通知条項とは?
意味や例文・通知を義務付けるべき
事項などを解説!
- この記事のまとめ
-
「通知条項」とは、契約に影響を及ぼし得る重大な事由(事実)が発生した場合に、相手方に対して通知する義務を定める条項です。
通知条項を定める目的は、契約に影響を及ぼす事由について情報共有を行い、協力して迅速な対応を取ることにあります。また、通知事由が当事者の信用不安などに関わる場合には、相手方に契約解除や損害賠償請求ができるように備えておくことも、通知条項の目的の一つです。
通知条項は、相手方の信用不安事由や、取引の前提となる事実の変更が発生した際、確実に通知が行われるような内容とする必要があります。また、契約解除や損害賠償請求との連動を意識して、他の契約条項も併せてチェックすることが大切です。
今回は契約上の通知条項について、意味や例文・通知を義務付けるべき事項などを解説します。
※この記事は、2022年8月24日に執筆され、同時点の法令等に基づいています。
目次
契約における通知条項とは?意味を解説
「通知条項」とは、契約に影響を及ぼし得る重大な事由(事実)が発生した場合に、相手方に対して通知する義務を定める条項です。
<通知条項の例>
などを通知事項として列挙するのが一般的です。通知事項が発生したことを知った当事者は、相手方に対してその事実を速やかに通知することが求められます。
一般条項である「通知条項(Notice Clause)」との違い
なお契約書では、契約に基づく通知を行う際の方法や連絡先を定める「通知条項(Notice Clause)」が定められることがあります。
- 一般条項である通知条項(Notice Clause)の例文
-
1.本契約の当事者に対する本契約に基づく通知、承諾その他の連絡は、全て書面によらなければその効力を生じないものとし、名宛人の以下の通知先(以下「通知先」という)を宛先として、書留速達郵便、ファクシミリ又は電子メールによる送信又は直接交付にてこれを行う。
(甲宛):○○株式会社
宛先: 東京都○○
TEL: 03-○○
FAX: 03-○○
電子メール:…@…
(乙宛):△△株式会社
宛先: 東京都○○
TEL: 03-○○
FAX: 03-○○
電子メール:…@…2.前項に基づく通知その他の連絡は、以下の時点において効力が発生するものとする。
⑴書留速達郵便にて郵送された場合
名宛人の通知先を宛先として、当該通知その他の連絡が発送された日の翌営業日⑵ファクシミリ又は電子メールにより送信された場合
受信が確認された時点⑶直接交付された場合
交付時点3.第1項に基づく通知その他の連絡がファクシミリにより送信された場合は、送信者は送信完了の確認を受領し、記録するものとする。また、当該連絡がファクシミリ又は電子メールにより行われた場合は、受取人たる相手方が合理的な理由により正本の交付を要求する場合、事後に正本を相手方に交付しなければならない。
4.本契約締結後、いずれかの当事者がその通知先を変更し、これを本条に従って他の当事者に通知した場合、当該通知の効力発生時点以降、通知先は当該変更後の通知先とする。
一般条項である「通知条項(Notice Clause)」は幅広い契約に定められますが、本記事では重大事由の発生に関する通知を義務付ける「通知条項」に絞って解説します。
契約で通知条項を定める目的
契約で通知条項を定める目的は、主に以下の3点です。
契約に影響を及ぼす事由について情報共有を行うため
契約に重大な影響を及ぼす事由が発生した場合、放置していると当事者双方に甚大な損害が発生するおそれがあります。それなのに、当事者の一方だけがその事由の発生を知っていて、他方は知らないという状況は公平ではありません。
通知条項を定める目的の一つは、重大な事由の発生について情報共有を義務付けて、当事者間の情報格差をなくす点にあります。
事態の改善に向けて、協力して迅速に対応するため
第三者からのクレームをはじめとして、契約当事者が協力して事態を改善すべき場合にも、当事者間の情報共有を適切に行うことが重要です。
当事者が協力して、迅速に事態の改善対応に当たるためには、通知条項に基づく情報共有がベースとなります。
当事者に契約解除や損害賠償請求の機会を与えるため
通知条項の非常に重要な役割として、契約解除や損害賠償責任の要件となる事実が発生したことにつき、当事者に知る機会を与える点が挙げられます。
契約解除や損害賠償の請求を受ける側は、その事実が発生したことを、相手方に対して隠蔽したいという意図が働きやすいです。しかし、通知条項を設けておけば、これらの事実を隠蔽することは契約違反となります。
不都合な事実の隠蔽を許さず、開示を義務付けることによって当事者間の公平を図ることが、通知条項の大きな役割です。
通知条項が定められる契約の例
通知条項は、
に定められるケースが多いです。具体的には、以下の契約が例として挙げられます。
通知条項の記載例(例文)
- (重大事由の発生に関する通知を義務付ける)通知条項の例文
-
本契約の当事者は、自ら又は本契約に関して次の各号のいずれかに該当する事由が発生し、又は発生するおそれが生じたことを認識したときは、相手方に対して速やかにその旨を通知しなければならない。
⑴会社支配権の変動
⑵解散、合併、会社分割、株式交換、株式移転及び株式交付その他の組織再編、事業譲渡及び事業の譲受け並びに組織変更
⑶資本金又は資本準備金の額の減少
⑷破産、民事再生、及び会社更生その他の倒産手続の申立て又は開始
⑸業務停止その他の行政処分
⑹第〇条に定める取引実行前提条件を充足していなかった事実
⑺第〇条に定める表明保証に係る事項が虚偽であり、又は不正確であった事実
⑻第〇条に定める遵守事項に違反した事実
⑼本契約に基づく取引に関連する第三者からのクレーム
通知条項で通知を義務付けるべき事項の例
通知条項では、通知を義務付けるべき事項を列挙することになります。具体的に列挙すべき事項の例は、以下のとおりです。
- 通知事項の例
-
✅ 会社支配権の変動
✅ 会社の解散・組織再編・事業譲渡・組織変更
✅ 資本金・資本準備金の減少
✅ 倒産手続の申立て・開始
✅ 業務停止などの行政処分を受けた事実
✅ 取引実行前提条件を満たしていなかった事実
✅ 表明保証違反に当たる事実
✅ 遵守事項違反に当たる事実
✅ 取引に関するクレームの内容
など
会社支配権の変動
相手方の会社支配権が変動した場合、経営陣の方針が変わり、以前と同様の取引を続けることが難しくなる場合があります。そのため、会社支配権の変動を通知事項とすることが考えられます。
会社の解散・組織再編・事業譲渡・事業譲受け・組織変更
相手方が解散すれば、取引を継続することはできません。また、組織再編・事業譲渡・事業譲受け・組織変更は、会社の組織・資産・事業の大幅な変更を伴うため、取引に大きな支障を生じさせる場合があります。
そのため、これらの事項については通知を義務付けるのが一般的です。
資本金・資本準備金の減少
一般的に、資本金・資本準備金の減少は、相手方の財務状況が芳しくないことを意味します。今後の取引において債務不履行等の発生が懸念されることから、通知事項に掲げておくのがよいでしょう。
倒産手続の申立て・開始
相手方について倒産手続が申し立てられた場合(又は開始した場合)、直ちに取引を停止しなければなりません。取引を続けると、回収不能の債権がどんどん増えてしまうからです。
そのため、破産・民事再生・会社更生などの倒産手続の申立て・開始については、通知事項として明記しておきましょう。
業務停止などの行政処分を受けた事実
相手方が監督官庁によって業務停止処分を受けた場合、取引は中止せざるを得ません。また、業務停止に至らないとしても、重大な行政処分を受けた場合には相手方の信用が低下し、取引相手としてふさわしくなくなることも想定されます。
よって、行政処分を受けた事実についても通知事項に掲げておくことが望ましいでしょう。
取引実行前提条件を満たしていなかった事実
M&A契約などで取引実行前提条件を定めている場合、実行後に前提条件を満たしていなかったことが判明するケースがあります。
この場合、取引の原状回復(契約前の状態に戻すこと)や契約解除を検討する必要があるため、取引実行前提条件の不充足を通知事項としておきましょう。
表明保証違反に当たる事実
契約締結時・取引実行時の表明保証が虚偽又は不正確であった場合、取引の前提が崩れてしまいます。
この場合、相手方に対する損害賠償請求などを検討する必要があるため、表明保証違反を通知事項に挙げておくべきでしょう。
遵守事項違反に当たる事実
遵守事項違反についても、損害賠償請求や契約解除の対象となり得るため、通知事項として明記しておくべきです。
通知を義務付けておかないと、遵守事項違反の隠蔽が発生する可能性が高まるのでご注意ください。
取引に関するクレームの内容
第三者から取引に関するクレーム(例:自社商品の配送を委託している中で、商品が破損していたというクレームが顧客からくる)を受けた場合、当事者は協力してクレーム対応に当たる必要があります。効果的にクレーム対応を行うためにも、クレームを受けた事実やその内容を通知事項としておきましょう。
通知条項をレビューする際のポイント
契約上の通知条項は、主に以下の2点に注意してレビューを行いましょう。
相手方の信用不安事由がカバーされているか
契約の相手方と取引を続けていくには、相手方の財務状況やレピュテーションが万全であり、信用に値するかどうかがきわめて重要です。もし相手方の信用に問題がある場合は、取引が突然ストップしたり、支払が滞ったりするおそれがあるため、契約の解消などを検討しなければなりません。
そのため通知条項では、相手方の信用不安を引き起こす事由が網羅的にカバーされていることを確認することが大切です。信用不安事由の一例としては、すでに解説した以下の条項が挙げられますが、取引の実情に応じて項目を追加・変更しましょう。
- 信用不安事由の具体例
-
✅ 会社支配権の変動
✅ 会社の組織変更
✅ 資本金・資本準備金の減少
✅ 倒産手続の申立て・開始
✅ 業務停止などの行政処分を受けた事実
取引の前提を覆す事由がカバーされているか
契約締結した後、実際に相手方と取引をはじめる際、前提としていた事実・約束事が守られていなかった事実が明らかになった場合は、速やかに把握できるようにしておかなければなりません。そのため、以下の事実については速やかな通知が行われるように、通知条項の中で義務を定めておきましょう。
- 取引の前提を覆す事由の例
-
✅ 取引実行前提条件を満たしていなかった事実
✅ 表明保証違反に当たる事実
✅ 遵守事項違反に当たる事実
✅ 取引に関する重大なクレームを受けた事実
通知条項に関連してチェックすべき契約条項
通知条項によって相手方から重大な事由の通知を受けたら、その内容を受けて、次にどのような行動を起こすかが重要です。
具体的には、契約解除や損害賠償請求を検討することになりますが、それが契約上できるようになっているかどうか、以下の条項を確認しましょう。
また、通知の方法を定める条項(Notice Clause)についても、通知条項に基づく通知の方法を明確化するためにチェックする必要があります。
取引実行前提条件
取引実行前提条件は、契約に基づく取引を実行する前に、当事者が満たすべき条件を定めた条項です。
取引の大前提となる重要事項を漏れなく列挙した上で、一方当事者が所定の前提条件を全て満たしていなければ、相手方は契約上の義務を履行する義務を負わない旨を明記しておきましょう。
また、通知条項に基づき、事後的に前提条件の不充足が判明した場合には、取引の原状回復ができるようにしておくことも考えられます。
表明保証
表明保証は、契約締結時及び取引実行時において、一定の事項が真実かつ正確であることを表明し、保証することを定めた条項です。
相手方の表明保証違反が判明した場合、損害賠償請求を行うことができる旨を明記しておく必要があります。
また、「取引実行前提条件を全て充足していること」についても、表明保証事項の一つに加えておきましょう。取引実行前提条件を満たしていないことが判明しても、常に取引を原状回復できるとは限らず、損害賠償によって解決すべき場合もあるからです。
遵守事項
遵守事項は、契約締結後に当事者が遵守すべき事項を定めた条項です。契約締結から取引実行までの間にタイムラグがある場合や、継続的な取引が予定されている場合などに遵守事項が定められます。
遵守事項違反は、表明保証違反と同様に損害賠償請求の対象となる旨を明記しておきましょう。
解除条項
相手方による取引実行前提条件の不充足・表明保証違反・遵守事項違反が判明した場合、契約の解除ができるようにしておくことも大切です。
解除条項を定めた上で、これらの不充足・違反が解除事由に当たる旨を明記しておきましょう。
通知方法を定める条項(Notice Clause)
通知条項に基づく通知の方法を明確化する観点からは、記事の前半でも紹介した「通知条項(Notice Clause)」(=通知方法を定める条項)を定めておくことが効果的です。
通知方法を定める条項(Notice Clause)では、主に以下の事項を定めておきましょう。条文の記載例については、記事の前半部分をご参照ください。
この記事のまとめ
通知条項の記事は以上です。最新の記事に関する情報は、契約ウォッチのメルマガで配信しています。ぜひ、メルマガにご登録ください!