【2025年施行】AI新法とは?
AIの研究開発・利活用を推進する法律を
分かりやすく解説!
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- この記事のまとめ
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2025年6月4日に、AIの研究開発・利活用を適正に推進するAI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が公布されました。
AI新法は、「AIに関するイノベーション促進とリスクへの対応の両立」という観点から、内閣にAI戦略本部を置き、AI基本計画(人工知能基本計画)として、政府がAIの研究開発および活用の推進に関する基本的な計画を策定した上で、必要な情報提供要請や指導等を行うことを定めています。
この記事では2025年に公布されたAI新法について、基本から分かりやすく解説します。
※この記事は、2025年6月4日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
※この記事では、法令名等を次のように記載しています。
- AI新法…人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律
目次
AI新法とは
2025年6月4日に、AIの研究開発・利活用を適正に推進するAI新法(人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する法律)が公布されました。
公布日は2025年6月4日、施行日は原則として公布日ですが、第3章および第4章は公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日です。
AI新法の背景
「ハードローのEUとソフトローの米国」構造が崩れる
かつては、EUが「EU AI法」という、一部のAIを禁止したり、ハイリスクとされる類型のAIに厳しい規制を設ける等、いわゆるハードローによるAI規制を進めました。それに対してイノベーションを阻害するのではないかなどと懐疑的であった米国が、日本などと組んで、ガイドライン等によるソフトローベースでAIを規律し、それがAI開発・利活用の推進に資すると考えていました。
しかし、バイデン政権下の2023年10月に米国もいわゆるAIに関する大統領令を公表し、一定の国防等に関係するAIに関する法規制に踏み切りました。これにより、「ハードローのEUとソフトローの米国」という構造が崩れ、まさに日本だけがソフトローでいいか、という問題意識が強まりました。
AI事業者ガイドライン等のガイドラインで不足する点への対応の必要性
そのような背景を踏まえ、日本でもすでに「AI事業者ガイドライン」(2025年時点ではAI事業者ガイドライン第1.1版(令和7年3月28日 公表)が最新)や「広島AIプロセスに関する成果文書」は存在したものの、これらのガイドラインで不足する点について、法的対応を検討することが必要であると認識されました。自民党AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム有志が、2024年2月に「責任あるAI推進基本法(仮)」を提案する等、日本におけるAIに関する法制度の整備に向けたアプローチが開始されました。
AI制度研究会の議論と中間とりまとめ
このような状況において、同年7月にはAI制度研究会が設立され、同月8月の初会合以降、さまざまな議論が行われました。この過程で筆者も有識者として中国のAI法制を踏まえた日本の立法の方向性について発表する機会をいただいています。
このような議論を踏まえ、中間取りまとめ案が2024年12月に公表され、パブリックコメントにかけられた後、2025年2月に「中間取りまとめ」が公表されました。
中間取りまとめは、AI新法の背景を理解する上で非常に重要なものですが、このうち多くの読者の皆様に注目いただきたいことは、その9頁図3が「AI のもたらし得るリスクの例に関する整理」を行っていることです。つまり、秘密、著作権、知財、プライバシー等の重要なリスクと想定事例、それに対応した法令等を列挙しており、AI新法が制定される以前から、既に相当程度AIのリスクに対応した既存の法令が存在することが分かります。
その上で、「イノベーション促進とリスクへの対応の両立を確保するため、法令とガイドライン等のソフトローを適切に組み合わせ、基本的には、事業者の自主性を尊重し、法令による規制は事業者の自主的な努力による対応が期待できないものに限定して対応していくべき」「既存の個別の法令の存在する領域においては、……まずは当該法令の枠組みを活用しつつ対応すべきである。」
「仮に法律上の規制による対応を行う場合には、事業者の活動にもたらす影響の大きさを考慮しつつ……AIのもたらすリスクを踏まえた上で、真に守る必要のある権利利益を保護するために必要な適用内容とすべき」という考え方が示されています(10頁)。
要するに、厳しい規制を行うことでAIの開発・利用推進の足枷になることを懸念する反面、リスクに対応する適切な規律が存在しない状況もまた避けるべきであり、「イノベーション促進とリスクへの対応の両立」という観点から、既存の法令による対応をまずは優先した上で、今後行う立法(即ち、AI新法)においては、最低限の「追加対応」のみを行うという姿勢が明確にされています。
そのような前提の下、「全体を俯瞰する政府の司令塔機能の強化、戦略の策定、また、安全性の向上のため、透明性や適正性の確保等が求められており、必要に応じて制度整備することが適当」とされました(13頁)。
このようなAI制度研究会における議論を踏まえて制定されたのがAI新法です。
AI新法の概要
目的
AI新法は、日本のAI開発・活用は遅れており、多くの国民がAIに対して不安を感じているという現状に鑑み、イノベーションを促進しつつ、リスクに対応するため、既存の法令に加え、新たな法律が必要だという観点で制定されました。
そこで、国民生活の向上、国民経済の発展が目的とされ(AI新法1条参照。以下AI新法については法令名省略)、経済社会および安全保障上の重要性に鑑みた研究開発力の保持、国際競争力の向上、基礎研究から活用までの総合的・計画的な推進、適正な研究開発・活用のため透明性の確保等、および、国際協力において主導的役割を果たすことを理念としています(3条参照)。
このような世界のモデルとなる制度を構築し、国際指針に則り、イノベーション促進とリスク対応を両立することで、最もAIを開発・活用しやすい国を目指そうとしています。
手段
このような目的を達成するため、AI戦略本部という司令塔が設立され、AI基本計画という基本方針が策定され、一連の基本的施策、責務、見直し規定等が定められています。
なお、ここでいうAI(人工知能関連技術)は「人工的な方法により人間の認知、推論及び判断に係る知的な能力を代替する機能を実現するために必要な技術並びに入力された情報を当該技術を利用して処理し、その結果を出力する機能を実現するための情報処理システムに関する技術をいう。」と定義されています(2条)。これはかなり幅広い概念であり、いわゆる生成AIに限らず、それ以外の類型のAIも広く含んでいます。
AI新法のポイントとなる重要条項
AI戦略本部
まず、内閣に、AI戦略本部(人工知能戦略本部)が置かれます(19条)。AI戦略本部はAI基本計画の案の作成および実施の推進や、AIの研究開発および活用の推進に関する施策で重要なものの企画および立案ならびに総合調整を実施します(20条)。
つまり、AI戦略本部は政府のAI政策の司令塔です。既にAI戦略本部は存在していましたが、AI新法により法律レベルで明記されることとなりました。
AI基本計画
次に、AI基本計画(人工知能基本計画)として、政府がAIの研究開発および活用の推進に関する基本的な計画を策定することになりました(18条1項)。
これは政府のAI政策の基本方針を定めるものであり、AIの研究開発および活用の推進に関する施策についての基本的な方針、AIの研究開発および活用の推進に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策、AIの研究開発および活用の推進に関する施策を政府が総合的かつ計画的に推進するために必要な事項等が規定されます(18条2項)。
基本的施策
基本的施策としては、以下のような内容が挙げられます。
- AI新法の基本的施策
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・研究開発の推進(11条)
・施設等の整備・共用の促進(12条)
・人材確保(14条)
・教育振興(15条)
・国際的な規範策定への参画(17条)
・適正性のための国際規範に即した指針の整備(13条)
・情報収集、権利利益を侵害する事案の分析・対策検討、調査、事業者・国民への指導・助言・情報提供(16条)等
すなわち、EU AI法のような一定の類型のAIの禁止等を内容とするのではなく、あくまでもAIの研究開発や利活用を推進するため、それに必要なさまざまな政策を実施することが主たる施策とされています。
ただし、国際的ルールメイキングへの参画(17条)、ガイドライン整備(13条)、そして後述の情報収集、権利利益を侵害する事案の分析・対策検討、調査、事業者・国民への指導・助言等(16条)は、ベンダユーザ双方とも関係が深い内容となっており、注視が必要です。
責務
国、地方公共団体、研究開発機関、事業者(活用事業者)、国民の責務が規定されています(4条~8条)。また、関係者間の連携強化(9条)が必要とされ、事業者は国等の施策に協力しなければならないこと(7条)が重要です。とはいえ、それに対して違反した場合に直ちに行政処分や罰則等のペナルティがある訳ではないという意味では、ソフトなものと評価することができます。
見直し規定
附則2条は「政府は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する諸施策についての国際的動向その他の社会経済情勢の変化を勘案しつつ、この法律の施行の状況について検討を加え、必要があると認めるときは、その結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする。」として、必要な場合には所要の措置を講じるとしています。3年ごと見直し等の規定を入れる法律も最近は増えていましたが、ここでは、具体的な期限を切らず、情勢を勘案しつつ適時に見直しをすることが求められています。
事業者が注目すべきポイント
第一弾と理解し、今後の制度整備に注目
事業者としては、(上記の附則2条に加え)10条が「国は、人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講ずるものとする。」として、今後必要となれば、AI新法の改正にとどまらない、既存の法令の改正等の法整備を行う(法制上の措置を講じる)としていることに注目すべきです。
例えば、経済安全保障については、経済安全保障推進法制定の後、重要経済安保情報保護活用法が制定され、本年は能動的サイバー防御を導入するサイバー対処能力強化法が制定される等、いわば「小さく産んで大きく育てる」スタイル最初の法令が制定された後で一連の法令が制定されていく姿が見られます。
AIについても、今後さまざまな法制度が導入される可能性があることを踏まえながら、その第一弾としてAI新法を理解しましょう。例えば、2025年6月時点では、産業構造審議会 知的財産分科会において、特許法・意匠法の見直し等が進められています。
なお、そこでいう今後整備され得る法制度は、必ずしも法律という形をとるとは限りません。例えば、2025年5月に経済産業省が公表した「肖像と声のパブリシティ価値に係る現行の不正競争防止法における考え方の整理について」は、現行法である不正競争防止法をどのように(AIが生成した)肖像や声について適用していくかを整理しているところ、このような現行法の解釈の公表という形をとる可能性があります。
指導・助言に注目
16条は「国は、国内外の人工知能関連技術の研究開発及び活用の動向に関する情報の収集、不正な目的又は不適切な方法による人工知能関連技術の研究開発又は活用に伴って国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析及びそれに基づく対策の検討その他の人工知能関連技術の研究開発及び活用の推進に資する調査及び研究を行い、その結果に基づいて、研究開発機関、活用事業者その他の者に対する指導、助言、情報の提供その他の必要な措置を講ずるものとする。」として、情報収集、調査、指導・助言等を定めています。
実際に、どのような情報収集、調査、指導・助言がされるかは具体的な事案によりますが、「国民の権利利益の侵害が生じた事案の分析」が例示されていることから、例えば、生成AIを原因とする大規模な情報漏洩インシデントその他の事案が生じた場合に、生成AIベンダ等に対して情報提供要請や対応要請等が行われる可能性があります。
ここで、ベンダ(活用事業者)は7条により国の施策に協力する責務を負います。それにより、この助言・指導が実効的なものとなり、政府として対応を行うために必要な情報を適時に吸い上げることができ、また政府としてベンダに対して求める事項をベンダが忠実に履行することが期待されています。
また、ユーザを含む国民も政府の施策に協力するよう努める責務を負います(8条)。
ただし、国際適用(域外適用)に関する規定が存在しないことから、海外ベンダがこの要請を拒否した場合にどこまでAI新法上対応できるかは不明であり、施行後において、AI新法がどこまで実効性があるかが問われるところといえます。
外国の動向にも注目
なお、米国のトランプ政権は、州によるAI規制を禁止する法案を提出する等、バイデン政権と異なる動きを見せています。また、EUはAI Actに関する法令遵守を現実的に確保するための政策等を2025年4月9日に公表しました。このような外国の動向にも注目すべきでしょう。
AI新法 に関連する資料を無料でダウンロード ✅ 10分で読める!2025年施行予定の法改正まとめ |
参考文献
AI 戦略会議・AI 制度研究会「中間とりまとめ」(2025 年2月4日)