働条件通知書 兼 雇用契約書」に労働者からサインをもらうことで対応し、中途入社で即戦力を期待して給与も個別に交渉して決めた場合は「雇用契約書」で合意した労働条件を確認する等の使い分けも考えられます。
労働条件の明示方法・ルール
明示のタイミング
労働条件の明示は、労働契約の締結をする際に行う必要があります。「労働契約の締結」には、以下の場合も含まれます。
✅ 有期労働契約の更新時
✅ 定年後の再雇用
✅ 在籍型出向時
✅ 移籍型出向(転籍)時
また、採用内定により労働契約が成立する場合には、内定時に労働条件を明示する必要があります。内定時に具体的な就業場所や従事すべき業務等を特定できない場合は、就労開始時の就業場所や従事すべき業務として想定される内容を包括的に示すこととしても差し支えありませんが、できるだけ早期に決定するように努め、決定次第改めて明示することが望ましいとされています(平成29年12月20日基監発1220号第1号)。
- 「採用内定により労働契約が成立する場合」とは
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例えば、新卒採用者を想定すると、
会社が募集要項を出す→求職者が選考に申し込む→書類選考、面談等→採用決定の通知(内々定)→内定式→入社前の研修等→入社
という手順を踏みますが、法的にはどこで労働契約が成立したといえるのかという問題があります。内定の実態は各会社によって異なるため一概にはいえませんが、例えば、大日本印刷事件(最高裁昭和54年7月20日判決)では、採用内定通知のほかに労働契約締結のための特段の意思表示をすることが予定されていなかったこと等から、採用内定通知によって、就労の始期を大学卒業直後とし、それまでの間採用内定取消事由に基づく解約権を留保した労働契約が成立したと判断されました。
また、一般的には、内々定を出し、内定式で正式な内定を出すことも多いですが、内定式の段階で労働契約が成立したと考えられるケースも多いと思われます。
明示の方法
労働条件の明示は原則、書面の交付によって行う必要があります(労基則5条4項)。ただし、労働者が希望した場合には、ファクシミリ、電子メール、LINE等のSNS等で、出力して書面を作成できる方法で明示することも可能です。
メールやSNS等で労働条件の明示を行う場合は、労働者の希望が必要であることと、厚生労働省の事業主向けのリーフレットでは、印刷しやすいようにPDFなどの添付ファイルで送ることが望ましいとされていますので、注意してください。
労働条件通知書の記載事項
現行の記載すべき事項
全ての労働者に対する記載事項
使用者は、労働者に対して、下記の事項を明示する必要があります(労基則5条1項)。
- 労働条件通知書の記載事項
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<必ず記載が必要>
・労働契約の期間に関する事項
・期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準に関する事項
・就業の場所および従事すべき業務に関する事項
・始業および終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇ならびに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時転換に関する事項
・賃金(退職手当および臨時に支払われる賃金を除く。)の決定、計算および支払の方法、賃金の締切りおよび支払の時期ならびに昇給に関する事項
・退職に関する事項(解雇の事由を含む。)<会社が定めている場合に記載が必要>
・退職手当の定めが適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算および支払の方法ならびに退職手当の支払の時期に関する事項
・臨時に支払われる賃金(退職手当を除く。)、賞与およびこれらに準ずる賃金ならびに最低賃金額に関する事項
・労働者に負担させるべき食費、作業用品その他に関する事項
・安全および衛生に関する事項
・職業訓練に関する事項
・災害補償および業務外の傷病扶助に関する事項
・表彰および制裁に関する事項
・休職に関する事項
有期雇用・短時間の労働者に対する記載事項
有期雇用または短時間の労働者に対しては、加えて下記の事項も明示する必要があります(パート・有期則2条1項)。
- 昇給の有無
- 退職手当の有無
- 賞与の有無
- 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する相談窓口
【2024年4月施行】新たに追加された記載事項|改正の内容を解説!
2024年4月1日以降は、労働条件通知書に、上記の記載事項に加えて以下の記載も必要となります。記載例や最新情報については、厚生労働省の関連サイトなどもご確認ください。
- 2024年4月1日から必要となる記載事項
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<全ての労働者に対する記載事項>
・就業場所および従事すべき業務の変更の範囲<有期雇用の労働者に対する記載事項>
・更新上限の有無および内容
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換を申し込むことができる旨
・無期転換申込権が発生する更新のタイミングごとに、無期転換後の労働条件
- 無期転換とは
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同一の使用者との間で締結された有期労働契約が通算5年を超える場合、労働者が無期労働契約の転換の申込みをすれば、現在の有期労働契約の終了日の翌日から無期労働契約へと転換します(労働契約法18条1項)。無期労働契約の労働条件は、別段の定めがない限りは、契約期間以外は現在の有期労働契約と同一となります(同項後段)。
2024年4月から記載事項が変更された背景とは
労働条件通知書の記載事項を追加する法令改正が行われた背景には、主に以下の2つの事情があります。
- 法改正の背景
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①無期転換ルールに関する認知と理解の促進
労働契約法に基づき、5年以上継続雇用されている有期雇用労働者は無期労働契約への転換を申し込めますが、労使間では、無期転換ルールに関する認知と理解が十分に広がっていない状況です。
無期転換ルールに関する認知と理解を促進するため、労働条件通知書において記載が義務付けられました。②労働条件の明確化
近年では、勤務地限定正社員や職務限定正社員など、「正社員」の枠内でも多様な働き方が登場しています。そのため、多様な正社員に限らず、労働者全般について、雇用ルールを明確化するための記載事項として「就業場所および従事すべき業務の変更の範囲」が追加されました。
実務的な労働条件通知書の作成方法・書き方
労働条件通知書のひな形・テンプレート
労働条件通知書の作成に当たっては、厚生労働省がひな形(テンプレート)を提供しています。
このひな形は、常用・一般労働者向けや日雇労働者向け等、複数のパターンに分かれており、Microsoftのword形式でも提供されています。
厚生労働省の労働条件通知書のひな形を用いれば、記載漏れなどを防ぐことができますので、基本的にはこのひな形を元に作成・更新すると便利です。ただ、会社によってはひな形をそのまま利用すると不都合が生じる場合もありますので、労働条件通知書の作成に慣れていない場合は、弁護士に相談しながら作成することをお勧めします。
なお、労働条件の明示は「労働条件通知書」というタイトルの書面で行わなければならないわけではなく、例えば各社独自のひな形を用いたり、「雇用契約書」に明示が義務付けられている事項を記載して明示することでもよいのですが、その場合は記載事項の漏れがないか、法令改正によって新たに記載する事項がないかなどを確認する必要があります。
労働条件通知書にはどの程度具体的に記載すべきか
労働条件通知書にはできる限り具体的に労働条件を記載すべきことは当然ですが、内容が膨大すぎては逆に分かりにくくなるおそれもあります。
そのため、明示すべき事項の内容が膨大な場合は、就業規則の関係条項を示すことでもよいのですが、それには労働者が就業規則を閲覧できることが前提となります。したがって、労働条件通知書に就業規則の関係条項を示す場合は、就業規則も一緒に交付することなども検討した方がよいでしょう。
労働条件明示義務に違反した場合
使用者が労働条件を明示しなかった場合や、労基則で定められた方法で明示しなかった場合には、30万円以下の罰金に処せられます(労基法120条1号)。
なお、仮に使用者が労基法15条1項に違反して労働条件を明示しなかった場合でも、労働契約自体は有効に成立すると考えられています。
明示された労働条件が事実と異なる場合
労基則5条2項では、明示する労働条件は、事実と異なるものとしてはならないと定められています。
もし、明示された労働条件が事実と異なる場合は、労働者は即時に労働契約を解除することができ(労基法15条2項)、その場合、就業のために住居を変更した労働者が契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければなりません(同条3項)。
また、現実的な問題としては、労働条件通知書は雇用契約書も兼ねる会社が多いですので、特段の事情がない限りは、労働条件通知書の記載通りの労働契約が成立したと考えられるケースが多いと思われます。
そのため、故意に労働条件通知書に事実と異なる記載をしてはならないことはもちろんですが、例えば給与の金額の誤記など、うっかり労働条件通知書に誤った記載をしないようにも留意すべきです。
- 労働契約の内容はどう決まるか?
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労働契約の内容は、雇用契約書や労働条件通知書の記載のみならず、労働契約の成立に至るやりとりや成立前後の事情、労働慣行、社内規定などから定まります。
例えば、日新火災海上保険事件(東京高裁平成12年4月19日判決)では、求人広告や説明会などで給与条件について事実と異なる説明をした事案ですが、「給与の内容を成す各種手当の支給区分、額等について就業規則に基づくものとして給与規程が定められている場合には、雇用契約締結時において当事者間でこれと異なる内容によるものとして別段の合意をするなどのことがない限り、その支給額はその規程の定めるところによるものとして雇用契約が成立するものというべきである」と判示されています。
また、労働契約法7条本文では、「労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。」と定められています。
そのため、基本的には労働条件通知書や雇用契約書の記載内容、就業規則の内容が重要だと思われます。
もっとも、一方で、求人票や募集広告の内容等から労働契約の内容を認定した裁判例もあります。
(例:千代田工業事件・大阪高裁平成2年3月8日判決・労判575号59頁、ZKR〔旧全管連〕事件・大阪地裁平成26年1月16日判決・労判1096号88頁など)、さらに、福祉事業者A苑事件(京都地裁平成29年3月30日判決・労判1164号44頁)では、求人票には定年なしと記載されていたものの、労働条件通知書には定年ありと記載され、労働者も署名押印した事案ですが、求人票から変更した労働条件について変更した旨やその理由を明らかにして説明することもなかったことなどから、労働条件の変更について同意があったとは認められず、定年制なしの労働契約が成立したと判断されています。職安法5条の3第3項、職安則4条の2第1項では、求人広告から労働条件を変更した場合、変更事項を明示しなければならないとされていますので、求人広告の段階から労働条件の記載には慎重になることが重要です。
【2024年4月施行】関連する法令改正の内容
2024年4月1日からの労働条件の明示のルールの改正に関連して、他の法令の改正についても一部を簡単にご紹介します。
有期雇用労働者への説明に追加すべき事項
更新上限に関する説明義務
使用者は、有期労働契約の締結後、契約の変更や更新に際して、通算契約期間や契約更新回数について上限を定めるまたは上限を引き下げる場合は、あらかじめ、その理由を労働者に説明しなければならないとなりました(改正後の雇止め基準1条)。
無期転換後の労働条件に関する説明(努力義務)
使用者は、改正後の労基法に基づき無期転換後の労働条件を明示する場合は、労契法3条2項の規定の趣旨を踏まえて就業の実態に応じて均衡を考慮した事項について、労働者に説明するよう努めなければならないとされました(改正後の雇止め基準5条)。
求職者への労働条件の明示に追加すべき事項
職安法5条の3では、労働者の募集や職業紹介等を行うに際し、求職者等に対して、労働条件を明示しなければならないとされています。明示が必要な労働条件については、職安則で定められていますが、労基法の改正に伴い、業務の変更の範囲、就業場所の変更の範囲、有期労働契約の更新上限も追加されました(改正後の職安則4条の2第3項)。
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参考文献
厚生労働省労働基準局編『令和3年版 労働基準法(上)』労務行政、2022年
荒木尚志=岩村正彦=村中孝史=山川隆一編『注釈労働基準法・労働契約法 第1巻―総論・労働基準法(1)』有斐閣、2023年
水町勇一郎著『詳解 労働法 第2版』東京大学出版会、2021年
厚生労働省ウェブサイト「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
厚生労働省ウェブサイト「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」