給与明細とは?
交付すべきケースや交付の方法・
記載事項の見方などを分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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「給与明細」とは、企業が従業員に対して支払った給与等の明細を記載した書面です。
給与等を支払う企業は、支払日までに給与明細を交付する必要があります。書面での交付が原則ですが、従業員の承諾を得れば電子交付も認められています。給与明細には、主に給与等の金額や控除された金額、勤怠の実績などが記載されています。給与明細を受け取ったら、これらの記載事項に誤りがないかどうかを確認しましょう。
この記事では給与明細について、交付すべきケースや交付の方法、記載事項などを分かりやすく解説します。
※この記事は、2025年4月23日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名を次のように記載しています。
- 法…所得税法
- 令…所得税法施行令
- 規則…所得税法施行規則
目次
給与明細とは
「給与明細」とは、企業が従業員に対して支払った給与等の明細を記載した書面です。
企業が給与明細を交付すべきケース
居住者に対し国内において給与等の支払いをする者は、支払いを受ける者に対して給与明細を交付しなければなりません(法231条1項)。
具体的には、企業が従業員に対して給与を支払うときや、役員に対して役員報酬を支払うときなどに給与明細を交付する必要があります。
「居住者」とは、国内に住所を有し、または現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいいます(法2条1項3号)。
ただし、国家公務員または地方公務員については、日本国籍を有しない者や国外の永住者である者を除き、国内に住所を有しない期間についても、国内に住所を有するものとみなして居住者であるかどうかを判定します(法3条1項、令13条)。
「給与等」とは、俸給・給料・賃金・歳費・賞与、およびこれらの性質を有する給与をいいます(法28条1項)。企業に雇用されている従業員が受け取る給与(賃金)のほか、役員が受け取る報酬なども給与等に当たります。
給与明細の交付時期
給与明細は、給与等の支払いの際に交付しなければなりません(規則100条1項)。事後的に交付することは認められず、給与等を支払うのと同日までに交付する必要があります。
しかし実際には、給与明細の交付を忘れてしまうことがあるかもしれません。もし給与明細を交付していないことに気づいたら、気づいた段階ですぐに交付しましょう。
給与明細の交付方法|紙の給与明細とWeb給与明細
給与明細は、紙で交付するのが原則です(法231条1項)。
ただし、支払いを受ける者の承諾を得れば、給与明細に記載すべき事項を電磁的方法で提供することも認められます(=Web給与明細。同条2項・3項)。
Web給与明細を発行する際には、あらかじめ給与等の支払いを受ける者に対して以下の事項を示し、書面または電磁的方法で承諾を得なければなりません(令356条1項、規則100条4項・95条の2)。
① 電子情報処理組織(=Web給与明細システムなど)を使用する方法
② Web給与明細の記載情報を受信者ファイルに記録する方式(=ダウンロードの方法など)
給与明細の記載事項と見方|支給・控除・勤怠等の各項目を解説
給与明細には、主に以下の項目などを記載します。各項目の概要を解説します。
- 給与等の金額
- 源泉徴収された所得税の額
- 特別徴収された住民税の額
- 控除された社会保険料の額
- その他の控除された金額
- その他の記載事項
給与等の金額
給与明細には、事業主が従業員などに対して支払う給与等の金額が記載されます。給与等には、以下のような項目が含まれています。
- 給与等の主な内訳
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① 基本給
ベースとなる給与であり、毎月必ず支払われます。
② 残業手当(時間外手当)
残業などをした場合に支払われます。以下の項目が含まれていますが、項目ごとに分けて記載されていることもあります。
・法定内残業手当
→所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない残業(=法定内残業)に対して支払われます。割増率は適用されません。
※所定労働時間:企業が定める労働時間をいいます。
※法定労働時間:法律によって定められた労働時間の上限をいいます。原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間です。
・時間外労働手当
→法定労働時間を超える残業(=時間外労働)に対して支払われます。通常の賃金に対して、月60時間以内の時間外労働には25%以上、月60時間を超える時間外労働には50%以上の割増率が適用されます。
・休日手当
→法定休日の労働に対して支払われます。通常の賃金に対して35%以上の割増率が適用されます。
※法定休日:法律によって付与が義務付けられた休日をいいます。原則として1週間につき1日のみです。法定休日ではない休日(=法定外休日)の労働には、法定内残業手当または時間外労働手当が支払われます。
・深夜手当
→午後10時から午前5時までに行われる労働に対して支払われます。通常の賃金に対して25%以上の割増率が適用されます。
③ 通勤手当
通勤に要する交通費に充てるために支払われます。一定額までは非課税とされていますが、社会保険料の計算に当たっては全額が計算対象となります。
参考:国税庁ウェブサイト「通勤手当の非課税限度額の引上げについて」
④ その他の手当など
上記のほか、以下のような手当などが支払われることがあります。
・役職手当
・家族手当
・住居手当
・資格手当
・立替金の精算
など
源泉徴収された所得税の額
事業主が従業員などに対して支払う給与等からは、所得税(復興特別所得税を含みます。以下同じ)が源泉徴収されます。源泉徴収された所得税の額は、給与明細に記載されます。
給与等の支給額が多ければ多いほど、源泉徴収される所得税の額は高くなります。また、扶養親族等の数によっても源泉徴収額が変わることがあります。詳しくは「給与所得の源泉徴収税額表」をご参照ください。
所得税の源泉徴収は毎月行われますが、1年間の所得に応じた税額と、源泉徴収された所得税の総額の間に差が生じることがあります。その場合は、年末調整によって差額を精算します。
特別徴収された住民税の額
給与等から所得税の源泉徴収を行う事業主は、原則として個人住民税の特別徴収を行わなければなりません。
原則として前年の所得の10%に相当する額の個人住民税が、6月から翌年5月までの12回に分けて特別徴収されます。特別徴収された個人住民税の額は、給与明細に記載されます。
ただし、以下のいずれかに該当する場合は、特別徴収を行わずに普通徴収(=従業員などが自ら住民税を納めること)とすることが認められています。普通徴収の場合は、個人住民税の特別徴収額が給与明細に記載されません。
- 普通徴収が認められる理由
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① 事業所の総従業員数が2人以下
※他の区市町村を含む事業所全体の受給者の人数で、以下の②~⑥の理由に該当して普通徴収とする対象者を除いた従業員数② 他の事業所で特別徴収をされている
※2カ所以上の事業所に勤務している場合は、原則として主たる給与の支払いを受けている勤務先で特別徴収が行われます。③ 給与が少なく税額が引けない
④ 給与の支払が不定期
(例)給与の支払が毎月でない⑤ 事業専従者
※個人事業主から給与等の支払いを受けている場合のみ⑥ 5月末日までに退職する者、または5月末日までの退職を予定している者
控除された社会保険料の額
従業員などが勤務先の社会保険に加入している場合は、支払われる給与等から以下の社会保険料が控除されます。控除された社会保険料の額は、給与明細に記載されます。
- 社会保険料の内訳
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① 健康保険料・介護保険料
健康保険は、医療費を補助する社会保険です。原則として、医療機関や薬局で支払う費用の7割が健康保険から補助されます。
介護保険は、65歳以上の人や、40歳以上65歳未満で特定疾病(がんなど)を患っている人の介護費用をカバーする社会保険です。要介護認定を受けた人が介護サービスを利用する際、7~9割の費用補助を受けられます。
健康保険料および介護保険料の額は、以下の式によって計算します。保険料率は都道府県によって異なります。給与等から控除されるのは、保険料額の半額(=従業員負担分)のみです。
保険料額=標準報酬月額×保険料率
※例えば令和7年度の東京都の保険料率は、介護保険の被保険者でない場合は9.91%、介護保険の第2号被保険者(=40歳以上65歳未満の医療保険加入者)である場合は11.50%です。
参考:協会けんぽウェブサイト「都道府県毎の保険料額表」
なお、65歳以上の人は介護保険の第1号被保険者となり、介護保険料は市区町村が本人から徴収するため、給与等からの控除は行われません(健康保険分のみ控除されます)。
また、75歳以上の人は後期高齢者医療保険の対象となることに伴い、健康保険の被保険者ではなくなるため、健康保険分も給与等から控除されなくなります。
② 厚生年金保険料
厚生年金保険は、老後の生活を支える年金を提供する社会保険です。被保険者は原則として65歳以降、老齢厚生年金を受け取ることができます。
健康保険料および介護保険料の額は、以下の式によって計算します。保険料率は18.300%です。給与等から控除されるのは、保険料額の半額(=従業員負担分)のみです。
保険料額=標準報酬月額×保険料率
参考:協会けんぽウェブサイト「都道府県毎の保険料額表」
③ 雇用保険料
雇用保険は、失業中の労働者の生活を保障することを目的とした保険です。
雇用保険料の額は、以下の式で計算します。雇用保険料率は、事業の種類に応じて決まります。
令和7年度では、一般の事業の雇用保険料率は1.45%です。そのうち0.55%が労働者負担、0.9%が事業主負担とされています。給与等から控除されるのは、労働者負担分のみです。
雇用保険料額=賃金総額×雇用保険料率
参考:厚生労働省ウェブサイト「雇用保険料率について」
その他の控除された金額
所得税・住民税・社会保険料のほか、以下の金額などが給与等から控除されることがあります。控除された額は、給与明細に記載されます。
・労働組合費
・財形貯蓄
など
ただし、労働者が受け取る賃金からこれらの控除を行う場合は、労使協定の定めが必要です(労働基準法24条1項)。
その他の記載事項
上記のほか、給与明細には以下のような事項が記載されることがあります。
・勤怠の実績
・過納額の還付
・定額減税
など
給与明細を受け取ったときに確認すべきポイント
給与明細を受け取った時は、まず勤怠が正しく反映されているかどうかを確認しましょう。
欠勤日数が実際よりも多く計上されている場合、有給休暇を取得したのに欠勤扱いになっている日がある場合、残業時間が実際よりも少ない場合などには、給与等の支給額が間違っている可能性があるので注意が必要です。
また可能であれば、勤怠の実績に応じて支給額と控除額が正しく計算されているかどうかも確認することが難しいです。支給額や控除額について疑問が生じたものの、自分では判断するのが難しい場合は、社会保険労務士や弁護士に相談してみましょう。
企業が交付した給与明細を保存すべき期間
企業が従業員などに対して交付した給与明細を保存することは、法律上義務付けられていません。
しかし、給与等は税務調査の対象となることがあります。税務調査官から求められたら提出できるように、給与明細を一定期間保存しておくことが望ましいです。
税務調査は最長7年間遡られることがあるので、事業年度が終了してから7年間は給与明細を保存しておくとよいでしょう。
給与明細を交付しない企業に対する罰則
従業員などに対して給与等を支払う際、給与明細を交付していなかったことが判明すると、違反者は「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」に処されるおそれがあります(法242条7号)。
また、法人が従業員などに対して支払う給与等について、給与明細を交付していなかったことが判明すると、法人にも「50万円以下の罰金」が科されることがあります(法243条1項)。
給与等を支払う際には、給与明細を確実に交付しましょう。
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