みなし残業とは?
残業しない場合や違法になる例を
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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みなし残業(みなし残業制)とは、あらかじめ定めた一定時間分の残業代を定額で支給する制度をいいます。
・みなし残業には、時間外労働の原則月45時間・年360時間の上限が適用されます。
・特別条項付きの36協定においても、年720時間、単月100時間未満が上限と定められています。
・みなし残業制を導入する場合、固定残業代・金額・超過分の支給方法を契約書や就業規則に明記する必要があります。本記事では、みなし残業について、基本から詳しく解説します。
※この記事は、2025年6月30日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
みなし残業とは
みなし残業(みなし残業制)とは、あらかじめ定められた一定時間分の残業代を給与に含めて支給する制度で、正式には「固定残業代制」と呼ばれます。固定残業時間を超えた残業が発生した場合、企業は実労働時間にもとづき法定割増率で計算した残業代を別途支払う必要があります。
制度を適法に運用するためには、労働契約書や就業規則に、固定残業時間・手当額・超過分の支給方法の明確な記載が必要です。ただし、一定時間までの残業代が定額という意味であり、全残業代が固定されるわけではありません。
みなし残業の上限と36協定
みなし残業として設定する固定残業時間は、事前に労使協定(36協定)で定めた時間外労働の上限(月45時間・年360時間以内)を超えてはいけません。
みなし残業制を導入する場合は、36協定の上限を超えないように残業時間を設定し、実態との乖離が生じないよう適切に管理する必要があります。
なお、特別条項付きの36協定がある場合は月45時間・年360時間を超えたみなし残業の設定が可能ですが、その場合でも年720時間、単月100時間未満(休日労働含む)、複数月平均80時間以内(休日労働含む)の全ての上限規制を満たす必要があり、さらにあらかじめ法令所定の事項(発動要件・手続き・対象業務の明示など)を定める必要もあります。企業は制度と実態の整合性に留意した上で適切な時間設定を行い、また求職者や労働者は求人票や契約書でみなし残業時間を確認することが重要です。
みなし残業制と裁量労働制(みなし労働時間制)の違い
みなし残業制は、労働者に支給する給与に、あらかじめ一定時間分の残業代を含める制度です。
一方、裁量労働制は「みなし労働時間制」の一種で、実際の労働時間に関係なく、あらかじめ定められた時間を働いたものとみなす制度のことをいいます。専門業務型裁量労働制の対象業務は、システムコンサルタントやデザイナー、研究開発など20の専門業務に限られ、対象外の業務には適用できません。
求職者は求人票で制度名を確認し、裁量労働制の場合は自分の業務が対象に該当するかを面接で確認しましょう。
裁量労働制については、下記の記事を併せてご覧ください。
みなし残業制と固定残業制の違い
いわゆるみなし残業制と固定残業制は、一般的に同じ制度を指す言葉ととらえられます。法律上は「固定残業代制」と呼ばれており、これらは一定時間分の残業代を定額で支給する仕組みです。
ただし、「みなし」という表現により、裁量労働制と混同される場合があるため注意が必要です。企業は混乱を避けるため「固定残業代制」の名称を使用し、求職者や労働者が制度の実態を契約書や就業規則で確認できる状態にする必要があります。
みなし残業制導入のメリット
みなし残業制の導入には、以下のメリットがあります。
- 残業代の計算の手間が軽減される
- 人件費を把握しやすい
- 給与の安定をアピールできる
- 業務効率が向上する
みなし残業制を適切に導入するためには、事前にメリットを把握しておくことが重要です。
残業代を細かく計算しなくてもいい
みなし残業制のメリットは、毎月の残業代計算が大幅に簡素化されることです。通常の残業代計算では、各労働者の時間外労働・深夜労働・休日労働を区分し、適切な割増率を適用して計算しなければいけません。
そこで、みなし残業制を導入すれば、一定時間分の残業代を固定で支給でき、複雑な計算作業が不要になります。ただし、みなし残業時間を超過した分は別途残業代を支払う義務があるため、勤怠管理は継続して行う必要があります。
残業代は下記の記事で分かりやすく解説しているため、ぜひ参考にしてみてください。
人件費を把握しやすい
みなし残業制導入により、企業の人件費管理が安定します。従来の残業代制では、繁忙期と閑散期で残業時間が大きく変動し、月ごとの人件費にばらつきが生じ、年間予算の策定や資金繰りの計画が困難でした。
みなし残業制は、基本給に加えて一定額の固定残業代を毎月支給するため、人件費の変動幅を抑制できます。人件費の予測可能性が高まることで、企業の財務管理がより安定し、経営判断もしやすくなります。
給与の安定をアピールできる
採用活動において、みなし残業制は給与の安定性をアピールできる制度です。
みなし残業制では、残業の有無に関わらず一定額が支給されるため、給与の下限が保証され、生活設計が立てやすくなります。求人情報に「基本給25万円(月30時間分のみなし残業代5万円を含む)」と明記することで、透明性の高い給与体系を示すことが可能です。
また、実際の残業時間が少ない月でも給与が減額されることがないため、ワークライフバランスを重視する求職者にとって魅力的な条件となります。
業務効率が向上する
みなし残業制は、労働者の業務効率向上と働き方改革の推進に貢献します。従来の残業代制では「残業時間=収入増」となり、一部の労働者が意図的に残業時間を延ばす可能性がありました。
みなし残業制では、残業時間の長短が給与に直接影響しないため、労働者は効率的に業務を完了させようという意識が高まる傾向があります。結果として、業務の優先順位付けや無駄な作業の削減が進み、全体の生産性が向上します。
ただし、長時間労働の抑制効果を最大化するには、36協定の上限時間を守り、労働者の健康管理にも配慮した制度設計が重要です。
みなし残業制導入のデメリット
みなし残業制導入にメリットがありますが、以下のようなデメリットも存在します。
- 残業がない場合も支払いが必要になる
- 長時間労働につながる可能性がある
- 規定時間の残業が必要という誤解が生じやすい
デメリットを把握しておかなければ、みなし残業制をうまく活用できない可能性があります。
残業がない場合も支払いが必要になる
みなし残業制のデメリットは、実際に残業を行わなかった月でも、設定された固定残業代を毎月支払う必要があることです。固定残業代制は「一定時間分の残業代を定額で支給する」制度であるため、実労働時間に関係なく毎月一定額を支払う義務が発生します。
しかし、みなし残業制を適切に運用すれば、制度の明確化によって未払い残業代請求や訴訟などのリスクを回避でき、長期的にコストの見直しや法的安定性を得られる利点があります。
長時間労働につながる可能性がある
みなし残業制の不適切な運用は労働者の労働時間管理が曖昧になり、長時間労働や健康被害のリスクを高める恐れがあります。
「既に残業代を支払っているから」と勤怠管理を怠ったり、みなし残業時間内であれば何時間働いても同じといった誤った認識が広まったりすることで、労働時間の適切な把握と管理ができなくなるためです。
また、36協定の上限を超える長時間労働が常態化するリスクもあり、労働基準法違反となる可能性も高まります。企業は勤怠管理を徹底し、みなし残業時間を超える場合の追加残業代支払いと、労働者の健康管理を適切に行う体制整備が不可欠です。
規定時間の残業が必要という誤解が生じやすい
みなし残業制を正しく理解していない場合、「設定された時間分は必ず残業しなければならない」という誤解が生じ、労務トラブルの原因になります。
「みなし残業30時間込み」の表記や説明から、労働者が「毎月30時間は残業する義務がある」「30時間未満の残業では給与が減額される」と間違った認識を持つ可能性があります。また、管理職も同様の誤解により不適切な労務管理を行うおそれがあります。
企業は制度導入時に労働者への十分な説明と研修を実施し、実際の残業時間が少なくても問題ないことの周知が重要です。
みなし残業制を適法に導入するための要件
みなし残業制を適法に導入するためには、以下の要件を確認しておきましょう。
- 基本給とみなし残業代が区別されている
- みなし残業代の対価性を明確にしている
- 不利益な変更の場合に労働者の同意を得ている
- みなし残業代について就業規則や雇用契約書に明記している
トラブルを避けて適切に導入するためにも、各要件を確認していきましょう。
基本給とみなし残業代が区別されている
みなし残業制を運用する際は、基本給と固定残業代を明確に区別することが労働基準法上必須の要件です。雇用契約書・給与明細・就業規則には、固定残業代の金額と何時間分の残業に相当するか明示しなければなりません。
区別が不明確な場合、固定残業代として法的に認められず、制度が無効と判断される可能性があります。人事担当者は給与計算システムや給与明細の記載方法を見直し、透明性の高い賃金制度を構築することが求められます。
みなし残業代の対価性を明確にしている
固定残業代制度では、支給する手当が具体的に何時間分の残業に対する対価なのかを明確に示す必要があります。たとえば、「月30時間分の時間外労働に対し、固定残業代5万円を支給する」のように、具体的な時間数と金額の対応関係の記載が必要です。
深夜労働や休日労働を含める場合は「固定残業代には深夜および休日労働を含む」などと明記し、それぞれの割増率を考慮して法定額を下回らないように算定する必要があります。さらに、超過分は労働基準法37条にもとづく割増率を別途支給しなければなりません。
固定残業時間の設定には、過去の残業実績や36協定の上限時間との整合性を踏まえることが重要です。
不利益な変更の場合に労働者の同意を得ている
みなし残業制への変更が労働者にとって不利益となる場合、企業は労働契約法9条にもとづき、労働者一人ひとりの同意取得が法的に必要です。同意なく強行した場合、労働契約法違反として法的リスクを負うことになります。
適切な手続きとしては、変更前後の給与シミュレーションを労働者に提示し、透明性を確保することが重要です。また、段階的な移行期間を設けたり、一定期間の保障措置を講じたりすることで、労働者の理解と納得を得やすくなります。
人事部門は労務管理の専門家と連携し、適法な変更手続きを慎重に進めることが求められます。
みなし残業代について就業規則や雇用契約書に明記している
みなし残業制の詳細な内容を就業規則と雇用契約書の両方に明記し、全労働者に適切に周知することが労働基準法上の義務です。
労働基準法15条では賃金に関する事項の明示が、89条では常時10人以上の労働者を使用する事業場において、就業規則への賃金決定方法の記載と届出が義務付けられています。
就業規則には固定残業代の時間・金額・超過分の取り扱いについて具体的な規定を設ける必要があります。雇用契約書にも、基本給・固定残業代の時間数と金額・超過分の扱い・計算方法を明確に記載することが重要です。
記載が不十分な場合、制度自体が無効と判断されるリスクがあります。就業規則の変更手続きは労働基準監督署への届出が必要なため、社会保険労務士などの専門家に相談し、適切な文言で整備を進めましょう。
みなし残業が違法になる具体例
みなし残業が違法になる具体例は、以下のとおりです。
- 基本給が最低賃金を下回っている
- みなし残業時間を超過した分の残業代を支払っていない
- 給与明細にみなし残業代が記載されていない
- 36協定違反となる月45時間超えの残業などを設定している
みなし残業制の導入で違法にならないためにも、事前に具体例を確認することが推奨されます。
基本給が最低賃金を下回っている
みなし残業制度の違法ケースのひとつが、基本給部分が最低賃金を下回っている場合です。
みなし残業代を除いた基本給部分が都道府県の最低賃金を下回っている場合、労働基準法違反となり、みなし残業制度自体が無効となる可能性があります。最低賃金法では、労働者に支払う賃金は各都道府県が定める最低賃金額以上でなければならないと規定されており、残業代は基本給とは別の割増賃金とされています。
企業は各地域の最低賃金を確認し、基本給部分が最低賃金を上回るよう設定する必要があります。一方で、労働者も自身の基本給を時給換算し、確認することが重要です。
みなし残業時間を超過した分の残業代を支払っていない
みなし残業制度では、設定されたみなし残業時間を実際の労働時間が超えた場合、企業は超過分の残業代を別途支払う義務があります。超過分を支払わないと労働基準法違反となり、未払い残業代請求の対象です。
みなし残業制は「一定時間分の残業代を定額で支給する」制度です。そのため、実際の残業時間が設定を超えた場合は、法定割増率(通常1.25倍、60時間超の部分は1.5倍、深夜労働は0.25倍加算、休日労働は1.35倍)で計算した残業代を追加で支払う必要があります。
給与明細にみなし残業代が記載されていない
労働契約書や給与明細にみなし残業代の時間数と金額が明記されていない場合、制度自体が無効と判断されるリスクがあります。その場合、支払われていた固定残業代が基本給の一部と見なされ、残業代を改めて計算した結果、未払い残業代を請求される可能性があります。
労働基準法では、固定残業代制度を有効とするために、基本給と固定残業代の区別、対象時間数、金額を明確にする必要があります。記載がない場合、労働者の同意が得られていないものとみなされるため、注意が必要です。
そのため、企業は労働契約書と給与明細に基本給額、みなし残業時間数、みなし残業代金額、超過分の支払い方法などを正確に記載することが重要です。
36協定違反となる月45時間超えの残業などを設定している
みなし残業時間が36協定の上限を超える設定の場合、労働基準法違反となり制度自体が無効となる可能性があります。
労働基準法では36協定により、時間外労働の上限が原則月45時間・年360時間と定められています。したがって、みなし残業制度も法的枠組み内での運用が必要です。
特別条項付き36協定がある場合でも、年720時間、単月100時間未満、2~6カ月平均80時間以内と制限があり、制限を超える設定は認められません。上限を超える設定は長時間労働を前提とした違法な制度となるため、企業は36協定の範囲内でみなし残業時間を設定する必要があります。
みなし残業が違法だった場合のペナルティやリスク
運用しているみなし残業が違法だった場合、以下のようなペナルティやリスクが発生する場合があります。
- 刑事罰の対象になる
- 是正勧告を受ける
- 労働者から労働審判の申立てを受ける可能性がある
- 労働者から民事訴訟を提起される可能性がある
リスクを最小限に抑えて的確な対処をできるようにするためにも、以下では各リスクと対処法を確認していきましょう。
刑事罰の対象になる
みなし残業制度が違法と判断された企業は、労働基準法37条違反として6カ月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金という刑事罰の対象です。
悪質な違反があった場合は、企業代表者や人事担当者が刑事責任を問われる可能性があります。実際に、近年では労働基準法違反により書類送検される企業も増加しているため注意が必要です。
また、厚生労働省は重大な労働基準関係法令違反企業の企業名を公表する制度を運用しており、社会的信用の失墜につながる可能性があります。
企業は定期的な労務監査を実施し、社会保険労務士や弁護士などの専門家による制度診断を受けることで、違法性のリスクを事前に回避することが重要です。
是正勧告を受ける
労働基準監督署は労働者からの申告や定期監督により違法なみなし残業制度を発見した場合、企業に対して是正勧告を発出します。
是正勧告は行政指導の一種であり法的拘束力はありません。しかし、指定期日までに制度の改善と報告書の提出が義務付けられます。従わない場合は、刑事告発につながる可能性があるため、迅速かつ適切な対応が必要です。
人事担当者は専門家と連携し、根本的な労務管理制度の見直しを行うことが重要です。
労働者から労働審判の申立てを受ける可能性がある
違法なみなし残業制度により不利益を受けた労働者は、迅速な紛争解決を求めて労働審判を申し立てる可能性があります。
労働審判は原則として3回以内の期日で審理を終える制度です。裁判官1名と労働関係の専門的知識を有する審判員2名により、労働審判委員会が審理を行います。
調停が成立しない場合は審判が下され、企業が不服の場合は通常の民事訴訟に移行します。労働審判の特徴は迅速性であり、企業は短期間で法的対応を求められるため、労働法に精通した弁護士への依頼と適切な証拠収集が不可欠です。
労働者から民事訴訟を提起される可能性がある
違法なみなし残業制に対して労働者が民事訴訟を提起した場合、企業は極めて深刻な法的リスクに直面します。
民事訴訟では審理期間に制限がなく、詳細な事実認定と法的判断が行われるため、労働者が勝訴した場合の企業負担は多額になります。
判決が確定すれば法的拘束力があるため、企業は支払いを拒否できません。労働法専門の弁護士チームを組成し、全社的な対応体制を構築することが重要です。また、社内の労務管理制度を抜本的に見直し、コンプライアンス体制の強化による企業信頼の回復を図る必要があります。
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参考文献
厚生労働省「悩みや不安・ 疑問は労働条件相談ほっとラインへ」
監修












