「係る」とは? 読み方・意味・例文・
契約書レビュー時の注意点などを
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※この記事は、2023年12月15日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
「係る(かかる)」とは
「係る(かかる)」とは、「関係する」という意味の言葉です。「Aに係るB」と言った場合には、BがAに関係するものであることを意味しています。
「係る」の辞書的意味
「デジタル大辞泉」によると、「係る」は以下の意味を有するとされています。
かか・る【掛(か)る/懸(か)る/係る】
1~23 略
デジタル大辞泉(小学館)「かかる」
24
㋐(係る)物事がかかわる。重要なところに関係をもつ。「存否に—・る問題」
㋑ 略
25(係る)文章中のある語句の文法上の働きが、あとの他の語句と関係をもつ。修飾する。「『青い空』の『青い』は形容詞の連体形で、『空』に—・る」
26~29 略
略
[補説] 「掛かる」以外の表記は、次の観点で使い分けることが多い。
略
係る…関係する。「人命に係る問題」
略
法律文書における「係る」の意味
法律や契約などの法律文書では、「係る」がしばしば用いられます。基本的には「関係する」という意味であると理解すればよいですが、細かい意味内容は文脈によって異なります。
(例)
・特許出願に係る発明
→特許出願をした発明
・当該開示に係る情報
→当該開示によって開示された情報
など
「係る」と「かかる」の違い
法律文書においては、「係る」とともに平仮名表記の「かかる」が用いられることもあります。
「かかる」は「係る(=関係する)」の意味で用いられることもありますが、「前記の」という意味で用いられるケースの方が一般的です。
(例)
○○が発生したときは、AはBに対して通知しなければならない。かかる通知は、書面で行うものとする。
→前記の通知
なお「かかる」については、「係る」との混同を防ぐことなどを目的として、「当該」や「このような」などと言い換えられることもあります(例:当該通知)。
民法における「係る」の使用例・条文例
民法において「係る」が使用されている条文として、以下の4つの例を紹介します。
- 民法における「係る」の使用例
-
① 不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止(民法509条)
② 定型約款の変更(民法548条の4第1項第2号)
③ 賃貸人たる地位が移転した際の敷金返還債務の承継(民法605条の2第4項)
④ 負担付遺贈をした遺言の取消し(民法1027条)
不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止
民法509条は、不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止を定めた条文です。
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(不法行為等により生じた債権を受働債権とする相殺の禁止)
第509条 次に掲げる債務の債務者は、相殺をもって債権者に対抗することができない。ただし、その債権者がその債務に係る債権を他人から譲り受けたときは、この限りでない。
(1) 悪意による不法行為に基づく損害賠償の債務
(2) 人の生命又は身体の侵害による損害賠償の債務(前号に掲げるものを除く。)
但し書きにおいて「債務に係る債権」という表現が用いられています。債務と債権は対応するものであるところ、「債務に対応する債権」という意味で「係る」が使用されています。
定型約款の変更
民法548条の4は、定型約款の変更について定めた条文です。
民法
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(定型約款の変更)
第548条の4 定型約款準備者は、次に掲げる場合には、定型約款の変更をすることにより、変更後の定型約款の条項について合意があったものとみなし、個別に相手方と合意をすることなく契約の内容を変更することができる。
(1) 定型約款の変更が、相手方の一般の利益に適合するとき。
(2) 定型約款の変更が、契約をした目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、この条の規定により定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的なものであるとき。
2~4 略
同条1項2号では「変更に係る事情」という表現が用いられていますが、これは「定型約款の変更に関する事情」という意味です。定型約款の一方的な変更が認められるかどうかは、変更に関係したあらゆる事情を総合的に考慮して決まることが示されています。
賃貸人たる地位が移転した際の敷金返還債務の承継
民法605条の2は、不動産の賃貸人たる地位の変更について定めた条文です。
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(不動産の賃貸人たる地位の移転)
第605条の2
1~3 略
4 第1項又は第2項後段の規定により賃貸人たる地位が譲受人又はその承継人に移転したときは、第608条の規定による費用の償還に係る債務及び第622条の2第1項の規定による同項に規定する敷金の返還に係る債務は、譲受人又はその承継人が承継する。
同条4項では、不動産の賃貸人たる地位が移転した際に、敷金返還債務が移転先の譲受人・承継人に引き継がれる旨が定められています。「敷金の返還に係る債務」という表現が用いられていますが、これは「敷金の返還を内容とする債務(=敷金返還債務)」という意味です。
負担付遺贈をした遺言の取消し
民法1027条は、負担付遺贈を内容とする遺言の取消しについて定めた条文です。
民法
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(負担付遺贈に係る遺言の取消し)
第1027条 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。
負担付遺贈とは、遺言によって財産を贈与すること(=遺贈)と引き換えに、受遺者に対して何らかの義務を負わせることをいいます。
受遺者は、負担付遺贈を受け入れる場合には、対応する義務を履行しなければなりません。民法1027条では、相続人が受遺者に対して義務の履行を催告した上で、履行がないときは家庭裁判所に負担付遺贈に係る遺言の取消しを請求できる旨が定められています。
「負担付遺贈に係る遺言」とは、「負担付遺贈を定めた遺言(=遺言書の条文)」という意味です。遺言書全体を指すわけではなく、あくまでも負担付遺贈に関する条文に限られます。
負担付遺贈に係る遺言が取り消された場合、遺贈の目的物は相続人の共有となり、遺産分割によって相続する人を決めることになります。
会社法における「係る」の使用例・条文例
会社法においても、「係る」が用いられている条文があります。その例として、以下の2つを紹介します。
- 会社法における「係る」の使用例
-
① 株主名簿記載事項の記載・記録(会社法132条1項・133条1項)
② 新株予約権の行使(会社法280条1項1号)
株主名簿記載事項の記載・記録
会社法132条および133条は、株主名簿記載事項の記載・記録について定めた条文です。
会社法
(株主の請求によらない株主名簿記載事項の記載又は記録)
第132条 株式会社は、次の各号に掲げる場合には、当該各号の株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
(1) 株式を発行した場合
(2) 当該株式会社の株式を取得した場合
(3) 自己株式を処分した場合
2 株式会社は、株式の併合をした場合には、併合した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。
3 株式会社は、株式の分割をした場合には、分割した株式について、その株式の株主に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録しなければならない。(株主の請求による株主名簿記載事項の記載又は記録)
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第133条 株式を当該株式を発行した株式会社以外の者から取得した者(当該株式会社を除く。以下この節において「株式取得者」という。)は、当該株式会社に対し、当該株式に係る株主名簿記載事項を株主名簿に記載し、又は記録することを請求することができる。
2 略
会社法132条では株主の請求によらない場合、会社法133条では株主の請求による場合について、それぞれ株主名簿記載事項の記載・記録に関するルールが定められています。
会社法132条では、1項から3項においてそれぞれ「○○の株式の株主に係る株主名簿記載事項」という表現が用いられていますが、これは「○○の株式の株主に対応する株主名簿記載事項」という意味です。
会社法133条では、「当該株式に係る株主名簿記載事項」という表現が用いられていますが、これは「当該株式に対応する株主名簿記載事項」という意味です。
なお、株主名簿記載事項については会社法121条で定義されており、株主または株式が特定できれば、対応する株主名簿記載事項も特定できるようになっています。
会社法
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(株主名簿)
第121条 株式会社は、株主名簿を作成し、これに次に掲げる事項(以下「株主名簿記載事項」という。)を記載し、又は記録しなければならない。
(1) 株主の氏名又は名称及び住所
(2) 前号の株主の有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数)
(3) 第1号の株主が株式を取得した日
(4) 株式会社が株券発行会社である場合には、第2号の株式(株券が発行されているものに限る。)に係る株券の番号
新株予約権の行使
会社法280条は、新株予約権の行使に関する事項を定めた条文です。
会社法
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(新株予約権の行使)
第280条 新株予約権の行使は、次に掲げる事項を明らかにしてしなければならない。
(1) その行使に係る新株予約権の内容及び数
(2) 新株予約権を行使する日
2~6 略
同条1項では、新株予約権の行使に当たって明らかにすべき事項が定められています。
同項1号において「その行使に係る新株予約権」という表現が用いられていますが、これは「行使しようとする新株予約権」という意味です。
契約書における「係る」の使用例・条文例
契約書の中でも、「係る」が用いられることがあります。一例として、秘密保持契約書(NDA)の条文例を紹介します。
(秘密情報に係る権利の帰属)
第○条 秘密情報に係る権利(著作権および産業財産権その他の知的財産権、所有権並びにその他の一切の権利を含む)は、すべて開示当事者に帰属する。
上記の条文例は、秘密保持契約に基づいて開示した秘密情報に関する権利が、すべて開示当事者に帰属する旨を明確化する内容になっています。
「秘密情報に係る権利」という表現を用いていますが、これは「秘密情報に関連して発生・存続している権利」という意味です。括弧書きにおいて明示しているとおり、秘密情報に関連する一切の権利が開示当事者に帰属する旨を定めています。
「係る」に関する契約書レビュー時の注意点
契約書において「係る」の文言を用いる際には、その意味が不明確にならないように注意が必要です。
これまで解説したように、法律文書における「係る」の細かい意味内容は文脈によって異なります。「係る」が2通り以上の意味に解釈できる場合は、契約条項が不明確になるので、別の言葉で言い換えるようにしましょう。
また、「係る(=関係する)」と「かかる(=前記の)」を同じ契約書において併用する場合は、漢字表記と平仮名表記を明確に使い分けるべきです。文脈に応じて意味を特定できるケースも多いですが、不明確な部分は解消しておくに越したことはありません。
「係る」に限らず、抽象的な文言を契約書において用いる際には、その意味が明確に特定できるかどうかに注意しなければなりません。
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